眼前に立ちはだかるのは絶対的な力
ダイマックスランドロス
それでも、小さく震えながらも、豊穣の王たるバドレックスは立ち向かおうとする
「ヨさん!無理ですよヨさん!」
「……チナ、止めてあげて」
「でもっ!」
寒さだけではないだろう。砂嵐が収まった事でゴーグルをもこもこした暖かなコートの首もとにひっかけた少女は涙声で呟く
「分かってる。でも、おれたちが信じてやらなきゃ駄目だろ」
アズマだって、もう良い逃げようと言いたい。それでも、この闘いを引くわけにはいかないのだ
それを分かっているから、アズマは言わない
「そう、ですけど……」
『「互いに愛馬から降り、ここからが本番なのであるな」』
本番な筈はない。相手にとってブリザポスはあくまでも着いてきたポケモンだ。居なくとも特に問題はないだろう
だが、バドレックスにとっては、キズナのタヅナで結び付く事が力を取り戻すのに重要なほど、その土着のポケモンとの間の絆というものは大きな力となる
ランドロスは120%から100%に戻っただけだが、バドレックスは100%から……ブリザポスの離反で90%、人々の信仰が減って80%、そこから更にレイスポスが倒れた事で……あって60%前後の力しか無いだろう
「だから、信じてあげよう、チナ」
「……っ、はいです!」
頷いて、けれども不安げな顔は変わらず、少女は成り行きを見守る
「お願いリアスくん、寒いけどおうまさんを雪の中から助けてあげてきて!」
なんて、自分のフカマルに頼むのも忘れない
アズマには……唯一の手持ちであるヒトツキは巨狼が咥え、その狼のポケモンもブリザポスを止めている今、出来ないことだから
巨大な赤いオーラを纏う岩石の壁が突如聳え立ち、そして倒れ込む
周囲全てを巻き込むような……それこそ岩の大津波のような一撃
だが、そのたった一撃を止められる筈もなく、バドレックスの目と鼻と角の先で雪と土を巻き上げながら砕けるその『ダイロック』の余波に、足の長いウサギ感あるポケモンは吹き飛ばされて、二度、アズマの腕に収まる
「ぐへっ!」
今度はレイスポスのように労る心はない。角と冠が腹に直撃し、アズマは肺の息を吐いて悶絶した
「……アズマさん!?だ、だいじょぶですか!?」
「だ、大丈夫……」
『「何度もすまぬのである
……ヨは、引くわけには……」』
「……もう、やめてください、ヨさん!」
『「……ヨにとって、この地は、皆は
もう、諦めることなんて……」』
それなのに、ふらふらとサイコパワーでバドレックスは浮き上がる
勝ち目なんて無い。『ダイロック』の影響か霰の空を吹き飛ばすように吹き始める砂嵐。それは、くさ/エスパーだというバドレックスには寒さと氷よりはマシなものかもしれないが、力の殆ど残っていないポケモンにとっては、それだけでも身に染みる痛さだろう
煽られてぐらりとその頭が傾ぐ
そんな瞬間
流れ出すのは、場違いな歌。そして……少女向けの恋愛物語の主題歌
「「……ホロキャスター?」」
横で少女と二人、同時に鳴り出した機械を手に顔を見合わせる
今、本来はそんなもの受けている場合じゃない
……でも、それでも、何か変わるかもしれない。いや、変わってほしい。変わる筈だ
そんな願いすら込めた期待と共に、その知らない番号を受ける
そして……
「『おうさまー!がんばえー!』」
ホロキャスターの電話機能。お互いのホログラフィックを表示する新型の機能を使って映し出されるのは、レイスポスに乗せてもらってキャッキャしていた幼い子供の姿
『「……なんと!」』
バドレックスが此方を振り返る
ランドロスは動かない。ターン制……を気取っているのではないだろう。だが、振り上げ、後は叩き付けるだけであったろう右前足を振り上げた姿のまま、此方を見て静止する
まるで、自分ではない……かつての王を見極めるように
「『すまんが、勝手に家を借りる際に書かれた番号に掛けさせて貰った
皆、巨大なポケモンを見て、王の事が気になったんじゃ』」
と、チナのホロキャスターに映るのは村長の姿
その背後には何人もの村人が見え、皆が豊穣の王像の前に集まっている
『『ぴゅぴゅい!』』
「『ふわふわちゃんも、おうさまを応援してるのね』」
投影スピーカーモード。周囲にも聞こえやすくしたそのモードで、フリーズ村とカンムリ神殿が擬似的に繋がる
