大海原の祖なる龍   作:残骸の獣

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寝る前にギリ投稿できた!
一万字超えちまった…長々とスイマセン…


繁忙期舐めてた、辛い





15 祖龍(大将代理)、四皇と戦う

 

 

 

「G-2支部から人員派遣の要請です!」

 

 

北の海(ノースブルー)を航行中の海軍の輸送船が海賊船に襲撃されたと連絡が!」

 

 

「G-5の連中がまた問題を……」

 

 

 

慌ただしく走り回る海兵達、忙しさのあまり飛び交う罵詈雑言、そして執務机の上に聳え立つ大量の書類、書類、書類!

 

ここは海軍本部大将代理〝白蛇〟の執務室。

部屋中央の大きな執務机に腰掛けて、書類の塔に囲まれながら白蛇ことミラは優雅にコーヒーを飲んでいた。

 

 

「テリジア、これ美味いな。お前が挽いたのか?」

 

 

「はい♡お姉様に飲んで頂くためにそれはもう愛をこめてじっくりと//」

 

 

「ふーん(無関心)」

 

 

「あはんっ//辛辣なお姉様も素敵…♡」

 

 

恍惚の余り身をよろけさせるテリジアの姿は黒を基調としたクラシカルタイプのメイド服だった。

雑用係ならこれだろう、とミラが厳選した特注品である。勿論テリジアは喜んで着た。

 

大将白蛇が就任してから数日、海軍本部の海兵達は活気だっていた。

実力、知名度共に最高レベルの海兵が到達できる『大将』の地位、その称号を若くして得たミラのことはたちまち本部内に知れ渡り、大きな反響を呼んだ。

新聞各所でもその話題が取り上げられ、顔出しNGではあるものの新たな正義のヒーローに期待を寄せている。

 

 

「あー、ラクロワ少将とカダル大佐を至急招集、派遣の話は私から直にします。

輸送船は被害状況と襲った海賊の確認急いで、北の海なら縄張りにしてる海賊もたかが知れてる。

向こうの人員に余裕があるなら今後護衛も検討しましょう。

G-5は放っときなさい、サカズキ中将が帰ってきたら全部報告します。」

 

 

波のように襲う他支部からの報告にのらりくらりと対応しながらもう一口コーヒを啜った。

 

 

「ジョン少将、先程渡した分の申請書には目を通しましたか?」

 

 

「勿論だ、全て頭に入っているとも。」

 

 

「では早速ドックへ向かってください。力仕事が多いのでロンズ少将を連れていっても構いません、警備の空いた穴にはシシリー大佐をあてがうので。

モモンガ少将、ストロベリー准将、シャボンディ諸島周辺の警備強化要請について確認したいことが…」

 

 

「みら、らくろわさんとかだるさん…?来たよ。」

 

 

「おおありがとうイルミーナ、じゃあこの赤いファイルをオニグモ少将に、黄色いファイルをヤマカジ准将に届けてきてくれるか。」

 

 

「うん、わかった。」

 

 

「ラクロワ少将、カダル大佐、取り敢えずそちらのソファにお願いします。直ぐに戻りますので。

テリジア、お2人にもコーヒーを淹れてやってくれ。」

 

 

「承知致しましたわ!」

 

 

「「「「(……可愛いなあ…大将白蛇も美人だし俺たち海兵で良かった…)」」」」

 

 

 

ミラの指示に従いテキパキと行動する2人の雑用係(メイド達)も海兵達の癒しの一つとなっていた。

 

 

 

 

 

 

海軍本部は世界中に支部を構える超巨大組織である。

東、西、南、北、偉大なる航路、新世界全ての支部の情報が此処へと寄せられ処理を行うのは元帥1人と数人の大将のみ。

そこから情報を吟味して軽い件は少将や准将にも処理を割り当てて分割して仕事をこなす。中将や大将ともなるとその仕事量は想像を絶するものだ、ガープ爺さんはこれから逃げてたから毎度毎度センゴクさんにクソ怒られてた訳だ。

まあ気持ちは分からんでもない、確かに下手な事務員より仕事多い。

 

前世じゃ確か偉くなるほど下に仕事を任せきって楽になってたがこっちは真逆だ、上になればなるほど仕事が増える。他人より多くの仕事をこなすから下から尊敬されるんだ。

 

