なんとか寝る前に投稿できた、スパンダム編その2です。
逆算するとスパンダムは19歳という設定です、若い!
そしていつも通りキャラ崩壊注意
「ちょっ…待っ……死ぬ…イルミー…ナ…」
「…まだ4周しかしてない、がんばって」
息は切れ、足はガクガク、痛くなるのを通り越して最早何も感じなくなった脇腹を抑えながらへたりこんで息を吐く
「4周って……海軍本部の外周何キロあると思ってんだ…よ……」
「…?わたしは毎朝10周してるけど…」
バケモンか!
「死ぬ…死んでまう…」
「じゃあ帰ろ、あさごはんできてると思うから」
ヒーヒー言う俺を引きずりながらイルミーナは自宅へ戻って行った。
聞いてねえぞ…朝の軽いランニングが……海軍本部の外周を10周なんて……
◆ここから弟子入りしたスパンダムの様子をダイジェストでお楽しみください◆
…………
「喜べスパンダム!今日の稽古相手を連れてきた!」
「まさかその後ろに連れてる化け物が稽古の相手とか言うんじゃ…」
「良くわかってるじゃないか、ベガパンクの所から借りてきたポチ(キメラ)だ。よし行けポチ!」
aaaaaaahhhhhhhhhhh!!!
「ちょっ…待っ、この世ならざる叫び声上げてる!喰われる!
アーーーーッ!!」
…………
「今日はとある島に行って滝修行するぞスパンダム」
「…………(絶対ろくな事にならねえ、でも滝修行ならギリギリ生き残れるか…)」
「着いたぞ。ここはライジン島って言ってな、雷の流れる滝が有名なんだ。
一緒に撃たれて心頭滅却しようじゃないか!」
「心頭滅却の前に身体が滅却されるわ!
ちょっ……まっ…アーーーーッ!!」
…………
「なあスパンダム、重力100倍の部屋を作ってその中で修行するのと精神世界に潜って『俺自身が…ファンクフリードになる事だ…』って台詞がでるまで剣と一体化する修行どっちがいい?」
「怖っ!どっちも嫌だわ!」
「ダメかぁ、じゃあこのベガパンク特製『死ぬ気弾』をお前の額に撃ち込んで………」
「待って、何おもむろに撃鉄を上げてるのミラさん!」
「でえじょうぶだ、一回死んで生きけえれる」
「大丈夫じゃない!全然大丈夫じゃな……アーーーーッ!!」
…………
◆以上、回想でした◆
……俺がミラさん宅にお邪魔して3ヶ月ほど経った。基礎体力が無いと言われた俺は毎朝イルミーナと共に海軍本部の外周を走り、死にかけの状態で朝食を食べ、そのままミラさんと一緒に本部で仕事をする。
勤務中も合間を縫っては怪物と戦わされたり謎の人体実験の生贄になりそうになったりハチャメチャだ。
疲れ果て、夕食後の稽古は俺の意地と努力の甲斐あって生存時間が5秒から20秒位にまで延びた。生きてるってスバラシイ。
仕事は殆ど書類なのが幸いだ、書類の処理なら苦にならないからな。
ミラさんに付いて回れば必然的に他の将校たちとも出会う、それにより俺は着々と顔を広めていった。
当初の目的通り海軍内でも俺の存在は広まりつつある。あのミラ准将が弟子を取った、と言うことで色々噂されているようだ。因みに政府の役人である事は秘密になってる、面倒事は避けたい。
たまにすれ違う将校たちからスゲエ睨まれる気がするんだが…なんかしたか俺?
◆ーーーーーーーーー◆
「ミラ准将の傍にいるあの男一体…」
「俺だってあの人の部署で一緒に働きたいのに…うらやまけしからん!」
「私だって、ミラ准将を『お姉様』と呼んでお慕い申し上げているのに…」
「俺だって…ミラ准将にあのブーツで思いっきり踏んで欲しいぞ!」
「あ!サカズキ中将!
