果たして
スタジアムから出て、多くの人々が今日も来るミアレ空港方面ではなく、それと逆。人気の無いカフェの一つの前に、タクシーは止まる
大都市ミアレシティともなれば、街中であっても場所によってはタクシーを使うのだ
人によってはポケモンに乗りたいと言うが、車道は遅すぎても早すぎても困るため、ポケモンタクシーライセンス等が必要。勝手にウインディ等に乗って車道を爆走した日にはジュンサーさんに捕まって罰金を取られてしまう
そんななので、ポケモンタクシーより自動車によるタクシーの方がメジャー。アズマ的にはウインディタクシーを利用したくはあったのだが、チナと二人では乗れないため諦めて普通のタクシーである
「ありがとうございます」
代金を二人分……支払うも少しだけ眉を潜める初老の男性ドライバーに少しだけ迷い
「あ、すみません忘れてました」
ポケモン代として+200円。それを受け取ると、初老のドライバーは頷いて走り去っていった
「あ、わたしの分は」
「良いよ、チナ。持ってきただけでまだ50万以上あるから」
因みに、屋敷が崩壊したとはいえ、ディアルガダイヤ等の資産は無事。まだまだ資金は幾らでもあるレベル。少なくとも、代金を惜しむ必要はない
「あんまりだと悪いですし」
「じゃあ、後でお茶するときにケーキ一個、でどうかな」
「はいです」
なんて話していると、バッグから顔を出したディアンシーがナイトの肩をぽんぽんと叩いた
『(ゼルネアスが待ってますわー!)』
という声に頷いて、二人はカフェに入る
中は人は殆ど居らず、一人の客がゆっくりと紅茶を飲むばかり
寄ってくるマスターと、その足元でふわふわと浮くホイップクリームのような珍しいポケモンに会釈して待ち合わせだと言うと、マホミルは逃げてしまったが、先客がこっちー!と手を上げた
「すみません、セレナさん」
ちょっとむ?と思われた空気を和まされ、頭を下げながらアズマは向かいの席に座る。同行したチナもその横の席に着いた
「カルム君から聞いてたけど、本当にポケモンに避けられるんだねキミ」
「そう、みたいですね
最近は気にされないポケモンが多くて何と言うか、気を抜いていたところがありますけど。やっぱりダメなポケモンはダメみたいです」
もっとふれあいたいんですけどね、と言いつつ、アズマは二人分の紅茶と甘いマホイップミルクを注文する
喫茶店というだけあって種類は沢山あったが、幼馴染の好みは知っているのであっさりとした飲み口のレモンティー、自身はカッコつけたストレート。ミルクは同席するディアンシー向けだ
「でも、セレナさん。此処大丈夫なんですか?」
と、紅茶が運ばれてくるまでの時間(蒸らし時間等で相応にかかるものだということは、アズマは執事に教えられて知っている)を使って問い掛ける
「あ、セレナさん有名人ですもんね」
「あ、大丈夫大丈夫
ここ、ファンの間では私が静かに楽しむ店って事で結構有名で。見掛けてもあんまり押し掛けてこないかな?」
と、ポニーテールを解いてラフな服に着替えた金髪の少女……セレナはそう告げた
「あ、そうなんですね」
「うん。キミと二人きりだとまだ野次馬も来たかもしれないけどさ」
と、金髪の少女はアズマの横でちょっと固まっている少女の方を見た
「キミ、彼女同伴だから変な噂にもほぼならなさそうだしね」
「彼女じゃないです」
「幼馴染です」
「結構息あってない?ちゃんと言葉が被らない辺りとか」
『(それよりゼルネアスですわ!)』
と、ぴょんと古風なテーブルに飛び乗るディアンシー
「姫、お行儀良くな。どうせ、すぐに会えると思うから。変なことやると、鉱国の姫として恥ずかしいよ」
と、アズマが椅子の上にバッグを置いて高さを調節してやると、その小さなポケモンはそれもそうですわとバッグの上に飛び移った
「あ、そのポケモン……ディアンシー?」
「はい、ディアンシーです
ダイヤモンド鉱国という故郷のために、ゼルネアスを探しているということで今回セレナさんにちょっと会えないかという話を、縁あってカルムさんに頼みました」
『(そう、わたくしのナイトは結構優秀なのですわ
……こわいこと以外は)』
と、何の自慢か擁護してくれる桃色の姫に笑って、アズマはまあねと呟いた
「わ、テレパシーだ
ゼルネアス、テレパシーとか殆どしてくれないから新鮮」
「そういうことで、すみません。おれというより、姫の為……なんです
いえ、おれも興味とかありましたけど」
「ナンテン博士の息子さんだし、伝説には興味深々?」
「勿論です」
「イベルタルのこともあるし?」
その言葉に一瞬だけ警戒し、カルムは知っているからそりゃそうかとアズマは漸く来た紅茶を一口飲んで気持ちを落ち着けた
「あ、美味しいですねこの紅茶。そこまで高くはない茶葉ですけれど、温度管理が適当だから良い香りが出てる」
「でしょ?お気に入りなんだ」
と、微笑するセレナに頷いて、アズマは更にお茶を一口口に含む
「あ、アズマさん。ケーキ頼むです」
「じゃあ、おれは今日のマホイップサンデーを」
「わたしもそれにするです!」
と、ケーキまで頼んで長居の構えを取ると、二人は目の前のゼルネアスと共にフラダリを、フレア団を止めた少女の方を向く
「そろそろ?」
「まだまだちょっとした話しでもいいですけれど、そろそろ最初の本題に入りましょう」
「うん。オッケー」
そんな少年の袖を引いて、銀の髪の少女が耳打ちした
「アズマさん、話を聞くとディアンシーちゃんとはゼルネアスに逢うまでの関係なんですよね?
こうして逢えたら別れちゃうけど、良いんですか?」
と
「大丈夫だよ、チナ
寂しさはあるけど、姫は姫の役目を果たしたいだろうから。それを助けるのが……トレーナーじゃないけどナイトの役目」
「うん、オッケー
じゃ、その子の話を聞かせてくれる?」
『(分かりましたわ)』
マホイップミルク……甘めに整えたミルクの上にフロートのように薄いアメ細工で飾ったホイップクリームを載せた甘いドリンクを抱えてポケモン向けのストローでちびちび飲んでいたディアンシーがこくりと頷き、テーブルの上にグラスを置いた