大海原の祖なる龍   作:残骸の獣

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冒頭、少し『?』てなるかもですがご愛敬





40 祖龍(幸運E)、見初められる

最初の私は 怒っていた

 

縄張りを荒らされた

 

己の領域を汚された

 

故に宣戦布告してやった

 

降り注ぐ隕石群

 

猛る熱波と灼熱の風

 

塵芥と消える小さな命達

 

それでも、連中は侵攻を止めない

 

空と海から止まぬ攻撃

 

海中から死にものぐるいで襲い来る海王類(まがいもの)

 

殺しても殺してもやって来る人間達

 

その全てが津波のように押し寄せて

 

遂に身体が限界を迎えた時

 

最初の世界は幕を閉じた

 

 

 

 

次の私は 期待していた

 

ある島に住んでいて

 

人の姿で流離う内に出会ったおかしな人間

 

万物の声を聞くあの男

 

私を滅ぼせる勇者

 

だからここまで辿り着いた 辿り着かせた

 

この世に不要なものがあるとしたなら

 

それはきっと私なのだ

 

私という〝余分〟は排除されなければならない

 

私という〝異物〟は淘汰されなければいけない

 

他ならぬ狩人の手によって

 

その先にお前達の求める宝がある

 

歴史がある

 

さあ

 

私を討伐(ころ)してみせろ

 

それなのに

 

私に剣を向けるお前は

 

酷い表情(カオ)をしているな

 

長く激しい激闘の末

 

彼の剣が心臓に深々と突き刺さった時

 

次の私は 事切れた

 

 

 

おめでとう お前の勝ちだ

 

だいすきな かいぞくおう

 

 

 

 

 

 

1度目は怒りに溺れた

 

2度目は滅びを求めた

 

ならば 3度目は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海軍本部会議室、通称「円卓の間」

本日は七武海招集日、ナワバリの確認や狩った海賊の報告など、定期的な連絡事項を報告する日だ。

実の所、七武海がちゃんと六人(残り1人はテゾーロに決まっているので割愛)揃って会議するのは初となる。蛇姫は女ヶ島で引き篭りなので電伝虫越しの会議だが。

ミホーク、くま、クロコダイル以外の七武海は初の顔合わせだ。

 

「さて…遠路はるばる海軍本部までようこそ、海のお尋ね者諸君。

そして初めましてだな、〝海峡のジンベエ〟、そして〝天夜叉〟ドンキホーテ・ドフラミンゴ。」

 

円卓の反対側で向かい合う大柄の魚人とちょっとありえないファッションセンスのグラサン君を見ながら言った。

 

「ウム、宜しく頼む。」

 

「フッフッフ…」

 

不敵に笑うドフラミンゴ君、どうした?言いたい事あるなら言いなよ、我慢は身体に良くないゾ。

 

「それから此処には居ないが電伝虫越しに九蛇海賊団のボア・ハンコックにも出席して貰ってる。ホラ挨拶くらいしろハンコック。」

 

『…妾は馴れ合うつもりなど毛頭無い。

報告だけしてさっさと切らせて貰うからの。』

 

「可愛くないなぁ…まあいいや。

では改めて自己紹介を。

センゴク大将に代わって君達の監督役をやっている、海軍中将総督ミラだ。」

 

それを聞いたジンベエがピクリと動いた。

 

「噂の中将総督、女じゃったとはの…」

 

「フッフッフ…海軍も遂にヤキが回ったか?」

 

「女だからって甘く見るなよ、一応私は執務の片手間にお前達を纏めて皆殺しにするくらい余裕だから、此処で暴れる気ならそのつもりで頼む。」

 

それを聞いた2人の表情がちょっと引き攣った。ちょっぴり威圧感出しながら爆弾発言しちゃったかな?若干警戒されたかも。

いつもなら抑えの為、中将クラスの海兵が5人以上は同席する筈の七武海招集だが、今日は俺氏1人だ。何故ならば、俺氏1人で十分だから(ドヤァ)。

万が一海賊達が暴れだしても、手脚の2、3本はぎ取れば大人しくなるやろ。(ハンター並感)

 

「まあそう堅くなるな、海賊に礼節なんぞもとから期待してないしな。

で、今日報告して貰わないといけない内容だが…」

 

「待て、中将総督。」

 

