「ここは……」
開けた明るい空。あまりにも当たり前過ぎるはずのその景色に、帰ってきたんだと無性にほっとする
前回はそのまま海にダイブしてしまったが故に感慨も何も無かったのだが、陽射しはこんなにも落ち着くものだったのかとアズマは息を吐いた
「大丈夫、立てる?」
「な、何とか……」
地面近くまで下ろしてくれたゼクロムの腕から、少しだけよろけつつ手を差し出してくれたコルニの助けも借りて降り立つ
「何が……あったんですか」
「キミを
キミの中にあるキミの運命が与えた光を取り込んだ」
「おれを……取り込んだ、ですか?」
「そしてね、赤い鳥の姿になったの」
「赤い……鳥」
アズマは、一瞬だけ変化しかけたあの巨鳥の姿だろうか、と思い
「巨大な赤い鳥と言えばジョウト伝説のポケモンであるホウオウや伝説の鳥ポケモンファイヤー……は寧ろ黄色の印象が強いですかね」
『(違いますわ違いますわ!もっと禍々しくて……昏いオーラのそのまんまで……)』
「そうなのか姫
だとすれば……」
「「「イベルタル」」」
三人の声が重なった
『(い、い、イベルタル!?)』
「大丈夫だよ、姫
此処には居ないはず」
「彼女がやはりキミの出会うべき運命のようだね」
言いながら、緑髪の青年はふらつくアズマの代わりにひょいと足元の小さなポケモンを抱き上げる
「イベルタルかぁ、何か知ってることは無い?」
ほら、お父さん伝説のポケモン博士じゃない?とコルニ
「……さあ
父さんもカロスに生きる者としてゼルネアスとイベルタルについては良く研究してましたし、何か掴んだような話は聞いたんですけど……」
「だけど?」
「直後にあの論文……あっ、『アクア団事件から見る超古代ポケモンの現在』です
あの論文が何処かホウエンで無い場所にグラードンが居るなんて徒に全国の人々の不安を煽る大ホラだって色んな紙面で大々的に叩かれまして。その際に書きかけの論文とか破り捨ててそのままです
だから……良く分かりません
凄い発見だって、珍しく興奮していたはずなんですけど」
「あはは」
「グラードンはホウエンには既に居ない、カロスに居るのだ分からず屋……とか部屋から漏れた声は聞いたんですけど、あの時父さん荒れてましたから
ろくに話は聞けてません」
「グラードンが、カロスに……
それを発表したらパニック間違いないね」
「イベルタルとグラードンについての大発見だったっぽいので、聞けてれば良かったんですけど」
と、言いつつアズマはホロキャスターを起動する
通話出来れば今からでも聞けるのではないか?という話だ。今は行方不明のナンテン博士だが、親子である以上個人的なホロキャスター番号くらいアズマは知っている
「……ダメか
って、あれ?」
暫くして、やっぱり不在かと息を吐いたアズマは、おかしなものに気が付いた
日付表示である
「ん、どうしたの……って、これ!」
「コルニさんも気が付きました?」
「女の子から電話入ってる!」
「そっちですか!
ってあれ、本当に入ってる」
父親相手に不在で切られたことが表記された通話履歴。そのひとつ下に、不在で切れた一つの通信の表記があった
「チナから……久し振りだな
何かあったのかな」
って、そんなんじゃなくて、とアズマは首をふる
「上の時刻ですよ時刻」
「……あの日から、一月以上経ってるね」
「経ってますね」
「一ヶ月の間向こうに居たって事?」
「その間、行方不明……ですよね多分」
「だよ、ね」
そうして、金髪の少女は固まり
「お、おじいちゃーん!」
ローラースケートを展開するや街へと向けて駆け出していった
「今度は、一月以上も……」
「前のキミはそうではなかったと」
「二週間くらいでしたね、Nさん」
「その差はもしかしたらどれだけキミを引き留めておきたかったかの差なのかもしれないね
キミとしてはどう思うのかな」
「……何かをおれに求めてる、それは分かります
けれども、その先が分からない。だから今は困りますね」
怪我したポケモンを拾って治療してあげようとしても怖がられてその怪我おしてまで逃げていかれた事も多いアズマとしては、頼られるのは悪い気ではないのだが
「ならばキミはこの先何を目指す
キミの真実と理想は何処にある」
「何も変わりません。元々旅に出た理由に、あの黒いポケモンの求めるものを探してみる、が追加されただけです
ポケモンと共に旅に出て、それ自体が素敵な事ですから。旅をそのまま続けます」
「キミならばその答えだと思ったよ
だから」
『「みゅみゅっ!お任せなの!」』
「……ゾロア?」
話に割り込むように、ドヤッと得意気に右前足をあげた小狐が人間の声真似を叫ぶ
「……おれに、付いてきてくれるのか?」
『「こんな面白いの、付いていかない道は無いの!」』
「確かに、刺激的かもな
Nさんは良いんですか?」
「ボクはトモダチを縛ったりしない」
「つまり、本ポケモンが望むならばそれを尊重すると」
軽く笑って、アズマはポケットからやっぱりこれが良いんじゃないかというものーダークボールを取り出す
「ダークボール。格好いいだろ?」
『ロアッ!』
「これから宜しくな、えーっと……」
一瞬の思考。とはいえアズマ式命名は単純なものの為にすぐ答えは出る
「宜しくな、アーク」
『「……もっと可愛いのが良いの」』
「可愛格好いいだろ、アーク」
『「名前のセンスはイマイチなの」』
「……努力する、うん」