ちょっとだけ閑話挟みます
◆復活のロシナンテ◆
「今日から現場復帰だ。本来なら先の事件の責任を取って私の隊に入れるのが常道だが…理由あってな、お前の再配属先を決めておいた。
現状此処が私も最も信頼できる部署だと確約できる、部隊長の許可も貰っているから午後からでも挨拶に言っておけ。」
そう言って目の前の恩人は俺に1枚の書類を手渡した。
俺は記憶を失ったらしい。失ったっていっても断片的で、自分が何処の誰でなんて名前なのかは分かる。消えたのはここ数年の記憶だった。
俺は何処かの海賊団に潜入捜査をしていたらしい、そして死に掛けたショックで命と引き換えに記憶を失った。
俺の恩人、センゴク大将は「ゆっくり思い出していけばいい、まずはお前の身体が第一だ。」と無くなった記憶については深く言及せず、その意向は海軍全体に行き届いているようだ。
「生きていてくれて良かった」とボロボロ泣きながら話してくれたセンゴクさんの顔は初めて見たぜ、それだけ俺は愛されてたんだな……
「分かりました。海軍本部大佐ロシナンテ、本日をもって現場に復帰致します!」
センゴクさんの前で最敬礼をし、執務室を後にする。
去り際、背中から「頑張れよ…」と小さな呟きが聞こえたような気がしたが…気のせいだろうか…?
地図を頼りに本部内を歩く事数分、挨拶の為に探していた中将の部屋にたどり着いた。
部屋の前に立ち、一拍置いて呼吸を調えてから白塗りの扉をノックする。
『入れ』
澄んだ声が聞こえ、ノブを捻る。
「失礼致します、本日より中将殿の部隊に配属になるロシナンテと申します。」
お辞儀をし、顔を上げたその先には…
「ああ、宜しくロシナンテ。
センゴクさんから話は聞いているよ、ようこそ我が部隊へ。」
奥にある執務机に腰掛け優雅に珈琲カップを傾ける美女の姿があった
ニコリと微笑む彼女に思わず目を奪われる。紅い瞳に白亜の長髪、一国のお姫様と言われても納得してしまう程整った顔の美人だった。
俺は今日からある部隊に配属される
海軍本部中将総督ミラが隊長を務めるこの部隊に
………
………
………
「パドル展開!全力で島から離脱だ!
モタモタすんな巻き込まれるぞォッ!!!」
「りょ…了解!
で、ですがガスパーデ准将。島にはまだお2人が…」
「ほっとけ!元はと言やァあの2人が起こしたことだ。そのうち勝手に帰ってくる!
全く…島に篭ってる海賊団を全滅させるだけだってのに、どうしてこうなった…」
そう言いながらガスパーデ准将は軽く舌打ちをし、ドカドカと足音を荒く響かせながら船室へ入っていってしまった。
すぐさま軍艦内に格納されてたパドルが展開され音を立てて動き出し、180度旋回した後島を離れていく。
俺は島を…いやもうこれは島と呼んでもいいのか分からないが…島だったものを凝視した。
「………信じられない、これがたった2人の所業なのか?」
「えーぞーでんでん虫でみらに知れてるから、多分後ですごく怒られる。」
そう言いながら隣に座り島の惨状を映像記録用の電伝虫に収める小さなメイドは呟いた。
海軍の船に何故こんな少女が乗っているのかは分からないが…どうやらミラ中将お付のメイドらしい。
この子も脚を船縁からぷらぷら揺らしながら溜息を吐いている。
そもそもこんな非現実的な光景を目の当たりにしてるってのにこの船の海兵たちは落ち着き払って船を動かしてるし、これがこの船の日常なのか!?