人がせっかく和やかムードを演出してやってるというのにミホーク君が鋭い視線で睨みつけてきた。コワイ。

 

「なんだミホーク、話の腰を折るな。」

 

「あの女は何者だ。」

 

顎をクイクイさせて示唆する先には………

 

 

「あら、私の事は路傍の小石程度に思ってくれて構いませんよ、〝鷹の爪〟さん?」

 

姫様、目です。それだとデラックスボンバーでぶっ飛ばされそうな悪の組織ですぞ。

 

「………」

 

「ぷっ…くくくく…//」

 

予想外の間違いにちょっと眉が動いたミホークと、その隣で必死に笑いを堪えているクロコダイル。

 

「あら、呼び間違えてしまいました?」

 

「……好きに呼べ。」

 

彼等の視線の先には着物姿で椅子にちょこんと座り、片手でぱくぱくとパフェを呑気に食べるオッドアイの少女が居た。

因みにパフェはイルミーナに頼んで作らせた、彼女のご要望である。

 

「即席で作ったから、かんたんなのしかできなかったけど、おいしい?」

 

「ええとても。貴女は良いパティシエになれますね。

…私に構わず会議を続けて貰って結構ですよミラ中将。」

 

「…という訳だ、なので彼女の事は気にするな。」

 

「いや気になってしょうがないんじゃが!?」

 

ジンベエ君が思わずツッコミを入れた。

 

「海峡のジンベエ、初日から悪いがこの女の言ってる事に一々突っ込んでると気が持たねぇ。慣れろ。」

 

そしてクロコダイルの無慈悲な一言である。

せやな、初期メン3人は俺氏のいつもの無茶ぶりに慣れつつあるな。それでもこの状況は異質だけども。

 

「的を射ている…」

 

「なんだミホーク、お前もウチのメイドが作ったパフェが食いたかったのか?仕方ないなー。」

 

「みほーくも食べる?」

 

「………」コクリ

 

い る ん か い

 

優しい優しいイルミーナたんの慈悲により、ミホークにもお手製パフェが振る舞われた。ついでに彼女への気も逸らせた筈!

そしてドフラミンゴ君、姫様をガン見するのはやめなさい。

 

この着物姿のオッドアイ少女こそ、視察の天竜人、アマテラス宮である。

いつも連中がしてるあのクソダサスーツ着てないから誰も天竜人って分からないみたいだ。ある意味あのスーツが目印みたいなもんだしな。本人も秘密の視察という事で身分を臥せて欲しいらしい。口調も「アマスー」とか言わないし、変な天竜人だ。いやこっちがマトモなのか?これもうわかんねぇな。

 

「じゃあさっさと始めるぞ。

取り敢えず新入り2人にはマニュアル用意しといたから、一通り目を通しておけ。」

 

そう言って紐で括った薄めの紙束をテリジアに配らせた。この世界、パソコンもコピー機もないから2人分の資料作るだけでも苦労するんだぜ?

 

「随分ちゃんとしてんだなァ中将総督さんよ。」

 

「まあお前達に書類など渡したところで明日の尻拭き紙になるのがオチだろうが、一応政府公認だからな。型式だけは整えるさ。」

 

ドフラミンゴ君、パラパラと目を通し。ふん、と鼻を鳴らして再び椅子にふんぞり返った。

対するジンベエ君、黙々と読み続けてる。文字間違いとか指摘されたらどうしよう、何度も目を通したんだけどな…

 

「フッフッフ…面白くなって来たじゃねぇか。

おいメイド、鷹の目が食ってるヤツを俺にもくれよ。」

 

「はーい。」

 

とてとてとイルミーナたんが厨房へ走っていく。

 

ドフラミンゴ君意外と甘党?

 

『ぱふぇ?ぱふぇとはなんじゃ?』

 

「甘味だよ。もっともお前は電伝虫越しだから言っても食えないだろうが。」

 

『なんと…気になる…妾も欲しい…』

 

「じゃあ他の4人はいつも通り定例報告だ。まずは一番帰りたがってるハンコックからな。」

 

『ぐぬぬ…ふん!……妾の海賊団は………』

 

 

………………

 

 

ハンコックに続き、クロコダイル、ミホーク、くまからも報告を聞いた。

口伝いだから信憑性に欠けるが、そもそも海賊に信憑性もクソもないのでそこは俺氏の裁量で決める。

前世の悲しい記憶のせいか、こういう会議何度もやったから板についてるわー(泣)

