ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

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劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part9

「おーさま、おうまさんにのせてー!」

 おうさまなんていなーいと言っていた小さな子供が、バドレックスの跨がる黒馬を見上げてそんなことを言う

 

 『「む?しかしレイスポスを乗りこなすのはヨでも大事……危険なことなのである」』

 「えー、のりたーい!」

 『ォード!』

 乗せてあげたらどうですか?とばかりに、アズマの横で伏せていたポケモンがその四足で立ち上がり、レイスポスを見守るように横に並ぶ

 『「から、から、から

 わだかまりを解こうというのはあや嬉しや

 ヨを離さないと約束して掴まるのである」』

 「わーい!やったー!」

 小さな子供の体が淡く青く光って浮き上がる

 『サイコキネシス』だ。それによってふわりと浮いた少女は、ひょいとバドレックスの背後に2人乗りする形でレイスポスの背に乗せられた

 

 『「では、ゆくぞ!」』

 王の言葉に合わせ、愛馬が……割とゆっくりと歩き始める。いざとなれば受け止めますが?とばかりに横を歩く狼の手(いや前足?)を煩わせないように、小さな人間を落としてしまわないようにゆっくりと

 だんだんスピードを上げるが、まだ安全走行。シアンの狼から逃げ出した際の全力疾走からすればコータスの歩みでもって、バドレックス達はフリーズ村を一周して戻ってくる

 

 「ありがと、おーさま!」

 『「から、から

 お礼が言えるとは偉いのである」』

 そんな豊穣の王を、そして小さいながらも祭を開くフリーズ村を見渡して、アズマは良かった……と息を吐いた

 

 父はもう居ない。荷物を持ってくるや、祭の終わりには花火を打ち上げろと一発の花火(Xの青い光が拡がるゼルネアス玉というらしい)を置いて、やらなきゃいけない事があるとボーマンダと共に飛び去っていった

 祭は良いんだろうかとアズマは思うも、ならば自分がメモを取れば良いこと。そう思って父を見送り、翌日、こうして……フリーズ村の豊穣雪まつりなる昔あった祭の復刻を楽しもうとしていた

 

 『「礼を言おう、人の子等よ

 オヌシ等がヨの為に精一杯の事をしてくれたおかげで、ヨは信仰も愛馬も取り戻し、こうして活気が戻ってきたのである」』

 戻ってきたバドレックスは借り家の扉の外で待つアズマ達を見て、そう告げる

 

 「まだ、終わってないよ、全然」

 「ヨさんと村の皆さんの話はこれからです」

 「そうだね、チナ

 それに……」

 と、アズマは遥か遠く、山頂に聳えるカンムリ神殿へと目を向けた

 

 「ランドロスとブリザポス」

 『「愛馬ブリザポスにもヨの元に戻ってきて欲しいのであるが……」』

 「大丈夫。今のバドレックスならきっと」

 「レイスポスさんみたいにちゃんと認め直してくれるです!」

 『レイホォォォォ!』

 同意と言わんばかりに、子供を下ろしたレイスポスが体を踊らせて嘶いた

 

 『「であるが、今は……祭である!」』

 『ウルォードッ!』

 『フカァ!』

 一晩経って漂ってきた良い匂いに釣られて、フカマルがとてとてと雪道を走り出した

 「あ、ちょっと待つです」

 銀髪の少女トレーナーがそれを追い

 

 「じゃあ、行こうか、シア」

 ボリュームの減った赤い鬣をお団子風のツインテールに纏め、逆に尻尾はふわりとフォッコ等のようなキツネ風に毛を膨らませてボリュームを出し、胸元の毛は編み込んでから、胸元にグラシデアの花っぽくフラワーリボンを咲かせる。そして欠けた耳には、ちょこんとコンテスト等で使われるおしゃれ帽子を被せて完成

 今までの豊穣の王伝説を追うなかで一番頑張ってくれたろう祭の準主役を、昨夜父がくれたトリミアン等に使う毛繕い用のシャンプーで全身を洗って着飾らせた狼をアズマは呼んだ

 

 「アズマさんアズマさん!シチューがたくさんです!」 

 村の広場にアズマが行くや、少し興奮気味に幼馴染がそんなことを言った

 確かに、とアズマは頷く。数日前にダイ木の下で作ったシチューとは少し違うが、確かに玉葱をしっかり炒めたシチューのクリームのような甘い香りがふわりと漂ってくる

 

 「ええ。おうさまのおまつりだものねぇ」

 「あ、おばあさん」

 『ぴゅい!』

 「と、ふわふわちゃん、おはようございますです」

 元気よく跳ねる星空のような色のポケモンと、それを連れたシチューのレシピを教えてくれたおばあさんにぺこりと二人は頭を下げる

 「おうさまのおうまさんはにんじんが大好きだもの。おまつりではたっくさんのシチューが出るのよ」

 「そうなんですね」

 確かに、にんじんを食べるシチューというのは、アズマにも想像できる

 実際に作ったのだし

 

 「あれ?でもダイ木の実なんかは?良いんですか?」

 「本来は、祭は二度。豊作を祝うダイ木まつりと、次の豊作を願う雪まつり

 ダイ木の実を使うシチューは、ダイ木まつりのメニューじゃよ」

 と、外に出てきた村長がアズマに告げた

 

 「あ、そうなんですね。祭は昔は年に二回あった、と。あのおうさまのシチューは豊作を祝う時のもので、今やってるのは豊作を願うものだから別……と」

 父のように伝説研究のメモを書き残しながら、アズマは情報を整理する

 「村長さん。それで、キズナのタヅナの方は……」

 「祭の終わりまでには出来るよ。今は村を見て回ろうかと」

 「そうですか、お疲れ様です」

 