……今俺の目の前にあるのは原型を留めないほど破壊された島だ。
元は偉大なる航路でも有名だった別名「海賊島」、危険な海賊達が徒党を組み無人島一つを占拠して巨大な組織を作り上げた。島周辺に点在する巨岩の影響で渦潮が荒れ狂い海軍の軍艦は近寄れず、この島に住む海賊のみが渦潮に呑まれないルートを知っているらしい。島には自給自足の環境が整っていて鍛冶屋や病院などもあったようだ。
まさに天然の要塞、それ故に今まで海軍でも迂闊に手を出す事が出来なかった。
この組織の船長を務めるのは懸賞金3億7000万ベリー、〝水撃〟ガノス。嘗て四皇の1人と戦り合ったとも言われる男だ、その下に総懸賞金額8000万越えとなる15人の強者幹部がいて更に下っ端含め総員数は5000人を超えるとされている。
規模が規模だけに被害も大きく、センゴクさんも頭を抱えていた海賊団だ。
それ程の大組織「海賊島」が今となってはその栄光は見る影もなく、紫色の氷が島中から巨大な剣山の様にそびえ立ち、黒炎がその隙間を縫うように這いずり回る。時折プロミネンスの様な炎の飛沫が島の至る所から舞い上がっていた。
傍から見てもひと目でわかる、もうこの島に人間はおろか生物だってただの1匹も住めなくなってしまっているだろう。
この分じゃ海賊達は全滅だ。
呆然と島を眺めていると同じ階級で先輩のゾルダン大佐が横へやって来てボヤく。
「まあ…信じられないとは思うがこれがこの部隊の日常なんだロシナンテ大佐。
そのうち慣れるさ。」
慣れで片付けていいモンなのか…?
その時、島から船まで一筋の氷の道が生成されてその上を二人の人影が歩いて来るのが見えた。
あの人達が帰ってきた、どちらも男性ものの黒スーツを着込み一方の女性は黒焦げの海賊らしき男を背負っている。
双眼鏡で確認する、何やら言い争いをしているように見えるが…
ぷるぷるぷるぷる…ぷるぷるぷるぷる…
ゾルダン大佐の腰に掛けられた電伝虫が震え出す、相手はミラ中将だった。
「はい、ゾルダンで御座います。
………はい、………はい。
承知致しました、直ぐに御二人を回収した後手配致します。では…」
畏まって受話器を置いた後、船全体に聞こえるよう大声で指示を下す。
「総員、レム様とアン様を回収した後当海域を全速で離脱!
ミラ中将が島を消すぞ!」
…は?島を消す…?
「てれれれってれ〜、にゃんぱす〜こんぱす〜」
隣で映像記録用電伝虫を持っていたメイド娘が立ち上がり、変な効果音を言いながらポケットから取り出した銀色のコンパスを島へと向けた。
時を同じくして氷の道を辿ってたどり着いた2人が甲板まで上がってきた、相変わらず言い争いを続けてる。
「だ・か・らぁ!レムが余計な事しなけりゃ我が全部片付けてたんだよこのバカ!」
「アンこそ、ミラから言われた命令を理解していない。危うくまた捕縛対象の海賊まで殺すところだった。」
「いいじゃねえか人間の一匹くらい、海賊の殲滅が目的だっただろ!」
「この男だけは生きたまま捕らえろと言われた筈、あのままだとアンが消し炭に変えていた。」
「島を凍らせた奴が言うセリフか!」
「あれは消火活動。」
「消火できてねえし!どっちかってとお前の毒がトドメだろコレ!」
「おかえりなさいませレム様、アン様。……ミラ中将が御立腹ですよ。」
ゾルダン大佐は帰ってきた2人にうやうやしくお辞儀をし、下ろされた海賊を手配者リストと照らし合わせた。
……ソイツの顔は殆ど黒焦げで死に掛けだったが。
「……レム様、残念ですがこの男は違います。
手配していたのはこの男ではありません。」
俺も手配書とその男を比較してみる、黒焦げで分かりづらいが確かに手配書の男とは別人だった。
「確かに…違うな。
だがこの島にガノスは居るはずなんだが。」
「島があの状態じゃ奴は消し飛んでるな…」
「……うっかり」
「あっハハハハ!間違えてやんの〜!」
レムと呼ばれた女性が落ち込み、それを指さしながら隣でアンが笑う。
やがて立ち上がり呟いた。
「…島へ戻って今度こそそいつを取ってくる。」
「それは無理です、ミラ中将はこの島の惨状を全て見ておられます。
御二人の行いでもはやこの島は死に体、上層部と掛け合った結果先程全ての証拠を消すと仰いました。」
「そんな…ワタシは悲しい…。」
「それじゃあハズレのコイツは要らねえよな?捨てるぞー」
落ち込むレムさんをよそにあっけらかんと言い放ったアンさんはぐったりと項垂れる海賊の襟首を掴み信じられない肩力で海へ放り投げた!