俺氏、仕事の大切さを実感する(小並感)

 

 

 

「…………以上が今のところこちらが把握している情報です。

目的地は西の海ですのでお2人の実力なら問題無いでしょう。

物資の希望はこちらの用紙に記入しておいて下さい。

他にご質問は?」

 

 

「問題ない、直ぐにでも出発しよう。」

 

 

「右に同じです、お任せ下さい。」

 

 

「では宜しく、見返りの休暇はこちらで確保しておきます。」

 

 

カダル大佐とラクロワ少将はぐいっとコーヒーを飲み干し、渡した書類を持って部屋を後にした。

 

なんとか説得完了…というか2人とも乗り気で助かった。本部の人はプライド高い人結構いるからな、こっち来てからダラダラ龍生活で忘れてたけど前世で培ったリーマンスキルが役に立ってるぜ……身体に染み付いてんだよなぁ……私は悲しい。

 

 

「よし、これで午前中にやらないといけない案件は全部片付いたハズ……。

テリジア、どうだ?」

 

そう聞かれたテリジアは手元のバインダーを開き、紙をパラパラと確認した後笑顔で告げた。

 

 

「はい、先程の案件で予定されていた分は終わっております。

いいお時間ですしそろそろお昼にいたしませんか?

それとも…わ・た・く・し?」

 

 

風呂の概念が消えてた

 

 

「昼飯で」

 

 

「あぁんっ//」

 

 

何言っても喜ぶんかい

 

 

………

 

 

 

「邪魔するぜ大将」

 

 

ざわり、と部屋の中がざわめいた。

理由は大体分かるけど……

 

 

「おお、おかえりガスパーデ。

ダイナ岩の輸送護衛はどうだった?」

 

 

部屋に入って来たのは厳つい顔した大柄な男性だ、周囲の視線も気にも留めず俺の方へやって来る。

 

 

「なんら問題無ェよ、借りてたアンタの船はドックへ回しておいたぜ。」

 

 

「ご苦労さん、もう私の船の指揮にも慣れてきただろ。あの船、譲ってやろうか?」

 

 

「アンタのお古なぞ要らねえよ。

俺は俺の稼いだ金で作った船に乗るって決めてんだ。」

 

 

彼の名はガスパーデ、階級は少佐。

コイツと初めて出会ったのは俺が准将になり部下を持つようになった頃。

当時海軍内でも指折りで手のつけられない荒くれ海兵だったガスパーデは俺が初めて請け負った部下の1人だった。

ガスパーデは粗暴、傍若無人、上昇志向強しで周りからは「海軍の汚点」だとか酷い評価を受けていた、実際サカズキ中将に粛清される一歩手前までいったらしい。

勿論、俺の部下になったからにはそんな評価あっという間に覆してやりましたがね!(ドヤァ)

 

ガスパーデ自身、体格も人一倍あるし戦闘の素質も持っていた。それを僻む周りのヤツから邪険にされていてちょっとひねくれてしまっただけのこと。

大人な俺は彼と真摯に話し合い(偶に殴り合ゲフンゲフン)をした結果、一部隊を任せてもいいくらい立派な海兵へと成長した。

もともと人の上に立てる素質は持ってたし、反抗期だったんだよね(父親のような優しい視線)

 

前もちょろっと話したが俺が加減を間違えて力を使ってしまった被害者でもある。まじすまんかった。

 

他の海兵達は作業しながら相変わらずチラチラこっちを見ているのが分かる。

 

 

「………チッ…」

 

 

明らかに不機嫌そうな舌打ちするガスパーデ、自身は真面目になっても、まだ彼の評価は海軍内では低いものらしい。

俺のドラゴンイヤーにもコソコソ陰口叩いてる声がきこえるぞ、陰湿かお前ら。

なのでこの雰囲気を払拭する為に思い切って食事に誘ってみることにした。

 

最初は遠慮しているのか断られたが強制連行することに。襟首を引っ捕まえてガスパーデを引き摺りながら食堂へ向かおうとしたその時。

 

 

 

けたたましいサイレンが鳴り響く。

 

 

