ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

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vsディアンシー、2

「何か、釈然としない……」

 掌の中でプラントバッジを弄びながら、アズマはそうぼやいた

 ヒヨクシティ。海に面したシーサイドエリアと、丘側のヒルトップエリアの二つにわかれ、そのあいだをモノレールが繋いだ風光明媚な街。観光の名所としても知られる街だ

 といっても、割とカロス地方には観光名所としても知られるリーグ公認ジムがある街も多いのだが。カロスの中心ミアレシティや日時計のあるヒャッコクシティもそうだし、この先にあるシャラシティだって、マスタータワーという名所がある。近くには天然の鏡が見られる写し身の洞窟だってあるのだし

 

 そうしてアズマは、ジム及びジュンサー達に連れられて行った駐在所のあるヒルトップエリアからモノレールに乗り、シーサイドエリアへと来ていた

 「お疲れ、サザ、ギル、ライも」

 来た理由は簡単。単なる観光である。多少の潮風が、体に心地好い

 

 結局、アズマはあの場でバッジを受け取った。あれが本来のジムの難易度。今の君たちならばもう一個ぐらいジムを勝ち抜けるかもね、と言われたら、そこで無駄な癇癪を起こすことはアズマには出来なかった

 

 ……けれども

 「もっと、強いものだと思ってたよな……」

 『モノ、モノッ!』

 アズマとしても、改めてしっかり考えてみればビオラとのジム戦が可笑しかったのは明白だったのだ。今のショウブなら兎も角だ、当時のショウブがとっくにハクダンシティジムを突破して本格的に旅に出るからと親に挨拶しに帰ってきた時のショウブが、あのアメモースに勝てるかというと厳しいだろう。実際ちょっと強かったと言われているしだから、あれは最初のジムで出してきて良いポケモンではない。恐らくは……今思えばバッジ3~4個集めた優秀なトレーナー相手に出すポケモン

 「でもなぁ、お前だって、全力で戦ってみたかったよな、ギル」

 そう言って、寝転びながらヒトツキの刀身を、アズマは優しく撫でる

 ジム戦は公式なバトルだ。ルールもしっかりあるし、基準もある。楽しいものだ。負けたら悔しいし、勝ったら嬉しい、そんなワクワクするバトル

 ……ルール無用で、負けてはいけない、負けたら大切なものだって奪われるかもしれない悪の組織やあの謎のハニカムやら黒い水晶のポケモンとのバトルとは、やっぱり空気が違う

 だからこそ、それがあまりにもあっさりと終わってしまった事に、心がモヤモヤする

 

 『ビクトリィィィィッ!』

 やりきれなくて。モノズもそれは同じだったようで

 とりあえず、公開されている公園の一角で簡易スパトレマシーンを起動して、その特訓で遊ばせている。体は動かせるし、モノズも楽しそう。最初はレベル1でも苦戦していたモノズも、今では高いレベルでも十分ついていけている

 今も、クリア出来たようだ

 「やっぱり、それでもバトルとは違うよな……」

 『(バトル脳が、バトル脳が居ますわ!)』

 「そうは言っても姫、バトルって楽しいぞ?」

 『(……あの、ゲンガーとの戦いも?)』

 「いや、あれはちょっとな。負けられないって思いだけが大きくて、息が詰まる

 負けたくないってのは、何時ものバトルでもあるんだけどな」

 そうだそうだ、とアズマの眼前でヒトツキがくるりと一回転した

 「だから、ビオラさんであんなに強かったんだし、勝てるわけもなくて

 あー負けた、今度は勝てるように、修行して来ようぜ!と言おうと思って、ジムに行ったんだけどな……。だってさ、ずっとあんなバトルばかりだと、おれも、ギル達も、バトルって楽しいものって基本を忘れちゃいそうだし」

 『(そして、勝ってしまった、と

 やっぱりバトル脳ですわ!)』

 「はっはっはっ。そうかもな

 姫もやってみれば分かるかもしれないぞ?」

 『(……ジュンサーさーん!ポケモン誘拐犯が居ますわー!

