「さあ!まずは勿論この方!
カロスリーグ前年優勝者!今やチャンピオン、カルネの後継は四天王の誰かではなく彼女ではないかとも目される、伝説と共に生きるスーパースター!
セェレナァァァッ!」
ワァァッ!と沸く観客達
そして、開放できるものの今は閉じられているドーム状の屋根に仕込まれた強いスポットライトに照らされて、コンテストドレス……ではなく可愛らしさとスポーティーさを両立させたブラウスとジャケット、そして赤いブーツに、チェックのミニスカート。イッシュ四天王カトレアさんのようなふわっふわの金髪は今日はきゅっとポニーテールに纏められ、リスペクトかギザギザの入った有名なスポーツキャップを被るその少女こそ、セレナ
フレア団事件……最終兵器の起動をゼルネアスと共に解決した、カロスでも1、2を争うトップアイドル
良く様々な雑誌などで着飾ったグラビアが使われていたりするものの、自分はポケモン達と旅をしてきたトレーナーであるということを主張する動きやすい姿で人々の前に登板するその心に、多くの人が沸き立つ
もっと可愛い服の方が良い……という人々は確かに居るのだろうが、それを感じさせずに呑み込んでしまう程の熱狂
分厚い壁によって結構防音がしっかりした関係者用の部屋のなかで、アズマもきゅっと膝上の手を握り締める
「そして!今回遥かガラル地方から、カロスが誇るニューレジェンドとのエキシビションタイムを実現させてくれるのは!」
一際大きくなる歓声
元々男性陣の声が大きかった所に、女性陣の黄色い声援が混じる
元々セレナは男女共に人気はあれ、何というか……実際に見た時の反応は男性の方が大きかったのが、ほぼ全員が応援に叫ぶようになったのだろう
「ガラルの生ける伝説!カレーの売り上げを2倍に伸ばした男!」
そして、毎年行われるポケモン人気投票において、"あの"ゲッコウガを抜き去ってリザードンを総合一位に輝かせたリザードンの栄光の立役者
「ガラルチャンピオン、ダンデェェェッ!」
その瞬間、小さな響きと共に快晴の空が広がる。ドームの屋根が開き、日が差して……
オレンジの火竜が太陽を背に舞い降りる。その背に乗るのは、方向音痴な伝説のチャンピオン、ダンデ
豪奢ではあるのだがひたすらに沢山の協賛企業バナーでごちゃごちゃした印象にしかならないマントを不思議と着こなし、リスペクトとして今日のセレナも被っている少年大好きダンデキャップを被った、紺に近い長くて跳ねた髪の男性
彼は相棒であるリザードンから飛び降りると、くるっとその場で2回転し……目線を下げつつビシリと左手を天に向けて掲げたポーズを取った
「出たー!リザードンポーズ!
これがダンデ!チャンピオン、ダンデとでも言うべき象徴!」
ナレーションが興奮気味に叫ぶ声が、マイクを通して熱狂のスタジアムに響き渡る
「……やっぱり、凄いね、二人とも」
『ズーッ』
何時しかアズマの右……にはちょこんとチナが座っているためソファーの左側に登って行儀良く……でもないが足を折って観戦を始めていたモノズが鳴く
興味ないのとばかりに恐れ知らずのゾロアは首筋に生えている背鰭のような銀の突起を伝って生きたアスレチック、ディアルガを登頂しようとして……頭を振ったディアルガによって背中まで落とされている
「アーク、あんまり嫌がられるようなことはするなよー」
『(嫌なら背中に向けて落とされてないの)』
それもそうかと、アズマは頷く
「ミーちゃんが登ってくるのにはなれてますからだいじょぶです」
『(ミーより登るの下手でしゅ)』
と、定位置(チナの頭の上)でシェイミがテレパシーで鳴いた
喋るポケモン多くない?とか思いつつ、アズマは良く知っている今回のエキシビションの対戦カードの二人についての簡単な説明を聞き流し、横の少女を見た
「そういえばチナはどっちを応援してるの?」
「アズマさんはどっちなんですか?