 『「いずれはダイ木まつりの方も復活させたいものである」』

 と、バドレックスが呟いていた

 「ヨさんなら出来るです」

 『「ヨは責任重大であるな」』

 

 そんなこんなで、村の人のシチューなんかをご馳走になりながら、暫くの時を過ごし……

 何処にあったのか太鼓が叩かれムードが作られる中、豊穣の王像の真横に愛馬に跨がり立つバドレックスの前に、人々から編まれた赤い手綱が差し出された

 

 『「これが、人とヨの絆を取り戻した証となるのであるな」』

 バドレックスがそれを受け取り、愛馬の首に向けて振る

 小さな輝きと共に手綱はしっかりとレイスポスに結ばれ、それと同時……黒と緑の長いマントが出現し、バドレックスがそれを羽織る

 

 『「人の子よ……これでヨは本当に全盛期とは行かずとも力を取り戻せたのである」』

 しーんと静まり返るフリーズ村

 『「この祭と手綱が、新たなる絆の始まりである」』

 そして、ひゅーっという音。火を付けられた花火が撃ち上がり、空にXの青い花を咲かせた

 

 と、そんなアズマにテレパシーが届く

 曰く、何か盛り上げられる音を出して欲しいのである、と

 

 それを受けてアズマは喜んでと近くの草を一枚千切ると口に当てた

 得意の草笛、その得意楽曲……オラシオンである 

 

 優しい音色が静まった村に響き……

 「アズマさん、ちょっと場面に合わないです」

 『「心が落ち着くのである」』

 『ぴゅいぃ……』

 心地よさげにふわふわのポケモンが老婆の腕の中で眠りにつき

 「うん、御免、選曲間違えてた」

 アズマはだめじゃんこれと反省した

 アラモスタウンで聞いたオラシオンは壮大な楽曲であり似合うとアズマ自身は思ったのだが……建物一つを使った壮大な楽器ではなく草笛一つで吹くそれはあまりにもスケールが違いすぎたのである

 

 そうして……祭の後、決着をつけるために、バドレックスは遂に取り戻した力と愛馬と共に、カンムリ雪原を駆ける

 横には、レイスポスの足に着いていける俊足を持つ巨狼のポケモン。その背に掴まり、アズマ達もカンムリ神殿を目指して巨人の寝床と呼ばれる地を抜け……

 

 『ギヤーオ!』

 響くのは、有名な鳴き声に酷似したそれ

 そして……くぐもった笑い声のようなランドロスの鳴き声

 

 雷鳴のような音と共に、バドレックスの前に一匹の鳥ポケモンが大地を砕きながら着地した

 それは……まるで伝説の鳥ポケモンにも見える姿。しかし翼は小さく、足は強靭。サンダーにも見えるが、サンダーではないような……

 「さ、サンダー!?サンダーさんです!?」

 「チナ、落ち着いて。何か違うけど……」

 『ギャーオ!』

 そう高らかに鳴くのは、確かにサンダーのような鳥ポケモン

 実はサンダーっぽいだけの一般通過鳥ポケモンだったりしないだろうか

 

 そうアズマは願うもその願いは虚しく、サンダーに似たその鳥ポケモンはバドレックスの行く手を阻むように此方を睨み付けてきた

 

 「バドレックス」

 『「ヨとてあまり体力を使いたくはないのであるが……

 戦わねば、神殿に向かえなさそうであるな」』

 「いや、そうでもないぞ?」

 突然響くのは、そんな父の声

 

 思わずアズマは振り返り……

 『こふおおおおおおっ!』

 そんな声と共に、地響きを立てて一匹のポケモンが、サンダーらしきポケモンとは別方向から降ってきた

 それは、角を持ったコバルト色のポケモン。どこか光沢のある威厳ある姿をした、そのポケモンは……

 「伝説の……コバルオン!」

 『「コバルオン、まだこの辺りに残っていたのであるな」』

 『こふおぉっ!』 

 一声嘶くとそのポケモン……イッシュ地方を始め幾つかの場所にその伝説が残る、ポケモンを守り人と戦ったとされる正義の伝説コバルオンは、歩みを進めてサンダーのようなポケモンの前に、バドレックスとレイスポスを護るように立ちはだかる

 

 「父さん、用事って」

 「ダイ木の近くで不可思議な足跡を見付けたものの、一向に姿が見えなくてな

 万が一の時の為に、フィールドワーク中に見掛けていた足跡を追い、コバルオンに協力を仰ぐことにした訳だ

 正解だったようだな」

 

 何処か苛立たしげに強靭な足の鳥ポケモンが鳴く

 「これで……」

 『ショォォオーッ!』

 響き渡る鳴き声。神殿のある山頂に何か紅のものが見えたかと思うや、大きな羽音と共に、ソレは飛来する

 炎ではない体の全身が……本来は明るい黄色であるらしいソコが全て漆黒に染まった……闇に堕ちたファイヤーとでも呼ぶべき、邪悪の権化のような……どこかイベルタルのような姿をしたポケモン

 そして……更に分身してアズマ達の周囲を取り囲みながら、仮面を着けたフリーザーのようなポケモンすらも地に降り立ち……その凍てつくような視線がバドレックスを射抜く

 「ファイヤーと、フリーザー?」

 

 伝説の三鳥のような姿のポケモンが集結し、バドレックスの行く手を阻んだ

バドレックスには幾つかの姿がありますが、好きなものは?

  • 黒馬上の姿(エスパー/ゴースト)
  • 白馬上の姿(エスパー/こおり)
  • ヨ(エスパー/草)
  • 歴戦の王(フェアリー/エスパー)

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