重役が1人も居ないのが唯一の救い。

 

「よし、じゃあこれで報告会は終わり。次回の報告日は伝書バットで追って連絡するからそのように頼む。

ハンコックは…さっさと電伝虫切ってるな。お前達も自由に解散していいぞ。と、言いたいところなんだが、ジンベエは恩赦の話があるから残ってくれ。」

 

ジンベエ君には七武海加入時に恩赦欲しいって言ってたからね。

 

「先に失礼するぞ。」

 

そう言ってくまは会議室を出てった。

 

「…帰る、コブラ王のお守りしなきゃならんからな。」

 

「言ってくれたらいつでも謎のヒロインが出撃するぞ?」

 

「絶ッッッ対ェ来んな!!二度と来んな!!

振りじゃねェからな!?もうあんな思いはゴメンだ!」

 

「えー」

 

すごい剣幕で拒否られた、なんで!?

 

「あの夜を忘れてしまったのかクロコダイル…お互いあんなにも激しく(戦いを)求めたじゃないか。」

 

「誤解を招く発言はやめろ疫病神がッ!!」

 

「お?面白そうな話してんじゃねえかクロコダイル。詳しく聞かせろよ…」

 

「うるせェフラミンゴ野郎…テメェにゃ関係無ェこった。」

 

あっ、砂になって逃げやがった。

 

クロコダイルと解決したあの事件は歴史の闇に葬られる事になるだろうから、特筆はすまい。

疫病神とか酷ない?ただのスキル『災難』持ちなだけじゃん。しょぼん…

でもなんだかんだ招集には来てくれるから根は優しい子だってお姉さん知ってるゾ、ツンデレワニボーイめ。

 

「フッフッフ…退屈しなさそうだ。

俺もお暇するぜ、パフェご馳走さん。」

 

非行少年フラミンゴ君も去ろうとするが、コイツさっきの書類ちゃんと見たのか?此処で少し試してやろう。

 

「…『七武海とは世界政府の庇護の下、海賊に対する海賊行為を法的に認められた者を指す。ただし…』」

 

「『元帥、及び中将総督の判断により海賊行為が〝悪〟と判断された場合、七武海の称号剥奪の上海軍大将白蛇を派遣しこれを捕縛する…なお称号剥奪者の生死は問わない。』だろ?

まったく、何をもって〝悪〟とするのか完全にそっち基準じゃ詐欺もいいトコだ。

わざわざ最後の方に書くんじゃねェよ、疑ってんのか?」

 

「お、きちんと読んでいるな。パラパラ捲ってただけかと思った。」

 

おおすごい、この子見かけによらず書類はちゃんと全部目を通すみたいだ。

インテリ非行少年に格上げしてやろう。

 

「なんかすげぇ馬鹿にされた気がしたんだが…まァいい。あばよ、フッフッフ…」

 

相変わらず不敵に笑ってひらひら手を振りながらドフラミンゴ君は去ってった。

 

さて残るはミホーク君なんだけど…

 

「誰待ちだミホーク、私は他の仕事があるんだが。」

 

「あの金髪の強き者だ。」

 

アンを待ってるのか、十中八九殺し合いの話だろ。ほっとこ。

 

「アンなら今日は海軍食堂に出張ってる、今は昼時だし手一杯だと思うぞ。」

 

「……そうか。

美味かったぞ、優しき者よ。」

 

「ばいばーい」

 

そこまで待っていられないのか、椅子を引いてイルミーナにお礼言った後ミホーク君も退室。

肝心のジンベエ君ほまだ七武海の説明書を熟読してる。なんだこいつは、利用規約とか最初から最後まで読むタイプなのか?大事な事だけどさ。

 

「……成程。」

 

ふう、と一息ついて書類から目を離すジンベエ君。随分集中してたな。

 

「なにか気になるところが?」

 

「いや、てっきり魚人(ワシら)に不利な制約があるのかもと思っとった。じゃから確認をな。」

 

「で、気になるところは?」

 

「いや、疑ってすまんかったな。問題無い。」

 

七武海にそんな制約作っても誰も得せんわい、むしろジンベエ君の加入は五老星もかなり推し推しで、種族間の和解に繋がるとか言っとったで。

 

