ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

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特別編 激突!メガウェーブvsメガシンカ!

そうして、光は弾け飛び

 その場に羽ばたくのは、一匹の鮮やかなオレンジの火竜。火炎ポケモン、リザードン

 一見して、何も変わっていないように見える

 

 否、アブソルほど明確な変化は無くとも、しっかりとその姿は変わっている。短い二本角であったはずの頭の真ん中に新たに煌めく、巨大な一角。より節くれ立ち、肥大化した両の翼。短い前足には、その大きさに合わせたような小さな翼が生え。トゲが隆起し巨大化した尾の先には、異様な明るさで煌々と輝く焔を燃やし。姿を変えた火竜が、吠える

 

 『ソルッ!』

 初めて、アブソルが怯む

 その頭に、光が射した

 ……晴れている。雲がかかり、晴天というにはちょっと肌寒かった曇り空であったはずの空が、快晴の様相を呈している

 いや、違う。と、アズマは空を見上げた

 空に浮かぶ第二太陽。巨大な炎タイプエネルギーの塊だ。リザードンの咆哮と共に空に集まったそれが、曇天の中この地だけを快晴の空に変えているのだ。それは例えもしも今雨が降っていたとしても、それを塗り替えてしまうほどの力

 「日照、り……」

 アズマも、聞いたことはあった。ポケモンの中には、居るだけで天候を変えてしまう恐ろしいポケモンも居るのだと。父親のバンギラスも、戦闘になると局地的な砂嵐を起こしていたからよく覚えている。だが、リザードンがそんなポケモンだとは聞いたことがない。これでは、まるで……ホウエン地方に伝わる超古代ポケモンのような……

 脳内でそこまでじゃないと恐ろしい鳴き声に叫ばれた気がして、アズマは思考を打ち切った

 

 「行くぜ、リザードン!

 このパワー、今なら誰にも負ける気がしねぇ!」

 『ヴァッフ!』

 頭を天に向け吠えたリザードンが、そのトレーナーの声に応える

 それと共に、アズマの右手の黒水晶にスパークが走った

 『(……大丈夫、ですの?)』

 「大丈夫。アブソルみたいにはなってないだろ?」

 アズマは、不安げな小さなポケモンに、そう応えた。右手は、二人の波動の中継地点として、大分痺れているけれども

 実際問題、リザードンの目は普通だ。アブソルのように赤く染まっていたりはしない。一人では無理でも、信頼できるトレーナーと生命の波動を合わせればもしかしたら。アズマの推測は、正しかったようだ

 

 「……『だいもんじ』」

 「今度こそぶっ飛ばしてやろうぜリザードン!大っ!文っ!字ぃぃっ!」

 そうして、お互いに指示は同じ技。快晴の下でより強い力を発揮する炎タイプの技、『だいもんじ』

 アブソルは翼を振るわせ、リザードンはその口内に巨大な火球を産み出して構え……

 同時、激突する軌道で打ち出した

 

 中空での激突。だが

 かつては相性不利なはずの冷気に押し返された火球は、今度はアブソルの放った火球を一瞬にして呑み込み、アブソルに激突すると共に大の文字を描いて炸裂する!

 初めて、だ。初めてアブソルの体がぐらついた

 

 『ソルッ!』

 『ザァッ!』

 再びの咆哮。だが今度のアブソルの叫びは、殺意にも思える敵意に満ちていて

 「リザードン!」

 認識できず、後からショウブが叫んだ

 リザードンが、その背にアブソルの前足を乗っけられ、地面に押さえ付けられている

 『ふいうち』だ。それは分かるのに、アズマにはその一撃を見ることすらも出来ず

 そのアブソル周囲に、幾つもの岩が浮かぶ。『ストーンエッジ』。確実に止めを刺しに行く気なのだろう。至近距離から外しようもなく叩き付けるように……

 「リザードン、『はがねのつばさ』!」

 間一髪、ピンと拡げた翼が光沢を持ち、背中でシンバルのように打ち合わされる。それを避ける為にアブソルは前足を離し空中で宙返り、そのまま岩櫟を放つもギリギリで火竜は直撃を避ける

 数発はカスれども、直撃は避ける

 

