ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

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決戦!シャラシティジム 前編

そうして、翌々日。シャラシティジム

 

 「あっ、来たね!」

 コルニは、新たなる挑戦者に顔を上げた

 ジム外周に張られたローラースケートコースから中央ステージへ向けて華麗……とまではいかないバックフリップ。それでも抱えたディアンシーは目を輝かせ

 アズマは、約束の時間にステージに降り立つ

 

 『(凄かったですわ、またやりたいですわ)』

 「……うえっぷ、暫く勘弁してくれ姫……

 首筋掴まれて酔った……」

 どことなく、締まらない感じで

 「あはは、大丈夫?」

 「何とか」

 『にゃおにっ!』

 「Nさん、ニャオニクス……来てくれたんですね」

 其処に現れたのは緑の髪の青年と猫のポケモン。テレポートで特にスケートテクニック等を披露することも無く

 「ダメじゃないだろうキミとキミのトモダチの輝きを見せてもらうのは」

 「いやまあ、それはそうですが

 ちょっと見てみたかったなって、スケートしてるNさんとかも」

 「良し、元気そうだね

 じゃあ、始めようか」

 

 「ルールの確認をお願い」

 金髪のジムリーダーの声に、静かに見守っていた青年が口を開く

 今までずっとじっとしていた辺りプロだ。なんてアズマは思って

 「ルールは3vs3のシングルバトル、途中チャレンジャーは一度のみタイムが認められ、タイム中に一つだけ道具の使用が許される

 また、チャレンジャーのみジムリーダーのポケモンを倒した際に別のポケモンへの交換が認められている」

 「……はい」

 きゅっと、アズマはボールを握り締める

 「よし、気合いは十分?

 それじゃあ、始めちゃうよ!」

 

 ジムリーダーのコルニが、バトルを仕掛けてきた!

 

 「……頼んだ!」

 「よし、まずはこの子から!」

 ボールを投げるのは同時。コルニが出したのは何時ものルカリオ……なんて事は勿論無く、カンフーポーズを取るオコジョのような一匹のポケモン、コジョフー。それに対し、アズマは……

 『(……綺麗)』

 ぽつりとディアンシーが呟くなか、ボールが開くと共に豪華絢爛に輝く星のエフェクトと共に、菱形の翼が宙に舞う

 「ボールカプセル!?気合い入ってるね」

 「いや、つい買ってしまいまして

 ならば、使わなきゃと」

 「それにしてもフライゴンか、その子を使ってくるなんて意外かな」

 『コジョーッ!』

 「おれだって、出来る本気で挑みたいですから、ね!

 『りんしょう!』」

 「コジョフー、『とびげり』!」

 お互い、あまり様子見無しの攻撃指示

 フライゴンが翼を震わせ音波を放てば、それを突き抜けてコジョフーが突撃する

 ……だが

 「上!」

 フライゴンは飛翔するドラゴン。羽根を震わせて音波を放ちつつも、それは攻撃に利用しているかの差こそあれ野生の個体が飛びながらやっていること。輪唱を放ちつつも、それが隙となる事は無い

 フライゴンの姿が宙に舞い、コジョフーの攻撃は空しく空を切る

 「『かえんほうしゃ』!」

 「コジョフー!『がんせきふうじ』で打ち落として!」

 「遅い!」

 コルニも空飛ぶポケモンへの攻撃に切り替えるも時既に遅し。フライゴンの口から溢れた炎は帯となってコジョフーに襲い掛かる

 

 「コジョフー、戦闘不能!フライゴンの勝ち!」

 「うんうん、強い強い

 それじゃあ、次は……」

 言って、コルニは二匹目をボールから呼び出す

 『リッキー!』

 「ゴーリキー。ならば

 ……お疲れ、また出番がくるまで休んでて」

 それを見てアズマはフライゴンを戻し

 「頼むぞ、サザ!」

 モノズを出した。再び散る星のエフェクト

 

 「って、ボールエフェクトでショボショボするか?」

 『ノッ!』

 「ってお前目が悪いから大丈夫か

 行けるな、サザ?」

 頷くモノズに、アズマはよしと返して

 「『かえんほうしゃ』!」

 指示はフライゴンの時と変わらない。悪タイプは格闘タイプと相性が悪い。ゴーリキーは当然格闘タイプであり、アズマにとって切り札たる悪タイプ技は通りが悪い

 だからこその火炎放射。単純な威力もさることながら、火傷がある。炎タイプエネルギーの残留である火傷はダメージの他に、その痛みで物理的な攻撃を本気でやりにくくさせる、即ち物理技を弱める力まである。物理技を得意とする大抵の格闘ポケモンには特に有効なのだ。だから半分バカの一つ覚えにぶっぱなす

 それに対し、人間のマッスルに近い姿のゴーリキーは、静かに目を閉じた

 

 「?