「クルスー餌だー!」
ぶん投げられた海賊は綺麗な放物線を描いて宙を舞い、海へ着水する。そして海面がモコモコと盛り上がり…巨大な黒い海王類が現れ海賊を海底へ引きずり込んだ。
……何を言ってるのか分からねえと思うが俺も何が何だか分からねえ…。
さっきの海王類もだが…女2人であの島にいた5000人以上の海賊達を全て叩きのめし、更に懸賞金3億越えの賞金首を知らないうちに殺し、島をあんなふうに変えちまうなんて…一体彼女達は何者なんだ?
「かうんとー!さーん!」
突然メイド娘が大声で叫んだ。びっくりしたのも束の間、ゾルダン大佐が負けじと甲板全体に響くように叫ぶ。
「総員、対衝撃態勢ィーッ!!」
「にーい!!」
「ど、どういう事だゾルダン大佐!?
一体何が始まるんだ…?」
「いいから思い切り耳を塞いで口を開けいてろ!鼓膜がやられるぞ!」
わけが分からないが取り敢えず言われた通り両耳を手で塞ぎ、口を大きく開ける。
「いーちっ!!!」
突如ゴロゴロと雷鳴が唸り始め、島を覆うように暗雲が展開された。空気も帯電しているのかピリピリと肌につく。まさか…
「ぜろっ!!!」
ーーーーーーー…ッッッッ!!!!!!
メイド娘の叫びに被せるように眩い光が島を襲った。
続けて轟音が谺響する、鼓膜なんて一発でお陀仏になる爆音だった。ゾルダン大佐には感謝せねば…
………
ようやく耳がキンキンするのも収まったのであたりを見回す。
……あれ?おかしいな……本来あるはずのものが無い。
島が…跡形も無く消滅していた
まだ空気は帯電していて辺りからピリピリと紅い電光が走ってる、島があったはずの場所は底も見えないほど深い穴と化していて、穴を埋めるように海水が滝のように流れ落ちていた。
わー虹がキレイダナー
いかんいかん現実逃避してる場合じゃない。
まさかこれがミラ中将の仕業なのか…?
彼女は本当に文字通り島を消してしまったのだ
………嘘だろ?
「うっわあ…ホントに消しちまった。
おっかねえー。」
こんな超常現象が起きているにも関わらずアンさんはケラケラ笑っている。
「あぁ〜…うるっせえなァ…
野郎共、本部に帰るぞ。また始末書だ…」
船室から出てきたガスパーデ准将は大穴を眺めながらボヤき、海兵達を促すと何事も無かったかのように船は動き始め海軍本部へ向かって突き進む。
この部隊、一体なんなんだ……
◆
海軍本部、ミラの執務室
「なあお前達、私は言ったよなあ?」
「「………」」
「『他はどうでもいいからガノスだけは生かして連れてこい』と確かに伝えたはずなんだがな?