ミラ准将に近づこうとする変態が居ます!連行しますね!」
「しまった!?だが我々の業界ではご褒美……あああああああ…」ズルズルズル
「悪は潰えたのお…」
今日も海軍は平和だった
◆ーーーーーーーーー◆
「………で、それがお前の経過報告かスパンダム」
「ああ、上手いことミラさんに取り入って色々良くしてもらってるよ」
俺は今、ミラさんに許可を貰って一旦聖地マリージョアにある我が家に帰ってきてる。
マリージョアは天竜人の住む土地だが政府上層部の人間やその家族達が住む事も出来た。
俺はここで生まれ、何不自由すること無く今まで生きてきた。
「そうか、そのまま媚を売り続けとけ。あの女は将来使える、そのまま上手く嫁にしてマリージョアまで連れて来るんだ。そうすりゃお前も安泰だろう」
「……分かった」
世襲によって俺の将来は約束され、食い扶持に困るなんてことは絶対に無いだろう。
俺は勝ち組だ、努力なんてしなくてもなんでも手に入る。
でもそれは同時に〝生きてから死ぬまで何も目標が無い〟って事だった。
この生活に慣れきってそのまま歳を取ればこんな感情なんて消えてしまうんだろう、でも今の俺はただただ与えられるまま地位を得て楽な方向へ進むのに僅かな抵抗を感じていた。
「いい女の奴隷も飽きる程抱かせてやったんだ、戦闘しか脳の無さそうな小娘1人さっさと手篭めにして帰ってこい」
「……あの人はそう簡単には落ちねえ、一緒に居たから分かる。もう少し時間をくれよ。」
「……〝最終手段〟を使わせる気か?」
「ッッ!!」
…ミラさんが大人しく俺達の所有物にならなかった場合、ミラさんに近しい人物を攫って人質にする。そう親父は言っていた。
マリージョアに連れ去られるって事は奴隷になると言う事、身内が奴隷になる恐怖を見せつけられたら誰だって屈してしまう。
…そんなんで無理矢理言うこと聞かせても絶対ぇロクなことにならない未来が見える。
それにあの人を絶対怒らせちゃいけない、そう俺の本能が訴えてた。
「そんなことする間でもねえ、ミラさんは俺の物にする。約束するさ」
強がりを言っちまったが、正直あの人は『誰かのモノ』になるなんてタマじゃ無い。
でもこうでも言わないと親父は直ぐにでも諜報員に命令するだろう
「イルミーナをマリージョアまで攫ってこい」と
既にミラさんの家族の素性は親父の下へ知れ渡っている。勿論ステラとイルミーナの事も事細かに調べ尽くされた、ステラの方は上から詮索を止められたらしいがイルミーナの方は筒抜け、
CPの諜報員は腕の立つ超人揃いだ、この屋敷の警備も務める親父お抱えの部隊もいる。そんな連中を親父は手足のように使える、CPは実質親父の私兵と化していた。
唯一違うのは…親父の隣で鋭い視線を俺にぶつけているラスキーくらいか、彼は危険な仕事の多い諜報員で俺の知る限り唯一婚約していて、7歳の娘がいる。
昔親父伝いで挨拶に行ったが会った途端「セクハラです」と吐き捨てられた記憶がある、辛い。
親父とラスキーは腐れ縁の友人のような関係だから只の部下とは少し考え方が違うみたいだ。
「ならお前を信じて待とうじゃないか、期待してるぞ息子よ」
納得した親父に内心ホッとため息を吐く
「ンだよラスキー、俺の顔になんか付いてるか?」
「……いや。海軍へ降りてから久しいが、少しはマシな面構えになったじゃないか、見直したぞスパンダム」
「…はあ?何言ってんだか…」
ラスキーは僅かに笑っているようだった、なんのこっちゃ訳が分からん
何にせよ、無事報告を終えた俺はマリージョアを後にした
…………………
で、またミラさんの家の前まで帰ってきた。さっき親父と手篭めにするだの堕とすだの話した手前、顔を合わせるのが躊躇われるがドアノブに手をかけた時、扉は内側から勝手に開け放たれた。
……今度はちゃんと避けたぞ、成長した!俺!