 分からない。けれども攻めるだけだ、サザ!」

 『ノッ!』

 「耐えるよ、ゴーリキー」

 その体は炎に包まれる。けれども、そのアズマより大きな体はじっと耐える。ただ、耐えて……

 モノズの炎が吐ききられたときも、その背は揺らがず

 けれども、辺りに火の粉が舞う。火傷だ。炎タイプエネルギーの残留がその体を責める。痛みで上手く動けないだろう

 

 ……と、アズマが思ったその瞬間、すっと閉じられていたその目が見開かれた

 「逃げろ、サザ!全力で!」

 火の粉を纏うその姿

 痛みに歪むのではない、それをねじ伏せる強い目

 ……根性、だ。いや、根性無しなんてそうは居ないがそうではない。ポケモンの特性としての『こんじょう』だ。ポケモンの中には、タイプエネルギーの残留により体が痛め付けられている時、逆にその逆境をバネに本来を越えた力を発揮するポケモンが居る

 ゴーリキーだってその一種だ。前にアズマは本で読んだことがある。それを……忘れていた

 「行くよ、ゴーリキー

 気合いゼンリョク!『きあいパンチ』!」

 『ゴウッ!リッキー!』

 そして猛然と走り出す。モノズへ向けて

 気合いパンチ。気を集中させ、研ぎ澄ました究極の一発。本来は攻撃されていてはそうは放てるものではない。影分身や、そういった補助技でもって相手を惑わし、攻撃をさせないようにしてから殴り勝つ

 なのだが……

 「反則かよこれ」

 耐えきって、自分を苛む炎すら力に変えて。体を炎に焼かれながら精神を研ぎ澄ましきったのだ

 『リキ』

 一撃は静かに

 モノズは必死に逃げるものの、速度は歩幅的に向こうが上。直ぐに追い付かれ……

 「『りゅうのいぶき』!」

 せめてもの抵抗、振り下ろされる拳に、溜め込んだブレスを放つ

 

 だが、それでは止まらず

 必殺の右ストレート。シンプルで、かつ磨ききられた一発がモノズを捉えた

 

 「モノズ、戦闘不能!ゴーリキーの……」

 『リ……キ』

 そうして、殴りきった彼も戦場に倒れ伏す

 ダブルノックアウト。幾らなんでも、二回のモノズのブレスを突っ切りながらというのは無理があったのか、ゴーリキーも倒れる

 

 「……サンキュー、サザ。怖いだろうに良くやった」

 「オッケー、頑張ったねゴーリキー」

 そうして、お互いにポケモンを戻す

 

 「ルチャブル」

 そうして、コルニの最後の一匹は鳥のような格闘家のようなポケモン、マスクのような顔の模様が特徴的なルチャブル

 だが

 「……コルニさん」

 「ん?なにかな」

 「ルカリオを」

 『(馬鹿の戦闘狂が居ますわ!)』

 ディアンシーの言葉は無視して

 『にゃお』

 頷くニャオニクスに頷き返して

 「おれだって、ギルだって。このままじゃ終われないですから

 あの日見たルカリオ……とはたぶん別個体ですけれども、それを越えたい。それが、シャラシティでの目標ですから

 それが怖くて、シャラシティジムはスルーって思ったこともありました。けれども、挑むと決めた

 だから」

 

