「……君」
サキの家を出た……所で、アズマは声をかけられた
「この辺りの人じゃないね。泥棒?」
「外から来て、ポケモンセンターが無いけれどポケモンを休ませたいと言ったら、少し休ませてくれただけです」
声をかけてきた、黒い何かを抱え、帽子を目深に被った青年は、少しだけ考えるような素振りを見せ、頷く
「嘘は言ってなさそうかな」
「警戒されるのも解りますけどね」
アサメタウンは、ポケモンセンターを必要としない程に、訪れる人は多くない閑静な町だ。見かけない人が有名人の家から出てきたら、多少は警戒されてもおかしくはない
「外……か。ひょっとして、ナンテン屋敷の」
「はい。息子のアズマです」
「成程ね。昨日何かあったみたいだし、それかな」
「はい」
大人しく、アズマは頷く
「……最近、赤スーツのフレア団、じゃないけれど、怪しい人達が居るようだし、それかな?」
「いえ、ポケモンでした。それも、恐らくは野生の……黒くて、緑色の部分がある」
「それは……こういうの?」
青年は抱えていた何かを持ち上げる
それは……
「……小さいですけど、モノズ、ですか?」
「そう。近くに倒れてたんだ」
抱えられていたのは、そぼうポケモンのモノズであった。小さくて、首辺りから黒い毛に覆われた、小さな四足の竜の子。けれども、本来は青いはずの体が、全体的に緑色をしている
確かに、緑と黒、色合いは似ている
「いえ。もっとヘルガーに、似ていました」
「ふぅん」
「少なくとも、モノズ系統ではなかった。それは確かです」
「……この辺りにモノズは生息していない。だからと思ったけど」
「恐らくは別件です」
「なら、手掛かりじゃないのか……」
「手掛かり?」
青年に訪ねてみる
「怪しい人達が居るって言っただろ?
追ってるその奴等が、狂暴なドラゴンポケモンを使うって目撃証言があって」
狂暴なドラゴンポケモン。多くのドラゴンポケモンは狂暴ではある。ガブリアスやボーマンダといった、強いトレーナーがよく連れているドラゴンだって、狂暴なポケモンではあるのだ
だが、狂暴ポケモンといえば、サザンドラ……モノズの進化系だ
「恐らくは地面タイプです、そのポケモンは」
「他に特徴は?」
「突然、飛び散るように消えたんですけど……
その前に、一瞬だけ、まるでZのような姿が見えたような、そんな気がしました」
「Z……ジガルデ?」
青年の言葉に、抱えられたモノズが、びくりとした……気がした
「流石に無いんじゃないですか?」
そう、アズマは答えた
ジガルデ。一瞬だけ、その説を考えた事もあった、Zのポケモン
ゼルネアスと同じくカロス地方の伝説に名前が登場するポケモンで、カロス地方の秩序を守ると言われている、長い体を持ったポケモンだ。その長い体を曲げた、佇む姿がZのように見えると言われるが、あの謎のポケモンと違って足があるなんて聞いたことはない。伝説にある外見と違いすぎる。あのポケモンはまだ、ジョウト地方に伝わる三体の伝説のポケモン、エンテイ、ライコウ、スイクンの近縁種だと言われた方が納得が行く
「そう……かな。情報有り難う」
青年が、頭を下げた
深く被った帽子が少しズレる
「……カルムさん?」
「そういえば、名乗って無かったっけ」
帽子の下から見えたのは、ある種の有名人の姿であった
「オレはカルム」
「去年の準決勝、セレナvsカルム、テレビで見ました。カッコ良かったです」
セレナvsカルム。去年のカロスリーグ最大の見せ場とも言われたバトルだ。最終的にはセレナ勝利ながらも、競うようにカロス地方を巡ったという二人の決戦は、人々を熱くした
「知ってたか」
「有名人ですから。会えるとは思ってませんでしたけど」