「お、スパンダム。戻ってたのか。
おかえり」
「ああ、ミラさん…ただいま」
笑顔で迎え入れてくれたミラさんに招かれるまま家の中へ入る、今日の夕食はステラとイルミーナが新しい料理に挑戦したらしく夢中で喋るミラさんの後ろ姿を見ながら台所まで歩いていった。
「あら、スパンダム。おかえりなさい」
「おかえり、すぱんだむ。
ふぁんくふりーども待ってた」
パォォォォ
台所に入ったらステラとイルミーナ、そして剣状態で顔だけ出したファンクフリードが笑顔で出迎えてくれた。
この1ヶ月、いつも夕食は一緒に取る。偶にガープ中将や他の中将達が同席することはあるが基本この4人と1匹だ。
食卓に並ぶのは決して豪華とは言えない料理の数々、でもなんだかしっくりくる。
これまで贅沢な食事はたらふく食ってきた、けどこの家で食う料理はどこが違う暖かみがあった。
実家には無くてこの家にあるもの……ああそうか
俺は実の父親にも、家族の誰からも「おかえり」なんて言ってもらえたこと無かったなあ…
◆
スパンダムは深夜、ひっそりと部屋を抜け出した。
いつもならトレーニングと雑用の疲れでスグに寝付けていたのだが、今日は父親の元に戻って席を外していたためなかなか寝付けず、庭で酒でも煽ろうかと企んでいた。
「あれ、すぱんだむ」
「なんだイルミーナじゃねえか、ガキは早く寝ろよ」
「おたがいさま」
酒を持ち、いざ庭の縁側に腰掛けようとした時、同じく左手にオレンジジュースを持ったイルミーナの姿があった
2人で縁側に座り、月を見ながら黙り込む
話題が無い、気まずい
しばしの沈黙、先に破ったのはスパンダムだった
「なァイルミーナ。お前、ミラさんとどんな関係なんだ?
血は繋がってねェんだろ?」
実は既に諜報員から聞き知っている事だが話題作りには丁度いい、そう思い軽い気持ちで切り出した。
「うん、わたしは拾われ子だから。
ずっとむかし、みらに拾われたの」
「そ、そうか……」
よく考えたらやっべえヘビーな話題振っちまったと後悔するスパンダム、このあたり原作ばりのドジが見て取れる。
「そ、そうか…すまねぇ急に嫌な話題振っちまって…」
「…?いやじゃないよ。
みらもすてらも優しいし、かいぐんの人たちも、わたしに良くしてくれてるし」
「そ…そうか…じゃあイルミーナの目標ってなんなんだ?」
「……うーん、わたしにはみらしかいないから。
あの日、わたしを獣から人に戻してくれたみらのために残りの人生をつかうってきめた。だからわたしの目標は…みらとずっと一緒にいること。」
幼いながら決意に満ちた瞳だった、子供だから茶化してやろうかとも考えていたスパンダムは少し反省してしまう。
この娘は自分なんかより余程大人だ、と
「そうか…面白ぇ目標だな」
「すぱんだむは?」
「俺?俺はなあ…秘密だ」
嘘だ、甘ったれた自分には目標も志も持ち合わせてはいない。彼はそれを笑って誤魔化した
「……ずるい」
「いい大人にゃ秘密が多いんだよ」
「ぶー…」
それっきり2人は黙ったまま、月を見ながら酒とオレンジジュースを煽っていた
「(こんなガキでさえ立派な目標持ってんのに、俺は一体…)」
グビリと酒を煽る
育った環境の違い。何もかも持っているはずの自分が唯一持っていないものをイルミーナは持っている、小さいが決して埋めることの出来ない決定的な〝差〟に若きスパンダムは打ちのめされていた。
◆
ある朝、いつものように4人と1匹で食卓を囲っているとミラさんに頼まれた。
「私はこれからサカズキ中将と任務で暫く家を空ける、ステラも仕事に行って居ないから昼間イルミーナと一緒に留守番をしててくれ。
ボルサリーノ中将も仕事が終わり次第家に顔を出すそうだからヨロシク」
「おるすばん?」
「ああそうだ、スパンダムと一緒におりこうさんにしているんだぞ?
ボルサリーノおじちゃんも来てくれるからな」
「うん、わかった」
「ごめんねスパンダム、イルミーナをお願い」
「ああ分かった、留守番してる。
2人とも気を付けてな」
食器を片付け、2人を見送ってからイルミーナと一緒に軽く(イルミーナ基準)運動し激しく疲れた後、一風呂浴びてリビングで寛いでいた。
「ステラが食べていいって言ってたプリンこれか?」
「ぷりん!食べる!」
イルミーナが尻尾をぶんぶん振りながら駆け寄ってきた。こういうの見てるとコイツまんま犬だわ、絶対狼じゃねえと思う
「三つあるんだが…残りはボルサリーノさんのか。
残しとかねぇと機嫌悪くなるんだよなあのヒト」
留守番する俺達の為にステラが作り置きしてくれたプリンを皿に乗せ、さあ食べようとスプーンを取った時
ドンッドンッドンッ!!!
