ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

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劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part11

そうして、先陣を切って突っ込んでいくシアンのポケモンを追うようにアズマは閉ざされていたカンムリ神殿へと足を踏み入れた

 

 それを小走りで追いかけるチナと、最後にゆっくりと、そして堂々と、自分達こそがこの場の所有者であると言いたげに、レイスポスに騎乗した豊穣の王が開かれた扉、繋がった道の真ん中を闊歩する

 

 『どるぅぅぅっ』

 それを、自身の雲を器用に使って白馬に跨がり、凍りついた恐らくはマトマの実だろう赤い実を不遜に齧っていたポケモンが出迎える

 ランドロス。豊穣ポケモン。トルネロス、ボルトロスのマスターであり、畑の神様とも呼ばれる伝説のポケモン

 恐らくだが、長いこと放棄されていた筈のあの畑が、バドレックスが人参を育てられる程度にはしっかりと畑としての機能を持っていたのは、このポケモンが豊穣の王として力を浸透させていたからなのだろう

 

 そう。そうなのだ

 ランドロスは暴れものであり、暴風と雷雨で土地を荒らす悪戯者とされる二体の伝説を束ねてその力を抑え、調度良い雨と風を送らせつつ肥沃な土地を産み出すポケモン。それ故に豊穣の神様として伝説のポケモンとされている希少かつ強大な種だ

 この眼前で挑発的に自分の髭をくいっと引っ張っている個体も、それは変わらない

 

 ランドロスそのものに悪意はない。ランドロスが悪でバドレックスが善、なんて簡単な話じゃないのだ

 これは、ゼクロムとレシラムの真実と理想の対決にも似た話。どちらが正しいわけでもない

 

 力を喪ったバドレックスが姿を消し、荒れ果てた地を見て、それを復活させるべくその地に降り立ったランドロス。その後力を取り戻して、元々自分の地だと戻ってきたバドレックス

 所有者が逃げ出して荒れ果てた畑を他人が耕して、漸くある程度形になり始めたところで所有者が戻ってきたようなもの。互いに正義はあるだろう

 実際、伝説の三鳥のような姿のポケモン達は、バドレックスよりもランドロスをこの地の豊穣の王として認めたがゆえに旧い王を追い出そうというランドロスに力を貸したのだろう

 ランドロスは空き巣にも見えるが、それなりの正義は向こうにだってある

 

 「バドレックス、頑張って」

 でも、それでも。アズマは小さな王に肩入れする

 『「分かっているのである

 ヨが不甲斐ないが故に、この地にランドロスが降り立った

 それはきっと、善意からであろう」』

 『どろるぅっ』

 『ブルホォォォスッ!』

 だから此方に居るとばかりに、ブリザポスが嘶く

 

 『レイホォ?』

 『バシロォォス!』

 蹄を並べて共に駆けたであろうレイスポスの声にすら耳を貸さず、白い伝説の王の愛馬は、新たな王にその背を明け渡していた

 

 『カムゥ!カムクラウン!』

 『どろるるるぅっ!』

 ポケモン相手ならば、流暢にしゃべる必要はない。元々の鳴き声で何度か二体の豊穣の王は言葉を交わし……

 互いの乗る馬のポケモンが決別したように踵を返す

 

 それが合図だった

 『「人の子よ

 ヨは多くの失望を産んだのである」』

 きゅっと、小さなポケモンは赤いその手綱を握り締める

 『「それでも、ヨは!負けられないのである!」』

 

 『バクロォォォスッ!』

 『バシロォォォスッ!』

 二頭の嘶きと共に、互いの眼前に氷の槍と、そして人魂のようなエネルギーの矢が産まれ、中空で激突する

 そして砂嵐が巻き起こり……二体の豊穣の王はその最中へと突っ込んでいった

 

 「チナ、大丈夫?」

 バシバシと頬を叩く小さな砂。アズマ個人は父のバンギラスによってポケモンが引き起こす砂嵐そのものには割と慣れっこだが、それでも痛いものは痛いし、砂が目に入りそうでヒヤヒヤする

 慣れてない幼馴染はそれ以上に目を開けていられないだろう

 

 そう思って、何とかゴーグルを取り出そうとするも……砂嵐の中では手元が見えず上手くはいかない

 『ォード』

 「ごめん、有り難うシア」

 と、大きなものによって砂が遮られ、視界がマシになる

 巨大な狼のポケモンが小さく縮こまった少年少女の為に壁となってくれたのだ

 今のうちにとバッグを漁り、アズマは父から持たされていた防塵ゴーグルを取り出すと、一つを顔を覆って耐えている少女の首に回して後ろでストラップをとめた

 「シアも、要る?」

 『ヴァウッ!』

 短く吠えるポケモンに頷いて、アズマは三つ持ってきた防塵ゴーグルの最後の一つをそのポケモンにかけてやり……

 

 『ルゥ』

 「シア?」

 耳を押し付けてくるポケモンを見て、少しだけ意図を考える

 「帽子?」

 コクリと頷く巨狼

 

 確かに、フライゴンをモチーフとしたレッドクリアの大きく丸いレンズに、大柄なポケモンに向けた付け替えれる延長フレーム、そしてかなり長く出来るストラップ付きのバンドからなる防塵ゴーグルとお洒落な帽子は似合わなくて

 「汚したくない?」

 『ルゥ!』

 「分かった、預かっておくよ」

 結構気に入ったのだろうか。耳にちょこんと引っ掛けた小さな帽子を預かりながら、アズマはそんなことを思った

 

