ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

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今更ですが、剣盾における冠の雪原の話を多分に含みます
未プレイでやりたいなーと思ってる人はブラウザを閉じてプレイナウ

副題が豊穣の帝王なのにヨではないのであるな…


劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part2

「……フカマルは……どうしよう」

 翌朝早くに、父は出ていって

 朝別々の部屋で目覚め、父の置いていった朝食を暖炉の火で炙り、時折外のテントで一夜を明かした狼のポケモンに向けて手渡しながらも食べ終えると、アズマは外で冠作りを再開した

 結局は大抵自分達でやるしかない。ポケモン達は手伝ってはくれるが、最後はやはり自分達。その為、父のポケモン達の手は一切借りず、大きなポケモンと、あとはアズマとチナがそれぞれ連れてきたヒトツキとフカマル。二人と三匹で作るしかない

 メジャーを買って、今の豊穣の王像の頭のサイズは把握した。最終的に、どのサイズの窪みを作ればかっちりと填まるのかは分かった。あとは作るだけ

 なのだが、それが全然進まない

 

 『ウルォード!』

 大きな木を、大きなポケモンがオーラの刃で両断し、ヒトツキがその刀身をヤスリのようにして磨く

 そうして作って貰ったパーツを、アズマが削り、チナが磨いていくという形なのだが……

 「がんばです」

 「……む、難しいな……」

 買ってきた彫刻刀等で、大まかに削り出して貰ったパーツをしっかりと彫るだけ。それだけの事が、慣れないアズマには難しくて

 

 『ぴゅい!』

 「あらあら、ふわふわちゃん。旅人さんが気になるの?」

 ふわふわと浮く夜空のような色の土着らしいポケモンにも応援されつつ、必死に冠のパーツを削り出す

 そうして……

 

 「……出来た、って言って良いのかな……」

 『……』

 「せめて何か言ってくれシア……」

 日が暮れる頃。何とか完成した冠は、参考にした壊れてしまった置物と比べると、数倍は不格好なものであった

 何と、冠のはずなのに左右がぱっと見た時点で既に対象ではなく凸凹。けれども、これ以上削ると割ってしまいそうで妥協した

 これでも、一日かけて7パーツを作り、そこからまだしも出来が良かった4パーツを組み合わせたのだが、それでも見て分かる素人製作

 こんなんで良いのだろうか。もっと時間をかけて作るべきじゃないのか。そう思いつつ、とりあえず填まるかどうか、村の畑の端にある馬に乗る豊穣の王像へと向かい、冠を填めてみる

 しっかりとはまり、安定する。だが、どうにも不格好で

 

 「だ、ダメだこりゃ。やっぱり作り直したほうが……」

 『ム ムカンムル』

 「……チナ?」

 聞こえた声に、アズマは横でじっと見ている友人を振り返る

 「わたしじゃないです」

 『ウルォード!』

 一声鳴いて、先導するようにシアン色のポケモンが歩き出す

 「そっちなのか、シア」

 大人しく、アズマはその揺れる赤い尻尾を追った

 

 『ム ムカンムリ』

 ……アズマが向かった先、村の外れに居たのは……ふよふよと浮かぶ、大きな頭のポケモンであった

 その立派な冠のような頭と裏腹に、その脚は細長く、体は小さく、どうにもみすぼらしいと言いたくなる姿

 けれども、その頭は見覚えがあって

 「……豊穣の王?」

 「王様、ほんとうに居たです……」

 言いつつ、思わずアズマは手を伸ばして

 

 「っ!ダメだ、チナ」

 その眼に怯えを見てとって、アズマは咄嗟に手を引っ込めた

 「どうしたです?」

 「他のポケモンがおれを見たときのように怯えてる。何か、いけないことをしてしまったんだと思う」

 「そうなんです?でも、何がいけないのか分からないです」

 思わず、アズマは友人と顔を見合わせて

 「……これです?」

 開いた掌を指差してみる

 こくこくと振られる首

 「よし、チナ

 思わず開かないように縛ってくれ」ハンカチを取り出し、握った拳を包んでアズマは友人に頼んだ

 「やりすぎです!?」

 「それで分かって貰えるなら、それくらいなんて事無い……んじゃないかな」

 「あ、あんまり痛くしないように……」

 優しく握り拳を包む少女に有り難う、と言って、改めてアズマはそのポケモンに向き直る

 『カ ムカンムル』

 『ウルォード!』

 何か縁でもあるのだろうか。例えば、豊穣の王だろうそのポケモンがかつて伝説のようにこの地に居た頃良くして貰った……となると、流石に長生きしすぎだろうか

 簡単な話を終えたのだろうか、鳴くのを止め、大きなポケモンは横に避けてアズマと冠のポケモンの間を開ける

 

