ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

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『「なんと!
今の人の子等の間では威厳ある冠の王よりも可愛らしい少女の方が余程信仰を集めるのであるのか!
人の願いの進化は留まることを知らぬ……ヨもそれに迎合せねば信仰は得られぬのであるな……」』


劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part4

「……かはっ!」

 用意して貰った氷で出来た皿に、喉から溢れだした血を吐く

 

 「大丈夫ですか……?」

 心配そうに手を握ってくる銀髪の小柄な友人に、ちょっと背中の感覚がないけどきっと大丈夫だ、と横になったままアズマは笑う

 「でも!」

 涙目になりながら、少女は掴んだ手を強く握り

 「……ごめんなさいです。一番辛いのは、アズマさんの方なのに……」

 『ウルォード!』

 テントの外で、またランドロスが戻ってこないか見張っている巨狼のポケモンが鳴いた

 

 此処は、ランドロスとブリザポスが襲撃してきた雪深い畑のすぐ近く

 ブリザポスに背中を蹴られ崖に叩きつけられたアズマは、父の建てた簡易テントの中で寝てろと横にならされていた

 『「嘆かわしいのである……」』

 「……人参を、掘りに来たんだ

 護ろうとしても、しょうがないよ」

 テントの中で項垂れるバドレックスをお前は悪くないんだと慰めようと、アズマは動かせる右手を……吐いた血に汚れたその手を伸ばし

 「……ごめん」

 近付いてくる赤く汚れた五本指に、きゅっと目を瞑り震えるその姿に、慌てて握り拳を作り

 「あ痛っ」

 急な運動で肩にかけた負担が背に響き、その手を地面に落とす

 

 『「……申し訳ないのである」』

 オレが指示したとしても、流石に伝説のポケモン2体は無理があった。と、フォローになっているのかなっていないのか分からない事を言って、だから人参を奪われたのは仕方がない次を考えろとまた通訳として操られたナンテン博士の口を通して、バドレックスは何度も謝罪の言葉を口にする

 

 「……良いんだ。命に別状は無いんだし

 暫く背中は痛いかもしれないけれど、それだけだから」

 『「ヨは、護られてばかりである……」』

 「……そんなことないです」

 『ウルォード!』

 『フカァ!』

 テントの外で、ボーマンダの頭に乗って見張りと洒落こんでいた……というより多分ただ遊んでいたチナのフカマルが鳴く

 「ヨさんは、凄いです

 わたしだったら、忘れられたら恨んじゃうです。そんな人達、滅茶苦茶になってしまえば良いなんて言っちゃうかもです

 でも、ヨさんは違いました」

 『ウルゥッ!』

 チナの言葉に同意するように、縁あるらしいシアン色のポケモンは唸る

 「……人に期待していない。信仰に頼らない

 そう言いつつ、ずっと寂しそうだった

 人の前に現れて、人と言葉を交わして

 人にとっての豊穣の王。人には辛い場所でも、ポケモンにとって今の冠の雪原は……この辺りは決して不満のない豊かな土地なのに。今の自分を、その力を嘆かわしいと言う、人に寄り添う王

 ……おれはただ、そんな優しく努力家な王を、勝手に助けたいと思っただけだよ」

 「もちろん、わたしもです。わたしがどれだけ手助けになれるか分かんないですけど」

 『ォード』

 「……そうだな。勿論シアや」

 ボールから飛び出したヒトツキが、アズマの前でくるくると回る

 「ギル達だって」

 

 『「……人の子らよ」』

 その声を受けて、鹿のような顔のポケモンは、俯かせたその大きな頭を上げる

 『「そうであるな

 ヨがこのように諦念に支配されていては、全てが始まらないのである」』

 ふわりと、その体が浮き上がり

 『「しかし、我が愛馬ブリザポスはかの豊穣の王に鞍替えし、ヨ等の人参を奪い去っていった」』

 「……です、よね」

 『「ああ嘆かわしや

 とすれば、ヨは……」』

 「……なら、もう一匹を。黒い愛馬を探そう」

 『「しかし、人の子らの叡智であるにんじんの種は使ってしまった」』

 その言葉に、ずっと握っていた左手をアズマは軽く開く

 

 「あるよ、人参の種

 記念に家に蒔こうと思って、少し残してたんだ」

 『「でかしたのである!