 その間にも、戦いは進んでいく

 バドレックスの『サイコキネシス』がランドロスを捉えたと思うや、下のレイスポスから『シャドーボール』が放たれ、そのゴーストエネルギーを秘めた黒い半透明の玉を、ランドロスは『ストーンエッジ』らしき岩の剣山を盾に防ぐ

 その隙間を縫ってブリザポスが駆けレイスポスへと迫る

 

 これこそ人馬一体の闘い。或いはダブルバトル

 騎乗しているが故に、上に乗った豊穣の王は回避を考えずに攻撃に専念し、愛馬が機動を担当しながらもチャンスと見れば波状攻撃をしかける

 息のあったコンビネーションで見れば、やはりというか当然というか、バドレックスに分がある

 ランドロスはあくまでも新参。ヨは暫く愛馬に逃げられていたが、長い間の絆……昔取った杵柄がある

 

 だが、だ。それでも、決してだからバドレックス絶対有利とまではいかない

 だからこそ、アズマはゴーグルを被ってきょろきょろと面白そうに周囲を見回すポケモンに声をかける

 「シアは行かなくて良いの?」

 ずっとそこに立ち、砂嵐からアズマ達を護ってくれているが、このポケモンだってその力は伝説級。超絶的な強さを持つことは間違いない。ならば、手伝えばランドロスにだって勝てる筈

 だというのに、そのシアンのポケモンは子供達を砂嵐から庇うのみで、今まではバドレックスの為にも動いてきたのに今だけは動こうとしない

 

 『クルゥ』

 アズマの問いにも、小さく鳴いて返すのみ

 『「その通りである

 これは、ヨの招いたヨの闘いである

 確かに手を借りればランドロスにも勝てよう。しかし、それでは納得は無し。ヨが自分で勝たねば、意味がないのである!」』

 「そっか、だから見守ってるんだ」

 ランドロスにただ勝つのではない。この地はバドレックスのものだからと理解してもらって初めてちゃんとした勝利なのだ

 それを分かっているから、そのポケモンは豊穣の王同士の闘いに手を出さない。自分がやるのは、闘いの邪魔をさせないことまで。そのように定めて動いている

 

 「偉いな、シアは」

 自分は肩入れして、バドレックスが勝つことばかりを考えていた。そんな風にアズマは自省する

 

 『「ただ、ヨの勝利を願ってくれるのは、力になるのである!」』

 『レイホォォォォスッ!』

 高らかに頭を上げて嘶き、黒き霊馬は何度目かの激突に移行した

 

 『どるるるぁっ!』

 交差する二頭のポケモン

 ランドロスが繰り出したのは、その筋骨粒々の拳

 『どらららららら!どるぁ!』

 連続パンチ……ではないだろうが、その拳がバドレックスを襲う

 その大半はサイコパワーによって逸らされたが、最後の一発が大きな冠の蕾を捉えた

 吹き飛ばされるように揺れる小さな体。しかし……

 

 『クラーウン!』

 その距離は至近距離。避けられない互いの距離

 『アストラルビット』。解き放たれた霊の力が、本来は幾つものビットに分かれて追い立てるエネルギーの全てがランドロスの腹で炸裂する!

 

 『どろるぁぁぁぁ?!』

 ぐらり、と驚愕の表情と共にランドロスの体が揺れ、白馬の上から転がり落ちた

 『ブルホォス?』

 『「これが、ヨ達の……」』

 けれども、終わりには思えなくて

 

 大地が揺れる。空が……元々夜だったが、満天の星空だった空が暗くなる

 そして……爆発的な気配と赤い光が、ブリザポスの背後から沸き上がる

 

 「な、何!?」

 「何ですか、これ!?」

 チナと二人して驚愕に目を見開く

 そんな二人の前で、砂嵐を吹き飛ばしながら何かの気配がぐんぐんと大きくなっていく

 そして……赤黒い雲が空に掛かり、

 『どるじゅらぁぁぁぁぁっ!』

 顔はランドロスほぼそのまま。しかし、その体型は雲に乗るおっさんとでも言うべき姿とは違う、四足歩行の獣

 ランドロス(霊獣フォルム)と呼ばれる、此方が本来の姿では?とされる姿

 しかし、あまりにも大きい。有り得ないほどに大きい

 顔だけで、アズマの身長を越えるだろう。チナとアクアリウムに見に行った最大の大きさとされるポケモンのホエルオーと比べてすら、尚今のランドロスの方が明らかに一回り以上は大きい

 

 「こ、これはっ……」

 「アズマさん、知ってるですか!?」

 最近マクロコスモスという組織によってトレーナーとポケモンがある程度自由に行使できるよう実用化された、ほぼガラル地方でのみ確認される特殊現象

 今はまだ知名度が低いが、カロス中心のメガシンカと並んで……人とポケモンの織り成すエンターテイメントとしてのポケモンバトルの花形となるかもしれない……赤い光を纏ったポケモンの巨大化現象、それが……

 「ダイマックス!」

 

 叫ぶアズマの前で、巨大さ故に低くなったくぐもった唸り声を、ランドロスは大きな神殿全域に響かせた




このままでは本当に、ムゲンダイナ戦でヨが颯爽とザシアンに騎乗して参戦してしまうのである……

というか、何というか……白馬も黒馬もヨに勝てないとは情けないですね

バドレックスには幾つかの姿がありますが、好きなものは?

  • 黒馬上の姿(エスパー/ゴースト)
  • 白馬上の姿(エスパー/こおり)
  • ヨ(エスパー/草)
  • 歴戦の王(フェアリー/エスパー)
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