やっぱり、男の人は可愛いセレナさんを応援したいんです?」
頭上のシェイミが落ちないようにほんの少しだけ小首を傾げて聞いてくる幼馴染
それに、アズマはうーん、と返した
「確かに可愛い人だと思うけど、個人的にはチナの方が可愛いからそれで応援はしないかな……
カロス出身ってことで贔屓は入るけど、それでも今回はダンデさんの方を応援したいよ
だって、あのゼルネアスに挑むんだから。数年振りのチャレンジャーダンデみたいなものだし」
「わたしは、女の子のトレーナーとしてちょっとセレナさんを応援したいです」
『(わたくしはゼルネアスを応援ですわ)』
と、膝の上でディアンシー
「あ、Nさんは」
「どちらのポケモン達も全力で頑張ろうと思っている以上贔屓はないともさ」
「ですよね」
これぞN、そうアズマは思って、スタジアムへと意識を向け直した
エキシビションのルールは3vs3のハーフ戦。事前に出場ポケモンの登録は無し
各々自身の持つ沢山のポケモン達の中からこれという六匹を選んでこの場に来ており、そこから三匹を繰り出す筈だ
ただ……これはエキシビションマッチ。恐らく期待されているポケモン達は必ず出てくるだろう
ダンデのリザードン、そしてセレナのゼルネアス。互いのエースを見に来た人々は多いのだから
「ダイマックス、見れるかな……」
「どうでしょう?」
二人してそんな疑問を溢す
やはりというか、人々が見たいのはフルパワー。キョダイリザードンだろう
けれども、此処はカロス地方。ガラルでは無く、ダイマックスが出来るのかどうかは不明瞭
「拍子抜けとか言われない戦いだと良いんだけど」
そんなアズマの前で、互いが最初のポケモンを繰り出す
『ピィィィィッ!』
甲高い嘶きと羽音と共に姿を現すのは、炎のように赤い鳥ポケモン、ファイアロー。疾風と呼ばれるそのスピードで、去年のカロスリーグ決勝でもセレナ側の先発を勤めたポケモンだ
そして、相対するのは……
「ギル」
小さくアズマが相棒を呼ぶ
繰り出されたのは組み合わさった剣と盾のポケモン、ギルガルド。ニダンギルから更に進化したポケモンである
その声に、くるりと縦に一回転して一対の剣のポケモンはアズマの周囲を回り出した
「ああ、存分に見せて貰おうな、ギル」
「ファイアロー、『フレアドライブ!』」
「『キングシールド』っ!」
ニダンギルにもある手のような布に盾を持つ姿から、本体である剣を盾に納めたシールドフォルムへ
攻撃を受け止めるようにしたギルガルドに全身を燃やした炎鳥の最後の死力を尽くした一撃は阻まれ……
「ファイアロー、お疲れ様」
「良くやった、ギルガルド」
炎に包まれた二匹は、同時に赤い光と共にトレーナーの手元のボールに戻された
そして……セレナは少し、ドームの壁に掲げられた大きな時計を見る
「時間、押してるね
本当はこんな舞台、皆に脚光を浴びせてあげたいけど……」
そう、エキシビションは全30分。だが、開幕のファイアローvsギルガルドで既に15分以上が経過している
このままでは、3vs3でも3体目が……エースが見えないかもしれない
だから、金の髪の少女はそのモンスターボールを構える
「だから御免。キミが行かないと!」
『イクシャァァッ!』
投げられたボールから、そのしなやかで細身の体からは想像もつかない程に重い着地音を響かせて降臨したのは、黒い足に濃い青の体を持ち、七色に輝く小角を湛えた大きな角を持ち、瞳にXを秘めた鹿のような伝説のポケモン……ゼルネアス
「ゼルネアス!」
『(これが、わたくしの求めていたゼルネアス……)』
アズマの腕の中で、ぽつりとディアンシーがその手を伸ばす
「……ゼルネアス。最強のトレーナーと最強のポケモン
どう応えるべきか、暫く頭を悩ませていた」
それに対してダンデは、リザードンをボールに戻すこと無く語り始める
エースにエースで応えるならば……リザードンを出したままは可笑しい。ダイマックスは、一度ボールに戻してから行う筈だから
すっと、チャンピオンである青年は空を指す
それに合わせて多くの人々が……開いた筈の屋根が閉じていくのを見上げて……
「きゃっ?」
証明が一斉に落ち、チナが小さくすぐ横のアズマの手を握る
光と呼べるのは室内で輝くディアルガの胸元のダイヤと、ゼクロムの角くらい
そして、スタジアム中央に燦然と輝くゼルネアスの角
「さあ、ゲストタイムだ!
伝説に相対するは、此度のエキシビションを盛り上げるために来てくれたガラルの誇る伝説と行こう!」
その瞬間、スタジアムの中央、ゼルネアスの反対側に……忽然と一つの気配が現れる
ふっ、と灯る鬼火。ゴーストの炎が、何かを浮かび上がらせる
それは、アズマにとって何か懐かしい気配で……
「え?これってまさか」
そして、紫色の霊の火が大きく燃え上がって周囲を明るく照らした
それは、雲のような鬣を持つ蹄から浮いた霊馬に跨がる、蕾の冠を抱く偉大なるも愛らしい、ウサギのような顔つきの王。伝説不毛の地で実在を確認された伝説のポケモン
即ち
「ば、バドレックス!?」
ヨはぬいぐるみではなく凄い伝説のポケモンだと証明するのである