ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

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アサメタウンへ

「負けました。言ってた通り、強いな、君」

 大人しく、アズマはそう言った

 

 結局、アズマのポケモンはヒトツキ一体。野生は捕まらなかったし、10歳の時に貰ったフォッコはあまりにも嫌がり、触ろうとするとひのこを吐くので博士に返したし、老執事のポケモンはまたあのポケモンが来たときに少しでも屋敷を守れるようにと、付いてきたそうな素振りはあったが借りては来なかった

 つまり、ヒトツキが倒れた時点で負けなのだ。自分が戦う……なんて言うのも駄目だし、それはどうしようもない

 「有り難う、ギル」

 ボールにヒトツキを戻す。あまりボールに入るのは好きではないようだが、出しておくよりは多分良い

 

 「……ダッセー兄ちゃん、マジで他のポケモン持ってないの?」

 「持ってない。あと、アズマだ」

 「マジでダッセーな!これはもうダッセー兄ちゃんだろ!」

 「ちょっとショウブ、流石に失礼じゃない?」

 「そんなこと言ってもよ、ユリ。普通にだせーじゃん」

 「いやまあ、ポケモン一匹ってちょっと……だけど」

 少女は言い淀む

 実際、アズマ自身、ここまでポケモンに嫌われるというのは、トレーナーとしてどうかとは思っている。だから、10歳の時には一度逃げ、屋敷に閉じ籠った

 けれど、今度はそうはいかない

 「良いよ。情けないのは事実だから。じゃあ、またな。何処かで会えたらまたバトルしてくれると嬉しい」

 アズマは、その場を去った

 

 「ギル、大丈夫か?」

 アサメタウンに入ってすぐの場所で、ボールの中に話しかける

 ボールがカタカタ揺れる。意識は戻ったようだ。だが、やはりバトル出来るほどに回復はしていないだろう

 「アサメにポケモンセンターあったかな……」

 周囲で良く見かけるポケモン等については屋敷にある本を読み込んだものの、ポケモンセンターの在処に関してはあまり読んでいなかった事に気が付く

 いざとなれば屋敷から持ってきた『げんきのかたまり』や各種薬もあるのだが、これからあの謎のポケモン……Zに関する手掛かりを探すためにカロス全土を旅する事になるかもしれないと考えると、あまり乱用する気にはなれない。薬に頼らず、ゆっくり休めるならば休んだ方が良いだろう

 

 「あら、見かけない顔ね。旅の人?」

 そんなアズマに、声をかける人がいた

 アズマが振り返ると、一人の女性が立っていた

 見覚えがある。雑誌で見たことが何度もある、その女性は……

 「サイホーンレーサーの、サキさん……」

 ゼルネアスと共にカロスを救った英雄、セレナの母であった

 

 「あっ、ファンの方?」

 「いえ、サイホーンレースはあまり。個人的にはその雑誌はトリマーの方々の提案するトリミアンの斬新なトリミング姿特集目当てで購読していたので。すみません

 ただ、母娘揃って有名人なので」

 「あら、そう。……トリミアン、好きなのね」

 「父が初めてゲットしたポケモンで、家族でしたから」

 「でした?」

 「一年前、死にました。看取ってやることも出来ずに」

 「……そう。ご免なさい、変な事聞いたわ」

 アズマは首を振る

 「いえ、何時までも沈んでても、あいつに吠えられる気がするんで。大丈夫です」

 

 「そういえば、サイホーンレーサーなんですよね」

 話題をそらすように、アズマは言葉を発する

 「サイホーン、良いわよ」

 「個人的には、もっと可愛くてふわふわしてる方が好きなので。トリミアンレースとかあったら、レーサー目指してたかもしれません」

 カタカタと、ボールが揺れる。ヒトツキは可愛い系ではないので、怒らせてしまっただろうか

 「あらあら。ところで、アサメには何の用なの?」

 「近くでバトルしたのですが、その際に疲れたポケモンを休ませられないかと思って」 

 「アサメには無いわね、ポケモンセンター」

 「そう、ですか」

 それは、そうかもしれないと思っていたこと。アサメタウンにポケモンセンターがある、と読んだ事はない

 「そういうことなら、上がっていきなさいな」

 「良いんですか?」

 「良いのよ」

 「有難う御座います」

 アズマは、願ってもない申し出に頭を下げた

 