このサイレンが示す意味を理解する者は即座に反応し、現状一番偉い俺に向けて視線を送ってくる。

かくいう俺もこのサイレンの意味は重々承知していますとも、このサイレンは………

 

 

「……ガスパーデ、部下達に出撃準備しろと伝えてこい。

いつでも出られるようにな。」

 

 

「あいよ、アンタは?」

 

 

「直ぐに向かいたいが…至急准将以上の全員を議事の間へ招集、急いで。

まったく…白昼堂々此処まで攻め込んでくる馬鹿は一体どこの誰ですか。」

 

 

海軍本部近海に未確認の船が来襲した証だった

 

 

 

 

 

海軍本部、議事の間(洋室)

 

細長い部屋の中心には大きな円卓が鎮座しているこの部屋は、中規模の会議のために使われる会議室だ。

いつもなら和室の方を使うんだけど今は人も少ないし動ける兵には出撃準備をしてもらいたい、だからこっちを使おう。

 

いつもならセンゴクさんかコング元帥の座る一番上座の席に俺は座り、内心ため息をついていた。

 

観測班代表ブランニュー君の報告では海賊旗から推察するに襲来した海賊船の殆どはかの四皇〝カイドウ〟傘下の海賊だと言うことが判明してる。

 

 

「と、言うわけで。

四皇が海軍本部に特攻仕掛けて来た訳なんですが、厄介な事にコング元帥含め中将以上の実力者が不在してるこのタイミングでやって来ました。

今から聖地マリージョアへ救援要請しても最短で1日はかかります、故に今ここにいる戦力だけでカイドウを撃退するしかありません。

他に良い作戦のある方!」

 

 

し〜〜ん…デスヨネー

 

 

「上がいないからといって尻尾を巻いて逃げては海軍の名折れ、ここは打ってでるしかありませんな。」

 

 

ドーベルマン少将は好戦的だなー、相手が相手なんだけど…

 

 

「まあ応戦するしか無いなあ…ブランニュー君、敵戦力の確認を」

 

 

「ハッ!現在四皇カイドウ傘下の海賊団は海軍本部沖六キロの位置に停泊中、まるでこちらが出てくるのを待っているかのようにその場から動きません。」

 

 

かまってちゃんかよ

 

 

「海賊船の数は大小含め20、総員数は700名以上に上ると推測されます。」

 

 

「雑魚の数はどうでもいい、向こうから仕掛けて来るからには当然カイドウは乗ってるはず…じゃあ幹部は何人いたか確認出来ましたか?」

 

 

「観測班の確認では幹部クラスは『旱害』のジャック一名のみです。

残り2人の『災害』の姿は見受けられません。」

 

 

カイドウクラスのバケモンは1人だけか……

 

 

「カイドウは私がやるとして、誰かジャックを足止めしてて欲しいな…」

 

 

ボソッとそんな事を呟いてしまった、議事の間の全員が目をパチクリさせながら一斉に俺の方を凝視してる。

あれ?なんかおかしいこと言ったかな……皆目ぇ怖いよ?

恐る恐るオニグモ少将が聞いてきた。

 

 

「お言葉ですが大将白蛇、あのカイドウをお1人で相手するおつもりですか…?」

 

 

「え?他に抑えられる人が現戦力にいるんですか?

流石にジャックとカイドウ2人は私も面倒くさいのですが…」

 

 

「そのジャックとやらは私とイルミたんにお任せ下さいまし。

お姉様の戦闘の邪魔にならぬよう、全力で足止め致しますわ。」

 

 

「ん、今度は頑張る…!」

 

 

「ん〜そうか、じゃあ2人に任せてしまおう。宜しく。

後は布陣を……」

 

 

「ちょちょちょっと待ってください大将白蛇!

彼女達は雑用係ですよ!?

海賊の…よりにもよってカイドウの幹部をたった2人で足止めなど…」

 

 

あ、そうか。ここにいる人たちは知らないんだっけ?

