「ちょっと、ルカリオ!!」
その言葉と共に、バァンと閉まっていたはずの扉は開けられる
「はあ、はあ……どうしたの、ルカリオ……」
息を切らしながら、扉を開けて立っていたのは、腰まである長く淡い金の髪をした、同い年くらいの少女であった
「コルニさん!?」
アズマにも、その少女は見覚えがあった。いや、正確には、今は髪をポニーテールにすることなく下ろしているので分からないけれども、状況的にはそうだろう、と
ローラースケーターのコルニ。そして、ジムリーダーのコルニ。シャラシティのジムリーダーだ。けれども、アズマ的には、買ってたポケモン雑誌に毎月のように掲載されていたオシャレローラースケート宣伝ページで、ローラースケートを履いた姿のモデルを2回に1回はしていた少女、という印象の方が大分強い。その可愛らしさ活発さから、ローラースケートの爆発的な少年少女への普及に貢献したとかしてないとか、ファッション雑誌の記事で読んだことがある。後に、セレナさんも使ってたからと、内気な子にもローラースケーターが増え、今や少年少女スケーター人口は10年前から見れば滝登りしたようなグラフを描いたという。崖とか登るときには邪魔だし古くなってきたしと屋敷に置いてきたが、アズマもローラースケートはコルニの履いた写真の乗ったスケートの宣伝を見て買った事がある。家の回りは森で、あまり滑れる場所は無かったけれども
そんな記事よりトリミアンのカット特集だよとアズマは流し読みしていて、コルニの存在がスケート人口に云々の内容はしっかりとは覚えないのだが。昔シャラシティジムに体験挑戦した時に叩き潰したルカリオの使い手は、当時のジムリーダーは彼女ではなかったのだからジムリーダーとしての印象が強い訳もない。まあ、6年くらいは前の話だし、10歳になる前だろうその頃からジムリーダーだったとしたらどんな天才だという話である
「本当にどうしたのルカリオ、昨日から可笑しいよ」
『くわん!』
「って、あっ!
だ、大丈夫でした?」
漸くアズマの存在に気が付いたのか、少女はアズマへ向けて頭を下げた
「……おれは大丈夫。大変なのは、うちのポケモンかな」
「すみません!朝起きたらルカリオが居なくて……」
「何か、あったんですか?」
「昨日の昼から、ルカリオが気が立ってるみたいで」
『くうん!』
こいつ、こいつ!とでも言いたいのだろうか、ルカリオはぶんぶんとその肉球の無い手でおれを指し示す。ちょっと波動が飛んできて痛い
「……半分くらい、それおれのせいだと思います。すみませんでした」
「?」
少女は、アズマの声に首を傾げた
「ライ、ちょっとだけ付き合ってくれないか?」
答えは羽音。わざと立てた不協和音ではないので、良しというもの
心を、重ねるように。心臓に燃えたぎるマグマを、血潮に乗せて全身に巡らせ、右手に集め直すような感覚
両腕を交差、そのまま両の腕で円を描き、掬い上げるように肘を伸ばしながら腕を上げ、拳がフライゴンを向くように両拳を重ねる
頭右上へと拳を解き花でも形作るようにしながら両腕を持っていき、力を集中
前へと再び腕を突きだし、龍頭を勝手にイメージした両掌を、右手を振り上げるようにして開口!
同時、フライゴンが口を開けて吼え、
『クゥゥゥゥッ!』
低い鳴き声
ルカリオが、トレーナーである少女を守るように前に出て、濃く蒼いオーラを噴き上げ、二度目の構えを取る。アズマのように頭右上ではなく、右腰での溜め、二度目の波動砲の構え
ルカリオは、黒いオーラを纏う少年の方をじっと見据えていて……
「お疲れ、ライ」
『ふりゃ!』
ぱっ、と。アズマはその構えを解いた。意識して、オーラも霧散させる
「わわっ!あなた、波動使いなの!?」
「気が付いたら、使えるようになってました」
あの黒水晶のポケモンに出会ってからだろうか。アズマに元々あったらしい黒いオーラは、ある程度ならば意識して使えるようになっていた。手を伸ばされたとき、一瞬だが存在が食われて無くなるような、底冷えのする感覚に襲われた。あれはなんだったのか、アズマには分からず、けれども、桃色水晶で死にかけて以来黒いオーラが出るようになったというように、あの時死にかけていてオーラが扱えるようになったとアズマは解釈していた
「おれの波動は、ポケモンにとっては大分苦手なものらしいんです。野生ポケモンが、ボールをいくつ投げても捕まらない程度には
だから、波動を扱うルカリオとしては、恐ろしい敵が来たって認識だったのかも」
『くわん!』
「そっか、それでルカリオ、気が立ってたんだ……
あ、ごめん、自己紹介してなかったね」
「知ってます。カロスローラースケート協会のアイドル、コルニさんでしょう?」
「そこはジムリーダーの、じゃないの!?」
「こっちの方が、認識強いんですよ」
『ライ』
フライゴンが相槌を打つ。アズマがその雑誌を買いに行く際、父親のボーマンダ、執事のウインディ、そして今ついてきてくれているフライゴンの三体のいずれかに乗せてもらうのが普通だったので、覚えているのだろう
「そっか、スケートは、楽しい?」
「家は森の中なので、あまり出来ませんでしたね、残念な事に
……そろそろ、旅に良いかもと買い直すのも良いかもしれませんね」
「ルカリオ」
『くぅぅん』
不満げに鳴き、けれどもルカリオはメガシンカを解いた。飾り気の無い服装のコルニの中で、唯一の装飾品と言っても良い左腕のオレンジ色の腕輪。その中心の七色の石がが一瞬七色の光を放ち、すぐに光は消えた
「ごめん、えーっと
アズマ!アズマ・ナンテンくんだよね?」
「良く知ってますね」
名乗った覚えはないのだが
「カルムくんとか、フクジさんから話は聞いてたよ」
「そういえば、フクジさんもビオラさんから話はちょっと聞いてたと」
「そう、それ!
ちょっと予想より来るの早すぎたけどね。シャラシティには、ジム挑戦?」
ルカリオの視線が怖い。ルカリオと居ても本人に波動使いの素質はあまり無いのか、ディアンシーの言うオーラを気にせず、気さくにコルニは話し掛けてくる。自分のトレーナーが、危険なそんな奴相手に近付くのが、我慢なら無いのだろうか。忠ポケモンである。でも、アズマ的には心臓がちょっと痛むので波動を飛ばすのは止めて欲しかった
「いえ、マスタータワーに行こうかと
ジムにも、挑戦する気はあったんですが……」
『くわっ!』
「前のジムから、こいつに乗って」
と、アズマはフライゴンの尻尾に触れる
「半分くらい飛んできてしまいましたからね。修行して出直します」
「バッジ、2個だよね」
「はい。なので、実は登れないんですけどね」
「じゃあ、案内しようか?」
淡い金髪の美少女は、そんなことを言い出した
ルカリオ視点で見ると、
そりゃやべぇよやべぇよ、オレが何とかしなきゃ(使命感)くらいなります。波導の勇者的に、魔王みたいなオーラ持った奴とか危険すぎて倒さなきゃいけないと思うのも当たり前だな