何故島は猛毒の氷と獄炎に覆われてて、ガノスも燃え滓になってたんだ?」
「………」「……フュー…フュー(口笛)」
「オマケにあの島はもう使い物にならんから消さなきゃならなくなった、また海図を書き換えなきゃならんのだが?」
「………」(目逸らし) 「フュ〜フュ〜……」
「反省しとるのかお前らぁ!特にアン!」
「…痛い」 「ほげっ!?痛ってぇ!!!」
ガツンと大きな音が響いた後、レムとアンの頭には漫画みたいに大きなたんこぶがひとつずつできた。
アンの方は強めにやったのでカーペットの上をゴロゴロ転げ回ってる。
ごきげんよう、祖龍です。
アンが新しく加わって、そろそろ本格的に七武海を探そうと思ってる今日このごろ。五老星達にレムとアンを紹介して、8人でお茶を啜っていた時の事だ、唐突に閃いた。
「そうだ、大将白蛇を複数人にしてしまおう」
誰もが恐れる大将白蛇は正体不明、だから海賊達が脅威を抱き四皇や世界政府と同じく均衡を保つ為の抑止力となっている。
その正体不明をもっと確実なものにする為にレムとアンにも白蛇の仕事をさせようと考えた、戦闘スタイルも能力も違う3人を1人の〝白蛇〟として使い回す事により、より白蛇の正体を掴みづらくするというわけだ。
それに俺も楽したいもんね(ボソッ)
まあそれもこれも七武海が完全に再編されるまでの抑止力だし、ちゃんと七武海の地盤が固まれば白蛇は真の意味で〝幻〟になるだろう。
どうせじーさんがたは残ってくれって駄々こねるだろーけど
発案は認められ、それからはちょくちょく大将の仕事にアンとレムを同行させている。
俺も偶に忘れるんだが海軍とは海賊や犯罪者をとっ捕まえて罰を与える組織だ、いつも殺しの仕事しか回ってこないから忘れがちになるケド。
つまり我ら龍はそのあまりある力をコントロールし、殲滅ではなく捕縛を行わないといけない!白蛇してるとホント忘れそうになるケド!
勿論今回の任務も然り、今日は二人による通算6回目の海賊捕獲の任だったわけだが…
「まさか月に2回も島ごと証拠隠滅するハメになるとは……測量士と航海士が可哀想になってくるな。」
海域の地図を一から書き直さなきゃならなくなる海軍の測量士さんと本来島の磁力を辿ってあの島へたどり着くはずだった航海士諸君にはマジすまんと思ってる。
こ…これは
レムには万一を考えて毒の使用を許可してた、アンにもかなーり念を押して理性的な行動をしろよと伝えてある。
にもかかわらず6回やって捕獲した
勿論捕獲を逃した海賊、及び犯罪者は全員燃え滓か跡も残らないほどバラバラ(物理)になってる。
おかげで白蛇の噂はあれよあれよと膨れ上がり、複数の能力を使うという噂から「八面七股の大蛇になった」などと恐れられるようになってしまった。
もはや空想上の化け物扱いだよ、それってどんな八岐大蛇?
まあ正体が紛れるからいいんだけどね
「全く………すまんなロシナンテ大佐、見苦しい所を見せた。」
「い、いえ…そんなことは…」
ほらー新人のロシナンテ君おいてけぼりじゃん、ウチじゃ珍しい新入隊員なんだから変な誤解されたら困るよ。
タダでさえ海軍は人の生き死にで常時人員不足なんだから。
ロシナンテ君も珍しい悪魔の実の能力者なんだし、大切にせんと。
「レムとアンはこの後残れ、それ以外は解散。諸君、今日も御苦労だった。」
「「「ハッ!」」」
堅苦しく敬礼して執務室を出ていくロシナンテ君達。部屋には俺とメイド達、アンとレムが残される。
「お前達にはまだ訓練が必要だな…
午後からジャンクヤードに行くぞ、そこでまた練習だ。」
「……了承、仕方ない。」
「ええ〜…」
文句言うんじゃありません!
