「あぁ……寒いな……」
少年は吹雪の中、1人宛もなく歩いていた。
人里を追い出されて約2日がたった。少年はいつかはこうなるだろうと思い、ある場所に通い農作物の作り方、狩りの方法、その他1人で生きていく方法を完全に習得していた。
ただ、現実は非情だった。
今は真冬。
農作物を育てるなんて事は出来ない。動物も大半は冬眠に入っているので見つける事なんて出来ない。兼ねてから予定していた空き家も雪に埋れて使い物にならなくなっていた。
「……不幸だな、全く」
せめて季節が春だったら
せめて動物がもう少し活動していたら
せめて空き家が雪に埋れていなかったら
少年は自分の不幸を呪った。
それと同時に何故かこの状況に納得してしまっていた。
「……『死神』の末路…か……」
少年は『死神』と呼ばれていた。
別に少年が誰かを殺した訳ではない
少年に死を呼び込む能力なんてない
ただ、少年の周りには死が満ちていた
少年と深く関わった者は皆死んだ
「……『死を運ぶ神』か。全く、嫌になるほどぴったりな名前だな」
少年は笑った。
腹はもう鳴らなくなった
四肢の感覚は無かった
指先や耳は凍りつき、腐りかけていた
視界は見えくなっていた
吹雪の音は聞こえなくなった
いつの間にか身体が雪に埋れていた
それでも少年は笑っていた
「あぁ……眠いな」
ここで眠ると死ぬのは分かっていた
ただ、それでもいいと少年は思った
少年は自分の本能に任せて眠りについた。
___________
「…………ね……おき…………しんだ……」
「(あぁ……声が聞こえる……女の人の綺麗な声だ……)」
「……起きな……起きなさい!」
「!!」
少年は女性の声に反応してゆっくりと目を開けた。
知らない天井だった。いや、ここは建物ではない。背中に感じるゴツゴツとした岩、多分洞窟だろうか。横を見るとそれはそれは綺麗な大人の女性が立っていた。
少年はすぐに理解した
ここは妖怪の住処で彼女は妖怪なのだろう、と。
そしてこの後訪れる結末も安易に予想出来た。
「(あぁ……食べられるんだな)」
逃げようにも、身体が言う事を聞いてくれない。動けたとしても、妖怪相手に13歳の子供が勝てるなんて微塵も思わなかった。
ただ、次の妖怪の一言は少年の予想を180度裏切る形になった。
「ねぇ、大丈夫?」
大丈夫?
この女性は俺の事を心配した?
何故?どうして?
少年は驚き、質問しようとした。
「……!!……あぁ……うっ……」
が、少年は声が出なかった。凍傷で喉も潰れていたからだ。
「少し待ってなさい。今飲み薬作ってるところだから」
そう言って女性は少年から離れた。
少年は余りの出来事に只々じっとしているしかできなかった。
暫くすると女性は木の器と蓮華を持ってきた。蓮華で木の器から薬をすくうと、熱いのだろうか、ふぅふぅと息を吹きかけて少し冷まして少年に近づけた。
「はい、あーんして」
少年はもう考えるのを止めて、女性の言う事を聞く事にした。
少年は口を開けて蓮華の中にある薬をゆっくりと口に含んだ。
「(……美味しい)」
薬の一滴一滴が空っぽだった身体に染み渡るのを感じた。
身体に体温が戻るのを感じた。
「美味しい?」
女性の問いかけに少年は首を縦に振った。
「そう、良かった」
女性は少年に満面の笑みを見せた。
少年は何故かは分からかった
ただ、気が付くと少年は涙を流していた
___________
「外は吹雪だから、暫くここに泊まっていくといいわ」
あの後、薬を飲み終わるまで涙は止まる事は無かった。
女性…レティ・ホワイトロックと言う名前らしい…は何も聞かずに只々優しい顔をしながら薬を飲ませてくれた。
薬のお陰だろう。喉はまだ完全には治らないが、四肢は頑張れば動く様になった。
レティは寝ている少年を置いて、洞窟の奥に入って行った。
少年はレティが消えたのを確認するとゆっくりと上半身を起こした。
改めて周りを見る。
岩や氷で作られている椅子、机、ベッドなど、生活に必要な物は最低限あった。が、それ以外はただの洞窟と変わりなかった。
入口の方からは少しだけだが冷たい風が吹き、レティが掛けてくれた毛布が無かったら少年は寒さに身体を震わせていただろう。
「(……レティ、ありがとう。でも……やっぱり出て行くよ)」
レティが親切にしてくれるのは素直にありがたかった。死ぬかもしれなかったところを救ってくれたのは感謝してもしきれないだろう。
ただ、少年はこれ以上世話になるわけにはいかないと思った。
何故なら少年は『死神』だから。これ以上世話になれば、関われば、もしかしたらレティは死んでしまうかもしれない。
妖怪は滅多に死なない。
知識としては分かっているが、13年の経験から素直にレティに甘える訳にはいかなかった。
たった13年と思うだろう
されど13年なのだ。
少年が生きてきた全てのなのだ。
そうと決まれば少年は早速行動に移した。
まだ完全には言う事をきかない身体に鞭を打ち、ベッドから立ち上がった。
そして風の吹く方向にゆっくりと歩いていった。
___________
風が強くなってきた。
身体が冷たくなっていくのを感じた
身体の全てが悲鳴を上げていた
しかし少年は歩みを止めなかった
外の光が見えた
少年の歩く速さが少し速くなった
それと同時に後ろから声をかけられた
「君!」
綺麗な声、レティの声だった。
レティが追いかけて来る足音が聞こえた。
数秒後、レティは少年に追いつき、少年の正面に回った。
「言ったでしょ!人里に帰りたいのは分かるけど、外は吹雪なのよ!出て行っても死ぬだけよ」
少年は痛む喉を懸命に動かし、レティに反論した。
「お、れは……人里、から……追い、だされ…た…」
「……え?」
「俺は…し、に神、だから…おれに関わっ、たら…みんな…死ぬから……だから……ゴホゴホッ」
喉の中が切れたのか、咳き込んだ後、少年は吐血した。
それでも少年は話し続けた。
「レティ…には、感、謝して、る…でも…ここに、居た、ら…迷、惑だから…だから……」
出て行くよ
その言葉はレティの抱擁によって遮られた。
「…………」
レティは何も言わなかった。少年も拒否したりはしなかった。
何分経っただろうか。
不意にレティが口を開いた。
「私は死なないわ」
あぁ……そうなのか……
少年、黒川白はレティの胸の中で只々泣いた
Q.レティの口調とか性格ってこれで合ってるの?
A.知るか、俺に聞くな
感想、評価募集中