 ……しかし、黒き愛馬レイスポスすらもランドロスめの手に落ちていた場合は……」』

 「考えても仕方がないよ

 可能性がある限り、やってみよ……ぁ痛っ!」

 興奮して身を起こしかけ、走る激痛にアズマは寝袋の上に転がる

 「あ、あんまり無理しちゃダメです!」

 『「もう十分である」』

 『ウルォード!』

 「……うん、分かった

 チナ、残りの人参の種を渡すから、お願い」

 左手を包む少女の手に、握り込んでいた種を託す

 「……きっと、やってみせるです!」

 

 『ォード!』

 「……有り難うな、シア

 お前の背中に居たら、結構楽になってきた」

 既に日は暮れ、月が辺りを照らす頃

 アズマは一人、大きなポケモンの背に揺られてフリーズ村への帰路についていた

 ……いや、一人ではない

 『ステール!』

 「勿論、お前も。頼りにしてるよ、ルト」

 アズマの周囲を姿を消したり現れたりしながら飛び回る、半透明の親竜。時折透けた尻尾でアズマの背を擦るドラパルトもまた一緒だ

 テントよりはしっかりとしたベッドで寝てるべきだが、それはそれとして豊穣の王らは今からフリーズ村に一旦帰るという手をあまり取りたくはないだろう、という父の判断により、ドラパルトだけが付いてきたという形

 父のポケモンの中でも特に早く更には見つかりにくい彼女ならば、何か起こった時に即座に気が付かれることなく離脱して知らせが間に合うだろうという判断である

 

 『ウルォード!』

 その遠吠えに、遠巻きに夜行性のポケモン達は道を開けていく。特に何事もなく進む帰り道

 未だに油断すると痛む背を大きな狼の背に体を預けることで休め、アズマはその夜道を行く

 だが

 『ウルゥード!』

 その堂々と歩むシアン色のポケモンの前に、立ちふさがる影があった

 深いマゼンタ色をした、傷の位置などは違うがかなり似た姿の一匹の巨狼のポケモン

 『ウルゥード!』

 シアン色のポケモンが足を止めるや、何処か親しげに、そのポケモンは近寄り

 『ウルォード!』

 光輝く剣にその鼻先を叩かれ、目をしばたかせた

 『ゥード!?』

 『シァード!』

 『ゼード!』

 けれども、何事かを吠えるマゼンタのポケモン

 それを鬱陶しげに吠え返すシアン色のポケモン

 二匹の間には、何時しか霧が立ち込めていて……

 

 ……イガレッカ!

 頬を撫でる冷たい感触に、アズマはふと目を覚ます

 「……ギル」

 頬に触れたヒトツキの刀身を撫で返し、身を起こして周囲を見回すアズマ

 その目に、登る日の光が差し込んだ

 「……朝」

 『ウルォード!』

 朝焼けに目をショボショボさせながら、アズマは呟く

 気が付けば、何時しか寝てしまった間にか、背の痛みは完全に消えていて

 アズマはまだシアン色のポケモンの背にしがみついていて。ずれた足を、ドラパルトがその小さな前足で掴んで戻してくれた

 眼前に広がる光景は、フリーズ村近くのもの。遠くを見れば、朝方に野菜の収穫や手入れのためであろう、今はまだ朝6時くらいであるはずなのに当に仕事を始めていた村の老人達の姿が見えて

 『ウラーメ』

 「ルト?何かあるのか?」

 何かを訴えるように、三角の大きな頭を左右に振るドラパルトに、アズマは目を凝らし

 「……シア!」

 その村の畑近く。何かが見えた気がして、アズマは叫んだ

 

