「良く頑張ったな、偉いぞ、サザ」
結果はひとつ。互いに戦闘不能。ゴルーグも、モノズも地面に倒れたまま動かない
アズマはボールを翳し、労いながらモノズを戻す
頷きつつ、AZもゴルーグを戻した
「……ギル、頼めるな」
そうしてアズマが出すのは、当たり前ながら最も信頼するポケモン。強いのはフライゴンだが、頼りたくはないから。だってそうだろう、とアズマは思う。自分とそのポケモンだから、勝ちたいと思うのだ。執事のポケモンに頼るわけにはいかないだろう
「フラエッテ」
『エッテ!』
対して、静かに男が告げたのは自身のパートナーの名。肩に乗った小さな花の妖精が、ふわりと舞い降りる
「……フラエッテ、ですか」
「きみの ひかり 見せて もらおう」
「はい!『つるぎのまい』!」
「『はなびらの まい』」
奇しくも、互いに最初の指示は舞うこと。だが、方向性は明確に違う。ヒトツキはその場で鞘を用いて刃を研ぎ、フラエッテは自身の周囲に桃色の花びらを撒き散らす。ヒトツキが次の為の溜めなのに対し、フラエッテの行動は近付くものへのカウンターに等しい。近づけば、撒き散らす花びらの嵐の中に閉じ込められて弄ばれるだろう。花びらの舞とはそういう技だ
だが、舞ということは、別にビームでも何でもない行動。影響は自分とその近くにしかない。羽を震わせるむしのさざめき等と同様、近づかなければ危険はないということ。威力は高いのだが、当たらなければどうということはないのである。実際、ぶんぶんとご機嫌に手にした古代のものらしい三枚花弁の花を振り回すフラエッテだが、それ自体もそれに撒き散らされる草タイプエネルギーが形を取ったものである花びらもヒトツキからは遠すぎて当たるわけもない
「ギル、本気で行くぞ!」
本気で行くとは、アズマとヒトツキの中でのひとつの符号。まあ、言ってしまえば普通につるぎのまい限界発動という割と何時ものなのだが。このポケモンと戦うならもう良い、そうアズマが思ったときにヒトツキは指示を受けて攻撃に転じる。それまでは、守りつつ剣を研ぐのだ。最近は格上か負けるわけにはいかないから少しでも攻撃力が欲しい時ばかりで、つるぎのまいはひたすらに舞わせていたのだが、今回もそのパターンである。圧倒的格上、花びらの舞なんかで此方下手な攻撃を巻き込もうとしつつも、遊んでいるなんて手加減までされている
仕方ないなとアズマだって思う。お伽噺のポケモンだ。3000年、AZと会わないように逃げながら過ごしてきたある種超古代ポケモンと呼んでも良い種。まともに此方を倒しに来たら勝てるわけもない。それでも、だ
「……くやしいよな、ギル」
静かに、ヒトツキは揺れる。刀身を、高く掲げて
そんな中、フラエッテが舞終える。少しフラフラとしているが、花を高く掲げてポーズ。普通に踊って遊んでいたレベルの行動だ。割と可愛いが、それだけにイラっとくる
そんな風に、遊ばれなければ相手にならない自分達に
「『かげうち』ぃっ!」
そうして、ヒトツキとアズマは攻勢に転じ
だが、鋭く地面を走った影の槍は、軽くフラエッテを揺らしただけ。まともな打撃になったようにも見えない
真面目に、軽すぎる。あまりにも、軽い
「通らない!?」
フラエッテのタイプはフェアリーだ。悪タイプのおいうちは効き目が薄く、命の波動を吸って放つ聖なる剣もまた相性が良くはない。だから相性面、そして刀身を使わず影であるから二度目の花びらの舞やその他の技に対応しやすい影打ちを選んだのだが
それでも、ロクな打撃になっていない
「いこうか フラエッテ」
そうして、お返しとばかりに、フラエッテがその手に掲げた花を、ヒトツキへと翳した
『(ひっ!)』
「姫?」
ふと、怯える小さなポケモンに、アズマは気を取られ
その一瞬で、チャージは完了する
全身輝く、一匹のポケモン。だが、その輝きは何処か昏く
「ギル、守れ!全力で!」
言いながら、アズマの足は無意識に前に動いていた
ディアンシーの言う昏く食らうオーラと同質の力?いや、おれとは異質?
