私は今日も生きていく   作:のばら

6 / 11
あいかわらずのフワッと感。


夢から覚めるジャンヌ・オルタ

私はだれ。

 

降り積もっては消えゆく内なる囁き。

私にあるのは私の記憶と知らぬうつくしい娘の記憶。

嗚呼、娘よ、起ち上がり駆け抜けた生。お前はその果てに何を想ったのか。

 

私はだれ。

 

そう囁くいと美しい聖なる杯(だれかの声)

「嗚呼! ジャンヌ!」そうかなしみと慈愛と切望(絶望)を滲ませる叫び(切望)がこの世界ではじめて聞いた声。私にひどくやさしい人、私の記憶の娘を見る人、私の復讐を求める人。

いと、憐れなる人。

 

私が踏むこの大地は、名前だけ知っていた外の国。私が生まれ育った国。私を裏切った国。

 

「竜の魔女だ!!」

 

旗を振る。かつては勇気と信仰を与えた旗を振る。呪いの旗を、怨念の旗を振る。

恐怖と苦痛の声が響き、憎悪の炎が迸る。美しく、愛しく、そして忌々しい空を竜の群れが覆う。

 

私はこの国を知らない。私はこの国を愛する。私はこの国を憎む。

 

「私は帰って来た! 私が受けた痛みを! 悲痛を! 裏切りの報いを! さぁ、今こそ受けなさい! うつくしく愛しい(怨めしき)国よ!」

 

愛を、怒りを、憎しみを、私の心、私にある心、沸き上がる心、全てをこの世界にぶつける。三つの心を、三つの私をぶつけて、燃やして、駆ける。

 

 

私はだれ。

私は私。

 

なんの刺激もなく平凡な人生を送っていた女。

凛とした眼差しで前を見据え続けた優し過ぎた娘の記憶を宿す女。

終わりなき憎悪が我が身で怨嗟の声をあげ続ける女。

ただ燃え盛る憎悪のままにひた走る。いつかこの身が灰さえ残さず消えるその日まで。

 

 

 

これは泡沫の夢。誰かがつついてしまえば、頬を抓ればパチンと弾けて覚めてしまう夢。

 

私の中にあるうつくしい娘が、人間と共に私に挑む。まっすぐに私を見据えるその人間が、亡霊の夢を覚ますのだろうか。

 

「貴女は、自分の家族を覚えていますか」

 

確信を持ったその声が、私に決定打を求めている。それでも私はこの娘に嘘をつかない。ただ、事実のみを告げる。

 

「泥に塗れ、傷を負い、それでも故国のために立ち上がり続け、そして故国に裏切られた。それ以外の記憶がどうして必要なのです。私は復讐者(アヴェンジャー)、憎悪に身を焼かれる者。裏切られた愛と、裏切った者たちだけを覚えていればいいのです」

 

この国を護るため、また起ち上がった娘。駆け抜けた先に待つ結末を知っているのに、愛し続ける娘。そう完結しているサーヴァント。

 

なんて憎らしい、なんて眩しい。けして輝きを曇らせないその魂を、私は愛し、憎悪する。

このうつくしい娘の悲劇が、愛が。国に人に私に、憎しみをもたらす。

振るい、ぶつかり合う御旗。砕け散ったのは、黒い御旗だった。

 

夢が覚める時がきたのだ。

 

「安心してお眠りなさい」

 

優しさ故に狂った人が、ひどく穏やかな微笑みで私に言う。私の心のために浮かべられたそれは、記憶にある狂う前の彼と同じだった。

 

「ジル、おかしなことを言うのね……。あとは、覚めるだけなのに。嗚呼、でも、そうね。おやすみなさい、哀れなほどにやさしいひと……」

 

身体がほつれ光と共に還っていくのが、目を閉じても見える。

夢から覚めたら、1番に空を見よう。浮かぶ太陽におはようと、言って日常にかえろう。

 

オルレアンに、朝陽が昇る。

こうして人々の悪夢は終わりを告げた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。