 

 

イルミーナは幻獣種の覚醒能力者、スパンダムの時は油断したが弱点を突かれなきゃ完全狼化して無敵モードのイルミーナに敵う奴は殆どいないだろう。本人は優しい子だからあまり戦いたがらいけど。

テリジアも変態だけど自然系の水銀人間、覇気を使えない奴は相手にならないし元が武家の家柄だったので戦闘力は高い。武装色の覇気も心得てて戦力としては充分。

能力の使い方を熟知してるのも強みだ。それにこちらは若干戦闘狂の節がある。むしろやり過ぎないほうが心配になってくる。

 

 

「問題ありません、ジャックの足止めは2人に任せましょう。大体今は緊急事態、大物2人は我々で抑えますので残りの有象無象をお願いします。」

 

 

ジャックねー、白髪幼女で「かいたいするよ」とか言ってたら歓喜してたんだけど生憎デカブツの野郎だし慈悲は無い。

 

 

「白蛇殿がそう仰るなら…」

 

 

渋々納得してくれたみたい。

 

 

後は布陣を決めてー、兵の割り当てやってー、指揮はオニグモ少将に任せよう、カイドウ相手にしながら指揮とかそんな細かい事出来ないし。

俺の留守の間、本部の守りはゼファー先生に一任した。元大将だしも安心して任せられるね。

当の本人はぶーたれていたが…

 

ぶーたれたいのはこっちだ、就任期間が終わったらコング元帥に長期休暇を申請してやる。

 

カイドウかあ…やだなあ……帰れって言ったら帰ってくんないかなあ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんでもって時は動き出す。

 

俺氏、ただ今絶賛カイドウと死闘を繰り広げ中。

 

 

空中で衝突した後、お互い剣戟を繰り広げながらカイドウ傘下の海賊船へ着地、その後も俺は狂ったように繰り出される金棒の連続攻撃を二刀流で弾き続けた。

やっべえ、金棒のトゲ一つ一つからソニックブーム出てりゅ。斬撃が飛び散って巻き添え食らった海賊達が血飛沫上げながら吹き飛んでくよ。

それに伴って船自体もボロボロになっていき、マストなんて五秒位で根本が小間切れにされた。

 

あーこっち倒れて来た、蜃気楼で二つに割いてっと…

 

 

スパッと綺麗に切れました、いい刀は切れ味が違うネ。

 

 

「余所見してる場合かァッ!!!」

 

 

「余所見などしとらんわっ!」

 

 

切れたマストを吹き飛ばすように飛んできたカイドウの金棒を影炎の突き込みで応戦、勢いが殺しきれなくてお互い船から弾き飛ばされ、ちょうど向かいにいた別の海賊船へ突っ込んだ。

 

 

「な…なんだァ?」

 

 

「コイツ…海軍大将だ…!

やっちまええ!」

 

 

丁度船員の集まる大部屋に突入してしまったらしい、雄叫びを上げながら突撃してくる。

 

 

「今は非常事態につき降伏勧告は無しだ海賊共…寄らば斬る。」

 

 

一応の警告にも関わらず無策に突っ込んでくる木偶人形たち

 

 

はい此処で問題、タダでさえ人間のウン百倍もある龍の腕力。そんな馬鹿げた力を本気で使い、剣を振るとどうなるでしょう。

 

答えは当然、人体なんて軽く両断される。剣で受けるとかそんな生易しいことは出来ない、一太刀で上半身と下半身がサヨウナラだ。

 

 

「がッ…」

 

「ぴッ…」

 

 

哀れ海賊達は縦とか横とかナナメとかに両断されてその場に血をぶちまけた、わーグローい。やり過ぎたかな…力加減を間違えた。でもカイドウ相手だと下手に加減出来ないし…。もっと技術があればね、剣術の嗜みなんて持ってないからただ速度と力にものを言わせて今まで戦ってきた。

大雑把なんだよなあ俺の戦闘。

 

 

「ウォロロロロロロロッ!!!」

 

 

スドォンッ!

 

 

考えているうちに天井を突き破ってカイドウのご登場である。

 

 

「なかなかやるじゃねえか女ァ…。

こんなに楽しんだのはロジャーの野郎以来だぜ。」

 

 

「かの海賊王と同格とは光栄だが、海賊に褒められてもなあ…」

 

 

「ウォロロロロロ!言ってくれる!」

 

 

流れるように振り下ろされる巨大金棒を体を捻って躱し、月歩で空中を蹴って一気にカイドウの喉元へ。

 

ボッ!!! ガキィンッ!!!