 『ウルォォォドッ!』

 嵐のような速度で地を駆け、とてつもない早さで村までの距離を走破したシアンの狼が、村の中心である畑の真ん中で吠える

 『バクロォォス!』

 その咆哮に驚くように、畑の野菜の最中に首を突っ込み、今正にそれを齧ろうとしていた黒い馬が、透明化していたその姿を鮮明に現していた

 ざんばらの鬣は、その馬の上半身を覆うほどに長く、そして黒い。そのうち前髪のように一房だけが白いのがアクセントになっていて。そして何よりも特徴的なのはその蹄だ

 浮いている。足先が無く、少しの空間をあけて、その蹄だけが地に付けられているのだ

 明らかなお化けっぽさ。ほぼ間違いなくゴーストタイプである

 

 「……こいつは、愛馬の……」

 バドレックスの言っていた名前を辿り、そしてその名を思い出す

 「そう、レイスポス!」

 『ォォォォド!』

 『ステルン!』

 畑の最中、畑を区切る道に降り立ち、シアン色のポケモンが威嚇をする

 その横で、同じくゴーストタイプであるドラパルトが、その巨頭の素穴から顔を出す仔竜を向け、尻尾を宙にくゆらせる

 『ホォォス!』

 それを鬱陶しげに思ったのであろう。今正に引き抜きかけた雪大根を一口だけ齧ってぽいと地面に捨てると、その黒馬はアズマ達へと向き直り

 

 『レイホォォォ!?』

 シアンの巨狼の姿を確認した瞬間、びくりとその全身を震わせた

 「な、何事じゃ!」

 「村長さん!村の野菜泥棒が見えて!」

 「時折齧りかけの野菜が道路に転がっていたのはこのポケモンの仕業か!」

 そんな事してたのかレイスポス……はた迷惑な、と心の中で息を吐きつつ、戦いやすいように狼の背からアズマは飛び降りる

 「……ギル、お前もやっぱり、戦いたいよな!」

 そうして、ボールから一旦戻していたヒトツキを呼び出し、改めてその黒馬に向き直る

 「すいません、皆さん!

 おれ……は頼りないかもしれませんが、シアと父さんのポケモン達が何とかします!離れて!」

 『ウルォード!』

 アズマの言葉に、任せてとばかりに狼は吠える

 そして……だが、飛びかかることはせず、じっとアズマの横でレイスポスの姿を見つめ、動きを伺う

 「シア、何か……って、そうか」

 仕掛けないシアンのポケモンに話しかけ、アズマも気が付く

 アズマ達は今、畑のなかにひかれた道路の上に居る。だが、レイスポスがその浮いた蹄で立つのは畑のど真ん中だ。そこに飛び掛かって戦ってしまえば、その畑の野菜は滅茶苦茶になってしまうだろう。売り物には当然ならないし、食べられるかも怪しい