去年のリーグ後、彼はリーグ側にスカウトされたと聞いていた。アサメにもなかなか帰って来ないと
「謎の集団関連ですか?」
「リーグ関係だよ」
カルムの視線が、町中の一点へ向く
何らかの工事中らしい場所だ
「あれは?」
「ポケモンセンター予定地。必要になるってさ」
「ひょっとして……ですけど。ジムですか?」
「そう。有名になったから、アサメタウンにもジムを作る。その為にも戻ってきたんだ。この辺りにも、怪しい人達は居るらしいからってのもあるけど」
「アサメジム……」
「来期からアサメジム、ジムリーダーのカルムになる訳」
「おめでとう御座います」
「有り難う。それじゃあ」
『モノッ!』
別れようという所で、突然モノズが鳴く
ポフッとボールが開き、ヒトツキが勝手に飛び出した
「……ギル?」
ぺしぺしと、ヒトツキが鞘で肩を叩く
「すみません、カルムさん。少し……モノズを見せてもらっても?」
「傷ついているし、怯えているけど」
「……何か、感じるんで」
「……まあ、良いけど」
カルムがモノズを道路脇の地面に下ろす
すぐに踞り、前足の中に頭を入れるようにして丸くなる
確かに、何かに怯えているようだ。目測で0.5m。平均的なモノズが確か……0.8mとなかなか大きい事を考えれば、だいぶ未熟なのもあるのだろうか。全身には、細かいながらも傷がある
「それは?」
アズマが取り出した何かを見て、カルムが問う
「オボンの実のお菓子です。木の実そのままよりは劣りますが、体力回復に良い効能は残ってます。薬は染みるので、やっぱりこの方が良いかなと」
モノズの前に右手に載せたポロックを差し出す
老執事が作ってくれた、コンディションを整える普通のポロックとは違う、日持ちさせる為に効能を残しつつ菓子状にした専用のもの
僅かにモノズが顔を上げる
やはり、このモノズにも、他の野生ポケモン同様嫌われるのだろうか
そう思ったアズマだが、少しの間を置いて、モノズはポロックをかじり始めた
『モノッ』
食べ終わり、モノズの顔が、此方を見上げる
目は隠れて見えないが、アズマの目を見ている
「……何か、有ったんだな?」
一応、言葉で聞いてみる
幼いとはいえ、モノズはドラゴン。それなりに強いポケモンだ。この辺りの普通の野生ポケモンと喧嘩して……という傷ではないだろう。そもそも、モノズはこの辺りを生息地とはしていない。何らかの理由で旅している途中にはぐれたとかでなければ、近くに更に強い親がいたはずだ
「怖いか?」
聞いたが、聞くまでもない
モノズの体は、今も僅かに震えている
「おれと来たら、きっと沢山戦わなきゃいけない
けれど、約束する。お前の怖がる何かも、きっと見つけ出す」
ヒトツキが鞘に入った姿のまま、モノズの前に浮かぶ。何かを伝えるように
「……来るか?」
アズマは、左手でゴージャスボールを握り、モノズの前に差し出す
あくまでも、自由意思。臆病な気がするモノズに、無理強いはしない
ポケモンは、相手を認めるからこそボールに入るのだから
モノズが、頭でボール中央のボタンを押す
その体が、ボールに吸い込まれ、ボタンが僅かに赤く発光する
一瞬後、カチリという音と共に、光が消えた
「……これで良いんだよな、ギル?」
満足げに、ヒトツキは自分からボールに戻っていった
少しでも居心地良いようにと選んだ、ゴージャスボールを撫でる
「これから宜しくな、モノズ」
モノズ Lv18♂☆
おや アズマ
とくせい
もちもの 緑色の何か
わざ ずつき/りゅうのいぶき/あくのはどう/だいちのちから
おくびょうなせいかく
Lv18のときに、アサメタウンで出会った
イタズラがすき