 「『ドラゴンクロー』!」

 「……あのリザードンを倒して」

 少女は、あの時ふいうちの指示など出していなかった。アブソルは何となくでしか指示を聞いていないのだろう。だからもう勝手にしてと、自身のポケモンへの指示を放棄する

 

 何をやってるんだ、とアズマは舌を噛む

 確かに、指示なんて出さなくてもポケモンは自分で戦える。野生のポケモンだってそうだ。だけど、それならば。トレーナーの意味がないじゃないか

 「……まさか、メガシンカを……」

 「形勢は、まだまだ決まってないみたいだな」

 縄からは抜け出せずに呆然と呟く男の方には、そう返し

 「でも、ショウブは勝つさ

 だってあいつは強いし……」

 黒水晶が煌めく

 「あんな自分の大切なポケモンを苦しめるような外道な装置に、絆は絶対に負けない」

 氷付けのままそう呟くアズマの眼前で、遂にオレンジの火竜が白い羽毛の獣をその竜の力を秘めた爪で地面に叩き付けた

 

 そのまま、白い獣(アブソル)は元々の翼の無い姿に戻り、地面に倒れこむ

 「……アブソル」

 ゆっくりとした動きだが、ジャケットの少女が倒れたポケモンに駆け寄る。トレーナーとしての愛情は……あるのだろう。ならばこんな使い方するなという話はあるのだが

 「ぜえっ、はあっ

 にぃちゃん。何と言うか、疲れるなこれ……」

 同時、軽い虹色の光と共にリザードンの姿も元々の火竜に巻き戻り、戦いを終えたショウブが、疲れぎみながらやりとげたという笑顔を見せる

 「ああ、凄いじゃないか」

 「そりゃ、オレサマはいずれチャンピオンになる男だかんな!リザードン、にぃちゃん達の氷溶かしてやって」

 もう、黒水晶の痺れはなかった。ポケモン(リザードン)トレーナー(ショウブ)、二人の波動を合わせるという役目を終えたからだろう。リンクも切れた。ずっと繋がっていたら、それはそれでアズマに負担が大きいのだろうか

 あのポケモンの一部。生命の波動を調律し、メガシンカを起こさせる事が出来たのは、アズマの元々何故か持つ黒いオーラのお陰だけではない。あの黒いポケモンの正体に、アズマは思いを馳せ、氷が溶けるのを待つ

 リザードンの放つ火によって、氷はみるみるうちに溶けて行き……

 

 『(……ひっ!)』

 小さなポケモンの悲鳴と共に、寒気がアズマの背を伝った

 「ショウブ!」

 「ん?なんだにぃちゃ……」

 少女の腕輪が異様な音と共にスパークを放ち

 誰でも視認出来るほどのドス黒いオーラを纏い、倒れたはずのアブソルが再び翼のある姿に戻っていた

 スパークにより気を失ったのか、ジャケットの少女が地面に倒れこむ。その腕の装置が煙をあげ、桃色のクリスタルが砕け散った。だが、アブソルはそれを意にも止めない。ただ、深紅の目でアズマ達を見ている

 

 「にぃちゃん、もう一度……」

 「無理だ。リンクは切った。もう一度メガシンカしようとするなら、一度間を通す為におれにピンクダイヤモンドを返してもらわないと……」

 ゆらり、とアブソルが前足に力を込め、上半身を起こす

 「そんな時間が」

 同時、炙られていたヒトツキの氷は溶け

 「ギル!ショウブ達を『まもる』!」

 飛び込んできたパートナーの柄を右手で掴み、自分の命の波動を吸わせて体力を強引に回復して貰い、アズマはそう叫ぶ

 直後、緑の防壁を粉々に砕いて突撃してきた白い風にアズマはヒトツキごと吹き飛ばされ、近くの木を激突の衝撃でへし折って止まった

 『ふいうち』だろう。だが、あのオーラ纏いはまもるの防壁を力で抉じ開ける。恐らくはあの時のリザードンにもそれは出来ただろう。どの技でも結果は同じだった

 

 「……負けらんねぇ!負けらんねぇんだ!『だいもんじ』!『だいもんじ』!大文字ぃぃっ!」

 だが、最初の一撃はアズマとヒトツキが防いだ。その結果、ショウブとリザードンは動ける

 尚も飛び込んでくる影を迎え撃つために、リザードンは火球を放つ

 だが、アブソルの動きは止まらず……

 

