読んでも読まなくても構いません
アサメタウンからミアレ空港までウィンディバスとカイリュー空バスを乗り継いで5時間半。ラティアス便でナックルシティ空港まで4時間。そこからブラッシータウン駅まで特急で5時間。そして、カンムリ線の寝台急行に乗り換えて12時間。更にローカル線であるフリーズ線に乗り換えて3時間
締めて丸一日以上かけた大移動を経て、トンネルを抜けるとそこは雪国であった
カンムリ雪原。ガラル地方有数の豪雪地帯にして、常冬のリゾート地。其処は多くのスキーヤーや、雪国のポケモンを求めたトレーナー達が訪れる行楽地だ
だが、アズマ達が目指した場所は其処ではない。更にその先、リゾートとして開発された雪原を抜けた、人類未踏……とまでは言わないが危険の多い大自然を未だに色濃く残す田舎村。リーグバッジを集めきれる程の猛者でもなければ、うっかり危険なポケモンを怒らせてしまえば命の保障はないとされる秘境、フリーズ村
そんな村の入り口とも言える駅に、9歳のアズマは立っていた
「さ、寒いです……」
と、もこもこした暖かそうな服に身を包みながらも震える銀髪の友達と共に
「アズマさんは、大丈夫なんですか……?」
歯を軽く震わせ、手を擦りながら少女ーチナが呟く
その息は白く、見るからに寒そうで
アズマは、家を守るので坊っちゃん達は私にお構い無くと家に残った執事から炎タイプであり誰がどう考えても暖かいウインディを借りてこなかったことを即座に後悔する
「昔はダメだったんだけど、最近は案外大丈夫」
大きな熱を出して以来、むやみやたらと丈夫になった体。かつては貧弱で病弱だった反動か、上着を脱いでも寒いとはいえ耐えられる
といっても、流石にもこもこの上から羽織るのは着膨れしすぎて無理があるだろう。友人に上着を貸すわけにもいかず、アズマは「ウィンが居てくれればなー」なんて、自分で大丈夫と断っておいて情けない言葉を漏らす
『ウルォード!』
と、吹雪……とまではいかないがしんしんと空から降り続ける雪の中から、一匹の巨大な影が現れた
「……シア?」
枝が引っ掛かるかもしれないけれども、ぼさぼさなのが気になって編み込んだ三編みの……鬣?と言って良いのだろうか
長く伸ばした赤いソレをくゆらす、シアン色の大狼。片耳に古傷を残す謎のポケモンは、確かに半年前2週間ほどワイルドエリアキャンプに参加した時に其処でアズマ達を助け見守ってくれた優しく大きなポケモンであった
同種……という訳ではないだろう。少しだけ解れた三編みなんて、他の同種の個体は特徴として持っていないはずだ
ゆっくりと近付いてきたその大きなポケモンは、フリーズ村に訪れるなんてアズマ達以外居ない駅前で止まり、静かに少年と少女を見下ろす
じっ、と見詰められ……アズマはその手をポケモンに触れた
「……お前は暖かいな、シア」
『ォード』
「乗れって言ってるんだろうな、チナ」
足を折って姿勢を低くし、その鼻を近付けるポケモンの頭を撫でつつ、アズマはそう友人に言う
ポケモン語なんて流石に分からない。けれどもそんな気がして
「わっ!あったかいです……」
その背に跨がって毛皮に顔を埋め、少女がほっとしたように呟く
助かったよ有り難うとシアン色のポケモンにアズマは一礼して
「アズマ、チナちゃん
少し待たせた」
今回の旅の計画者にして、アズマの実の父、カロスが誇る……かは分からないがそこそこ有名な伝説のポケモン研究者であるナンテン博士が、車掌との話を終えて漸く駅から出てきたのだった
「……っと」
目の前の光景に、アズマの父は一瞬だけ鋭い目でボールを構え
「なんだ、お前のトモダチか」
即座に背後にポイっと無造作にそのボールを投げる
そこから現れるのは、紅の翼の鮮やかな強面の竜、ボーマンダ
「でだ、そいつ……どうする気だ」
『シュルル』
出されこそするものの、威圧という程ではない。首を捻って毛繕い等始めるボーマンダを背に、その男は大きなポケモンを見詰めつつ言う
「ワイルドエリアでお世話になったとは聞いた
また出てくる辺り、好かれてるじゃないか。連れ帰るのか?」
「そこは、シア次第」
「じゃあ、そこのポケモンに聞こうじゃないか
捕まる気はあるか?規定で暫くはオレの管轄だが、こいつがトレーナーとして一人立ちしたら渡すが、どうする?」
言いつつ、ナンテン博士は無造作にスーパーボールを雪の上に放る
入るなら入れとばかりに置かれたそれを、大きなポケモンは完全に見なかったことにした
「だそうだ。あくまでも、ガラルを出る気は無いらしい、フラれたな」
「シアが居てくれたらきっと心強いけど、残りたいならそれが優先だよ、父さん」
「……まあそれは良いが
あまりその背の娘を乱暴に扱ってくれるなよ?家の息子は良いが」
「酷くない?」
「お前は家の子だ。その娘は家では旅行などとてもとても、だからどうか娘だけでも広い世界を知るために旅行に一緒に連れていって下され、お金ならお出ししますのでとお願いされた預かりものだ
同じな訳がないだろう」
「それは……まあそうだよな……」
はあ、と息を吐くアズマを、気にするなとばかりにボーマンダがその牙で甘噛みする
「有り難うな、ヴォーダ」
駅から歩いて30分ぐらい。ポケモンは様々に暮らしていたが、ボーマンダを見てわざわざ喧嘩を売ってくるような好戦的なポケモンはおらず
アズマ達はフリーズ村へと足を踏み入れ、家をひとつ借りていた
祖父母が死に、残された息子はもう親から解放されたのだと、家を捨てて都会へ出ていったらしい空き家
その一室で、暖炉に火を灯し……
「ごめん、父さん、チナ」
ひとこと謝って、アズマは背負った大荷物と共に外へ出る
「どうしたんです、アズマさん?」
寒いのだろう、窓越しに聞こえるくぐもった声
「シアを、一人に……いや一匹外にずっと立たせておきたくない」
言いつつ、取り出すのはキャンプ用品。ワイルドエリアキャンプでも使った簡易テントである。限界で二人用なので狭いが、大きいとはいえポケモン一匹ならば入る
「……何だ、だからそんなに大荷物だったのか。てっきり土産を買い込む気かと思っていたぞ」
「……シアに、会える気がして」
「なら良いが、村の外には出るなよ?
