ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

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エキシビション 豊穣ウサギvs生命鹿

『レイクラーウン!』

 昔のように人間の声ではなく、普段のポケモンの鳴き声を高らかにそのカンムリウサギは歌い上げる

 それに合わせて手綱を引き……レイスポスが前足を振り上げて嘶いた

 

 それをスポットライトが照らし、恐らくは完全に仕込み……事前に決めてあったのだろう事態を終えて、証明が元に戻る

 それでも、その姿は幻として消えることはない。確かにしっかりと固められたグラウンドを蹄で掻きながら君臨する

 

 「紹介しよう。ガラル地方はカンムリ雪原に座す王バドレックス。今回は、ガラル地方そのものの宣伝のために来て貰った」

 ワァァァッ、と、人々が湧く

 

 それはそうだろう。人々はセレナを、そしてゼルネアスを見に来たのだ。もう一体の伝説が見れるなんて思っていなかったろう

 

 「チナは知ってたっぽいね」

 と、証明が落ちて暗闇になったことには驚きつつも、バドレックス参戦には反応しなかった幼馴染の少女の手を離しつつ、アズマは聞く

 「えっと、シロナさんから聞いてたです」

 「そっか」

 頷いて、アズマはスタジアムに君臨した皇帝を特別室から見下ろした

 

 『このポケモンはぁぁっ!

 ガラル伝説の豊穣の王バドレックス!今此処に、豊かな生命を司る二体の伝説が並び立った!なんという光景!』

 と、興奮気味に解説の人が叫ぶのが聞こえるが…… 

 

 「台本だねこれ」

 「事前に知ってなければ放送事故起きるですし」

 確かに、とアズマは頷く

 伝説研究家の父を持ち、幾らかの伝説とは邂逅した事があり、そして何なら今や暗闇の中さりげなく自分を守るように畳んだ翼を微かに拡げてトレーナーに被せようとしたイベルタルという伝説そのものが手持ちに居るアズマですら、突然の伝説の降臨には動転せざるを得ない

 それが例え、既にその存在を知っていて、何なら困った時は手を貸すとまで言ってくれた相手だとしてもだ。突然目の前に現れたら冷静に解説文なんて頭で組み立てられないだろう

 今此処でシアがひょいと顔を見せたとして、慌てる自信がある

 

 それなのに、より伝説のポケモン耐性が無いだろう解説役が、混乱する観客の中で慌てる事無く、バドレックスが何たるかを説明してくれた

 これはもう、前から決まってたとしか思えない

 

 「豊穣の王バドレックス」

 「正式にはバドレックス(こくばじょうのすがた)。海の上を徒歩で遥々ガラルから来訪してくれた王

 君とゼルネアスの最強タッグには、最強チャンピオンと最強のゲストがお相手しよう!」

 ダンデの解説に、あ、徒歩なんだとアズマはちょっと笑う

 

 確かに、ボールから出てきた様子はないし、誰かの手持ちという訳でもないのだろう。あのヨが故郷をランドロスに任せて誰かに着いていくとは到底思えない

 だが……一時的に宣伝で何処かに行く、くらいはしても可笑しくはない

 

 実際に、宣伝効果は抜群だろう

 会場は……予想外の伝説vs伝説というカードに沸き立っている。そんな歴史的一戦となりそうな展開をその場で見れた事。それだけで自慢になるだろう

 

 「頑張れ、バドレックス」

 「ヨさん、ふぁいとです!」

 フリーズ村の時と違って、今の自分達は単なる一観客、それも窓で隔てた部屋からの客だ

 声なんて届かない。けれど、絆が力になる王にちょっとくらい意味はあるだろう

 そう思って、チナと二人小さく応援する

 

 『イクス』

 『クラウン』

 『レイホース』

 対峙する二体(+レイスポス)は、小さく鳴く

 こくり、とゼルネアスが頭を下げたようにも見え、それに対してバドレックスが頷く

 

 互いに礼儀というものを通すのだろうか

 「Nさん」

 「互いに力を使って戦いを楽しむ気を確認したようだね」

 と、通訳してくれるN。その顔は穏やかで、戦いによる相互理解に納得したようにただ、二体を見守る

 話に聞いていたプラズマ団事件の頃なら乱入して止めに行ってたのかなーとか思いつつ、逆さになりつつ手の布を振って知り合いのバドレックスを応援するニダンギルと共に、アズマは戦いの始まりを見守った

 

 「ゼルネアス……本気で行くんだね?

 よしっ!なら、『ジオコントロール』!」

 「全力でお相手しよう!