 「ジャケット!止めなきゃ死ぬぞ、あのアブソル!」

 「有り得……ない。命の危機までは行かず、解除されるはず……」

 「完全機械頼みで、そんなもの!信頼出来ると思うなよ!」

 敗北でバグったのだろうか。確かに、アズマの目にも煙をあげる腕輪は正規の動きとは見えなかった。でも、今重要なのは。ドス黒い波動を纏い、命を磨り減らして敵意のままに暴れまわるあのポケモン

 唯一止められそうなモンスターボールを持った少女は、今は気を失っていて役にたたない

 

 シ……シ……シカ、リ!

 イガレッカ!

 そう、アズマの脳裏に鳴き声が三度響く

 僅かに、黒水晶が光を放ち……

 「やるか、ギル」

 止めるための切り札が、アズマの脳裏に閃く。といっても、『せいなるつるぎ』作戦の再決行と実質変わらない手なのだが

 

 だが、その必要はなく

 「負ける、もんかぁぁっ!」

 『リ、ザァァァァァァッ!』

 光を失った、リンクが切れたはずの二つのピンクダイヤの間に、虹の光が走る

 「んな、まさか!」

 『(……キズナ、ピカリ……)』

 再度火球を、今度はその頭で押し込まれようとしていた火竜が再度光に包まれ、そして弾ける

 虹色の二重螺旋。DNAの一部を意匠化したような紋章が輝く中、光の中から漆黒の火竜が、青い炎と共に姿を現した

 「キズナの光……メガリザードンXっ!」

 「Xぅっ!?」

 ショウブの謎宣言に、アズマは首を傾げる

 「いくぜリザードン

 新必殺!フ、レ、ア……ドラァァァイブッ!」

 だが、事態は止まらず

 短い咆哮と共に、弾き返された火球に黒い火竜は自ら飛び込む!

 そのまま大の字に炸裂した炎は、口から黒いリザードンが漏らす青い炎色に染まり……。リザードン全体を纏う青い炎の鎧となる!

 文字通り燃え盛る炎の竜と化したリザードンが、火球を打ち返したアブソルの脳天に、お返しとばかりに頭突きをかます

 決着は、それでついた




アイテム解説
キズナダイヤモンド 分類:メガストーン
ディアンシーが作り出し、イベルタルが力を注ぎ込み、ネクロズマが光を灯すことで産まれたメガストーンの一種。持っているリザードンをメガリザードンへとメガシンカさせる。イベルタルのダークオーラを宿している場合はメガリザードンYに、受けていない場合はメガリザードンXへとメガシンカするものであり、ダークオーラを注ぐ方法さえあればこれ一つでXY双方にメガシンカが出来、その場で切り替える……或いはYにメガシンカして日照り発動してからXに変化することすら可能なスグレモノである
逆に言えば、ダークオーラを受ける方法が無い場合はメガリザードンXにしかメガシンカすることは出来ず、イベルタルと対峙或いは共闘する場合ダークオーラの影響を受け強制的にメガリザードンYにメガシンカしてしまい、Z氏と対峙或いは共闘する場合はダークオーラが反転される為強制的にXになる(ドラゴン/地面に弱くなる)という欠点も持つ。そのため、どちらにメガシンカするか元々決めている場合は通常メガストーンの方が良い

アズマの、メガストーンは作った第一弾。因みにXとYという分類に関しては、ショウブが黒い姿とかカッコいいからさっきの姿と区別してXとカッコいい称号を付けてみただけ。後に、Xと区別する意味で日照りを起こす方はYという称号を与えられる

おまけ。もしもショウブとリザードンがメガシンカしなかった場合
ヒトツキはアズマの命を吸い取り、破壊のオーラを身に纏った!
ヒトツキとアズマの放つ、全力を越えた一撃!
「全力、無双、激っ!烈っ!けぇぇぇぇえんっ!」で倒すという想定です。オーラ纏ってZ技な以上、メガストーンが作れるならZクリスタルだってその場で作れるはずなんですよね。ただ、メガシンカ対決にZ技で水を差すのもということで没りました

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