『「……そうである」』
きゅっと目を閉じ、地面付近まで降りてきて小さな王は目を見開く
『「ランドロス。オヌシがどれだけ強大でも、ヨは負けぬ
オヌシ以上に、いや、オヌシと同じくらいに、ヨはこの地を愛している
だからこそ、この地を……ヨが!護りたいのである!」』
『どららららぁっ!』
振り下ろされる前足。ラッシュの如く降り注ぐ岩石
流星群もかくやと言わんばかりのそれが、完全な決着を引き起こすべく、20mを越す巨体から放たれて降り注ぐ
そして……
『ブルホォォォスッ!』
その全てが、王の寸前で凍り付く
「ぶ、ブリザポス!!」
あのシアンのポケモンが止めきれなかったのだろうか
そうアズマは一瞬思うも……どこか誇らしげにアズマの背後にひょいと軽い足取りで現れた彼女に……何よりも、輝く手綱にそれは違うということを理解する
『カム、カムカムーイ?』
『ホォォォォォス!』
『カム!クラカムゥ!カンムリ!』
現れるのは、白と緑のマント
降臨するは、白馬の王
『ブランカムゥ!』
キズナのタヅナが二体のポケモンを結び、一つの絆として現れる。バドレックス(はくばじょうのすがた)とでも呼ぶべき皇帝のようなポケモンが、その場に誕生する
そして……
『「人の子らよ
今こそ、全盛期のヨの力を……ヨ達の生きる国を!護る力を見せるのである!」』
赤黒い雲を吹き飛ばし、青白い光が皇帝を中心に巻き起こる。その光の奔流の中から、巨大な気配が膨れ上がり、そして姿を現す
それは、二頭の愛馬両方を取り戻し、人々との絆も結び直した豊穣の王の真なるゼンリョク。蕾の王は花開き……
頭の蕾が開花し、四枚の花弁を持つ青白く幻想的な花を咲かせ、首元の数珠繋ぎのような毛は更に上からケープ付きマントに覆われ、その中心の三角模様は青く光を放つ。更には足にも花飾りがあしらわれ、額にも三角模様が輝いて浮かび上がる
自分で覆わせた氷以外は裸馬であったブリザポスにも、頑丈そうな蔦の鞍が装備され、金の縁取りがされた緑のマントが翻る
そして……右手には氷で出来た巨大な槍を構え、左手で手綱を握り、その周囲には人魂のような小さな盾を複数浮かせて
両前足を振り上げ、上半身を起こしてブリザポスが高らかに威風堂々たる皇帝の姿を見守る全ての
『「これがヨのダイマックス……いや、キョダイマックスである!」』
「すごい!スゴいですヨさん!」
「『すごーい!おうさますごーい!』」
「……いけー!バドレックスーっ!」
雪原に佇むは、二体の王
豊穣の王バドレックス。そして、豊穣の王ランドロス
青白い光と、赤黒い光。相反する二つの色の光をそれぞれが纏ったゼンリョクの二体のポケモンは……今、最後の意地をかけてか、真っ正面から激突する
自らが突撃するフルパワーの『ダイアース』。地脈のエネルギーが全て集約したかのようなその力が、大地を震わせてキョダイな皇帝へと牙をむく
それを左手のビットの盾でほんの少しの時間止め、その隙に皇帝のポケモンは槍を構えると……
一閃。全てを凍らせる
『どらぁぁぁっ!』
『カム……シロォォォスッ!』
土地とポケモンの想いを載せたゼンリョクの突撃を打ち砕く!
ブリザポスが駆け抜け、巨大な氷の結晶の林が立ち並び……突進を終えた王が槍を一振すると、幻想的な光を反射しながらキラキラと砕け散る
『どろ、らるぅ……』
爆発音と共に、赤い光がランドロスから抜け……普段の大きさに戻りながら凍り付いた
『「想いの強さは同じだとしても、ヨは年期が違うのである」』
青い光と共に花開かぬ何時もの王の姿に戻りながら、バドレックスはそう、人に分かるように人間の言葉で呟いた
バドレックスには幾つかの姿がありますが、好きなものは?
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黒馬上の姿(エスパー/ゴースト)
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白馬上の姿(エスパー/こおり)
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ヨ(エスパー/草)
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歴戦の王(フェアリー/エスパー)