「どんな感じー?」
そんな事を、アズマ達が話す中、ひょいと一人の少女がその場に顔を出した。揺れる淡い金の髪、ジムリーダーのコルニである。アズマ側でも一応連絡先を知ってはいるカルムを通してある程度の事情は説明した……し、コルニもジムリーダー同士の会議でフォローしてくれたらしい。その為、プラズマ団事件に深く関わるNの存在は、現状は見守られる事になったらしい。とりあえず、Nが何もおかしな行動を起こさなければ、逮捕だ何だで大事は起こさないという事だとか
ただ、その為にはやっぱりというか、それなりにNに立ち向かえる程の実力者がいざとなれば報告出来るように見ておく必要があって。だからだろうか、毎日のように、ジムリーダーの少女はこうして映し身の洞窟の上に登り、そこから少し歩いた開けた地にまで足を運んでいた
「まだまだです
メガシンカも使えれば楽そうなんですけどね
メガヒトツキとか……って、それじゃあ単なるニダンギルか」
『ノッ!』
「お前ならメガモノズ……って普通にジヘッドだな」
と、何時もの返しをして
ふと気になり、アズマは少女に問い掛けてみる
「そういえばコルニさん。メガモノズなんかは冗談ですが、メガサザンドラって確認されてます?」
「聞いたことないよ
居ないって確信はないけど」
「メガギルガルドは?」
「同じく」
「メガフライゴン」
「ガブリアスなら居るらしいけど、どうだろ」
「メガ……メガゾロアーク」
「イリュージョン使いと相性悪そうだから居ないんじゃない?」
「メガゼクロム」
「居て欲しくない」
「そこだけそんな反応なんですね」
「伝説のメガシンカはねー
ちょっと、相手したくないというか。だって、多分あのゲンシカイオーガと似たようなものなんだよ?」
「本物、見たことあるんですか!?」
アズマは、少しだけ身を乗り出して問いかける
エキシビジョンで、その姿を確認したことはある。ゲンシカイオーガ。伝説の、ゲンシの莫大な生命エネルギーを解放した海を作るポケモン。けれども、それはあくまでも彼をマスターボールと藍色の玉でもって従えるトレーナーの指示下かつ、画面越しで……
「ホウエンとの会議で、一回ね」
「ジムリーダー、目指そうかな」
「不純だね」
「不純ですよ
昔の夢、トリミアンと毎日触れあえるってだけでトリマーでしたからね」
「今は?」
「資料は沢山ありますし、父さんの後を継いで伝説ポケモンの研究者にでもなるのも良いかな、と。まだ、決めれてないんですけどね」
と、アズマはふと緑の髪の青年が此方を見ていることに気が付いた
「Nさんは、未来の目的とかあるんですか?」
「昔のボクならばトモダチをポケモンを解放する事と返していたんだろうけれど
今はそれを探してるところさ」
「コルニさんは?
どうしてそんな年でジムリーダーを?」
「伝承者だからね
シャラジムのリーダー、昔からマスタータワーがあったせいか伝承者出身者が多いから」
「成程。ある意味、今研究者になろうかと言っているおれと似たような状態で、なんですね」
それですでにジムリーダーだなんて凄いな、とアズマはうーんと伸びをする少女を見て
「コルニさん、後ろ!」
『ノッ!』
同時、異変に気が付いたのだろう。モノズも吼える
淡い金の少女の後ろ。何もないはずの空間に、割れ目が出来ていた
それは、人一人通れるかなというくらいの、割と小さなもので
「ルカリオ!」
『くわっ!』
何事か、とコルニがルカリオをボールから出す
地面に降りていたヒトツキも浮かび上がり、アズマの頬を撫でながらその横へと漂った
『ズゥゥッ!』
『ルカァ!』
そうして、二匹の獣は吼える。敵意を剥き出しに。威嚇……の特性ではないが、それに近い。いや、あえて技で言うならば怖い顔だろうか。マイペースなゾロアはイリュージョンを解いてアズマの頭に乗っかり、ディアンシーはアズマのズボンの裾を握る
『(どう、なるんですの?)』
「分からない。何かが起こることは、確かだけど」
言いつつ、アズマは少し考えてみる
時空を割るポケモンといえば、パルキア、或いはギラティナ。シンオウ伝説に伝わる空間を司る神と、反転世界の主。だが、そんな二匹が此処に現れる理由に関して、アズマは一切思い至らない。ギラティナに関しては、遠くシンオウで二匹の伝説を呼び出したプラズマ団を止めるためとあるトレーナーに手を貸した個体が確認された事があるらしいし、その個体が反転世界を通しての旅をサポートしたならば有り得なくはないが、可能性はとても低い
ならば、この謎の割れ目は……
リノ、と
アズマの脳裏に、一つの音が響き渡った
「お前か!」
同時、割れ目の正体に、アズマは思い至り
『(な、何ですの!?何するんですの!?)』
けれども、それは一歩遅かった
アズマの右手。其処にあるリングは、元々は黒水晶のポケモンの爪であった。成長してリングとなる、生きている結晶。それは確かに本体と繋がっており……
アズマの腕のリングから、いや、其処に生じたもう一つの空間の割れ目から、巨大な黒水晶の腕が……文字通り生えていた。メガロポリスで見たあのポケモンのものと完全に一致する、巨大なソレは、器用にも足元のディアンシーを掴んでおり
そうして、割れ目に向かって投げ付けた
『(た、助けてですわーっ!)』
ひゅー、と軽い風切り音と共に、ディアンシーの小さな体は宙を舞い、あっさりと割れ目に触れるや呑み込まれる
『「みゅみゅっ、ざまぁ、なの!」』
「怒るぞ」
『「ごめん、なの」』
「って、話してる場合じゃないか!」
先導するように、アズマが一歩踏み出す前に、既にヒトツキが空を走る。ディアンシーを投げ付けた腕はされどもヒトツキの刀身が届く前に姿を消し
「行くぞ、サザ、ギル!」
アズマはもう迷わず、時空の割れ目に飛び込んだ