『「……人の子らよ
オヌシ等がヨを信じてくれなければ、勝てなかったのである。ヨの力はオヌシ等の信仰が源の一つ故……」』
「ああ、やったな、バドレックス!」
「カッコ良かったです、ヨさん!」
そんな言葉に、白馬上の冠のポケモンは少しテレたように眼を細めた
『レイホォォ』
そうして、雪の中から掘り起こされたレイスポスが駆けてくる。その歩みは精彩を欠いていてとても速いとは言えないが、歩ける程度には回復しているようだ
『ブルホォス!』
『カムゥ!』
そして、バドレックスは何かを理解したように愛馬ブリザポスとの合体……というか騎乗を解除し、一匹で浮かび上がってアズマ達の方へとやってきた
『『ホォォォォォス!』』
鼻先でお互いの体を押し合う二頭の愛馬。積もる話とか……戦ってたさっきまでの互いへの愚痴だとか、言いたいことは沢山あるのだろう
ブリザポスとレイスポス、その二頭はじゃれあいながら、一旦場を離れて行く
そして……
『「豊穣の王よ。では、村で」』
通信費とか……結構かかるのだろう。戦いの終わりを見届けると、ホロキャスターの通話も切れた
「そうだ、バドレックス……に、シアも」
アズマが取り出すのは何時もの木の実のお菓子。今回はどんな疲れたポケモンでも食べやすくしたクラッシュゼリー状のタイプである
『「すまぬのである」』
と、パッケージを受け取ったポケモンはその付属のストローを咥え、中身を一口啜る
一方シアンの狼はというとパッケージごと咥えてその牙を突き立て、中身を一気に口の中に流し込むと食べられない部分だけを雪の上に吐き出していた
「おうまさん達は、帰ってきたらです?」
「うん、そのつもりで……」
と、アズマはその先、というか一番の問題を見る
凍り付いたランドロス。後は、このポケモンをどうするべきかである
『「溶かしてやって欲しいのである
今のヨならば、話も可能であろう故……」』
「うん、分かった」
と言うも、アズマもチナも、炎タイプの技を使える手持ちなんて居ない。氷を溶かしてやることは……
「終わったか、アズマ。預かりものに無理はさせなかったか?」
「父さん、ヴォーダ!」
足止めの役目は十分に果たしてくれたのだろう。父とボーマンダが空から神殿近くに降り立つ
三鳥に似たポケモンも、手を貸してくれた三剣士も姿を見せないが……
「あのポケモン達ならば、ダイ木の方へと飛び去っていった。そして、あの三闘獣も何処かへと行った」
「そっか。父さん、ヴォーダの吐く炎であの氷を溶かして欲しいんだけど」
ちらりと父ナンテン博士は凍り付けのオブジェと化しているその豊穣の王を見て、顔をしかめる
「大丈夫なのか?二頭とも何処かへ走っていく姿を見たが、暴れたとして止められるか?」
『「心配は要らないのである」』
「分かった、ヴォーダ!」
トレーナーが叫ぶと、紅の翼の竜は待ってましたとばかりに口から炎を吐き、氷を炙る
脆くなった氷が砕け、ランドロスが氷の中から復活した
『どろるるらぁっ』
『カムカムカクラゥ!』
『どるらぁっ!』
そして、ふわりと浮かんだバドレックスがそのおっさん顔の伝説と何らかの話を始めるが……
何処と無く喧嘩腰というか、気が立っているのか少しだけ上手くは行っていないのだろう。目を見開いて驚いたりもしている
ひょこりと顔を出すのは、小さな白い狐のポケモン、アローラ地方などで見かけるロコンの近縁種。そうした小さなポケモン達が集まって、二体の王を取り囲むように見守り始めた
『「もう少し落ち着けさせることが出来れば……」』
と、ぽつりと溢される言葉
それを聞いて、アズマは……任せてとばかりに一枚の葉を唇に当てた
吹くのは草笛。響かせるのは得意のオラシオン
「らららららー」
草笛の音色に合わせ、チナが小さくハミングする
その可愛らしい声に誘われてか、最初にぴょこりと姿を見せたロコンが鳴き声で合いの手を入れ始め……
毒気を抜かれたようなランドロスは、ようやく戦闘の為に変化した霊獣姿を解き、化身姿へと変身した
そして、その両の腕を組む
『「……オヌシの想いは、痛いほど伝わってきたのである
実際に痛かったのであるし」』
と、小粋?な豊穣ジョークをかまし、アズマ達にも分かるように人間の言葉を繰り、小さな王は警戒を解いた大地のポケモンに語る
『「この地を愛したヨと同じだけ、オヌシも荒れ果てたこのカンムリ雪原を見てられなかったのであろう
しかし、ヨとて譲るわけにはいかぬ。この地への愛は……負けておらぬがゆえ」』
そして、小さくウサギのようなポケモンは、その小さな手をランドロスへと差し出した
『「して、どうであろう
