『(もうっ、もうっ!
暗いオーラは爆発して!別のオーラまで見えて!何かと思いましたわ!)』
「いや、波導の勇者に喧嘩ふっかけられるのはちょっと予想外で……」
『怖くて、不安で、あんなオーラを流してたら、襲われて当然ですわ!なのに、外にも出られなくて……』
「いや悪かったって姫。でも、ぐっすり寝てたし、ちょっと朝の散歩がてら外観見るだけなら何もないかなって……」
鍵をかけておいた部屋の扉を開けるなり、足にぽかぽかと小さな拳を叩き付けてきたディアンシーと取り敢えず合流し、ついでに朝9時には開く気の早い店で以降要るかもしれないなと適当に高くて頑丈なローラースケートを買い
とりあえず、アズマはコルニに言われたようにマスタータワーへと向かっていた。話を通してくれると言う。その事は、ズルのようで棘としてひっかかりこそあったものの、とりあえずアズマにとってはとても有り難いものであった。叩き付けられたヒトツキは部屋で休ませることにして、きのみ等を置いてきた。最も共に歩んできたポケモンが側に居ないのは不安にもなるが、無茶はさせられない
『(ローラースケート?楽しそうなもの、ですわね)』
「んまあ、楽しいよ」
『(やってみたい、ですわ)』
「無理言うなよ、姫」
ひょい、とアズマはバランスを崩さないように気をつけながら、横をぴょんぴょんと跳ねて移動する小さなポケモンを抱え上げた。その足に当たる部分は、尖った石状のもの。ある程度フェアリーパワーか何かで浮いていたりするが、とりあえず、人間的な両足はない
「二本の足でバランスを取るのがローラースケートなんだ。姫じゃあ、転けるしそもそも進めないと思う」
言いながら、片足で地面を蹴り、加速。コルニというローラースケート界のアイドル枠が居るからか訪れたことのある街の中でも特にスケートで滑走しやすいように滑らかに舗装された道路を、風を切って滑る
『(わぁぁっ!
凄い!凄いですわ!)』
「っと、こんな感じ」
『(やってみたい!)』
邪気の無い、キラキラした目で見上げられ
「ポケモン用のは……ミアレなら売ってたりするのかな……」
アズマは、そんなことを考えてみたりしながら。結局売ってるかどうかの判断なんてつかずに、ミアレに行ったら探してみようかでその場は終わらせて
話を交えながら、道路を滑って目的地へと向かう
かなりの昔から立っているという塔。街外れに聳えるマスタータワーへ
満潮時には海に沈む浅瀬の道を駆け抜け、単なる塔というにはあまりにも装飾が多いその場所へ。聖堂と言った方が、外観としては正しいかもしれない
「あっ、こっちこっち!」
入るや否や、アズマはコルニに呼び止められた
メットから流すポニーテールと、メット前の穴から流す小さな二本のテール。そして、動きやすそうな服装。腕にはグローブ、左腕にはオレンジの腕輪、そして足にはローラーシューズ。何とも雑誌で見覚えのある姿で、そんな金髪少女の横には、一人の老人が立っていた
「……そちらは?」
「人呼んで、メガシンカおやじ!」
「メガシンカおやじ!?」
「そう、」
「あたしのおじいちゃんなんだ」
「あっ、そういう関係ですか」
と、アズマは納得して、ローラースケートのブレード部分をずらして畳みながら頷いた
「あ、そう
私の名はアズマ。アズマ・ナンテン、ナンテン博士の息子です」
「おっ、ナンテンの息子か。宜しくな」
右手を差し出し、アズマは握手を求める
「ところでその腕輪は?どこで手に入れたのかね?」
握手を終えた所で、メガシンカおやじはそうアズマに問い掛けた
「腕輪?」
「その右手の」
「ん?」
ふと、アズマは自分の腕を見下ろす
たしかに、腕輪のようなものが見えた
触れてみる。しっかりと腕にぱっと見ラバーバンドにも見えるようにバンド状の光を通さない濁った黒水晶がはりついており、取れる気配は無い。触っている感触もしっかりとある。あくまでも、気が付いたら右手にくっついていた黒水晶の形状が腕輪……というかリング状になっていただけで、アズマが覚えていないうちにその上からリングをして黒水晶を隠したとかそういったことではないようだ
「ああ、これですか
遠い所で、貰いました」
誰から、どういう風にというのは誤魔化して、アズマは伝える
謎の世界で、謎のポケモンに襲われて、気が付いたらくっついていました、というのは、実際に経験してみてもあまりにもバカバカしい話で。そうそう信じられるはずもないから
「見せてみい」
「いや、それが……」
リング状になっても、これ自体がアズマの腕に一体化した黒水晶であることそのものは変わらない
取ることは出来なさそうであるし、しっかりと見せればバレるだろう
「見せたくないか?」
「はい、すみません」
「いいのだ
そのリング……とても強い光を感じる。君にとって、他人に一瞬でも貸したくないほどに重要なもの、それもまた真実」
「とても強い……光」
おかしくないだろうか。とアズマは頭の中で疑問を覚える
寧ろ、この黒水晶の元々の持ち主であるはずの黒水晶のポケモンはシカリ、シカリと光を求めていた。ヒャッコクの日時計の欠片を、光を食っていた。光を湛えるのではなく、光を食らう側の存在では無いのか?ならば、強い光を感じるのは逆ではないのか、と
「そのリングに湛えられた光、何処へ行くのか、何をするのか……
何が、出来るのか」
「いや、おじいちゃん。ちょっと難しすぎ」
「おお、すまんすまん
それで、君は何を聞きに?メガシンカについては分かっているのかね?」
「いや、なんとなーくでしか」
脳裏に響いた鳴き声は、なんというか大体フィーリングで、しっかりとはアズマは理解していない。とりあえず、絆の力での限界突破だということだけは理解したが、それだけだ
「メガシンカとは、進化を越えた進化なんだ!」
コルニが、叫ぶように告げる
何となく、自慢げにアズマには見えた
『(進化を越えた進化、凄そうな響きですわ……)』
「ん、まあ、それは分かりますけど」
アズマの眼前で、ショウブとリザードンが実際に見せたから良く知っている
「そうだとも!