どうでも良い。分かることはただ一つ。貯められたあの力に、ヒトツキは耐えられないことだけ
「『はめつの ひかり』」
「『まもる』!『まもる』!『まもる』!兎に角、『まもる』!」
ヒトツキが、緑のオーラの防壁を展開する。だが、放たれた眩い、アズマが一年前に見た気がしたのと近しく、されど異質な光は、そんな技のエネルギーを止めるはずのオーラにすらあっさりとヒビを入れ……
「ギル、踏ん張れ!」
だが、間に合った
アズマは、ヒトツキの前へと躍り出る。自分が当たっても耐えられるなんて保障は特にない。むしろ無理だと思っている。それでも、もしかしたら。自分にもオーラがあるのなら、ヒトツキとなら、止められるかもしれない。そんな思いのままに、飛び出したのだ
『(……オー、ラ)』
「オーラ」
「魅入られし 光」
一瞬、アズマにも自分を取り巻く黒く、そして赤いオーラが見えた気がして……
「痛てっ!」
だが結局光の奔流は止まるわけもなく。僅かにアズマの頬を掠めて背後の海へと飛んでいった
「……外してくれてたんですね、やっぱり」
冷静になったら当たる角度で撃つ訳もない、とアズマ
『エッテ!』
当然、とでも言いたいのだろうか、フラエッテが胸を張る。そんなに胸の部分は無い、というかフラエッテという種の体型的に胸と下半身の区別がアズマにはつかないが、とりあえずドヤりたいのだけはわかる
こくり、と大男が頷いた
「でも
だから
負けたくない」
真横に伸ばしたアズマの右手に、ヒトツキの布の手が絡み付いた
纏ったオーラを、放ったオーラを。命のオーラを、渡すように
命を吸わせ、力と成す。けれども、何時もの聖なる剣とは違う、黒水晶を基点とした変化を乗せて。全力を、解き放つ
今度こそ、しっかりとアズマにも見えた。自分を護るように取り巻くオーラが。それを、ある程度は残すようにしつつ、ヒトツキに吸わせて……
「それが きみの 答えなら」
瞬間、AZの全身が輝く
輝き燃えるオーラ。確かにそうだ。そうとしか言えない。そんなアズマの暗いオーラとは違う、命に満ち溢れた黄金のオーラが、彼の全身を覆っていた
そのまま、白髪の大男は愛するフラエッテを左手に乗せ、軽く、口付ける
『(えっ!?)』
目に毒ですわーとでも言いたいのだろうか、目を覆うディアンシーが視界の端に映るが、気にしている余裕はない
フラエッテも、同じ黄金のオーラを全身に纏った
「これは、無理ですね
負けました」
構えは解かず。けれども、静かにアズマはそう悟った
勝てない、と。同じくオーラを纏ったからだろうか。それは、良く分かった
「けれども」
だというのに、ヒトツキは腕から抜けていかない。終われないのだろう、ヒトツキだって、このまま
「終わりか」
「ええ。この切り札ならと思いましたが、これじゃあ勝てません」
素直に、認める
「でも。せめて
自分達がどこまでやれたのか、この全力の一撃を撃ち合ってみたい」
ボフッと、地面にスイッチを押すようにモンスターボールを落とす。中から、フライゴンが飛び出した
「けど、巻き込む訳にも、当たるわけにもいかないですからね
ここじゃあ、撃ち合ったら避けられない。当たったら無事じゃあ済みません、それも分かります。なんで、ライに乗って、ちょっと離れた海上から撃ち合いを、と。これなら、いざとなれば海に落として貰えば助かる」
意識は、半分は右手に。アズマは言葉を続ける
『エッテ』
「受けて たとう」
ニヤリ、と唇を釣り上げて
AZは、頷いた
「……有り難う、ライ
容赦なく振り落としてくれよ?当たったら下手すりゃ病院沙汰じゃ済まないからさ」
答えは鳴くような羽音。しっかりと、フライゴンには海の上まで来て貰った。落ちても深さは頭を打たない程度にはあるし、落ちる時間もある
「……いきます、AZさん」
二人で放つ、全力を越えた一撃
握る手を緩め、ヒトツキが逆手持ちに自分を持たせ変えるに任せつつ、右手を引いてアズマは構える
「『ラブリー スター インパクト』」
「全力を越えた
アイテム紹介
ダークZ 分類:Zクリスタル
アズマが自分のダークオーラから作り出したZクリスタルの一種、ある種の万能Zクリスタル
自身の命のオーラからその場で生成する為、任意のタイプのZパワーを発生させる事が出来、トレーナー依存なのでポケモンに持たせる必要はない
欠点としては、ダークオーラから産み出していること。その為か、補助技のZ化は不可能であり、補助技のタイプのZ技になってしまう。例えば、このクリスタルでさいみんじゅつをZ技化しようとした場合は、威力70の特殊技マキシマムサイブレイカーが発動し、Zさいみんじゅつは使えない。また、威力補正が全体的に本来のZクリスタルで発動した場合よりも低い(例として、今回アズマが撃ったかげうちによるむげんあんやへのいざないは本来より低い威力90である)。その場で精錬する為か、色々に使えるが純度が低いといった形の差。それでも、フルアタなら4種のZ技を好きに撃ち分けて強引に弱点ついて一体持っていける凶悪なクリスタルである
尚、名前は違うがAZのやったことも原理は同じ。別の種類とはいえ生命のオーラ持ちであることは変わりがないのでアズマがオーラからZ技を撃てるならオーラとの付き合いで3000年先輩のAZに撃てないはずがないのである。生きていた場合はゼルネアスの命のオーラを浴びている為フラダリも当然同じことが可能