 助けてー!捕まってバトルさせられますわー!)』

 「……嫌か」

 実際にこれでジュンサーさんが来る訳もない。テレパシーであるから、アズマ以外には珍しいポケモンが何か鳴き声でトレーナーに求めてるくらいにしか見えないだろう

 なので、アズマだって本気で対応はしない。コン、と指でディアンシーの頭に輝くダイヤモンドを優しく小突くだけにする。悪の組織云々では犯人ではないとわかってくれていたとはいえ、出てって二時間でジュンサーさんと再会はアズマも勘弁願いたいので、本当に呼ばれていたら相応の対応が要っただろうが

 『(嫌ですわ。ぼ、ボールに入るなんて……)』

 「そっちか」

 『モノッ?』

 『(いえ、心地好いとかそんな感想は良いですわ)』

 聞こえてくるテレパシー。そうか、あの時モノズはおれの擁護をしてくれてたのか、なんて、正確な意図を鳴き声から読み取れないアズマはへーと頷く

 

 「姫が居てくれて、本当に助かるな」

 自分のポケモンの言いたいことを代弁してテレパシーしてくれるし、見ていて可愛い。流石は幻の突然変異種である、とアズマは呟く

 『(そ、そんな事言われても……

 ボールになんて入りませんわよ)』

 ふるふると首を振るディアンシー

 「なあ、姫。何でそんなにボールが嫌いなんだ?」

 ふと気になって、アズマはそう聞いていた

 とりあえず近くの自販機で買ったサイコソーダをモノズと半々する為に一本開けながら。ヒトツキはソーダ嫌いなので今回は手持ちの冷えてないきのみジュースである。ソーダはキンキンに冷えていて欲しいが、きのみジュースは別に冷えてなくても良いので持ち運びには便利だ

 『(わたくしには、貰えませんの?)』

 「要るか?んじゃ一口」

 小さなディアンシーの口にサイコソーダ缶はちょっと大きすぎるので、開けたきのみジュース瓶のキャップにソーダを注ぐ

 『(しゅわしゅわで、ヘンな感じ……)』

 ぱちぱちと、一口飲んでポケモンは目をしばたかせた

 「不味いか?」

 『(くせに、なりますわね……)』

 そのテレパシーに、アズマは笑って

 「んじゃ、もう一口。ついでに教えてくれ」

 

 『(ボールが嫌なのは何故か、ですの?)』

 さらにもう3口ほどソーダをおかわりしてから、そのポケモンは聞き返してきた

 ……あっ、サイコソーダおれの分のうち半分は飲まれた、まあ良いか、とアズマは割り切った

 「そうそう、何で嫌なんだ?

 ヤヤコマとかが必死にボールから出てくるのは、多分姫の言う昏いオーラが怖くて、こんなトレーナーと居られるか!って感じなんだとは思うんだけど」

 ボールは、あのハニカムのポケモンに出会ってから100個は投げただろうか。それでも、未だに、アズマはまともに野生のポケモンをゲット出来たことはない。ヒトツキは気が付いたら家の地下に住み着いていたし、モノズは差し出したボールに向こうから入ってくれた。昔10歳の時に最初のポケモンとして貰ったフォッコのボールはあまりにも言うことを聞かないので返した。アズマ的には可愛いポケモンなので欲しかったのだが、旅を諦めてからも連れていくのは可哀想で止めたのだ

 「もっと欲しいんだけどな、ポケモン」

 『(それですわ!)』

 「それ?

 お話なんかでは、自分以外のポケモンを連れてるなんて許せない!とかあるけど、そんなんじゃないだろ?」

 あれは、ポケウッドの……何て作品だっただろうか。手持ちが自分一匹でないとボールから出てきてくれないオスのカイリキーと、男のトレーナーの話

 『(ええ、それはそうですの

 もしそうなら、積極的にボールには入るのではありませんの?)』

 「だよな」

 『(だからそんな、昏いオーラを強めて迫るのは止めて……欲しい、ですわ……)』

 気が付けば、コップに注いでやったサイコソーダを飲んでいたモノズが、アズマとディアンシーの間に、姫の番犬のように立ちはだかっていた。臆病なので、ちょっと足は引けているが。その後ろのポケモンは、何かに怯え、きゅっと目を閉じている