メガシンカとは、これ以上は進化しないと思われていたポケモンの更なる変化、一層のパワーアップ!」
「でも、進化にしてはすぐに戻りませんか?
進化とは、そんな一時的なものじゃないと思いますが」
例えば、ガーディがウインディに進化したならば、ずっとウインディのままだ。基本的に、ポケモンを育てるトレーナーの手持ちポケモンは、よっぽどな強さを扱うトレーナーに求める一部ポケモン以外はその一生の大半を進化した姿で過ごす
「うん、その通りだよ
おじいちゃんが変化って言っていたように、メガシンカは普通の進化とは違って、一定時間で終わる進化、一時的な進化なんだ」
「一時的な進化……負担が大きすぎて維持出来ないって感じですか?」
「うーん、どうなんだろ?
ルカリオ、そうなの?」
『くわん?』
コルニがそうメガシンカを行える横のルカリオに問い掛けるものの、鳴き声は是とも否とも要領を得ない
「こんな風に、メガシンカについてはまだまだわかってない事が多いんだ」
「分かっているのは、生命のオーラが何らかの関係を持っている事。だからか、生命を司るというゼルネアスの居るカロス地方、そしてかつて伝説のポケモンが莫大な自然エネルギーで地方そのものを作ったと言われるホウエン地方以外では、ほとんど確認されない」
メガシンカおやじが、言葉を続ける
「そして、特別な道具が必要で」
見せるように、コルニはその腕を上げる。左腕に、オレンジ色の腕輪が見えた
『ルカッ!』
ルカリオも、胸の前に左腕を構えた。良く見ると、その腕にもコルニのものと似た石のはまったリングが見える
「何より、ポケモンとの信頼関係が大事ってこと」
「成程……
有り難う御座います」
結局、分かったことは多くない
それでも、アズマは礼を言い
「マスタータワーに行きたいって言ってたけど、目的は果たせた?」
「いや、それが違う気がするんですよね」
コルニの言葉に、そういえば花関係ないなと思い直した
「おじいちゃん、他になにかあったっけ?」
「塔で修業したい訳じゃ無いんだろう?」
「はい。マスタータワーへ行け、運命が待っていると言われて、来たんですけど」
「運命かー」
「運命……」
ちらり、とメガシンカおやじは横の孫娘を見て
「孫娘が欲しいならば、勝つことだ。勝てなければ、孫娘はやらんぞ」
『シャーモ!』
ボールから、進化前の鳥っぽさを残すが人間のような背格好のポケモン、バシャーモを出す
「ちょっと、おじいちゃん!?」
「……ライ」
アズマも乗って、フライゴンを呼ぶ。ボールは壊れてしまったし、移し変えるのにも時間がかかるので出したままだ。呼ぶと礼儀を弁えて外で待っていたフライゴンが飛来する
「寧ろ、勝てたら貰えるんですか?」
「欲しくなる気持ちは分かるが」
「まあ、雑誌読んでても可愛い人だなと見惚れる事はありましたし」
「やらんぞ。冗談だからな」
「ええ。本気でも困ります」
「で、孫娘でないとすると、運命とは……」
「さあ?」
と、アズマはバッグに刺していた花を手に取る
「この花が目印になると」
「やあ来たんだね予想より随分と早いお着きだ」
その声は、大分上の方から聞こえた
アイテム解説
Zネクロリング 分類:Zリング
アズマの右腕にくっついている黒水晶。ネクロズマの体の一部である為、Zリングとしての性質を持つ
基本的な動作は他のZリングと同様。特徴としては、肉体一体型であることくらいである。肉体と一体化している理由は、ネクロズマが傷だらけの今の姿になった際の欠片ではなく、せめても光を取り戻そうとしてアズマの光を食って合体、ネクロズマ(未明の繭)になろうとした際の残骸である為。その為、これはまだ欠片として本体との繋がりが残っているらしいが……
ネクロズマ(未明の繭)
ネクロズマ(正午の角)と並ぶ合体したネクロズマの姿。そもそも、ソルガレオやルナアーラにネクロズマの一部であるという設定などはない。ならば、強い光を持つ伝説ポケモンであれば、他の伝説との吸収合体も理論上はあり得るはずという想定から産まれてしまった捏造イベルタル吸収形態である。現状出番は特に無い。ネクロズマパーツの付き方は、腕パーツが両足、胴が二つに別れて翼にブースターとして合体、細かなパーツが尻尾に合わさり、一部はプリズムと合わせて角を持つ兜のような姿になる。常に赤く輝き周囲の命を吸い取る状態である為、この姿のネクロズマは万が一誕生してしまった場合、伝説ポケモン級の耐久性が無ければ近づくだけで石化させられる世界を脅かす脅威である。生命の光を吸い続けてウルトラバーストするまで被害を許容して待つか、伝説ポケモンで挑むしか解決の道はない