「それで、ジンベエ。

お前の恩赦、一体どうする?」

 

「ああそうじゃな、ワシの恩赦は、リュウグウ王国の世界会議(レヴェリー)出席を優遇してほしい。それから…ある男をインペルダウンから解放して欲しいんじゃ。」

 

「面白そうだ、詳しく聞こう。」

 

……この後もジンベエの恩赦対応に時間を使い、全員帰ったのは昼を大きく回ってからだった。

 

 

 

 

 

 

ミラとテリジア、イルミーナは七武海の会合が終わった後もアマテラス宮の気が満足するまで視察に付き合った。

天竜人のスーツを着ていない事が功を奏したのか、周囲に警戒されることもなく、比較的スムーズに視察は進んだ。一通り視察を済ませた後、「庶民のご飯を食べたい」と言う彼女の要望で夕食はミラの自宅でとることとなった。付き人のステューシーは反対したが、アマテラス宮が頑固を突き通すものだから遂に折れ、渋々一緒に付いてきた。

 

そして夕食時、料理の鉄人(龍)アンの作った手料理が所狭しと大テーブルに並び、レムとイルミーナが配膳をし、龍3匹とメイドが2人、天竜人と政府役人という異色の食卓が完成した。

 

「「「「「いただきまーす」」」」」

 

各々手近な料理に箸をつけ、賑やかな食事が始まった。

 

「ステラとテゾーロが居なくなって席が空いてたからちょうど良かったな。

どうでしたアマテラス宮、本日の視察は?」

 

「ええ、悪くありませんでした。

ミラ中将。今日は1日、案内大義です

…私から褒められることなんて滅多にないので、明日上司に自慢してもいいのですよ?」

 

「へえ、そりゃどうもありがとうございます。」

 

「ミラ中将、高貴なる御方に対してそのような…」

 

「いいのですステューシー、今日の私はお忍びなのよ?」

 

アマテラス宮、これでかなり人ができている。普通の天竜人(何をもって天竜人が普通なのか疑問だが)とは違い良識を持ち合わせる、かなり常識人だった。少し我儘な所を除けば。

 

「この料理も本当に美味しいです。

宮廷の味にも負けていませんし、なにより…表現しづらいのですが……『暖かい』というのでしょうか?

宮廷料理人の作るものとは違うものを感じます…」

 

恐らくそれは料理に掛けるアンのこだわりと『愛情』なのだろう。彼女の趣味であり、料理にかける情熱は、そのまま一品一品に反映されるのだ。

 

「当たり前だ、この我が作ったんだぞ?そこいらの残飯と一緒にするなっつーの。」

 

ふんっと鼻を鳴らすアンは素っ気ない態度だったが、どこか上機嫌だった。

 

夕食を食べ終わり、機嫌のいいアンから出された試作品のシャーベットをデザート代わりに差し出され、それをパクついていた時、再びアマテラス宮は口を開く。

 

「……やはり聖地で私に召使えられる気はありませんか、ミラ中将?」

 

「無いです。それは最初に話した時から結論は変わりません。」

 

実はミラはアマテラス宮に今朝出会った時、既に聖地へ勧誘を受けていた。当然ながら彼女は断り、アマテラス宮もそれ以上追及することはなかったのだが。

 

「そうですか、残念です…まあ拒否される事くらい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

でも私、今日1日で貴女を心底気に入ってしまいました。

何故でしょう、ミラ中将。貴女を見ていると、その…胸の奥が…きゅっとするのです…不思議ですね。」

 

……なかば諦め半分でアマテラス宮をエスコートしたミラの姿は、傍から見れば『完璧』だった。

 

アマテラス宮の脚の速度に合わせ歩くペースを揃えたり、さり気ない心遣いには、付き人である政府の役人ステューシーも舌を巻く程。その立ち振る舞いは例えるならば、熟練の執事や使用人レベルに達していた。

すれ違う女海兵達が色々と世話を焼かれるアマテラス宮に嫉妬心を抱いていた事は言うまでもないだろう。

 

ただしそれは、彼女の中身が前世で培った悲しき接待スキルの賜物であったわけだが、アマテラス宮は知る由もない。

アマテラス宮はいうなれば世間を知らぬ『箱入り娘』、勿論聖地で恋愛などした事も無い。それに加え、今回の様にお忍びでの行動は初めてだった。そんな右も左も分からぬ中、熱心に自分の事を気遣ってくれる超絶イケメン(美人)にエスコートされ、何不自由なく過ごせたなら、そりゃあコロリといってしまうものである。

 

ほわっと頬を赤らめ、とろんとした目つきでミラを見つめるアマテラス宮。

…初恋の相手が同性(少なくとも見た目だけは)なのはハードル高過ぎるんじゃなかろうか?

