ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

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vs?フカマル

「あっ、此処に居たんだ」

 そんな少女の声に、アズマは唇に当てた草を離し、振り返った

 

 あの黒いポケモン二度目の襲来から、更に4日。場所は何時もの修業場である写し身の洞窟の上とは真逆の12番道路の林の中

 「そろそろですからね。手伝ってくれていたニャオニクス達にもお礼をと」

 「お礼?」

 「草笛。割と好評なんですよ」

 と、アズマは草を口に当て直し、軽く前奏を吹いてみせる

 

 「……それで?」

 「それで、吹いてたんですが……」

 と、アズマは苦笑しながら回りを見回してみる

 其所に居るのは何匹もの毛玉

 そう、Nに呼ばれ手助けをしてくれていたニャオニクスの家族のニャスパー達である。モノズやゾロアもさらっと混じって丸くなっているが

 「皆寝ちゃって

 近付くとおれの持つっていうオーラのせいかな、怖がって飛び起きるんですよ」

 「ああ、だからそこに居たんだ」

 「気が付いたら囲まれてましたからね」

 アズマが何処に動こうが、草笛に近寄ってきて丸くなったニャスパーに近付き怖がらせずにはいられない形

 「Nさんが探索から戻ってきてくれれば何とかなるとは思いますけどね

 それまでは中々動けずって感じです」

 『(なのですわ)』

 と、一人起きていたディアンシーが付け加えた

 

 「そっか、挑戦は出来そう?」

 「明後日にでも」

 「スケート技は?」

 「要練習です。きっと明日の予定は取れないなと思い明日練習する気でした」

 「あはは、必要ないって。うちは割とシンプルなジムだから」

 と、少女は笑い

 「そういえばさ

 あの時の女の子との連絡って何だったの?」

 なんて、別方面の事を問いかけてきたのだった

 

 「……気になるんですか?」

 『(気になりますわ)』

 「気になるから聞いたんだけど?」

 「女の子ってそういうの好きですね」

 と、軽くアズマは笑って

 あの二つ下の少女の事を思い出していた

 

 

 

 

 「……はあ、はぁ

 ごめん、チナ。遅くなった」

 ボーマンダ航空ミナモシティ行きの出発アナウンスが流れるカロス、ミアレ空港。その入り口の扉の横

 かなりギリギリの時間に何とか父のボーマンダの力を借りて辿り着いた10歳の少年アズマは、息を切らしながら不安げに立っていた少女に挨拶した

 「どうしたの、アズマさん?」

 アズマの姿を見て、不安げだった少女の表情が和らぐ

 「本来は朝届くはずだったペリッパー便が遅れてさ

 父さんにヴォーダ借りて、空で受け取りに行ったら迷ってこんな時間に……」

 と、言いつつ、アズマは背中に背負ってきたものを両手で抱え、少女に差し出す

 それは、ひとつの花束。赤い一種類の花のみで構成されたブーケ。一輪たりとも他の花の混じらない純正のもの

 

 「グラシデアの花束……」

 呟く少女に、アズマは頷く

 「シンオウに越してくチナに主にシンオウでの風習でってのは気になったんだけどさ

 これ以上のものが思い浮かばなくて」

 バツが悪そうに、アズマは笑う

 「これがおれの気持ち。やっぱりこれしか無くて

 おれと友達で居てくれて、とっても有り難う、チナ」

 少女は、アズマの言葉を受けてゆっくりと花束を受け取る

 そして、そのブーケから一本花を抜き取ると、その茎をちょっぴり乱れたアズマの服の胸ポケットに刺した

 「アズマさん

 わたしと友達になってくれて、一杯一杯有り難うです」

 言って、何が可笑しいのか少女は笑う。短く綺麗な母譲りだという銀の髪が揺れた

 

