『(も、もう止めて!)』
そんな声が、アズマの耳に遠く反響する
勝てる訳は無かった。あの日、ショウブというライバル……いや知り合いと二人、メガシンカまで発揮して漸く眼前の
それで3種のメガシンカを相手にして、アズマ側に勝ち目なんてものはあるはずもない。そんなこと、アズマだって分かっていた
……だとしても、逃げる以外に無事に済む手は無いなんて知っていても。それでも、アズマにその選択肢は無くて
「……けほっ!」
降り注ぐ雷撃に焼かれた肺で、燃え盛る炎から吹き出した煙で燻された喉で、咳き込みながらもニヤニヤした三人のジャケットを睨み付ける
臆病であったモノズは耐えきれずに端で小さな前足で元々ほぼ毛に覆われ見えない目を塞ぎ震えている。ゲンガーは突如現れたように突如姿を消した。ニダンギルとフライゴンはアズマの想いを汲んで無謀にも戦ってくれたが、勝てる道理なんて無くて
ジャケット達に容赦はない。トレーナーに向けてポケモンの技を撃たない。そんな当たり前の……一般的にトレーナー常識とされるものを知らず、寧ろ巻き込まれろ死んでも知るものかとばかりに放たれる大技は、アズマの全身の傷跡を残していた
「それ、でも!」
ふらふらと、アズマは相手を見据える
最早アズマの相手をしているのは一人だけ。筋肉質な方と少女は、既にモグリューを使っての墓荒しに戻っている。ライボルトとアブソルは暴れさせたままだが
「何が出来るのです。大人しくくたばる事しか出来ないでしょうに」
「……ギ、ル
まだ、行けるか……」
アズマの声に、ニダンギルは応えない
ただ、ふらふらと浮かび上がった。オーバーヒートを受け、限界であろう体で。普段であれば、無理すんなポケモンセンター行くぞとアズマだって言う状況で
それでも、三体のポケモンによって何とか整理が終わり再建を考えるなか再び瓦礫と化した家の残骸を盾に、アズマとニダンギルは眼前の狂った眼のヘルガーを睨み付ける
仕掛けるのは一つ。何時もの『せいなるつるぎ』だ。お互いに体力は限界。Z技なんて余裕はない
それでも、だ。一撃が限界だと知っていても、ニダンギルはアズマに応える。ずっと一緒に居たのだ。アズマがフォッコを貰って旅に出て、あまりのポケモンの捕まらなさに挫折して帰ってくるまでの間以外、ずっと。父親のトリミアンが生きていた頃から、ずっと
だからこそ、ニダンギルは応える。他のどのポケモンよりも、アズマを見てきた彼女だけは、すべてを忘れ怒り狂う己のトレーナーに寄り添う
「ギル!『せいなるつるぎ』!」
「『あくのはどう』」
だが
それでも、だ。普通のポケモンで、勝てる道理はない。勝てないから追い込まれたのだから
吹き飛ばされ、ごろごろと階段を落ちる
そうして、アズマが落ちた先は地下室であった
「……ゴメンな、ギル……」
無茶だと知っていた。それに付き合わせてしまった。ポケモンの事を思うならば、絶対にそうしてはいけなかったのに
意識のない己の相棒に、ぼんやりと語りかける
「桃色水晶、ですか」
ディアンシーを抱えたまま、階段の上から男は地下室を見下ろす
「フルル、これらは貴女の管轄です。何時まで油を売っているのですか」
「……やっといて」
「資料漁りですか
少年を排除したあとです、幾らでも出来るでしょうに」
父親の残していった幾つもの資料。伝説ポケモン研究で割と有名な学者である父の資料は、その大半が伝説のポケモンについてだ。確かに、彼等がゼルネアスを求めるならば、ゼルネアスを探す幻であるディアンシーの他に、研究資料を求めるのは当然かもしれなかった
そんな事も、ぼんやりとしか思えない
走馬灯のように、アズマの脳裏には色々な事が思い浮かぶ
いや、本当に走馬灯だったのかもしれない。意識は霧がかかったように白く薄れだし、霧払いなんて使えるポケモンは居らず
「……シア、迎えに……いけな、あ……かも……」
思い出すのは、父親に連れられてガラル地方に2週間ほどのワイルドエリアツアー(父はナックルシティで研究発表があるらしかったので、父が招待してくれた友人のチナと二人、大人なガイドありとはいえツアーに送り出されて以降全然会えなかったのだが)で出会った、大きな優しい犬のポケモン。アズマ本人は幼くて捕まえる為のボールも無いけれども、と父親に代わりに捕まえて貰おうかと思ったら森の奥に去っていってしまった、ワイルドエリア二日目から最終日まで付き添ってくれた、何時か自分が立派なトレーナーになったら、一緒に来てくれるかもと思った相手
「……チナ
連絡……しない、と……」
思い出すのは友人の少女。せっかくまた定期連絡しようって言ったのに、すぐにそれを反故にしたら心配されてしまう
「……ギル、サザ……
ライ、ごめん、な……」
思い出すのは傷だらけになるまで戦わせてしまった大切な相棒達。メガシンカ3種に勝てないなんて解ってたのに、戦闘不能になるまで付き合わせてしまった。これはスポーツにも近い、ルールありのポケモンバトルではないのに
「おや、じ……じい……」
思い出すのは家族と、家族同然の人
もう会えないかもしれなくて、申し訳なくて
でも……あまり考えられない
「一思いにトドメを」
『ルガァァァァッ!』
苦しげに、ヘルガーが吠える
その声は、ギリギリアズマにも届いて
『イヌヌワッ!』
「……ハチ?戻って、た……の」
そんなアズマの頬を舐める暖かい舌
ワンパチ、だ。シアと呼ぶようになったあの大きな犬ポケモンと別れた後、今のお前にはこいつだなと父が捕まえてくれた、ガラル地方のポケモン。トリミアンが取りなしてくれなければ暫くアズマには近付いてこなくて、トリミアンが死んだあの後、父親と共に姿を消したポケモン
「親父……帰って、きたの……か?」
「……ワンパチ、退きなさい」
もう、目は見えない
自分が何してたかすら、ほぼ思い出せない
「迎えに、いかないと」
「貴方まで死にますよ、義理立てして何になります」
『ヘルゥゥゥ!ガァッ!』
ハチ……。進化前のワンパチから取った名前。父であるナンテン博士にしては珍しく、進化させないとしていたし、戦闘にもほぼ出さず連れていく事もまず無かった犬ポケモン。そいつすら居なくなっていたから、行方不明になった時、父はほぼこの家に戻ってくることはないと思っていた
そんな彼が戻ってきたなら……
「いか、ないと」
ぼんやりと、アズマは呟く
無意識に、手を伸ばし
その手が、ほぼ見えない目ですら分かるほどに輝く、桃色の水晶に、触れた
溶ける
そうとしか、言えなかった
アズマの眼前で、桃色の大きな水晶はほどけてゆき……その中に閉ざされていた、一つの黒い繭の姿が顕になる
『(破壊の……繭……)』
ディアンシーの言葉は、アズマには届かない
けれども、とても懐かしい気持ちがして
『……イガレッカ!』
そんな叫びと共に、アズマの視界は……いや、地下室は赤い光に覆われた
ということで
第八世代の皆様が今話から追加されましたとさ
&ZのZはZygardeではなくZacianのZだからタイトルヒロインは自分ですねしだす青い犬の追加を見てメインヒロインのYちゃんは何を思うのか…