 

「あ、アマテラス宮…?」

 

………五老星はミラのため、世界政府の諜報能力を総動員しアマテラス宮の情報を掻き集めた。

聖地での聞き込みや趣味趣向まで事細かに調べあげ、五老星自身も他の話を全てかなぐり捨てて丸一日、彼女が祖龍の前に立てる資格があるものか熟考し、本日の視察に至る。

彼等は最終的にアマテラス宮には祖龍の機嫌を損ねるような要素なし、と判断した。してしまった。

 

だがしかし

 

「どうしましょうどうしましょう…貴女を私だけのモノにしたい、一生死ぬまで貴女のそばで添い遂げたい…大切な私の旦那様ぁ♡

うふふふふふ…」

 

ずいっと隣の席に座るミラに身を寄せて、腕にぴったりとしがみつき頬ずりするその様は…

 

「(この娘っ子まさか……)」

 

そう、そのまさかである。

 

アマテラス宮は、一途だ。

 

それ故に

 

「(ヤンデレの気があるゾぉ〜〜ッ!?)」

 

彼女の赤と緑の瞳には、ほの暗い病み(闇)の炎が灯っていた。

 

「だだだだ旦那しゃま!?

おおお待ちなさいアマテラス宮!!!

言うに事欠いてお姉様を旦那様とはどういう了見ですの!?」

 

真っ先に反応したのは、案の定と言うべきかテリジアだった。顔を真っ赤にしてアマテラス宮に詰め寄って胸ぐらを掴む。

 

「あらなにか問題でも?」

 

「問題大アリですわ!」

 

「良いではありませんか、恋に境界など無いのは貴女もご存知の筈でしょう?ワラキュアの姫君。

ミラ中将は貴女の『ご主人様』で私の『旦那様』、きちんと差別化できてます。掠りもしませんでしょう?」

 

「いやそれ掠ってるどころか衝突事故起こしてる気がするんだが!?」

 

ミラがツっこんだが、そんなこともお構い無しにテリジアはアマテラス宮の言葉に目を見開き、肩を震わせていた。

 

「な…ななな……」

 

「ご自分の身元が知られていないとでも?ワラキュア公国第二女帝、ハレドメラグ・テリジア姫。」

 

「巫山戯んじゃねーですわ!

バッチリ身バレしてるじゃありませんの!?おのれ天竜人ォ!」

 

「やりますか?私こう見えて合気道とか嗜んでたんですよ?」

 

「上等ですわ、やったろーじゃありませんかこの売女ァ!」

 

「ハレドメラグ姫!?落ち着いて下さい!不敬!限りなく不敬ですから!!」

 

慌ててステューシーが止めに入ろうとするも、ミラの腕から引き剥がされたアマテラス宮とカーペットの上でごろごろ転がりながらキャットファイトし始めるテリジア。

 

「あまさんがミラのおくさん…

ということはあまさんは私の…まま?」

 

「アン、収拾がつかなくなってきた。どうにかして。」

 

「我に振るなよ…それにステラが言ってたぞ。こういう時は〝するーすきる〟と〝はがねのめんたる〟で頑張れって…」

 

そう話すアンは明後日の方向を眺めながらステラの言葉に思いを馳せている。その目は少しだけ虚ろだった。

 

「こっちの世界に慣れた友人が達観しすぎてて辛い…」

 

 

 

 

 

「とまあ、戯れはさておきまして。

旦那様。」

 

暫くテリジアとキャットファイトを繰り広げていたアマテラス宮だが、流石に止めに入ったお付きの人とアンによって拘束され落ち着いたのか、乱れた着物を正しながら真面目な顔して話を振ってきた。テリジアはアンに押さえつけられながらモゴモゴ唸ってるが…気にしちゃ駄目なのだ。

 

てか俺の事は旦那様で固定なのね…

 

「本日の視察はこれで終わりになりますが、旦那様の事、アマテラスは…いえ、〝うずめ〟は心よりお慕い申し上げております。」

 

「それがお前の本当の名前か。」

 

「はい、アマテラスは聖地で付けられた通名の様なもの。その名は私の故郷で祀られていた神の名でした。

それを奢った〝人間〟が名乗ろうなどと、烏滸がましいにも程がありますので。旦那様の前では本当の名で呼んで頂きとう存じます。」

 

こっちに向かって跪き、ていうか土下座して頭下げてくるうずめちゃん。

駄目だよ女の子が簡単に土下座なんかしちゃ!?