 

音を超える速度で思いっきり喉元深く軍刀を突き刺してやった………が、駄目っ!!!

武装色の覇気でコーティングされた首元に俺の攻撃は阻まれた。

 

武装色の覇気は自分の強さを疑わないことで強化される、まあ四皇と呼ばれるくらいだから強さは疑う余地もないだろ。

にしても覇気なしとはいえ龍の力で突き込まれた一撃を止めるとは、流石ガープ爺さんと同じ世代の怪物。海賊王の宿敵達だ。

どんだけ海賊王強かったんよって話ですよね。

本来なら「強敵やん、よっしゃ龍なったろ!」てなる所なんだけど、周りの目があるからなあ……龍バレするのやだし。この姿のままカイドウの相手をしないといけない。

 

速さでは確実にこっちの方が上、でも向こうには『力』と『硬さ』がある。

人化した身ではパワーに制限がかかるし…どうしたもんかな。

 

 

「!?チッ…」

 

 

悪態をついたその時、目の前にカイドウの拳が飛んできた。

咄嗟に腕でガードするも体重差があるからどうしてもポンポン吹っ飛ばされてしまう。カイドウが落ちてきた穴から打ち上げられ甲板へと舞い戻った。

 

 

「くそ、どうも〝本物〟相手に人の身じゃ無理があるな…」

 

 

「無駄口叩いてる暇あんのかァッ!?」

 

 

いつの間にか甲板へ上がってきたカイドウから再び振り下ろされる鉄槌、こっちは防戦一方だ。

 

 

「死にたい割には愉しそうに戦うじゃないかカイドウ!」

 

 

「そうかァ!?ウォロロロロロロロッ!

確かにお前なら俺を殺せそうだなァ!もっとだ、もっと来いよォーーッ!!!」

 

 

「死に急ぎ野郎か貴様は…。何故そうまでして死にたがる!」

 

 

「俺には戦いしか無えからよォ、ロジャーが死んじまった今もう俺を殺せる奴ァ居なくなっちまった。

うおおおおおんッ!!!なんてこったあ……!

あのクソ野郎ォ……なんで死んじまったんだよォォ…ぢぐじょおおう…」

 

 

あれ?なんか…泣き出した…?

 

 

「お…おい…?どうしたカイドウ?」

 

 

なんか急に滂沱の涙を流しながら泣き始めたカイドウ、一体どうしたってんだ?

咄嗟にカイドウは泣きながら傍にあった一升瓶を引っ掴んで一気飲みを始めた。グイグイ飲み干して空っぽになった瓶を投げ捨てて俺の方を向く。

 

 

「おい…お前…まさか……」

 

 

「あのロジャーが死んだんだ!酒でも飲まなきゃやってらんねえだろぉおぉぉぉぉッ!」

 

 

「よ…酔った勢いで海軍に攻め込んできたのか…!?」

 

 

返事の代わりに拳が飛んできたので剣で弾く、すっげえ鈍い音が鳴って火花が飛び散った。

 

間違いない、コイツは…酔った勢いで海軍本部に特攻仕掛けてきやがった!

くっだらねえ!

災害クラスの人物が悪酔いで海軍攻めてくんじゃねえよ!

これも災難のせいなのか…

なんか急に緊張感無くなったわ!

 

だが攻撃は本物だ。金棒を使わなくても武装色で強化された腕は刃物より凶悪、まともな人間なら食らえばメタクソになる攻撃を剣で受け続ける。

 

 

「くそ……迷惑な奴だ……ならば…ッ」

 

 

大振りの一撃をパリィし、大きく後ろへ飛び退く。

そして軍刀二本を上段で構え、武装色の覇気と祖龍の紅雷を思いっきり流し込んだ。

迸る紅雷で刀身は輝き、そそり立つように天に向かって赤い光が伸びていく。

今は出力がどうのなんて言ってられない。

この酔っ払いを一瞬でも早く追い出す!

でも身バレするのは良くない、だからせめて全力の一撃をこの一太刀に込めて……放つッ!!!