 『ムカンムリ』

 ……けれども、何を言っているのか、アズマには全く分からない

 「チナ、分かったり……しないよな」

 「ポケモンさんの言葉はむりです……」

 『カンムリ!』

 『ルォード!』

 堂々巡り

 何かを訴えたいポケモン達と、分かりたいけれども言葉が分からないアズマ達

 何とかならないかと雪の上に文字を書くも、人間の文字は良く分からないらしく反応は微妙

 テレパシーのようなものが使えるポケモンならば楽なのにな、と思いつつ、それでも何か手はないか……と思ったその時

 

 「そこか、アズマ」

 今日もフィールドワークを終えたのだろう。近くの巨人伝説を調べに行っていた父が戻ってきていた

 

 「……む

 成程。で、何で見詰めあっているんだ」

 呆れたように近付いてくる父ナンテン博士

 「ポケモンの言葉が分からなくて……」

 「ならば、通訳が居れば良いだろう」

 言いつつ、その30歳の青年染みた顔の男は、眼を閉じる

 その体が、光りながら浮いた

 『「この者の体を使わせていただこう

 どうにも、理解が早いようだ」』

 「……父さん?じゃなくて、そっちのポケモンか」

 『「その通り

 ヨはバドレックス。豊穣の王と呼ばれしもの」』

 「しゃべったです!」

 「バドレックス……って豊穣の王って自分で認めてるんですか」

 ちらりと村の……とてもじゃないが豊かとは言えない惨状を見つつ、アズマは呟く

 

 『「……力を使い果たし、愛馬にも逃げられ……

 オヌシら、既に忘れられ力の無いヨの像を直してくれたこと、至極感謝である」』

 「……そんな感謝される程のものかな……」

 少しだけ照れ、アズマは頬を掻く

 『「ヨの冠は、もっとなだらかな線を描く」』

 「ですよね」

 『「だが、ヨにとって信仰は力の源

 皆がヨを忘れ、捧げ物が無くなって久しく、像までも壊れていては、ヨには何も出来なかった

 オヌシらが像を直してくれたことで、人を通して話が出来る程には回復したのだ」』

 すーっと、宙を動き、そのポケモン……バドレックスはアズマ達へと近付く

 『「優しく不器用な人の子らよ。オヌシらに頼みがある」』

 「頼みです?」

 『「人々は、本当にヨを忘れてしまったのか?村の皆に、豊穣の王を覚えているか確かめて欲しい

 ヨが出向こうとした事はあったが、騒ぎになったりボールを投げられたりするばかりゆえ……」』

 トレーナーならとりあえず珍しいポケモンと見るやボールを投げたりする人も居るよな、とアズマは苦笑して

 

 「分かったよ、バドレックス」

 「聞いてくるです、ヨさん」

 『「うむ、任せたである」』

 ヨさんは良いんだ、とアズマが思うなか、バドレックスは頷いて、父を解放するや何処かへ姿を消した

 「……外にずっと居たら寒いからかな……」

 「……そのようだな。オレの体を使って、お前達と話がしたかったが、あまりオレを寒空の下に置きたくなかったというところだろう。律儀な王だ」

 「父さん」

 「豊穣の王。まさか、オレがフィールドワークに出ている間に村の中で見付けるとはな

 いや、だが……オレにあの冠を作り直すという考えは出ない。冠を作ろうなどと考える子供だからこそ、か……

 あの伝説については、お前が色々とあいつから聞いてくれ」

 「理解が、理解が早すぎる……」

 「直すと言っていた冠が付けられていて、そして冠のポケモンが姿を見せた

 そこまで分かれば事態は分かる。オレを誰だと思っているんだアズマ。お前の父で、伝説研究家だぞ?」

 だからといって、理解が早い……

 と呟くアズマを余所に、父は家の中へと戻ってしまった

 

 そして、翌日

 村民に話を聞くにしても、既に日が暮れていては迷惑であろう。そう思って、一日置いてからアズマは日が登り、少しだけ暖かくなった頃を見計らって、村へと出ていた

 「昨日のおばあさん」

 『ぴゅい!』

 『ウルォード!』

 「シア、遊んでおいで

 で、ひとつ聞きたいんですが……豊穣の王の冠を直そうとしていたところは見てましたよね?」

 「ええ、旅人さんなのに頑張るわねって」

 「像が可哀想だと思ったので

 それで、何ですが。豊穣の王についてって、村の人達はどう思ってるんですか?」

 「古いおとぎ話ねぇ……昔は信じてたわ

 でも、最近の子達は、像に蹴りをいれたり、最初から居るなんて信じてないみたいね」

 「……そう、ですか……有り難うございます」

 

