ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

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第三章 "Z"acian(ザシアン)機巧(からくり)のバングル
ミアレシティ


そして、アサメでの出来事から、数日が過ぎた

 

 「有り難う、ライ」

 『フリャ!』

 応!とばかりに羽根を鳴らすフライゴンが飛び去っていくのを見送り、アズマはその街の門を見上げた

 

 「っておいおい、暴れないでくれよ、ベル」

 何であのフライゴンなんて使うんだとばかり不満げに揺れるボールを撫でつつ

 

 此処はミアレシティ。カロス地方の中心。多くのトレーナー、いや、それだけではなく全てのカロス人にとって憧れの煌めく大都市。アズマは、流石にそんなところにイベルタルで乗り込むとか大混乱必至である為、フライゴンの力を借りてそこまで来ていたのであった

 フライゴン自体は、執事に返したのだが。黒いハニカムポケモンだけではない。メガシンカポケモンと伝説によってまた荒れに荒れてしまったナンテン屋敷。流石に、そんな屋敷を執事が何とかしてくれようとしてくれている間に、特に執事のポケモンのなかで素早いフライゴンをアズマが借りたままというのはどうにもということで、ボールを返還した

 

 『(大きい……)』

 「何時見ても凄いねー」

 そのアズマの横で、一人と一匹が感嘆の溜め息を溢した

 金の髪をトリプルテールにした少女、シャラシティジムリーダーのコルニ。そして、アズマのバッグから顔を覗かせたディアンシーである。女の子としても憧れの大都市、それこそがミアレシティ

 

 『(さあ、いきますわよ!)』

 珍しくテンション高めに、ディアンシーがアズマのバッグの紐を引っ張る

 ボールには入らず、その為アズマのバッグは半分くらいディアンシーに占拠される形となっていた

 

 「そうだな。行こうか、姫」

 『(まずはローラースケートですわ!)』

 「覚えてたのか姫……」

 ポケモン用のローラースケートとか、買えるとしてミアレだけだと言っていた自分を思い出し、アズマは苦笑する

 『(さあ、スケートですわよ!)』

 「楽しそうだな、姫」

 あれ?ポケモン用のローラーって本当に売ってるのか?というか買えるのかそれなんて算用しつつ、アズマは上の空で返事を返す

 「ポケモン用?ミアレのカロスローラースケート協会本部なら、一応置いてあるとは思うけど」

 「あるんですか本当に!?

 半分くらい冗談で言ってましたよおれ」

 「というか、この子って足がないから、そこなんだよねー」

 「ですね。姫は二足でも四足でも無いんで、どうなるかって話ですね」

 話しつつ、アズマは自分の靴にローラーブレードを装着する

 

 「気合い十分!って感じだね」

 「そりゃミアレですよミアレ。舗装も完璧、道も広くて長い、ローラースケートの聖地でしょうこんなの。というか、協会本部もありますし」

 門の先に広がる大路を遠く眺め、アズマは呟く

 「Nさんやカルムさんも来れば良かったのに」

 

 そう。此処に来たのはたった二人と、そのポケモン達のみであった

 この先の大会が終わったら遂にジムが始まっちゃうから修業にしてもそこまで時間はないと言っていたカルムも、そしてNも、アサメに残ったままである

 リーグバッジを8つ集めきったもの達による大規模大会、カロスリーグは1週間はかかる本物の一大イベントだ。その間は全ジムが機能を停止しているので、来れないなんて話はないのだが……

 「いやいやいや、実際に会話してみると純粋な人だって分かるけど、普通の人からしたらNって危険人物だからね!?」

 『(ステキなヒトですわよ?)』

 「ポケモンから見ればそうかもしれないけど!?」

 「ふふっ」

 そんな風に人と話すこと自体が少なくてアズマは思わず笑う。アズマにとって、ロクに話したことがあるのは友人のチナと父親、そして執事を除けばほぼポケモン達だけだったのだから

 

 「あーっ!あのときのダッセーのかスッゲーのかわかんない兄ちゃん!」

 そんなアズマの思考は、前方から響く声に中断された

 「……ショウブ?」

 王冠のような模様になるようギザギザの金色線の入った黒い帽子を被った少年。その帽子には見覚えがあり、そして帽子の印象はともかく、少年の顔にも見覚えがあった。アサメを過ぎたところで出会い、そしてあのジャケット相手に一度共闘した事もある少年、ショウブである

 

 「そう、天才ショウブサマだ!」

 「こんな所で会うなんてな」

 たしか彼は、ミアレに共に旅する仲間を置いて、ミアレジムに挑戦する為のバッジを取りに行った帰りに出会ったのだったか。ならば、今居るのはまさかと思いつつ、アズマは声をかける

 「ショウブは……まさか、参加者か?」

 「そうだぜ!

 って言いたいんだけど、6つしかバッジ取れなかった。兄ちゃんは?」

 アズマより数個年下の少年は駆け寄りながらそう聞き返す

 「3個、かな。挑戦するまでの修業が長くて、あんまり」

 「半分じゃん、ダッセーの」

 「ん?そうかな」

 「兄ちゃんの友達?でも……」

 そして、横から話に突っ込んできたコルニの前で固まった

 

 「ににににに兄ちゃん!?」

 「どうしたショウブ」

 「ここここここコルニさんじゃん!?」

 「ああ、そうだな」

 慣れきったアズマは、さらっと答えを返す

 「何で居んの!?」

 「姉弟子だから?」

 『(ししょーですわよ)』

 ディアンシーに窘められ、アズマも言い直す

 「間違えた、師匠だ」

 「ししょー!?」

 すっとんきょうな声が、ミアレの空に響いた

 

 

 「んで、兄ちゃんはあの後シャラシティジムに何とか挑戦して勝った、と」

 「んで、メガシンカだ何だって話から、ちょっと修業させて貰っていたんだ」

 此処はミアレ。かつてフラダリカフェと呼ばれた、全体が赤い内装のお洒落なカフェ。オーナーのフラダリ自身は自身がフレア団であった事を明かして最終兵器を起動し、そして行方不明となった。フラダリカフェもラボへの通路があるしとその後閉鎖されていたのだが……

 何だかんだカフェそのもののファンは割と多く、好事家がフラダリラボ部を国際警察が捜査しきり立ち去った後にカフェを買い取って営業を再開したらしいのだ

 

 「赤っ!気持ち悪いぜ、兄ちゃん」

 「おれは割と好きなんだけどな……」

 抗議する少年に、頬を掻きながらアズマはぼやいた

 「ってかフラダリってわるい奴だろ?」

 「悪い人だよ」

 「じゃなんでそんなヤツのカフェにわざわざ行くんだよ兄ちゃん。コルニさん達とスケート協会行こうぜ」

 「……悪い人だよ。許しちゃいけない人だ

 でも、でもさ。おれ、フラダリさんを尊敬してたんだ。最終兵器でポケモン達を、カロスを、全部……って。そんなのは許せなくて、でも

 分かりたいって思いと、分かれないって思いがあってさ。まだ……尊敬はしてる」

 ぽつり、と心をこぼして

 

 「マスター、ミルクコーヒー二つ!と、ポケモン用にきのみブレンドを……」

 ディアンシーはバッグから顔を覗かせている。流石にショウブのポケモン達はデカイかなと思い

 「とりあえず2つ!」

 アズマはそう頼んだ


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