 

 

「おお……なんだこりゃぁ…」

 

 

カイドウからそんな声が漏れた。

 

俺の周りには赤い雷が帯電し、凄まじい電磁波が足下の甲板を焦がしてる。

緋色の軍刀は紅白く光り輝き、長大に伸びた刀身は天に向かって直線を描いてた。

 

 

「受けろよカイドウ、酔い醒ましには丁度いいだろ……!!!」

 

 

「生意気なァッ!!!オオオオオオッ!!!」

 

 

全身を武装色で硬化させ、カイドウはトップスピードで俺に向かって突っ込んできた。でももう遅い!

 

 

「あああああああああああああっ!!!」

 

 

叫び声と共に振り下ろした光はそのままカイドウの肩から腰に掛けて斜めに大きく切り裂いて、後ろに連なる海賊船を海ごと真っ二つに断ち切った。

 

 

「「「う、海が…割れたアアアアアアッッ!!!?」」」

 

 

戦闘していた他の海兵も、カイドウの部下達も、皆さん戦うのを中断して呆気に取られながら割れた海を見つめている。

 

放った斬撃は威力を徐々に落としながらそれでも海を割りつつ突き進み、たまたま射線上に居合わせた大型の海王類を両断して黒焦げに変えた後やっと消滅した。

 

 

「………ガハッ!!!」

 

 

カイドウの身体に入った二本の斜め線から勢いよく血が吹き出し辺りに飛び散る。

海は割れてもカイドウは両断出来なかったらしい、頑丈な奴だ。

だがダメージは見た目以上だろう、ガクリとその場に膝をつき息も絶え絶えに傷口を抑えてる。

 

 

「酔いは覚めたかカイドウ、兵を退け。

もう勝負は着いた。今のを食らって五体満足でいられるのは驚きだが…」

 

 

「…………………」

 

 

軍刀を鞘に戻す、俺にはもう戦いの意思はない。今ので決着は着いているし、これ以上欲を掻いてもこっちの被害が拡大するだけだ。

というのは建前で、龍的にはハンデがある中俺ちょー頑張った。と自分を褒めてやりたい。んでそろそろやめたい。

それに此処で下手にカイドウに死なれて四皇が三皇に減り、原作が始まらなくなっても困る。カイドウ程の大物が死ねば新世界に与える影響は決して小さくない、彼のシマは制御を失って地獄と化すだろう。海軍がそれに巻き込まれる一般市民を全て救えるかと言われればそれは否だ。

 

龍のままならいざ知らず、今の俺は一軍を率いる大将。なら闇雲に海賊を手に掛けるのはマズイ。

思えば結構背負い込んでしまったなあ…それだけ人の世界に馴染めてるってことだけど。

 

今はあくまでも「カイドウ海賊団が海軍にちょっかいを掛けてきてそれを俺達がかっこよく撃退した」のを世間に演出出来ればハナマル。

 

 

「何故トドメを刺さねえ……お前は俺に勝ったんだろォ…?」

 

 

「その必要は無い、貴様は自分の立場をもっと弁えるべきだ。

と、今の貴様には何言っても無駄か……さっさと失せろ、我の気が変わらん内にな。」

 

 

「知らねえよ…俺は俺のやりたいようにやって来ただけだ……」

 

 

「餓鬼か貴様は、自由には対価を払え。下らん死にたがりで世間様に迷惑かけるより組織の長としてせねばならん事を考えろタチの悪い酔っ払いめが。」

 

 

まだ他の船は海賊達と激しい戦闘を繰り広げている、捕まえられそうなのは捕まえるとして…さっさと事後処理を行おう。

これ以上の戦闘は時間の無駄だ。

 

 

「説教なんて柄でも無いな……。

じゃあなカイドウ、ハンターまでとはいかないが貴様との戦いは楽しかったよ。」

 

 

そう言い残してカイドウの下を去る、去り際カイドウがなんか言ってた気がするが聞こえなかった。

 

 

さーて、オニグモ少将達になんて説明しようかね

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?ここまでの様ですわ。」

 

 

『……うん、みらの方終わったみたい。』

 

 

そう呟いてテリジアとイルミーナの2人は向かい合うジャックへの攻撃を辞め、やれやれと息を吐いた。

 

周りには全身に切り傷をつけ倒れたジャックの部下達、小さくうめき声を上げているので辛うじて生きていることは確認できた。

その中で傷つきながらもジャックは忌々しそうにテリジアに吼える。

 

 