 「……頑張るんだぞ、フカマル

 頑張ってチナをお前が守るんだ」

 と、アズマは目線を下げ、少女の足元でアホ面を晒す砂鮫の背鰭を軽く叩く

 『グルル』

 と、アズマを運んできてくれたボーマンダも唸った

 ボーマンダとフカマルは師弟……という訳でもないが、チナの家に遊びに行った際には割とボーマンダの上に乗っていたのをアズマも覚えている。その縁だろうか

 「そう。これからはもうヴォーダは居ない。ウィンも居ない。チナを守ってやれるポケモンはお前だけなんだからな」

 そのフカマルを二人で捕まえに行く際に手伝ってくれたウインディの名前も挙げ、アズマは続ける

 

 「……あ痛っ!ってフカマル、お前なぁ……

 おれにさめはだ立てなくて良いって。チナを傷つけたりしないって」

 言葉を受けたのか、背鰭を撫でるアズマの手に軽く朱が走った。さめはだ、触れてきたポケモンに傷を与えるフカマルの珍しめの特性である

 そんな、何時ものやり取りに銀髪の少女は変わらないですと微笑んで

 「フカちゃーん、チナー!そろそろ手荷物検査通る時間よー」

 という少女の母の呼び声に会わせ、それじゃ、またと別れを告げてガラスの扉を潜っていった

 

 

 

 「って感じでさ、シンオウに越していった友達」

 と、読み終えたシャラシティで買った本ータイトルは雷火の英雄伝4~真実と理想の激突~、プロがある程度面白おかしく脚色して小説化したプラズマ団事件小説であるーに挟んだ栞を、アズマは振って見せた

 

 「それが……チナちゃん?」

 「はい。実はあれからも普通にホロキャスターとかで連絡取れてたんで、あんまり離れたって感じしなかったんですけどね」

 と、アズマは笑う

 「でも、最近は何時もの定期が来なくて……

 ああ、四年前から毎月今月は自分からって交互に連絡する側変えてたんですよ。一年くらい前かな、それが途絶えて」

 「途絶えちゃったんだ」

 「ギンガ団事件の辺りからですね。その時シロナさんみたいになりたいですと旅に出てたから巻き込まれたんじゃないかと心配で……」

 ちらりと、空を軽く飛んでいる執事のフライゴンを見る

 「一時は本気でライに頼んでシンオウまで飛んでこうかと思いました。ヴォーダの方が良い気はしましたけど父とアローラ行ってましたしね当時

 馬鹿言うなとばかりに振り落とされましたけど」

 「そんなに心配だったの?」

 『(想像……案外つきますわね)』

 「そりゃ、大切な友達ですから

 昔は体弱かったせいか、あんまり友達居なかったんですよ。ポケモンは沢山居て、寂しくは無かったけれども、やっぱり人間の友達だって欲しいもので

 

 チナも父が仕事で帰ってこれなくて、母が病気がちで、ポケモンも居なくて、子供スクールにも通えず一人ぼっちだったらしいので交遊関係はチナから全く広がりませんでしたけどね」

 それでも気にならなかった、とアズマは笑って話を続ける

 「それでそれで?」

 「何でも、リゾートエリアの家に戻った時に憧れのシロナさんに会って、助手としてシント遺跡って電波届かない所の調査手伝ってたらしいですね

 当時のおれ、大分落ち込んでましたから。自分だけ良い知らせというのも嫌ですと思って行く時に連絡しなかったら、予想外に長く調査の手伝いすることになって

 

 戻ってきても二度もすっぽかしちゃって今更何て言って連絡すれば良いですか?して気後れしてたらしいんだ」

 『(別にそのギンガ団は関係無かったですの?)』

 「多少絡まれたらしいよ

 フカマルが居て、グラシデアの花があったから頑張れたですと笑ってた」

 「つまり、踏ん切りがついたと」

 「そういう感じだったらしいですね

 これからも友達で居て良いですか?って、当たり前の事聞きに来ただけだったですね」


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