そして、翌日。イベルタルのご機嫌とりの為にも空を飛んできたアズマ達はというと……
「アズマさんアズマさん、おっきな観覧車ですよ!」
遊園地に遊びに来ていた
此処はミアレシティの誇る大遊園地。ジムすらも遊園地の一部だったというイッシュ地方はライモンシティには劣るものの、電気タイプのジムリーダーが居る街であり大都会ミアレともなれば遊園地が無い筈もない。寧ろジムこそ無いが規模としてはライモンシティのものよりも大きいかもしれない程だ
そんな遊園地に来た理由はというと……
「えへへ、御免なさいです、アズマさん
でも、シンオウにシロナさんと戻る前に、遊びたかったですから」
チナの希望である。それに
「いや良いよ。おれもちょっと皆と遊びたかったしさ。折角ミアレに来たんだから」
と、アズマは答えながら……
「むっ!誰を見てるんですか?」
少女に手を引かれる。精一杯のおめかしだろう帽子が可愛らしくて、けれどもアズマの目は泳ぐ
「いやだって、トリミアンやウインディが……」
元来犬のようなポケモンが好きなアズマにとっては、どんな女の人よりもそれが連れているポケモンが気になって仕方なかった
「確かにポケモンさん達可愛いです……」
それを言われ、銀の髪の少女も周囲を見回して呟いた
「あれ?でもポケモンさん達居ても良いんです?」
「此処はポケモンと共に遊べる遊園地だから良い筈だよ
寧ろ、相棒と共に遊ぼうって言うのがウリ。ほら、有名なライモンシティの遊園地だって、ポケモンと遊べる……っていうか参加できるのはジムくらいだろ?それとの差別化をはかったんだって」
と、メリーゴーランドを見ながらアズマは言った
その回転する木馬の頭の上には、木馬にまたがったトレーナーと一緒に上下するピカチュウやパチリス、或いはデデンネといった電気タイプのポケモン達の姿がある
「あ、そうなんですね
でも……」
目線を落とすチナに合わせ、アズマも一つのボールを見る
「ベルはさすがに出せないよな……」
「ごめんなさいですディア様……」
ウインディのような利口なポケモンならば大きなポケモンでも問題なく連れ歩ける。が、伝説と呼ばれるようなポケモンでは周囲が大惨事だ
『(なーのっの)』
「いや、アークは普通に出てて良いんだぞ?」
イリュージョンでチナに姿を変えてボールから出てくるゾロアに、あきれてアズマは突っ込みをいれる
「というか、チナに化けてボールから出てこないでくれないかな」
犯罪臭がして、アズマはゾロアのイリュージョンをすり抜けて本体の頭を撫でようとして……
それを避けてぴょんと肩に飛び乗る小狐を帽子に、そのまま行くことにした
「それにしても、人多いね」
モフモフしたウインディに久し振りに執事のポケモンに会いたくなったりしつつ、アズマは遊園地で並ぶ時間の為のドリンクを手に呟く
今日もカロスリーグは行われているし、予選とはいえ見たい人も多い筈だ。その分何時もより空いているんじゃないかと思っていたが……
「に、二時間待ち……」
『(長いですわね……)』
女の子一人と一匹が観覧車と並ぶ大きなアトラクションである遊園地全体を一周できるジェットコースターの列を見てぽかーんとした表情を浮かべた
「姫はジェットコースターに乗りたいの?」
『(面白そうですわ!)』
「わたしは観覧車の方が良いですけど……」
と、ボールがあるけれど結局バッグから顔を出してくいくいとバッグの紐を引くディアンシーと、横で曖昧な笑みを浮かべるチナ
「僕は懐かしさを感じているだけさ何処でも良いよ」
更には、暫く別行動していた声まで聞こえて……
「Nさん!」
そういえば、Nの城と呼ばれたプラズマ団の基地のような場所には、遊園地のように雑多に色んな遊具が置かれた子供部屋があったって記述があったなーと思いつつ、アズマはその緑髪の青年へと向き直る
「あ、ちゃんと変装してるんですね」
Nと言えば軽く纏められた長い緑髪と白っぽい服装というイメージだが、ちゃんと髪は紺に染めて纏めないことで何処と無くダンデに憧れている雰囲気を出し、マントは流石にしていないが帽子……は無し。けれどもユニフォーム風の服装
熱を持ったようなチャンピオン・ダンデの瞳と比べると光がなく違和感があるが、ぱっと見手配されているNとは分からないだろう
案外常識的なのかちゃんとこうして周囲に溶け込もうとしているNに感心しながら、アズマは手持ちのダンデスタイルの帽子を青年にひょいと被せた
「くれるのかい」
「結構有名なトレーナー風のコスプレしてる人も多いですし、ちゃんと帽子も被った方がそれっぽいですよ」
「じゃあ貰おうか
此処はポケモン達が本当にソワソワしていて実に面白そうだ」
と、放し飼いではないがトレーナーから結構自由にされているウインディ等の見付けやすくて賢いポケモンに囲まれた青年が軽く帽子のツバの向きを直しながら言った
「あー、ゾロアだー!かわいいー!」
なんて、話しかけてくる子も居て
「アーク、ちょっと触られてくる?」
『ロア!』
腕を伝って幼い子供の元へ向かい、その筆のようなふわふわの尻尾で少女の頬をくすぐってあげるゾロア。そんな黒狐を見詰めて、アズマはほっこりした気分になる
此処は遊園地。基本的には知らない人でも、ポケモンを通してなら楽しく過ごせる場所
多くの人が、そして相棒であるポケモン達が、知らない人同士だとしても変な事を誰もしないように見張ってくれているからこんな事も出来るのだ
「あれ?アズマさんはウインディさんに触らせてーとか良いんですか?」
「いや、無理」
Nには即座に心を開いたのか近くで座り込むが、アズマがちょっと近付くと耳を立てて警戒を始めるウインディを見て、アズマは首を横に振った
「ベルのせい……ってわけじゃないんだけど、やっぱり怖がられるみたいで」
イベルタルと出会って、原因はちゃんと理解した。アズマを助けてくれたイベルタルのオーラの片鱗がアズマの体に残っていて、それが悪タイプのポケモン以外にとっては恐ろしいものに思え避けてしまうのだろう
「やっぱりウインディの中でもちゃんと昔から知ってるウィンくらいしか触らせてくれないよ」
「アズマさん……」
そんなこんなで他の人々のポケモンを眺めたりしつつ、暫く色々と見て回る
「ウォータースライダー……です?」
「乗れる水ポケモンと一緒に流れに乗る遊具……みたいだね」
「水は濡れちゃいますね」
スカートが貼り付いたりするのが嫌なのだろう、少女は乗り気しないように呟く
「ビーさんじゃ足浸かっちゃいますし」
「ビーさん……ってことはビーダル?」
「はいです。シンオウでは沢山助けてくれたんですけど……」
「そもそもさ、おれに水タイプのポケモン居ないからこれは無理かな」
「あ!」
「シアが居てくれたら泳いでくれたかもしれないけど、基本的に父さんもじいも……うちの家系は水の上は飛ぶスタイルだから、水ポケモンは得意じゃないんだ」
『(岩みたいな場所ですわ!)』
「姫、洞窟探険みたいなコースターに乗りたいの?」
『(乗りますわ!)』
なんて、色々と見て回っていると……
「あーっ!」
不意に、大きな声を背後からかけられた