 だからだ。シアンの狼は、静かに黒馬が畑を、野菜のある大地を後にすることを待っている

 「なら、ルト!」

 『ステール!』

 畑のなかには、今は何も蒔かれていない休ませている土地がある。そこを多少荒らしてしまう事にはなるが、折角実った大根やキャベツを滅茶苦茶にしてしまうよりは良い

 「ドラゴンアローで追いたててくれ!ギルはかげうちで方向のフォロー!」

 『ルゥート!』

 アズマの言葉に合わせ、ここ半年で何度もボール遊びをして絆を深めたドラパルトは素直に頭の仔竜を射ち放つ

 『レイホォォス!?』

 当たる瞬間に、黒馬の姿がかき消え、少し離れた所に姿を現すが……

 ドラパルトの射出、『ドラゴンアロー』は、頭の左右から時間差で飛ばすもの。即座に二発目が逃げたその先を追う

 『ホォォス!』

 たまらず、足で数cm宙を浮き駆け出すレイスポス

 その足は、アズマを狙う軌道

 「今!」

 『ウルォード!』

 その足が野菜の実らぬ休ませられている地に踏み込んだ瞬間、飛び出したヒトツキの影が、その顎を下から撃ち据える

 微かに揺らぐ体

 その隙を逃さず、飛び掛かったシアンの狼が、黒馬の巨体を大地に縫い付けた

 『バロ!バクロォース!』

 『ウルォード!』

 混乱したように激しく頭を振って抵抗するレイスポス。それを前足で抑えながら、シアンのポケモンは頭をその鬣に近づけ、そして噛み砕く

 軽い音と共に鬣を一房食い千切り、そのまま黒馬を睨み付けて威圧する

 そのまま、父やバドレックス等が駆け付けるのを待とう

 アズマがそう思ったその瞬間

 

 『クロォォス!』

 ゴーストポケモン特有の姿を一瞬消す動きでもって、レイスポスは拘束を抜け出す

 そして……そのまま駆け去ろうとするが

 「っ!シア!ルト!ギル!」

 アズマは叫ぶ。間に合わないとしても叫ぶ

 全速で駆けるレイスポスの目指す先。村の外へ繋がる一直線の道の先には、騒ぎを聞き付けて何事かと外に出てきた村の人々の姿があって……

 だが、レイスポスは止まらない。そんなものお構いなしに、速度を上げてシアンのポケモンから逃げ出す

 ドラパルトが姿を消す。ゴーストダイブで追い、リフレクターで人々の前に鏡の壁を貼ろうというのだろう

 だが、それすらも先に動きだした黒馬の健脚には一歩及ばない。駆け出そうとした大狼の足も、流石に間に合わない

 そして、アズマとヒトツキに止める手段なんてない

 漆黒の馬は、人を撥ね飛ばし殺しうる速度のまま、突然の事態に動けない老婆へと……

 『カムゥ!』

 その体が、青い光に固められて静止した

 サイコキネシス。ポケモンの技のひとつだ

 「おばあさん達!早く!」

 「……え、ええ!」

 黒馬が彫像のように固まる中、冷静さを取り戻して人は道路を避け……

 少しして動きを取り戻したレイスポスは、そのまま地を駆けて村から巨人平原へと走り去っていった

 

 「……ふぅ」

 「無事か、アズマ」

 空から舞い降りてくる紅の翼。ボーマンダの背には、当然ながら父と友人と、そして豊穣の王の姿がある

 「チナ、一体何があっ……」

 『カム……クラゥ』

 とさり、と

 ふわふわと宙に浮いていたバドレックスの体が、雪深い地面に落ちた

 「……ヨさん!」

 「バドレックス!」




特別意訳のコーナー
レイスポス『バクロォォス!(げぇっ!姉上!)』
レイスポス『レイホォォォ!?(姉だー!姉が出たぞー!ライダー助けて!)』
レイスポス視点で見ると、久しく食べられていなかった大好物のにんじんの香りがしてお腹空いたから何時も通り村に実ってる野菜を食べに来たら血相変えた姉上がやって来た
1000年だか前に王。や自分や相方と共に巨大な掌のムゲンダイナに挑み、王。と自分が大怪我負うなか光輝く剣でトドメを刺してブラックナイトを終わらせた恩ポケモン姉妹のやべー方なのでお帰りくださいただ村の野菜を食べてるだけですと穏便に済ませようと言っても聞き入れられず其処に直りなさいと言われた
やっぱり姉って怖いわ恩ポケモンだけど帰って?
王が来るから待てとか絶対罰食らう奴じゃん王からの罰は王単独でやるなら割とご褒美だけどこの姉上呼んでるとか絶対マジギレしてる奴じゃん死ぬわこっわ逃げよ……
となります。色々と噛み合っていない……

話に出てきた豊穣の王バドレックスですが、今どうしてると思いますか?(アンケート結果によって出てきかたが変わります)

  • ヨはフリーズ村振興V
  • ヨはマント白ニーソの豊穣の王女
  • ヨは白馬の豊穣の王子様である
  • ヨはありのままのヨである
  • 村の人参ウメェー!外とか行かない

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