あぁ〜七武海候補1人潰してしまった…
…
…
…
海軍本部南の外れ、殆ど誰も立ち入らない
海軍本部は何隻もの軍艦を保有してる、ガープ中将や一部の将校は勝手に改造したりして私物化しているが殆どが海軍もしくは世界政府の所有物だ。
形あるものはいつかは壊れるもの、いかに軍艦と言えど災害や敵船の砲撃、強力な能力者による襲撃によって少なからずダメージを負う。そして修理に限界が来た場合、ここへ運び込まれ解体されるのだ。
言うなればここは役目を終えた船の墓場、場所が場所なので大声で騒いでも誰にも迷惑はかからない。
実は俺氏、表面上は此処の責任者なのだ。壊れた船を解体するのも立派な中将の仕事のひとつ、裏方作業だけどね。
俺氏の裏の顔は中将の大元締め、デカイ役をさせて貰ってるから表の顔はなるべく目立たないようにセンゴクさんに頼んでこの仕事を斡旋して貰ったのさ、戦闘が華の海軍で誰もこんな地味な仕事やりたがらないからね。
それに俺、前世がアレなせいでこういう地味な仕事結構好きだし。
「よーし、では今日もレッスンだ。
今日のイントラクションはこれ!」
青空教室の下、レムとアンのドラゴンコンビを正座させ手元のホワイトボードにでかでかと今日の目標を書く。
「「必殺技……?」」
そう、必殺技だ。
古今東西、バトル漫画には必殺技が付き物!拳然り剣術しかり何かしら叫んで攻撃を放てば気合いが入る!威力も上がる!
それに技に名前を付けておけばどんな加減で攻撃をすればいいのか基準がわかりやすくなる、界王拳だってベジータに合わせて3倍とか20倍になるだろ?アレだよ。
威力が足りないと思ったら「超」とか「真」とか付けて足していけばいいんだよ、後付け後付け。
身体鍛えりゃ落雷だって生身で受けきれるワンピの世界だもん、どうにかなるさ。
「そこで今日はお前達に必殺技を考えて実践してもらう、レムには前に教えたが…新しいのを作るといい。
口から火を吐くだけが龍の全てじゃないだろう?人の姿で力をコントロールしろ。
本来なら私自らが指導しないといけないんだが…私はこの後総会に呼ばれているので代理を立てた。ホラ先生共、入ってこい。」
「先生か、的を射ている。」
「今日は傍観するつもりで来たんだが…強き者の気配がしたのでな。」
廃材の山、その奥から出てきたのは毎度おなじみ、気付いたらいる世界最強の剣豪ミホ君と最近ベガパンクとよく話してるところを目撃するバーソロミュー・くま君だ。
七武海繋がりで今日は来てもらった。なおクロコダイルはアラバスタでの仕事が忙しいらしい、アイツが一番必殺技持ってそうだけどまた今度頼む事にしよう。
「総会は夕食までには終わる予定だからそれまで励め、ただし2人を絶対に殺すな。うっかりでも許さんからな。
テリジア後は頼んだぞ。イルミーナもクルスの世話をしっかりな。」
「かしこまりましたわお姉様、行ってらっしゃいませ。」
「いってらー」
テリジアとイルミーナに見送られ廃船置き場を後にする。
因みにクルスも普段は廃船置き場で飼っている、広いから迷惑かからないしね。
「中将総督、〝約束〟を忘れるな。」
「分かってるよくま、約束は守るから安心しろ。」
くまを呼び出す際に交わされた〝約束〟もあるが今は総会に急ごうかな。
…去り際後ろの方から「まずは手合わせ願おうか、強き者よ」とか聞こえた気がするけどキニシナイ。
ミホ君……戦車に乗って弱小校を全国優勝まで引っ張りあげそうなあだ名だな…別の呼び方考えよう。
は〜総会か〜…今月のもどーせ面倒臭いんだろーなー
◆
センゴクside
海軍本部『議事の間(和室)』
海軍本部では月に一度、中将以上の将校が一堂に会し元海軍中将…つまりOBと談話する機会が設けられている。
談話する、と言っても圧迫面接の様なのもので、日頃の戦果を発表したり来期の為に予算を請求する訳なのだが…正直毎回気が重い。
その理由はOBの態度の悪さにある、クザンやボルサリーノを見てわかるとおり年齢と階級が比例しない現体制であるがコング元帥や私、おつるさんやガープの若かった当時の海軍は年功序列制だった。
海軍で生き残り、歳を取れば自動的に階級は上がる。一功立てようものなら聖地で老後が過ごせるオマケ付き、なんとも美味しい話だ。