 それからも、何人もの人に話を聞いた

 けれども、返ってくる言葉は皆同じ。豊穣の王はお伽噺だと。実際に居てくれたらこんな生活していないのに、と。幾年もの期間を経て現れる伝説の三鳥の渡りの時期以外寂れに寂れる事も無いだろうに、と

 豊穣の王伝説が残るとはいえ、見て面白いものではない。ガラル巨人伝説も残るが、そこは人々の捨てたポケモン達の楽園の最中だ。バッジ8個取れるような人間とポケモン達でもなお危険な旅路の先に、わざわざ開かない遺跡の扉だけを見て帰りたい人もそうは居ないだろう

 誰一人巨人を眼にすること能わず。手がかりすらない。生きた氷と……等と古代文字で扉にはあるが、ならばと生きた氷のポケモンであるフリージオを連れていっても何も起きないと昔のトレーナーの話にはあった

 恐らくだが、ホウエンに封印されていた彼等レジの巨人は、御触れの石室という場所から扉を封印されていた。同じような封印が何処かにあるのだろうが……その場所はついぞ見付かっていない。故に探し飽きて誰ももう行かないが、この眼で巨人伝説の遺跡を見たいというのが、父が此処にフィールドワークに来たそもそもの理由だ

 実際に自分の手にすることは出来ずとも、その眼で見ることが出来る三匹の鳥……サンダー、ファイヤー、フリーザー……というよりも、それに似た三匹の鳥ポケモン。通称サワムダー、けお様、冷酷仮面様の三種以外の伝説は、伝説自体が残ってはいても今更伝説のポケモンを夢見るトレーナーがこの地に来るようなものではないのだろう

 

 『「して、どうであった?」』

 アズマ達が借りている小屋の中

 帰ってみたら暖かいであるなと火は消したが火種の残る暖炉前に居ついていたバドレックスが、同じくそろそろ通訳が要るだろうとボーマンダに乗って帰ってきた父の体を使い、そう問い掛けてくる

 「……ほとんど皆、お伽噺だって」

 「でも、一個だけ違う話を聞けたんです。信じてるって」

 「いや、チナ、それは……」

 アズマは言い澱む

 それはバドレックスではない。それを知ってるがゆえに

 「嵐や雷を吸収して畑に豊穣をもたらす存在で、山の上の方へ飛んでいくのを見たことがあるって言ってたです」

 『「何と!……む?ヨは山の上に最近行ったことは無かった気がするのであるな」』

 「……チナ。そいつは確かに豊穣の王だよ。分類も豊穣ポケモン

 ……でもなチナ。そいつの名前はバドレックスじゃない。イッシュ地方に主に語らられる伝説のポケモン……ランドロスだ」

 ……ええ、ランドロスなんて恐ろしいポケモンがこの辺りに来てるのかよ……

 なんて思いながら、アズマは窓の外、大きな山の頂上を見上げた

 

 『「ランドロス……

 ヨの家はもはや別の豊穣の王に乗っ取られて無くなってしまったのであるか……」』

 力なく、力尽きたようにばたりとバドレックスの頭がひかれたクッションの上に落ちた

 「ヨさん!だいじょぶですか!」

 『「ヨはもうダメである……このままランドロスなる新たな王にお伽噺レベルの信仰も乗っ取られて消えるしかないのである…」』

 そんなこと無い。そう言えたら楽だろう

 そんな言葉、けれどもアズマは安請け合い出来なくて、唇を噛んだ




余談ですが、この時代の雪原にはマックスダイ巣穴はありません。まだふわふわちゃん(コスモッグ)が世紀末地下世界マックスダイベンチャーを作るべきときではないのです
その為、仮にも(恐らくNPCは伝説にたどり着けていないだろうとはいえ)マックスダイ巣穴というトレーナーを惹き付ける目玉が存在するゲーム内よりも更にフリーズ村は寂れているという設定です

話に出てきた豊穣の王バドレックスですが、今どうしてると思いますか?(アンケート結果によって出てきかたが変わります)

  • ヨはフリーズ村振興V
  • ヨはマント白ニーソの豊穣の王女
  • ヨは白馬の豊穣の王子様である
  • ヨはありのままのヨである
  • 村の人参ウメェー!外とか行かない

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