 

「…分かったから顔を上げろ、土下座も止めろ。

全く、お前が天竜人なのか疑問になるな。」

 

「はい…私はこの目のせいで天竜人からも忌み嫌われる身だったもので。天竜人の常識には疎うございます。」

 

オッドアイな。現代なら科学的に解明されてるから不思議な事じゃないが、この世界だと災いの元とか言われてるんだろうか。かの〝独眼竜〟で有名な伊達政宗も、本当はオッドアイを隠すために眼帯してたって説もあるしネ。

うずめちゃん、聖地(向こう)じゃ世間知らずなのか…だから傍若無人じゃなかったのね。本場の連中は傍若無人なんて言葉じゃ済まないケド…

 

「旦那様の為ならば私の持ちうる限りの財産を貢がせて頂きたいのですが…」

 

「要らん、そんなもの私には不要だ。

私は自由に生きられればそれでいい。」

 

皆さんお忘れかと思いますが俺氏、祖龍なので。お金とか権力にはさほど興味が無いゾ。そもそも中将総督で困らないくらいの給料貰ってるしな。

お金要らない宣言に一瞬キョトンとしたうずめちゃんだが、直ぐにほがらかに笑った。

 

「くすっ…このうずめ、ますます旦那様を気に入ってしまいました。聖地ではこんな経験出来ませんでしたし、こんなときめき初めてです。

んふふふ、旦那様の香り…ん〜〜〜…//」

 

ぎゅっと抱き締めてくるうずめちゃんを見てると、妻と夫っていうよりは、親に甘える子供って感じだ。というか抱き着かれるのはイルミーナやテリジアで慣れた。俺氏、パパの素質あるかも。

聖地では嫌われていたみたいだし、うずめちゃん母性に飢えてるのかね。そもそもこの子15歳くらいじゃないのか?

天竜人の世界も大変だね。

この子はちょっと病んでる節があるけど…

 

「……ぷはっ。旦那様成分補給完了です。」

 

「いつから私は謎の元素を発するようになったんだ…」

 

堪能したのか顔を上げるうずめちゃんの表情は恍惚に満ちていた、ちょっと怖い。

 

ん''〜〜ッ!?ン''~ッ!

 

テリジア、ステイステイ…

 

「ところで旦那様。明日のご予定はございますか?」

 

「いや、明日は非番だが…」

 

つい正直に言ってしまった。

するとうずめちゃんは小悪魔っぽい笑みを浮かべて…

 

「なら…デートに行きませんか?」

 

こんな事を言ってきたのだった。

 

 

 

 

 

 

「若、おかえり。

七武海招集どうだった?」

 

「ああ、概ね問題無しだ。

部屋にいるから何かあったら呼べ。」

 

「はーい」

 

シュガーにそう言って自室へ向かう、途中グラディウスとラオGに話しかけられ、小話をした後、俺は幹部たちの集まる自室の扉を開けた。

 

「………帰ったか、ドフィ。」

 

「んねー、初めての七武海招集どうだった?!?んね?ね?」

 

「近ぇぞトレーボル…」

 

いつも通り鬱陶しいトレーボルを押しのけて、俺は椅子へ座った。

 

今日はトレーボル、ピーカ、ディアマンテの3人を集めて今後についての話し合いの日だ。

 

「予定通り俺は七武海になった。

モネの姿は見えなかったが、定時報告じゃ異常なしと言っていたから海軍に不審な動きはないだろう。」

 

ヴェルゴの侵入がバレてから、海軍のスパイ対策は一層厳しくなった。訓練生も全て身元を洗っているらしい、監視が厳しくなるギリギリの期間にモネを滑り込ませて正解だったな…

 

「これで俺たち、つる中将から追いかけられる事も無くなったってワケだ。」

 

「…あァ、そうだな。」

 