マリージョア側もロートルの将校はいざという時天竜人の護衛に使えると画策しての事だろう、受け入れに友好的だった。
だがそれは海賊王や若い頃の白ひげ、カイドウが海に蔓延っていた頃の話。あの頃は平和ではないにしろ海賊にも一定の〝モラル〟があった。(所詮海賊にモラルもクソもないが)
だが今となってはどうだろうか。海賊王の死後、世はまさに大海賊時代。
各地で起きる木っ端海賊による無差別な略奪や虐殺、強姦、暴行、挙句誘拐まで、数え上げればキリがない。年々それは増え続け通報は後を絶たないのが現状だ。
聖地に上がったOB達は今の現場の苦労を知らんのだ、なのに我が物顔で我々に談話という名の〝文句〟を付けてくる。
「それで?来期の海軍の予算だが、船の修理費が前期の1.5倍も増えているぞ。
修理費が増えるということは乗り手が弛んどるという事。センゴク大将…これについて言いたい事はあるかね?」
嫌味ったらしいジジイだ、弄る気満々だな。
今私の横にはおつるさん、ひとつ空席が空いてクザン、ボルサリーノ、サカズキ、そして一番端にミラを座らせている。ガープも呼んだが来なかった。
「それについては先程医療費の件で御説明した通りです。海軍は時代の転換期を迎えている、昔に比べ数も多くより悪質な海賊達が蔓延る様になった。ならばこちらも断固たる意志で対抗せねば、カネの犠牲で済むなら部下達を失うより安いものです。」
「それは我々が職務を甘んじていた、と言いたいのかねセンゴク君。」
「いえそういう訳では…」
ああもうネチネチと面倒臭い、こちらの報告を根掘り葉掘りほじくり出してきやがって…
偶におつるさんが庇ってくれたりもするが基本私に嫌味が飛んでくる。
クザンは今にも寝そうだし、ボルサリーノとミラはいいとしてサカズキは青筋浮かべながら今にもOB達を焼き殺しそうだ。
頼むから面倒事にはしてくれるなよ。
うっ胃が…
……今日は久々に1杯引っ掛けて帰ろうか…
「まあまあ、お茶のお代わりを注ぎましょう。」
ミラの言葉でハッと我に返る、いかんいかんいくら心労が溜まっているとはいえしっかりせねば…こんなでは来たる次期元帥の座など到底耐えきれない。
「船舶の修繕費については担当の私からもひとつご報告が、ウチの部隊の船大工からの提案でして。
『オックス・ロイズ号の改修工事をさせて欲しい』との事です。先代中将方と共に海軍史に遺る活躍をされ、今は廃船置き場の奥で眠っているあの船舶を是非蘇らせたいと。
戦闘には出せずとも式典等でアピールすれば海軍の威厳向上にも繋がりますし、経済的にもプラスになる事が多い。
是非御一考のほどをお願いします。」
ミラ…そんな事を考えていたのか。
オックス・ロイズ号ははるか昔に海軍で活躍した歴戦の軍艦、それに取り付けられた『オックス・ベル』は今でも年始に行われる式典で使用される。
確かにオックス・ロイズ号をもう一度浮かべる事が出来れば話題になり結果的には経済面も潤うだろう。
わざわざOBの前でその話題を振ったのは修理費の話題を逸らすためか。海軍の誇りや威厳が大好きな老人達だものな。
上手いなミラ
「おお…あのオックス・ロイズ号を…」
「時間と費用はどのくらい掛かりそうかね?」
「最低でも5〜6ヵ月は掛かるかと、翌年の式典には間に合います。
費用も廃船置き場の使えそうな素材を使えば戦艦一隻作るより安く出来上がるでしょう、後はお上から許可が頂ければ明日にでも着工出来ます。」
「よし直ぐにやりたまえ。オックス・ロイズ号の勇姿、もう一度私達に見せてくれ。」
OB達はかなり乗り気のようだ、最早嫌味の事など忘れきって過去の栄光に心を踊らせている。
「承知しました。ただ着工の間本来の業務が疎かになっては元も子もありませんので、予算をすこーし上げていただけると楽なのですが…」(チラッチラッ)
「おいミラ、そんな事を…」
「構わん構わん、もう一度かの船の勇姿を見られるのなら安いものだ。来年を楽しみにしているよ。」
OBの取りまとめ役、アーサー殿は笑いながら承諾してくれた。
…私が話してた時と随分態度が変わってないか?