 

 「はい、お茶。そっちのヒトツキちゃんには、きのみかしら」

 「はい、有難う御座います」

 10分後、アズマはサキの家に居た

 「そういえば、貴方……名前は?」

 オレンの実をかじり始めたヒトツキを横目に、サキが問う

 「アズマ……アズマ・ナンテンです」

 「ひょっとして、ナンテン博士の息子さん?」

 「はい。アサメから1時間位の屋敷に住んでる、あのナンテンです」

 「アズマくん、ナンテン博士といえば4年前の論文だけど……あれ、本当なの?」

 「『アクア団事件から見る超古代ポケモンの現在』ですか?。良く聞かれます

 父は信じているようです。発表の通り、グラードンはカイオーガと激突した3000年前にホウエン地方を離れていると。だからこそ、ゲンシカイオーガの復活があったにも関わらず、グラードンは覚醒しなかったと」

 サキは、一口茶を飲む

 「そうなの。そういえばアズマくん、セレナの写真見る?」

 「良いんですか?」

 アズマの横で、ヒトツキが鞘を鳴らす

 「ギルもファンなので、見せてもらっても?」

 「今やポケモンのファンまで居るのねあの子」

 立ち上がりながら、サキは呟く

 「なんたって、伝説のポケモン(ゼルネアス)と共にカロスを救った英雄にして、前年度リーグチャンピオンですからね、そりゃあ憧れます。カロスリーグのチケット取れなかったんで中継でしたけど、興奮しました」

 「凄かったわよー」

 「何時か、対戦出来ると良いんですけどね」

 「あら、アズマ君はリーグに挑戦するためにお屋敷出てきたんじゃないの?」

 本棚を探りながら、サキが問う

 「それが、謎のポケモンに襲われて……。そのポケモンを追う為に旅に出た、感じです。父さんも一年前から行方不明ですし、おれがやらないと」

 「……大変なのね、アズマくんも。セレナなんて、やりたいこと見つけるためにポケモンも旅に出てくる!って出ていったのにね」

 「そっちの方が良いですよ。おれも、出来ればそう旅に出たかったですし」

 大分回復したヒトツキが、鞘の先でツンツンと肩を突く。まるで、当時オレを連れてかなかったからだとでも言いたいように

 アズマは、宥めるようにそれを撫でる

 「……その旅の中でジムに挑戦するとか、良いんじゃない?」

 「……それも、そうですね」

 「ということで、セレナの写真よ!旅の途中で何度か送ってきたの」

 サキは持ってきたアルバムを広げる

 

 ……一枚目、グランダッチェス、セレナ様

 ドレスで着飾った金髪の少女と、それに寄り添うエーフィの写真。後ろにブリガロンが騎士のように映っている

 ……二枚目。マスタータワー、初めてのメガシンカ

 不思議な姿をしたルカリオが二体と、その横でポーズを決める二人の少女。左は確か……シャラジムのリーダー、コルニだったろうか。右のセレナは、コルニの真似か、ロングの髪を纏め、動きやすい服装をしている

 ……三枚目。カロスリーグ前夜

 カロスリーグに挑んだ時の写真。特集で良く見る、マイクロたけパーカーとプリーツスカートなセレナ。写っているポケモンは、今日ではクイズ問題にすらなっているメンバー。ゼルネアス、ガブリアス、ブリガロン、カメックス、ルカリオ、ファイアロー

 

 「有難う御座いました」

 暫くして、アズマはそう言った

 「どう?」

 「……優勝後の写真なんかは良く見るんですよね。けど、こういうのは見てなかったので……見れて嬉しかったです」

 「元気は、出た?」

 「はい。そろそろギルも元気になったようなので。有難う御座いました」

 お辞儀をする。アズマの横で、ヒトツキも刀身を90度傾け、お辞儀のような格好を取った

 

 アズマは、もう一度お礼を言って、サキの家を出た


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