実はそれも七武海に入った理由の一つとも言える。あの海軍の重鎮から追いかけられてちゃ本来の仕事が出来ねぇからな。

 

「ん?ドフィ、浮かない顔だな。

これで計画通り〝国盗り〟を始められるだろう?」

 

「その通りだ、ベビー5も上手く王宮へ潜り込んで情報を流してくれてる。

ドフィの言ってた珍しい悪魔の実もシュガーに食わせたし、準備は万端だ。」

 

「だな、せめてモネがもう少し出世してくれてりゃ海軍の手回しも楽になるが…過ぎたことは仕方ねーよ。んねー。」

 

贅沢は言えない。それにこれから控えるビジネスにも海軍の目があっちゃ困るんだ、内通者が1人でもいれば安心して商売を続けられる。

 

「後に控えるデカいヤマの為に、国盗りは通過点でしかねぇ。迅速に、正確に終わらせようぜ。」

 

「「「ああ(んねー)」」」

 

ただ今日の招集で気になったのはあのミラとかいう女だ。中将総督とかいう特別な地位に就き、裏世界のツテを使っても微塵も情報が出てこなかったのが不安の種だ。女だからと舐めていたがあの時、一瞬だけだがあの女から凄まじいプレッシャーを感じ、表情を崩さないようにするので精一杯だった。

まるであの白い女に出会った時と同じような…身体の底から震え上がるような感覚。絶望的な敗北感、正直思い出したくない。

モネからの情報によればあの時俺達を凍らせた女が噂の大将白蛇らしい。やはり大将ともなると力は別格か…相手にするには俺も〝覚醒〟が必要になるだろう。早く完全に制御できるようにならなきゃな。

 

「時期を見てモネから合図が来たら国盗りを始める、ベビー5にも連絡しとけ。

…ところで、新しく入ったデリンジャーはどうだ?使えそうかディアマンテ。」

 

「確か闘魚の魚人だったか?流石は魚人は力が強え、まだちっこいがラオGに鍛えさせりゃそれなりに使えるようになるだろ。」

 

「新入りが気になるのか、ドフィ。」

 

「ああ勿論だよ、ガキなら尚更だ。

きちんと教育して俺の優秀な〝駒〟として働いて貰わねえとなぁ…フッフッフッフ…」

 

 

 

若干の不安要素はあるが、これからが楽しみだ。




なんとか間に合ったア!

あ、この時点では
ドフラミンゴは大将白蛇をレムだと思い込んでおり、ロシナンテの事もあの時ミニオン島で死んだものと思っています。
そしてモネには「スパイとして侵入していた先駆者がいた」程度にしか話していないので、モネはロシナンテがドフラミンゴの兄弟だとしりませんし、海軍(主にセンゴクとミラ含む上層部)はロシナンテのドンキホーテという姓を全力で隠しています。ロシナンテ本人にも潜入任務時の記憶が無く、ドレスローザ乗っ取り計画も忘れてモネといい雰囲気になってます。
そしてスーツ無しでお忍び+電話越しだった為ハンコック発狂は回避、ドフラミンゴは気づいてましたが中将総督の前で波風立てるのは不味いと判断し静観。くま、ミホーク、クロコダイルの初期メンバーは「知らん女いるけどいつもの事か」程度にしか思ってません。ジンベエおいてけぼり…


ドレスローザはドフラミンゴに乗っ取られないと後に書こうと思っている話が続かないのでスカーレットさんやキュロスおじさんには尊い犠牲になってもらいます。哀れドレスローザ…

クロコダイルとミラのエピソードは…いつか必ずリベンジしますので今回は触りだけ。作者はワンピース都市伝説とか信じちゃう質なので今作のクロコダイルは女性(だいたいミラ)に辛辣です。
中身男のミラ、元女のクロコダイル…わりといいコンビだと思うんですけどね。活躍させるのは別の機会に。

うずめちゃんの相棒、ヤタガラスの登場も次回に持ち越します、過去の過去話も少々。

他、この作品で分からない独自設定等があればご都合主義ばりに回答しますので感想欄にでも気軽にお書き下さい。作者のガバガバ設定でよければご説明致しますので。

来週は土曜日仕事なので更新はキツイかな…2週間以内が目標です。よろしくお願いします。

次回、シャボンの遊園地、デートと奴隷と冥王と

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