「テメェ等、まだ戦いは終わってねえぞ……!」

 

 

「いいえ、もう私達の役目は終了致しました。

私の役目はお姉様とカイドウの戦闘の邪魔にならないように貴方を足止めすることですもの。」

 

 

『うん……向こうのしょうぶは着いた。

なら、もうおわり。』

 

 

「巫山戯んなァ!」

 

 

激昂するジャックを気にも求めず2人は緊張を解き、テリジアは狼化したイルミーナに腰掛けその場を去ろうとする。

 

 

「ではごきげんよう、お馬鹿な海賊さん達。次会うときはきちんとお姉様から殺しの許可を頂いて来ますわね♡」

 

 

「待ちやがれっテメェ!!!」

 

 

ゾウゾウの実の古代種を食べたマンモス人間であるジャックはすぐさま巨大なマンモスの姿へと変わり、その長い鼻でイルミーナを握り潰そうとするが速度で勝る巨狼を捉えることは叶わず虚しく空を切った。

 

 

「あらあらお行儀の悪いお鼻ですこと。アデュー♪」

 

 

能力によって空気を足場に駆けていくイルミーナに乗って、テリジアはジャックとの戦闘から離脱した。

 

 

 

 

 

 

『てりじあ、ちゃんとみらの言いつけまもったね』

 

 

「勿論ですわ。きちんと全員死なない程度に痛めつけ、ジャックの方も殺さず足止め出来ましたもの。

これでお姉様に褒めて頂けるかしら…ふへへ…ふへへへへ……駄目ですわお姉様続きはベッドの上で……」

 

 

『…………?』

 

 

自分の背で身悶えするテリジアに疑問符を浮かべながらイルミーナは味方の軍艦へと駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

ミラとテリジア、イルミーナはガスパーデの指揮する自身の軍艦へとほぼ同じタイミングで降り立った。

 

 

「おう2人とも、いいタイミングだ。

言いつけ通り足止めしたな、ご苦労さん。」

 

 

「お姉様の御用名でしたらこのテリジア、例え海賊王でも瞬殺して見せますわ!」

 

 

「いや殺すなよ。」

 

 

「頑張った、ほめてほめて」

 

 

「よーしよしイルミーナ、いい子だなあ。」ナデナデナデ

 

 

「ん…//」

 

 

「ああんお姉様!私にもご褒美を!お帰りのチューを下さいまし!」

 

 

「やだ(無慈悲)」

 

 

「ぁあんっ//蔑むようなお姉様の視線…イイっ♡」

 

 

「大将、じゃれてるとこ悪いがオニグモ少将から通信が入ってんぞ。」

 

 

呆れたようにガスパーデが電伝虫を手渡し、ミラはそれを受け取り受話器をとる。

 

 

「少将、こちらは万事片付きました。そちらは?」

 

 

『問題ありません、カイドウとジャック以外は有象無象ですな。

カイドウはどうなりました?』

 

 

()()()()()()()()()()()()()

だがかなりの深手を負わせた、暫くは大人しくしているでしょう。

オニグモ少将は各艦と連携を取ってそのまま逃げる海賊達を捕まえて下さい。終わったら今度こそ昼食にしましょう、お疲れ様でした。」

 

 

『白蛇殿がカイドウを抑えて下さったおかげです、後はこちらにお任せを、では。』

 

 

ガチャ

 

 

受話器を置き、軽く息を吐くミラ。

カイドウを撤退させるまで追い込んだ事により、頭目を失った海賊達は既に散り散りに逃げ始めている。

 

 

マリージョアから帰ってきたセンゴクさんとコング元帥になんて報告しよう。

ミラはどうにかあの苦労人の胃を傷めないような説明を考えよう、と頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイドウによる海軍本部襲撃事件はカイドウ傘下の海賊団600名あまりの捕縛と殺害、更にカイドウ本人にも重傷を負わせ撤退させることで幕を閉じた。

新聞各社はこの大勝利を大々的に取り上げ、先のゴールド・ロジャー処刑に次ぎ改めて「強い海軍」を一般市民に向けて誇示する事ができたといえる。

新聞の一面には専属カメラマン、アタッチャンから提供された「後ろ姿の海軍大将と思わしき人物が赤白い光の柱を振り下ろし海を割っている姿」の写真が見出しに大きく飾られ、名前のみ公開されている新大将〝白蛇〟の憶測で人々の話題は持ち切りだった。

