「だ、だいまっくす?」
「チナ、ダイマックスっていうのは……」
『「ああして巨大な姿になる事なのである!」』
と、砂嵐が晴れて良く見えるようになった視界で、バドレックスが追加で話してくれる
『「かつては皆の前でヨがダイマックスして場を盛り上げていた……ああ懐かしや懐かしや」』
ああ、それで……と自棄に大きな神殿の全体を見回して、アズマは理解する
屋根……は崩れてしまっているが、神殿の壁はとてつもなく高い。普通の神殿の高さと言われれば高くても5mくらいを想定するだろうが、このカンムリ神殿は広く、そして屋根が高い
端から端まで100mはあろうという、観客席まで含めたスタジアムのような広さと、高層建築かのような高い壁。それも……ダイマックスしたポケモンが内部に入れる想定だとしたら納得がいく
「じゃあ、ヨさんも!?」
『「全盛期ならば、それも出来たが……」』
むむぅ、とそのポケモンは愛馬の上で唸る
そんなバドレックスを狙うように、ランドロスは単体で姿を変えたもののその場に残されていた白馬が襲いかかる!
『グルソード!』
氷の礫を作り出して急襲しようとした白馬に躍り掛かるのは青い影
「シア!」
青狼はアズマに一声吠えるや、踵を返して距離を取るブリザポスを追い掛けた
これはランドロスとバドレックスの闘いだから、ランドロスと離れた時点でもう手を出すなとでも言いたげに、気が付くとアズマのヒトツキを咥えて新たなる王の白馬に応戦する
『どろるぅぅぅ!どらぁっ!』
そうして、残された王達の戦場の先陣を切ったのは、やはりランドロス
神殿全てを震わせる咆哮と共に、伝説の技エアロブラストもかくやと言わんばかりの巨大な竜巻が伸びて襲いかかる
「エアロブラスト!?」
『「違うのである!」』
間一髪、ゴーストタイプ故の突然消えて近くに姿を現す形の移動でもってその嵐を避けながら、豊穣の王は告げる
『「あれは『ダイジェット』。ダイマックスしたポケモンは相応のキョダイな力を振るうのである!」』
「な、なんだって!?」
特別な技!?とアズマは目を見開く
伝説のポケモンは、とても同じ技とは思えない強烈な力を持つ技を放ってくるとは父の資料や……何より少し離れた場所でやはりというかブリザポスをあしらいつつ完全に足止めしきっている狼を見ても分かる
だが……明らかに、風を放つと共に纏い、あの巨体で動きが鈍ったようには全く見えないのは異様に過ぎる
ランドロス自体も豊穣の王。神殿や人間を意図して傷付ける気はないのだろう。竜巻はバドレックスのみを狙い、地面に叩き付けるような軌道で撃たれ……地面に当たって霧散する
けれど、そんな間接的な衝撃ですら小さく地面は揺れる
「チナ」
「ご、ごめんなさいです」
ぐらりと振動する地面にバランスを崩しかけた幼馴染をアズマは支え、改めて眼前の赤い光を纏う巨獣を見上げた
さっきに比べれば、本来ならば戦況は少しは良くなったと言えるだろう。ランドロスを馬上から落とし、結果として彼は霊獣へと姿を変えた
ブリザポスという戦力を落とし、相手は本来の姿に変わったとはいえ……それは進化や噂に聞くメガシンカではない。ポテンシャル自体は、霊獣も化身もそこまで変わらないらしいのだ
だが……ダイマックス。その巨大化が、そんな理屈を全て捩じ伏せている
『「……大地が、ランドロスにも力を貸しているのである」』
ぽつりと、小さなポケモンが呟いた
確かに、それはアズマも感じる。あれだけの力を引き起こしているのは、この土地だ。土地に眠る莫大な力が、ランドロスに流れ込んだ結果だ
『「ガラル粒子も混じっているが、ヨとそう変わらない形のダイマックスなのである……
この地も迷っているのであるな……それでも!村の人々が信じてくれた以上!諦めるわけにはいかないのである!」』
『レイホォォォォスッ!』
心を重ね、力を合わせ、バドレックスはどこかレイピアにも見えるゴーストエネルギーの塊を振り、幾つもの力を空飛ぶ鳥のように乱雑な軌道を描かせて飛ばす
『アストラルビット』。今のバドレックスの放てる最大の力、愛馬と共にあればこそ放てる、キズナが産み出す最強技
『どるぅ!』
それは、ランドロスの顔面に直撃する
だが
少しランドロスは揺らいだだけ。首を振って即座に体勢を立て直す
あまり効いているようには見えない
ダイマックスの巨体に対して、普通のポケモンの技はあまりにもちっぽけで
『どろろるぅぅんっ!』
一瞬にして土ぼこりと共にランドロスの姿が掻き消える
「これは、『あなをほる』……じゃなくて
『ダイアース』!?」
『「然り。感心感心良く理解している……と言っている場合ではないのである!」』
地中に姿を消したあの巨体が今にも飛び出してくる……