 「……いいよ」

 割とあっさりと、コルニはそう返した

 「でもさ、ひとつ約束して」

 「約束?」

 「うん、バッジ3つめの人へのポケモンはルチャブルを含めた三体

 って、キミなら勝てる。それは保証する」

 「……はい」

 「だからさ。ジムバトルはこれで終わり

 ルカリオとのバトルがどんな結果でも、バッジは受け取ってもらうからね」

 「……はい!」

 「うんうん、キミの本気、実は正面から見てみたかったんだ

 それじゃ、行くよ、ルカリオ!」

 『くわん!』

 「今度こそ、越えるために!頼むぞ!」

 ルチャブルが空気を読んで飛び去り、代わりにコルニが繰り出すのはルカリオ

 アズマが選ぶのは当然最強戦力であるフライゴン……ではなくヒトツキ

 「……行けるな

 一撃で決める!」

 腕の黒水晶を胸元に翳し、アズマは叫ぶ

 「それじゃ……行きます

 命、爆発!メガシンカ!」

 コルニの左手グローブに埋め込まれたキーストーンが輝き、ルカリオが虹の二重螺旋に包まれる

 そうして降臨するのは、メガルカリオ。何度かアズマは見たことがあって、かつてシャラシティジムに行ったときにコテンパンにされた不思議なルカリオと同種の個体

 それを前に、けれども静かに

 少し前にゴーリキーにやられたのと逆に、今度はアズマが目を閉じ、心を、オーラを研ぎ澄ます

 Z技。本気のゼンリョクを、ルカリオに勝つために、そして負けられない戦いに負けないためにポケモンと築いた一撃を

 

 「ルカリオ、行くよ!『とびひざげり』!」

 放たれるのは、波動弾ではなく直接攻撃。膨れ上がり全身に纏う波動を、放つのではなく体に宿して全身全霊で蹴りかかる

 ヒトツキはゴーストタイプだ。本来格闘タイプエネルギーは効くことはない

 なんて常識、メガルカリオには通用しない。ゴーストタイプとはいえ実体のあるヒトツキ種ではなく、ガス状生命でみるからに格闘が無意味そうなゴース種だろうがその膝は蹴り抜くだろう

 

 だが

 にっ、とアズマは笑う

 アズマがヒトツキとの練習をコルニに見せたZ技はブラックホールイクリプスと無限闇夜への誘い。どちらも遠距離から狙い撃ちに出来るZ技だ。だから撃ち合いになるだろう波動弾を避け、瞬速の飛び膝を選んだ

 それで良かった。それを、アズマは……いや、アズマと彼女は待っていた

 

 『ルガ!?』

 例えガスだろうが捉えるはずの膝が、その体が宙に舞うヒトツキを突き抜ける。勢いを殺しきれず、ルカリオは壁へとすっ飛んで行き……

 ヒトツキが居た筈の空中。その下の地面に伏せるようにして身を屈めていた小さな黒い化け狐の姿が幻影を解かれ露見する

 『ロアッ!』

 「……ゾロア!」

 そう。ゾロア

 そもそも、アズマはフライゴンに頼ってなどいない。けれども、ほかに使えるポケモンが居なかった。だからこそ、少し不自然だと思いつつゾロアにはまずフライゴンに化けてもらったのだ

 そのまま戦っては疑問に思われる、だからゴーリキー相手にはモノズに頑張ってもらい、そしてヒトツキに化けたゾロア再登場

 これで三匹とも出たと思わせ、その誤認を突く。一度やってしまえば警戒されるが、だからこその初見殺し。だからこその開幕からのオーラ爆発。ただの一回のチャンスを、確実にモノにするために……

 

 「全ての光よ、エンテイの咆哮の如く熱く猛く燃えたぎれ!」

 瞬速を発揮したルカリオは、自身の体を止められずに壁に激突した。避けられはしない!

 アズマの動きに合わせ、ゾロアが構える

 「『ダイナミックフルフレイム』!」

 『ロアァァァァァッ!』

 

 そうして、オーラを纏ったゾロアが放つ自身の全高の数倍はあろうかという轟火球は、ルカリオを巻き込んで屋内の太陽の如くに莫大な熱を放ち炸裂した

 アズマの視界を光で埋め尽くす炎と光の嵐、ルカリオの姿は炎の中に消え……

 

 『ルカァァァァァァァッ!』

 天を、いや天井を貫く青い光の柱が、アズマの視界を二度焼いた




注意書き
ゾロアは火炎放射を覚えません。ゾロアークは覚えますが
アズマくんのゾロアが当たり前のように火炎放射撃ってるのは……あれ特殊個体ですからという事で宜しくお願いします。一応撃てる最もらしい理由はありますが、とりあえずマスコット枠なのでゾロアークに進化されても困るからゾロア姿のまま性能ゾロアークみたいなものだと思ってもらえれば

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