その後の総会は特筆すること無く終了、結局来期の予算は予定を大幅に上回る額が支給される事になった。
マリージョアに戻る為OB達は去っていく、やがて私達だけが部屋に残された。
嬉しい…いや嬉しいんだが…複雑な気分だ…
「ミラお前、何処でオックス・ロイズ号の復元工事なんてネタを仕入れてきたんだ。」
「ん?私は墓場(ジャンクヤード)の管理人だぞ?初めてあの船を見て歴史を知った時から計画していたさ。」
飄々と言ってのけるミラに俺もおつるさんも開いた口が塞がらない。
私は戦術ならば1戦に二百は考えつく自信はあるがこういう駆け引きは少々不得手だからな、まだまだ精進が足りない。
「……ペンドラコ、アーサー。元海軍本部中将、センゴクさん達の世代の先輩で今は聖地マリージョア第居住区6区画A-65番地に妻と孫2人の四人家族で世帯を持つ。
趣味はボトルシップ作り。
かなりの頑固者で海軍の威厳を自分のプライドより優先する傾向にある、それ故に海軍に益があると言えば話に乗ってくると踏んだ次第だ。」
そう手元の手帳をスラスラと読み上げながら話すミラ。
「因みにあの場にいたOB全員は既にリサーチ済みだ。
五老星(ジジイ共)が言っていたぞ?『情報は力だ』とな。
組織に属する以上会議室で戦いも起こる、私なりに波風立てず世をうまく渡る為の処世術というヤツだよ。
助け舟を出すタイミングが少し遅かったのが悔やまれるが…センゴクさんの負担が少しでも軽くなるかと思ってな、どうだった?」
「うん…とても有難いよ…すまないなミラ…」
とても…とてもいい子だ…どっかのバカにも爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
その時ドカーン!と爆発音が響いて会議室の扉が吹っ飛んでいった、ウワサをすれば馬鹿のご登場である。
「ようセンゴク!もうOB連中との談話は終わったかのう?」
こ、この男は…扉まで壊してこの態度…我慢ならん!
「…………(無言の腹パン)」
「おっふぅ!?センゴク!?
何でそんな怒っとるんじゃ、いつもの事じゃろう!」
「喧しい、キサマはミラの爪の垢でも煎じて飲め…」
「何でこいつ今日こんなに辛辣なんじゃ!?」
「擁護しやしないからね。」
「右に同じじゃ。」
おつるさんとサカズキが呆れ顔で呟いていた。
クザンはグーグー寝息を立てている…ボルサリーノ貴様もか!
こいつらが未来の大将候補だと思うと気が気でならない…
会議もお開きとなり、ガープに扉を直させてから他の者達が帰ったのを確認して会議室の戸締りをした後ミラと共に自身の執務室に続く廊下を歩く。
ああそうだった、これをミラへ報告するのを忘れていた。
「そういえば、お前が目をつけていた七武海候補のゲッコー・モリアだが…新世界にてカイドウと対峙したらしい。結果モリアは惨敗、かなりの深手を負い行方不明になったそうだ。」
「なんだそうなのか、
まあ他のを探すとするよ。」
七武海の再編成は急務だが白蛇がいれば充分海賊達への強い抑止力となるし、正直な所ならず者共よりミラの方が信用できる。
海賊共なんぞに海の平和を任せられるか。
だがミラ本人はいつまでも白蛇でいる気はないようだし…ままならんものだな。
そういえば…
「聞きたかったんだが、君が連れてきた新しい龍達…レムとアンはちゃんと人の世界を学んでいるのか?