村まで来るポケモンはほぼ居ないが、外は危険だ。ギルが居ようが、そこのポケモンが付いてきてようが、絶対に出るな」
言いつつ、アズマの父は外に出るや、手慣れた手付きで、アズマが四苦八苦しながら組み立てようとしていたテントを瞬く間に完成させて
「フィールドワークに行ってくる。今日は夜に戻るが、それまであまり村民に迷惑を掛けるなよ」
自前のテントは置いて、村の外へと歩いていくのであった
そして、それから1時間後
「すいません、豊穣の王Tシャツ下さい」
フリーズ村の雑貨屋……というか骨董品屋で、アズマはそんな事を言っていた
村の外に出るわけにも行かず、といっても村で見るものも無く。父が一人で今日は行くと言えば、もうやることなんて無くて。チナと二人しんしんと降り積もる雪なんて眺めていてもロマンチックかもしれないが面白くはない
だから、外に出て、土産物を買いに来たのだが、あまり良い店なんてなくて
だから、寂れたその店に訪れていた
「お客さんなんて、何年ぶりかね……」
「そんな人来ないんですか?あ、チナの分もあわせて2枚お願いします
……ところで、カードってつかえ……やっぱり使えないですよね現金で払います」
「あ、あの、良いです」
「良いんだ、おれがせっかくの記念に買いたいだけだから」
「じゃあ、ありがたく貰うです」
なんて会話を交わしつつ、店を見て回るも、あまり良いものはない
そんななか、ふとアズマの目がひとつの木彫りの置物に止まった
冠のような、大きな古い置物
「……チナ」
「なんです?」
「これを見て?」
言いつつ、ついさっき買ったTシャツをアズマは広げる
そこに描かれたのは、大きな冠を持ったポケモンのような姿
「……でも、外で見た豊穣の王像って、冠無かったよね」
「無かったです」
「じゃあ、ひょっとして外れちゃったんじゃない?
すいません、これ下さい」
変な置物を指差して、アズマはそう言った
「……ダメだ」
外に出て、置物を被せてみる
古い木彫りの置物は、確かにそれっぽく被さりはするのだが……
手を離すや、頭から転がり落ちる。かつて、確かにこの変な置物は豊穣の王像の冠として存在していたのであろう。だが、何かの拍子に外れ、そして……長年放置された冠と像は降り積もる雪の中で、雪を払い手入れする者も無く、一部が腐って斬り取られてしまったのだろう。最早二度と元には戻らなくなってしまっていた
『ォード』
悲しげに像に鼻を押し付け、大きなポケモンが嘆く
「付かないじゃろ?」
「雑貨屋のおじさん。知ってたんですか?」
「おっと、返品は無理じゃぞ」
「……いえ、返品は良いです。この像が壊れてる事、知ってたんですか?」
大の大人を見上げ、アズマはそう問い掛ける
「昔のデザインを使い回してTシャツを作ったからの。冠が無くなってて、それがこの置物じゃろうということは」
「なら、何で?」
「……今更じゃからじゃ
豊穣の王像。昔からあるこの像を直したとして、この村は何も変わらん。人が来るようにもならんし、村の畑が豊かな土壌になるわけでもない
豊穣の王なんて、居もしないおとぎ話じゃ。おとぎ話の像を直す労力なんて、払っても仕方なかろ」
淡々と、その初老の男は言う
その言葉は、子供のアズマにとっても、分かりやすくて。酷いとは、とても言えなくて
……でも、あの雪の中放置された寂しげな像を見ていて。子供だからこそ、労力の無駄だと見逃せるものでも無かった
「……雑貨屋のおじさん。なら、おれ達が勝手に直したいって言ったら、それは大丈夫ですか?」
冠にヒビが入り、像の頭は一部腐って抉られた痕がある。ならば、この像にこの冠は二度と付けられない
ならば、新しい冠を作ってやれば良いのだ
「別に構わんよ、幼い旅人。村長も何も言わんじゃろ」
「……じゃあ」
「うん、作ろう、チナ。新しい冠を」
『ウルォード!』
その言葉を待っていたのだろうか
村の外へと駆け出しながら、シアン色のポケモンが吠えた
そして、木彫りの冠を作れそうな大木の一部を咥えて帰ってきた
話に出てきた豊穣の王バドレックスですが、今どうしてると思いますか?(アンケート結果によって出てきかたが変わります)
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ヨはフリーズ村振興V
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ヨはマント白ニーソの豊穣の王女
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ヨは白馬の豊穣の王子様である
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ヨはありのままのヨである
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村の人参ウメェー!外とか行かない