 といいたいところだが……残念!『サイコキネシス』で妨害と行こう!」

 結局去年のカロスリーグでは全然見ることが無かった……使わずとも圧倒できたからこそ出番の無かったゼルネアスの本気、『ジオコントロール』が最初から使われ……

 けれど、ダンデとてあの日の二人のように単に応援するというか同行しているだけではない。事前の打ち合わせで使える技は教えて貰ったのだろう、サイコパワーで相手の動きを封じつつ地面から持ち上げさせて、大地の生命力による自己強化を止めようと指示する

 

 バドレックスが右手を掲げるや、しなやかな体躯の巨鹿の体が宙に浮き……

 勝手にそこに向けて霊弾が撃ち込まれる。『シャドーボール』を下のレイスポスが放ったのだ

 

 人馬一体……ズルいような気がするが、そんなこと言ったら三位一体のダグトリオやレアコイル、刀身二つが二つの動きを可能とするニダンギル等もズルになってしまう

 

 更に……

 『「畳み掛けるのである!」』

 と、聞き覚えのある声が響き、大きくレイスポスが嘶くと……ゼルネアスの周囲360度……いや全包囲から時に交差しながら異様な軌道の鳥のような霊弾が無数に放たれた

 『アストラルビット』。バドレックスとレイスポスの最大技。宙を舞う伝説にそれを止める手段は無い。地に足をつけて戦うはずの生命の化身は空中では機動力を持たない

 

 ゼルネアスが苦悶に首を振る。去年の戦いを見てきた人々の中から感嘆の声が上がる

 ゼルネアスにダメージらしいダメージが通ったところなど、去年は一度もなかったのだから

 

 「さっすが豊穣の王

 でも!」

 カッ!とゼルネアスのXが浮かぶ瞳が見開かれた

 「この一瞬で決めきれなかったね!

 行くよ、『ジオコントロール』!」

 大地から巨大な光の柱が立ち上ぼり、ゼルネアスを包み込む

 サイコパワーによる拘束を振り払い、くるりと縦に一回転してしなやかな四肢を地面に着け、細身の巨躯が天を向いて咆哮する

 その体に残された霊火が掻き消え、ダメージが無かったかのように完全な状態へと回帰する

 生命を司る力の発露の前に、何者も傷を残すことは出来ない

 

 『イクシャァッ!』

 更に輝きを増した角を振りかざし、本気のゼルネアスが周囲に光の柱を立てながら降臨する

 

 そして……

 「『メガホーン』!」

 その七色の角を前に突きだして、生命の伝説は突貫する

 その速度は正に疾風。素早いことで知られるファイアローすら越える速度に王は反応できずに突き上げられ、空へと投げ飛ばされ……

 

 いや、違う。それは既に姿を消した王の残した影

 『バクロォース!』

 ふっとその姿を見せたレイスポスの嘶きと共に、輝くゼルネアスが無数に産み出している影から、少しの間を置いて次々に『アストラルビット』が放たれ、順次青い巨鹿に襲いかかった

 波状攻撃の前に、一ところに留まることは不可能。避けた先には既に次の一撃が向かっている

 これこそが、本気の『アストラルビット』

 

 しかし、ゼルネアスとて伝説。数発ならば受けきれる力を持つ

 影の輝きが減った頃合いを見て、軽やかに駆けて避け続けていたゼルネアスは反転。攻撃を受ける事を許容して反撃の為に力を溜め始める

 

 『「甘いのである!」』

 が、それこそがバドレックスの狙いだったのだろう。突如として硬い地面に突き破って生えてきた蔦が止まった四肢に絡み付いてその体制を崩させ……

 一気に増量して襲い掛かるゴーストビット

 

 『シャァァァァッ!』

 しかしそれは、絡み付いたかと思いきやそのまま成長を止めるどころか更に加速度的に大きくなり……遂にはゼルネアス全体を完全に取り込んだ巨木程の大きさになった蔦に穴を開けただけで終わる

 一瞬で枯れ果てた蔦の中から現れるゼルネアスは無傷

 

 豊穣の……生命を育てる力を使って相手が絡ませてきた妨害用の蔦を防御に利用したのだ

 

 「そういうこと出来たんだ、バドレックス」

 「にんじん育てたりしてただけじゃないんですね……」

 ぽつりと呟く二人の前で、再度二体の放つ技が激突し、隔てられたはずの部屋にすら振動が響いた

 

 『(ひっ!た、退避ですわ)』

 と、ディアンシーが震える空気に耐えられなくなったのかアズマの腕を伝ってバッグに飛び込む

 『(ミーは戦いに向かないでしゅ)』

 と、チナの頭の上に鎮座していたシェイミが身震いしてボールに逃げ込む

 臆病なモノズはジオコントロールが発動した光に驚いて既にボールの中に居て、マイペースなゾロアもディアルガに走る緊張感から遊んでちゃいけないのと帰ってきた

 

 好戦的であるがゆえに見守るニダンギル、毅然と揺らがないゼクロム。影響を受けていないのはその二体だけ

 イベルタルはというと、警戒するように翼を拡げて見守り、ディアルガの胸のダイヤに小さく光が集まっている。この二体には、外のバトルは心配ごとであるようだ

 

 「……行くよ、ゼルネアス!」

 トレーナーの言葉に、伝説の巨鹿は瞳の中のXを輝かせて応える

 『「レイスポス、まだ行けるのであるな?」』

 此方はトレーナー……ではなくヨの言葉に、愛馬はその鬣をふわりと逆立てて応えた

 「では、バドレックス。『アストラルビット』!」

 「これが私達の!」 

 その瞬間、スタジアム全体に突如としてクモの巣が張り巡らされ、馬上の王の足を絡め取った

 「『絶対捕食回転斬(ぜったいほしょくかいてんざん)』!」




ヨはウサギ……?となるかもしれませんが、鹿だと愛馬と合わせると馬鹿になってしまうので、ウサギということで
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