本部の測量士が過労で倒れそうなんだが。」
龍の存在を秘匿するためミラには判断を任せてあるが、ここ数ヶ月で無人島を二つも消滅させるという暴挙をやってのけている。心配の一つもあろうというものだ。
「2人とも頑張ってはいるんだがな、力加減にもう少し時間が必要だ。
特にアンはちょっと問題アリなんだが…まあなんとかするさ。」
自嘲気味に笑うミラ。
ロシナンテをああ言って送り出した手前、私は少し心配なのだ。
彼女の部隊は過剰戦力過ぎる。世界のバランスなど一瞬で崩してしまいそうな危うさにこちらも毎回ハラハラしてしまい、ガープとはまた別の意味で胃の痛くなる存在だ。
だが敵に回すのは絶対に遠慮したい。
彼女と初めに接触したのが海軍で本当に幸運だった…
「私はこれからオックス・ロイズ号の具合を見に行くんだが、センゴクさんはどうする?」
「同行させてもらおう。
OBにああ言って貰ったんだ、現状くらい把握しておかねば。」
踵を返し、その後もミラと談笑しながら廃船置き場へと歩を進めた。
…………
…………
「あっハハハハハ!そらそらぁ!」
「フッ……流石だ強き者よ。」
廃船置き場に剣戟と爆発音が響く、目の前では世界最強の剣豪と金髪の美女が物理的に語り合っていた。
というか女性の方は素手だ、生身でミホークの黒刀と渡り合っている。
……何故七武海が此処に!?
よくよく見れば鷹の目の他にもバーソロミューがこの戦闘を眺めているし一体何がどうなってるんだ?
「おーい帰ったぞー、ちゃんと必殺技考えてるかー。」
ひ…必殺技?何の話だ?
この現状と必殺技に一体どんな関係が…
「おー姉御、おかえ「余所見は禁物だ」テメコラ!卑怯だぞ!」
彼女はアンだったか、輝くような金髪が特徴的なこの娘に向けて飛ばした鷹の目の斬撃は腕一本でいとも簡単に弾かれ側にあった廃材の山を切り裂いた。
何故かそれを見てミラは顔を青くする。
「あっ…そっちにはロイズ号が…」
「何ィ!?」
まさか!?今の斬撃が奥に眠るオックス・ロイズ号に直撃していたとしたら…
一緒に顔を青くしながら斬撃の飛んだ方へ向かう。
その時
「オラァ!」
アンと鷹の目が戦闘を再開したんだろう。
叫び声と共に衝撃が走ったかと思うと廃材の山が崩れ落ち、私とミラは木材の雨に苛まれた。
「ああああ!?お姉様ああああっ!?」
テリジア給仕長の悲痛な叫び声が聞こえる、私のことも少しは心配してくれ。
「ふふ…ふふふふ…ふふふふふふふ…」
突如一緒に埋もれたミラが不敵に笑う、その直後轟音とともに真っ暗だった視界が一気に開けた。
ミラが思いっきり廃材の山を蹴りあげたのだ、廃材は皆空高く飛んでいき海やらその辺に散らばり落ちていく。
ミラは…額に青筋を浮かべていた
「馬鹿二人、そこになおれ…説教してやるッッ!!」
ミラの雷(物理)が悪ガキ2人に落ちる
数分後……結果としてオックス・ロイズ号には傷一つついてはいなかった、が。
巨大なたんこぶを作り正座させられるアンと鷹の目という珍しい姿を目撃することになった。
ロシナンテ君復活、なおモリアは愛の力に目覚めたカイドウにより原作以上にボコられて退場。七武海にはなれませんでした。
次回、時間軸的には…