そう身構えるも、衝撃は来ない
『どるぅっ!』
ドン!という衝撃こそあったが、それは少し遠くの地鳴り
此方へ来いとばかりに、神殿の外からランドロスの鳴き声が響く
此方はずっと止めてるのでといわんばかりに、氷がくっついてしまった尻尾を振り……地面に叩き付けて氷を砕きながらシアンのポケモンが目配せする
「行こう、バドレックス」
『「うむ。しかし……人の子よ、少し離れて見ているのである!」』
頂への雪道。雪深い其処に、吹雪く本来であれば苦手だろう霰をものともせずにそのポケモンは待ち受ける
黒馬に跨がった王はその巨獣へと果敢に挑むも……
それは、あまりにもちっぽけな存在に、アズマには見えた
「頑張ってください、ヨさん……」
横できゅっと両手を胸の前で組んで祈る幼馴染の少女
それとアズマも同じ気持ちだった
それしか、出来ることが無かった
最後に後ろを振り返ったとき、父はレントラー、バンギラス、ボーマンダを繰り出していた。ならば、ドラパルトを借りてくるくらいの事はきっと出来たのだが……それが何になるだろう
眼前の巨大な壁、この土地に後押しされたダイマックスランドロスなんてポケモン相手に、思わずドラパルトを繰り出して……それが本当に役立つ気が全くアズマには起きなかった
「そうだ、バドレックス!時間制限が……」
脳内を必死に辿り、そういえばと伝説となりかけている数年間無敗のチャンピオン、ダンデについての話からひとつの可能性をアズマは見出だすが
『「何と!時間制で人の手によりダイマックスすら可能とするとは人の進化は凄いのであるな!
だが、残念ながら自然のそれに制限時間なんて無いのである!」』
「つまり……逃げずに戦うしかないということ!?」
『「……その通りである!」』
『ホォォォスッ!』
すっかり主の愛馬に戻ったレイスポスがその口を大きく開いて威嚇するように吼える
『ぐるるぅっ!』
そして、そんな会話を遮るように、二度、竜巻が……今度は雪を巻き込んで大きく地面を抉りながら吹き荒れる
軌道はギリギリアズマ達を避けるもので……
「うわっ!?」
けれども、近くを通り抜けるだけでも、轟音で耳がキーンとなり、跳ねられた雪を大きく被ってしまう
「チナ、大丈夫?」
雪に半ば埋もれながら顔を出し、アズマは横の少女の居る筈の場所を手で掘ろうとして……
『フカァ!』
「さ、さむいです……」
先にボールから出てきたフカマルがその雪を撥ね飛ばして顔を見せた
『どるるぅっ……』
ランドロスとしても、そのダイマックスの力の強さを知り尽くしているのではないのだろう。何処となく……人を巻き込む気はなかったと言いたげに追撃を躊躇してくれている
『「ダメである
だからといって、人の子を盾にしてはヨは最低の王である」』
覚悟を決めたように、レイスポスが走り出す
それは、アズマ達から大きく離れるように。相手に巻き込むのを躊躇させて勝つなど、勝ったと言えない
そうして離れたところで何度めか、二体(+愛馬1)のポケモンは対峙する
けれど、その闘いは……ある程度疲弊したバドレックスの勝ち目など無く
二度目の『ダイアース』。地面から莫大なエネルギーと共に突き上げるその一撃を、近距離転移でも避けきれず、黒い馬のポケモンは大きく宙に打ち上げられ……
『ホォ、ォス……』
最後の力を振り絞り、手綱の付いた首を大きく振って、その黒馬は主人を投げ飛ばし、そのまま雪深い場所に墜落。雪に埋もれて見えなくなった
「っ!バドレックス!」
そして、此方へと飛んできた小さなポケモンを、アズマはその腕で受け止めた
『……カム、カムゥ……』
「ヨさん、大丈夫ですか?」
大分傷付いている。普通ならば、もう良いというだろう。今までを見てそれでも戦おうというトレーナーは三流だ
そう、アズマだって思う。本当は止めた方がいいのだろう
それでも、黒い愛馬によって何とか意識を繋いだ小さな王は、ふわりと浮き上がってびしりと手綱を持つ右手を巨獣に向けた
『「ヨは諦めないのである!」』
バドレックスには幾つかの姿がありますが、好きなものは?
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黒馬上の姿(エスパー/ゴースト)
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白馬上の姿(エスパー/こおり)
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ヨ(エスパー/草)
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歴戦の王(フェアリー/エスパー)