『(こ、これは……)』
ぼんぐりから作られる古めかしく、それ故に不思議な美を感じる幾つものボール
ディアンシーがぴょんぴょんと跳ねたのは、その展示されたボールの中でも一際珍しいものの前であった
そこに展示されているのは伝説級に珍しいボール。真っ赤なメタリックボディの非売品。市場にはまず出回らず、どんなボールでどういったポケモンが好むのかすらも不明。全てが謎に包まれた……プレシャスボール
「嘘だろ……」
「すまんがの客人、形だけのレプリカじゃ」
「で、ですよね……」
そりゃそうだとアズマは少しだけ残念に思いながらも店主の声に頷いた
『(ざ、残念ですわ……
キラキラしてとっても綺麗でしたのに……)』
心なしかディアンシーもしょんぼりとしていて
「あ、ディアンシーちゃんにはこれなんてどうですか?」
と、銀髪の女の子が指差すのは、女性向けのボール。ハートが散るのが可愛らしいラブラブボールであった
「うん、確かに可愛いし似合うと思うけど」
『(有り得ませんわ)』
色合い的にも似合うだろうそれは一蹴されてしまう
「あうっ」
しょんぼりする少女に、まあ姫は独特の価値観だし……ってフォローしながら、アズマはその感覚を思い返す
重い事は良いこと。女の子としては不可思議な感覚だが、ポケモンとして考えれば不思議と理解できるその嗜好
そして、メタリックを好むならば……
「ヘビーボールとか」
ぽつりと呟くアズマ
その声を聞き、店主によってすっ、とビロードに載せられて登場する銀を主体とした重そうなボール
それを見て、ディアンシーはその瞳を輝かせた
『(これですわ!)』
「……あ、ああ……」
似合わない……と思いつつ、本ポケモンの意思が何より重要だとアズマは引き気味に頷いた
「じゃあ店主さん、ヘビーボールとラブラブボール、あと……ブレイブボールを2つずつ」
と、アズマは注文し
「カード、一括で」
「すまんが、そんなはいから装置は無くての」
すまなさそうに店主に頭を下げられて、下ろしてきますとそそくさとアズマは近くのポケモンセンター(ミアレは大都市だけあって、ポケモンセンターだけで30箇所くらい存在する)へと向かった
「はい、チナ。付き合ってくれてるお礼」
と、買ったボールのうち1つを少女に手渡して、アズマは頬をかく
「あ、ありがとうです……でも、高かったですよ?」
「高いけど、おれが今日楽しかったお礼だから」
その言葉に頷いて、少女はそれ以上の反論をせずにボールをバッグのポケットに仕舞いこんだ
「それでアズマさん、買ったボールって、どういうものなんですか?」
アズマが左手に構えたボールのスイッチを自分から押すディアンシーを見ながら聞く少女
「ヘビーボールは重いポケモンが好むボール
ラブラブボールは目の前のポケモンと異なる性別のポケモンを自分が出してるとそのポケモンと仲良くなりたくて捕まってくれやすい……とか言われてるけど、理屈が全く分からないから事実上可愛いだけのボール……かな
ブレイブボールは……」
と、ディアンシーがボールに収まったのを見て、アズマは右手の指先で尖った赤い角の生えた青いボール……尖りが強くなって青が深くなったスーパーボールみたいなボールをくるくると回す
「見ての通り、ドラゴンっぽい意匠で、ドラゴンポケモンが好むらしいよ」
そして……
『(やっぱり、外の方が落ち着きますわね……)』
折角ボールに入ったと思いきや、すぐに外に飛び出してきたディアンシーはそそくさとバッグに潜り込み、口から顔だけ覗かせる何時ものスタイルに戻った
「あは、は
あんまり、意味なかったですね……」
『(ふふん、もうポケモン代とかは払わなくても良くなりますわよ?必要ならボールにも入りますわ)』
「お空を飛ぶ時とかです?」
『(落ちたら終わりですもの、当然ですわ)』
そうこうするうちに日は暮れ、夜が来る
ポケモンも居るし大丈夫ですからとトレーナーとしての実力たるバッジを見せることでタクシーに町外れまで送って貰い、ミアレシティを出て暫く歩く
少し不安はあったが、何とチナはシンオウ地方でバッジを7つも取ってきたらしく、それを見せれば難なく通れた
幾ら夜は昼より狂暴だったり狡猾なポケモンが多く危険と思われていても、バッジ7つというかなりのエリートトレーナーならば心配されないのである。大半のトレーナーは、自分の限界を感じてバッジを幾つか揃えて諦める
ポケモンとなら何処までもと思うアズマのようなトレーナーは案外少ない。バッジ4つめ以降とは、そうしたものなのだ。バッジ7つは超スゴい、8つ集めてリーグに挑戦なんて全員エリート。例え予選敗退でも誇れる戦績
だからこそ、リーグは盛り上がるのだ
「やっぱり、スゴいところまで行ってたんだな、チナ」
あのシロナさんの助手になるなんて、かなりの実力がなければ無理だろう。シント遺跡に、カンムリ雪原。そういった場所は、とんでもないポケモンが生息しているのだから
昔のアズマはシアンの巨狼が何とかしてくれたが、そういった救援無しでああしたところを探査するなんて、それだけの実力が要るのだ
「えへへ、実はそうなんですけど……」
ひいちゃいました?とちょっと不安そうに上目で見てくる少女に、全然?とアズマは笑いかけた
「ただ、凄いって思うだけだよ。おれも頑張らないとって」
言いながら、暫く歩き、人気が消えたのを見越して……
「姫、そろそろ」
結局姫と呼び続けることにしたディアンシーをボールに入れる。これからの事が分かっているからか、おとなしく小さなポケモンはボールに収まり
代わりに取り出すのはポケモンに合わせたい派のアズマとしてはシンプル故にあまり好きではない素のモンスターボール
「お待たせ、ベル!」
「Dia様、お時間です!」
昼間、流石に少し窮屈な形で姿を見せていた二体の伝説の姿が空に浮かび上がった
余談になりますが、本来ヘビボディアンシーは改造確定です。そもそも野生で出ないので仕方ないですね