 

 「ってちょっと待て。そんなオーラ出してたか?」

 『(ボール投げるときは、何時も……)』

 『ズーッ!』

 イエス、とヒトツキが刀身で中に円を描く

 「……そんな事、考えたこともなかった……」

 はあ、とアズマはため息を吐いた

 捕まるはずもない。誰が元々怖いのに自分を捕まえようとボール投げた瞬間何時もよりさらに怖いトレーナーに着いていきたいだろう。アズマがポケモンなら逃げる。それはもうボールを投げられた日には全力で逃げる

 

 「じゃあ、何でサザはおれと来てくれたんだ?」

 『ノッ!』

 『(寧ろ心地好い、ですわ)』

 「悪タイプには好かれるのか?

 じゃあ、ポチエナなんかに会えれば、おれと来てくれるかもしれないのか」

 『(それは……分かりませんわ)』

 「出会えたらやってみようか

 

 それで、姫は何で嫌なんだ?おれと来るのが嫌だったら、そもそもついてこないだろ?」

 『(だって、だって!

 ボールに入るって事は、ずっといっしょってことですわよ!)』

 アズマに聞こえてきた声は、ちょっと幼い。いや、元々割と幼い声のテレパシーではあるのだが、一段と舌ったらず

 『(そんなの、けっ……けっ、けっこんみたいなもの……)』

 「ああ、そんな価値観もあるのか」

 成程、とアズマは頷いた

 

 トレーナーは基本複数のポケモンを持つのでそんな意識はない。けれども、ポケモンからしてみればトレーナーとの関係は基本たった一つ。たまに他人と交換とかあるけれども。ずっと一人のトレーナーと過ごす事を決める、特定の相手を以降ずっと共にあるパートナーとして選ぶ。それが捕獲されるということ。言われてみれば、ポケモンからすればある意味結婚かもしれない

 「そりゃ大変だ

 ……なら、ボールに入りたくはないわな」




アズマ「モンスターボール!今度こそ!ってか合計で100個目だぞこれ!」
(???『どろぼーふえないで、どろぼーねこはんたい、どろぼーねこいらない』
ヤヤコマ『ひえっ!賢ポケ危うきに近寄らず、くわばらくわばら』
???『にげるようなの、よわい、ふよう、おもったとおり。よかったよかった』)
アズマ「また逃げられた……」
アズマくんが放つオーラがボールを投げようとすると増幅するのは、大体こんな理由です。本人には自覚はありませんし、オート発動なので抑えることも出来ません。こんなのが既に憑いているので、これからも悪タイプ以外を普通の野生ポケモンからゲットすることは有りません。アズマくんの気持ちが昂るとダークオーラ発動するのも、この謎の???が、おーがんばれーがんばれーしてるからです
凄いぞ守護神、強いぞ疫病神。これは、そんな存在だけ既に語られてるYちゃん(仮名、AZによる最終兵器起動をちょうど3000年前とした場合3012歳、♀、全国図鑑No.717)がメインヒロインな少年と、カロスの伝説ポケモンX氏を追う組織の物語。まあ、こんなメインヒロインの出番、もうちょっと後(具体的にはゼクロム邂逅後)なんですけどね!グラードン、早く来てくれぇっ!


精神面が♀なポケモン、特に精神幼く更には特殊な生い立ちの珍しいポケモンほど、大体あんな価値観です。捕獲とは結婚みたいなもの、一生添い遂げるほど大好きな相手じゃなければ捕獲なんてされてあげない
つまりは、そんなポケモンが向こうからボールに入ってくるとしたら、それだけベタ惚れされてる場合です。具体的には捕まえてない状態でなおなつき度が255行ってるレベル。三千年前にもしっかり活動していたセレナのゼルネアス辺りは、この少女の一生を見守るのも良いか、とある意味自分が親側の養子縁組みたいな気分でボールに入ったのでしょうが

まあ、それはそれとしてマスターボールなら向こうの意思とか無視して捕まえられますが

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