閑静な住宅街に似つかわしくない銃声が響いた。数は三発、かなり近い!
「「ッッ!?」」
イルミーナは思わず顔を上げ、ぴくぴくと耳を震わせる
「……いまの銃声、ちかかった…!」
「あっ、おい。イルミーナ!」
凄い勢いで玄関から飛び出していくのを目で追って俺も我に帰る。此処は海軍本部、しかも海兵の家族達が住む居住地だぞ!?こんな真っ昼間から銃声なんて有り得ない…!
「ヤベェんじゃねえか…?」
俺は嫌な胸騒ぎを覚え、ファンクフリードを掴み取り様子を伺うようにして玄関を出て行った。
◆
???side
人生ってのは残酷だ。突然の出会いに別れ、生きてりゃ色んな事がある。
時代のうねり、人の夢、それは人が生きている限りとめどなく繰り返される。言ってみりゃ自然の摂理って奴かも知れない。
…だが〝奴隷〟は違う、コイツだけは確実に違う。人間によって生み出された腐った制度、人を人で無くしてしまう悪魔のような決まり事。
偉いヤツらはそれをさも当たり前のように思ってやがる。
テメェ等の都合で人生を滅茶苦茶にされた奴の気持ちが分かるか?
大切な恋人を、家族を人間で無くしてしまう絶望が連中には理解できないだろう。
俺は海賊だった。仲間と共に海を暴れ周り、思うままに奪い、思うままに殺しもした。ひとつなぎの大秘宝を求めて沢山の部下に恵まれた。
そんな家族にも等しい俺の部下達をたった1人で壊滅させ、俺を叩きのめした奴がいた。
そいつのせいで部下は皆捕えられ、唯一逃げ延びた俺も人攫いに捕まった。
俺は奴隷になった
毎日が地獄のような日々だった。殴られ蹴られは日常茶飯事、クシャミしただけで撃ち殺される同僚の奴隷達、いつも死の恐怖に怯えながら連中を前に這いつくばって一日を過ごす。耐え難い苦痛だ。
耐えきれなくなったある日俺は一瞬の隙を突き、手枷を自慢の鍵外しを使って逃げ出した。幸い拘束具は手枷のみだったので簡単に逃げ出すことができた。
なんとか逃げ切った俺の心は部下を失った悲しみと、連中への憎悪で一杯だった。そんな時どこからか現れた黒服共が俺に最後のチャンスをくれた
説明を1通り聞き終わり、自分でも反吐が出るようなどす黒い笑いを出す
小娘1人攫うついでだがこれでアイツに復讐できる、俺と同じ苦しみを奴にも味わわせてやる。
家族を失う悲しみを、大切な人を無くす苦しみを
海軍本部大将ゼファー、あいつに思い知らせてやる
◆
昨夜
「で、上手いこと唆したと」
「ハイ。予定通り明日、警備に穴を開けます。
そのスキにつれ去る様に、と」
「ご苦労、行っていいぞ」
報告を終え、黒服の諜報員が部屋を出ていく。
スパンダインは満足そうに頷いて手元のワインをグラスに注いで一気に飲み干した。
「…良いのか、スパンダムに言わなくて」
「んだよラスキー、アイツが遅いのが悪いんだ。お前は何も気にせずに娘を旅行に連れて行ってやれ、その為の長期休暇だろ。
んで、帰ってきたら優秀な部下が一人増えてるかもな」
「…そうか」
そう言って下衆な笑いを浮かべる腐れ縁の友人をラスキーは一瞥し、荷物を纏め去っていく
「じゃあなスパンダイン、来週には戻る」
「おうおう、楽しんでこいや」
パタン…
ラスキーが去り、扉が閉められたのを確認するとスパンダインは再びワイングラス片手にくっくと笑いを堪えていた。
「復讐に溺れた奴ほど扱いやすいものは無ぇなァ、ご近所だったのが幸いだ。
さっさと連れてきてくれねえからよォスパンダム……可愛くて馬鹿な息子よ。
じゃなきゃあ、カワイイあの娘が大変な事になっちまうぜ?」
次回、皆様お待ちかね
彼は真なる祖に喧嘩を売った