未だ愛すべき地は荒れておる。されど、ヨとオヌシが組めばその富みようは正に無敵タイムとなろう
何せ……」』
『コンッ!』
と、白いロコンはアズマ……ではなく、その横の少女の足元に頭を擦り付け、尻尾でランドロスを指し示す
その頭に載せられているのは、半分に割られたオボンの実
「ロコンちゃん、届けてって事です?」
『ココン!』
『「このように、ヨの畑がにんじんを実らせるだけの豊穣を戻したオヌシとて慕われておるし……」』
『バシロォース!』
と、戻ってきたのだろう氷の白馬が、バドレックスではなくランドロスの横へ並ぶように颯爽と着地する
『「互いにこの地の力を纏い、互いの想いを感じた今ならば、同じ方向を向くことも出来よう」』
暫く、全員が押し黙る
そして……
『どるぅ』
両の腕……は組んだまま、そのポケモンは尻尾のような豊穣をもたらす三本目の腕を伸ばし、小さな王の手に拳?をぶつけた
『カムゥカンムリ!』
『ランドルゥ!』
と、ランドロスは神殿へ向かって飛行を始め……
『「……待つのである!?そこの神殿はヨのもの!?」』
……なんとなく締まらない感じではあったが、ほんとうに……これできっと、カンムリ雪原を巡る二体の豊穣の王の闘いは終わりを告げた
そして、3日後
とんてんかんと小粋な音が響く
カンムリ神殿の横のスペースに、幾つもの素材が運び込まれて行く。それを指揮するのはコバルト色の伝説であるコバルオン。力自慢のテラキオン等が木々を用意したり石を削り、それをフリーズ村の住人の若い方の衆が形を整え、運ばれたそれを……アズマや格闘ポケモン達が頑張って組みあげる
イッシュにあるという豊穣の社のような、ランドロスの為の社を作ろうというのだ
元々道すがらに畑があったり階段が残っていたように、かつて豊穣の王信仰が盛んであった頃は、人々は当たり前のように神殿と村を安全に往復できた
その……人が通ってもポケモン達が下手なちょっかいをかけてこないと約束された道が復活し、フリーズ村の人々が……信仰を取り戻した皆が、この地の為に、ポケモンと共に働き出したのだ
それを満足げに眺めるバドレックスに、一声シアンの狼が吠える
そうして、二頭は暫くの間、この結末のために奔走した小さな二人の人間を眺め続けた
……そんなことをしている間に、終わりの時がやってくる
元々、父のフィールドワークの間、カンムリリゾート近くに連れていって貰うという長期旅行……チナの母親が治療のために父と共に一度ジョウト地方へと飛び、家を空ける事になるからそれ+αの期間、幼馴染の家にして名家として娘を預かるという事で始まったもの
時が来れば帰るのは必然だ
まだまだ豊穣の社(カンムリの社)は建設半ばだったりするが、完成に立ち会うまで居たりも流石に出来ない
明日帰るというその晩、アズマは……シアンのポケモンの前に立つ
「シア」
ボールを出してみるも、最後にともう一度ふかふかにした尻尾を振り、そのポケモンは拒絶の意志を示す
ここまでずっとアズマの為に動いてくれたが、ここまでのようだ
着いてきてはくれないらしい
それは良い。ポケモンにはポケモンの想いがある。バドレックスがこの地を大好きなように、離れたくない理由などがあるのだろう
だからアズマは……預かっていた帽子をもう一度取り出す
それは、……赤い六枚の花弁の花の造花が付けられて進化?した帽子
「えへへ、わたしが縫ったです」
と、横で少女がちょっと恥ずかしそうにはにかむ
「グラシデアの花……まあ、造花だけど
本当に有り難う、シア。また……会えると嬉しい」
『……ォード!』
小さく、少年少女の背に合わせるようにその大きなポケモンは頭を下げ、耳をぴこりと動かす
まるで、そこに載せてと言いたげに
アズマが帽子を欠けた方の耳に被せてやると、そのポケモンは一声大きく遠吠えして……そうして、周囲に霧が満ちる
その霧が晴れた時、そこには何も居なかった
「有り難う、シア」
「シアさん、とっても助かったです」
バドレックスには幾つかの姿がありますが、好きなものは?
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黒馬上の姿(エスパー/ゴースト)
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白馬上の姿(エスパー/こおり)
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ヨ(エスパー/草)
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歴戦の王(フェアリー/エスパー)