性格、容姿は一切不明。

 

曰く「海軍の作り出した改造人間」

 

曰く「世界政府が送り込んだ人間兵器」

 

曰く「海の死神と契約した海兵」

 

等々、噂は後を絶たず話は尾鰭に翼が付いたように世界各国へ広がっていった。

海軍が隠し持つ秘密兵器、それが大将白蛇。カイドウすらも退けるその実力に世の海賊達はその名を小耳に挟むようになる。

そして聖地マリージョアで世界会議の間警備をしていたセンゴク大将を初めとする諸将達も無事海軍本部へと帰還し、海軍はいつもの平和を取り戻していた。

 

 

 

◆ー◆ー◆ー◆ー◆ー◆ー◆

 

 

 

 

「だーかーらー、白蛇は期間限定だと話しただろうが!

もう大将なんぞなるもんか!私は休暇が終わったらいつもの准将に戻らせてもらうからな、分かったかジジイ!」

 

 

『世間は皆、謎の大将〝白蛇〟に期待を寄せている。

海軍本部上層部も君の大将入りを歓迎するだろう、軍内の君の知名度も折り紙つきだ。大人しく大将の座に着いてはどうかね?』

 

 

「こ・と・わ・る!!!

センゴクさん達への義理で海軍本部は守ってやったんだ、これ以上望むのは虫が良過ぎるぞ。

それに大将などになってしまったら自由にやれんじゃないか、私は仕事に殺されるのは御免こうむるよ。

……とにかく私は大将など絶対に就かんからな!中将までで十分だ!」

 

 

『………承知した、中将ならば文句は無いんだな?』

 

 

「……………???なんだ急に…」

 

 

『早速コングに掛け合ってみよう。

休暇明けを楽しみにしていたまえ。』

 

 

「おいコラジジイ、何を企んでる?

おい!おいいいいいいいいッ!!!」

 

 

ガチャン

 

 

 

「……………………何だったんだ今のは…」

 

 

「ぶわっはっはっ!ミラ、ご愁傷さん!煎餅食うか?」

 

 

「せっかく肉を焼いているのですからガープ中将も煎餅食べてないでお肉を食べて下さいまし!」

 

 

「大将になるのになんか困る事でもあるんかのォ…?」

 

 

「おじちゃん…お肉やけた。食べよ」

 

 

「おお、イルミーナも尻尾が燃えんよう気ゅうつけんとなぁ」

 

 

「燃えない……たぶん」

 

 

「ミラ、変な顔してないでお前も食えよ。俺とボルサリーノで全部食っちまうぞ?」

 

 

「オォー…こりゃ美味い、いい焼き加減だァ。

ステラちゃんは料理上手だねェ〜、いいお嫁さんになるよォ。」

 

 

「やだもうボルサリーノさんったら。」

 

 

「こっちも焼けたよ、上と話が終わったんならさっさと手を洗ってきなミラ。ちゃんと綺麗にしてからじゃないと食わしゃしないからね。」

 

 

「ウゥ…ミラが大将になってくれれば私の仕事も少しは……イヤ甘えなど……だがしかし……」

 

 

「センゴクお前ェ…俺が辞めた後結構苦労してんだな……」

 

 

「お姉様ああああ!私はお姉様がどんな高い地位に就こうとも一途にお慕いしておりますうううううう!」

 

 

「暑苦しい!バーベキューの熱より暑苦しいぞテリジア!お前銀だから熱せられて余計暑苦しい!

は〜な〜れ〜ろ〜〜ッ!」

 

 

「ああんいけずぅ〜〜、お姉様ああああああ♡」

 

 

 

 

 

 

◆ー◆ー◆ー◆ー◆ー◆ー◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海軍本部履歴 ㊙︎

〇〇年ーー月××日 付

 

元海軍大将代理〝白蛇〟ミラ、世界政府と海軍本部上層部の意向により新たに新職〝中将総督〟に任命

 

尚、本案件は秘匿レベルをS+とし詳細な情報は海軍大将及び元帥の許可を得た者のみ公開を許すものとする








次回、他所の人達

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