ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

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vsバドレックスぬいぐるみ

「……という感じです」

 と、アズマは一息ついてすっかり冷めたお茶をすすり、そう締めくくった

 

 「これが、昔チナと行った時の、フリーズ村での話です」

 「あの後は、帰るだけでしたし」

 「バドレックスは力が必要なら来るのである。それまでに立派な豊穣の地に変えておく……って言ってたね」

 言いつつ、アズマはカンムリリゾートの案内を開く

 

 かつては載っていなかったが……今ではしっかりと、フリーズ村やカンムリ神殿、そしてカンムリの社が紹介されているのだ。それだけ、何もなかったあの場所が活気づいている証である

 

 「……あれ?」

 と、アズマは写真を見て違和感に気が付く

 「アズマさん?どうしたですか?」

 「像が別物になってる」

 ぽつりとアズマは呟いた

 

 フリーズ村の写真として載っているものをぱらぱらと見ていたところで見つけたのだが……アズマ達が直した不格好な頭の木の像があったところに、金属製で槍を高く掲げ愛馬が前足を振り上げたバドレックス(はくばじょうのすがた)像が設置された写真が掲載されていた

 決して、変な愛嬌があるがブサイクにも見える、あの木彫りの王とどちらともつかない馬の像ではない。精巧にデザインされた、バドレックスとブリザポスの像だ

 

 「……です、ね?

 どうしちゃったんでしょう」

 あの像は自分達とバドレックスの絆の像。不安にかられて幾つかページを見て……

 

 「かつての像は保護を兼ねて博物館に安置されているそうよ」

 「……あ、そうなんですねすみませんシロナさん」

 頭を下げて、アズマはホロキャスターを閉じた

 

 「……それが、青い運命」

 「はい」

 静かに、アズマは頷く

 

 「多分、シアの事を言ってるんだと思います

 ただ……」

 「詮索して欲しくないから、分からないと言ったのね?」

 「はい。実はあの後、もう一度だけシアには出会ったんですが……」

 父の失踪後、各所で父の痕跡を探す中の事を思い出しながら、アズマは言う

 

 「あの時も霧と共に姿を見せてはくれましたけど、何かずっと警戒しているみたいで。何時もは……って二回ですけど、帰る時近くまで居てくれるんですが……あの時はほどけたお団子ツインを前みたいに三編みに結い直してやったらすぐに居なくなっちゃったんですよね」

 「そうなんですか?」

 「おれの事は分かってくれた……っぽくて、だから姿を見せはしたけど……って感じ

 だから、余計な詮索して欲しくないんだろうって思ったんです」

 

 あ、もちろん……とアズマは手をぱたぱたと振る

 「別にシアが警戒していた何かがシロナさん関係……だなんて全く思ってませんけど」

 「別個体の可能性は?

 ほら、ディアルガのような神と呼ばれるポケモンですら、複数の個体が確認されているのだし」

 「それは無いです。同種……だとしたらチナと一緒にあげた帽子を耳に被ってる筈がないし、おれの前まで即座に駆けてきたりしません」

 「そう、それなら……」

 と、金髪の女性は背後を振り返る

 其処にはまだ、誰も居ない

 

 「有り難う。結構面白い話を聞くことが出来たわ

 チナちゃん、部屋は覚えてる?」

 「はい!」

 「なら、夜には帰ってらっしゃい」

 「えっと、シロナさんは?」

 「此処で他にも話を聞く為に待ち合わせしているわ」

 「分かりました」

 

 多分だけれども、再会して積もる話もあるだろうからと、助手と何処かで遊んできなさいという話なのだろう

 有り難う御座いますと頭を下げて、アズマは幼馴染の少女の手を引いて……気が付くとショウブは何処かへ行っていたカフェを出た

 

 「……ミアレは久し振りだけど……チナ、何処へ行く?」

 『(面白い場所はありませんの?)』

 と、足元でポケモン向けスケート靴を履いてくるくると回っているディアンシーが言った

 バランスを取りつつ左右に曲がるなんて鉱石のような一本足のポケモンには無理で、まるで雪深い場所で時折見かけるイノムー一族ソリや或いは魚ポケモンが引く水上スキーのように、宙を浮くニダンギルの布の手を握って引いて貰っているのが何処か面白い光景で、アズマはくすりとしながら一度彼女を拾い上げる

 

 『(な、何するんですの?)』

 「姫、此処でスケートは人通り多いからはぐれると思う」

 『(ミーよりバカでしゅ)』

 と、チナの頭から一歩も歩いていないポケモンがテレパシーで呟いた

 

 「ダメですミーちゃん」

 と、嗜めるチナ

 『(レディになるので気にしてませんわ)』

 小さく震えながら、ボールは嫌だからとバッグに自分から飛び込んで顔だけ出すディアンシー

 

 「……とりあえず、色々と売ってるデパートでも行こうか、チナ」

 と、アズマは空気を変えるように言う

 「アズマさん、買いたいもの……あるんですか?」

 「バドレックスぬいぐるみ。そろそろ7次出荷分が入荷してないかな……って」

 「ヨさん、ぬいぐるみになってるんですか?」

 「可愛いからって女の子に人気らしいよ。そしてついでに、こいつは伝説だしー?と言い訳できるから一部男子にも」

 おかげで結構売りきれてるんだ、とアズマは苦笑して呟いた

 

 

 そして……

 「午前中に、予約分以外は完売……?」

 見事に、ぬいぐるみの入手に失敗した

 「に、人気ですねヨさん……」

 「信仰されてて良いことなんじゃないかな……威厳はあんまり無いけど」


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