長くなったので2つに分けましたが、同時に更新したので一気に読めます
どうぞ
「東に移動してください! 急いで!」
後ろに敵がいることに気づいたみほは慌てて指示を出す。
しかし
「……ッ、南南西に方向転換! ッッ!」
逃げ道がなくなっていた。
それも、ずいぶんと前から。
「囲まれてる……」
そして、プラウダが一斉に砲撃を開始する。
「くっ…………全車南西の大きな建物に移動してください! あそこに立て籠ります!」
みほの指示で、フラッグ車であるアヒルチームを先頭に急いで大きな建物に移動する。
大洗の全車輌が建物の中に何とか逃げ込む。
すると、しばらく続いていた砲撃が突然やんだ。
みほは戦車から顔を出してみると、建物の入り口に白旗を持った少女が二人立っていた。どうやらプラウダの伝令役らしい。
「カチューシャ隊長の伝令を持って参りました」
一人がそう言い、別のもう一人の方がそれに続く。
「『降伏しなさい。全員土下座すれば許してやる』だそうです」
「何だと……ッ!」
川嶋が食って掛かる。
「隊長は心が広いので三時間は待ってやると仰っています。では」
二人は一礼をし、回れ右をする。しかし、白旗を持っていた一人が思い出したように振り返る。
「あ、そうそう。西住みほ様はどちらで?」
「え……みほは私ですけど……」
みほが遠慮がちに手を挙げながら答える。
「あなた個人にもカチューシャ隊長からの伝言がありました。『隊長にも関わらず、常に毅然とした態度で堂々としていないからこういうことになる。去年までのお前は何処へ行った』だそうです」
「…………ッ!」
まるで、全てお見通しだぞと言わんばかりの伝言であった。
「では」
今度こそ二人は自軍へと帰っていった。
「誰が土下座なんか……!」
「全員自分より身長低くしたいんだろうな」
「徹底抗戦だ!」
「……でも、これだけ囲まれてちゃ……一斉に攻撃されたら怪我人が出るかも……」
怪我人だけは出さない。それはみほの中では絶対事項なのだ。
「みほさんに従います」
「私も、土下座くらいしたっていいよ」
「私もですっ」
「準決勝まで来ただけでも上出来だ。無理はするな」
あんこうチームがみほに言う。このチームだけは初めから、試合前からみほの指示に従おうとしていた。みほには従うべきだと思わせてくれる力があると信じているから。
みほはその言葉に安心したような表情になる。確かに、二十年ぶりの戦車道大会に出場で、みほ以外は全員素人にも関わらずベスト4なのだ。十分に誇れる成績だろう。
しかし
「駄目だ!! 絶対に負けるわけにはいかん。徹底抗戦だ!!」
ベスト4では駄目だと言う者がいた。
「で、でも……」
「勝つんだ! 絶対に勝つんだ! 勝たないと駄目なんだ!!」
生徒会広報であり、戦車道の副隊長を任されている川嶋桃。
前からすごく負けず嫌いで、少し変わった人だと思ったいたこの人だが、決して馬鹿ではないし、今の状況だってわかっているはずだ。
なのに、それなのに、降伏するのは、負けるのは駄目だと聞かなかった。
「どうしてそんなに……初めて出場してここまで来ただけでもすごいと思います。戦車道は戦争じゃありません。勝ち負けより大事なものがあるはずです」
「勝つ以外の何が大事なんだ!」
「私はこの学校へ来て、皆と出会って、初めて戦車道の楽しさを知りました。この学校も戦車道も大好きになりました。だからその気持ちを大事にしたまま、この大会を終わりたいんです」
みほの正直な気持ちだった。中学に上がった頃から少しずつではあるが、自分の戦車道がわからなくなっていた。西住流や姉の重圧に耐えながら、何とかがむしゃらに頑張ってきた。
だが、それが楽しかったかと聞かれたら、素直に首を縦に振れる自信がない。
昔、幼馴染みの皆と遊びで戦車に乗っていた頃の方が何百倍も楽しいと思えていた。
この学校では何のしがらみもなく、楽しく戦車道ができる。それがどれ程楽しく幸せなことなのか。みほはこの大洗に来て本当に良かったと心から思っているのだ。
だから、だからこそ、川嶋の発した言葉が……
「何を言っている…………負けたら我が校はなくなるんだぞ!!」
うまく理解できなかった。
「……学校がなくなる?」
よくわからない。戦車道で負けるのと、学校がなくなるのに何の関係があるのか。
いや、まず、何故学校がなくなるのか。
そして、会長までもが、川嶋の発言を肯定する。
「川嶋の言う通りだ。この全国大会で優勝しなければ、我が校は廃校になる」
~プラウダ~
「ノンナ、配置は?」
「全て完了しました」
大洗が立て籠る建物の周りを完全に囲み終わったプラウダ。
あとは、大洗の降伏宣言を待つのみである。
「大洗は降伏するでしょうか?」
「さぁ? もう戦意喪失してるならするだろうし、まだ勝つつもりならしないんじゃない?」
「なら何故三時間も?」
「やる気っていうのはね、持続性がないの。今は勝つ気満々でも、三時間もすればそれは薄れてくる。時間が経てば経つほどやる気がなくなり、チームの士気が下がり、それを再び戻すのは困難。素人集団なら尚更ね」
流石は地吹雪のカチューシャ。小さな暴君と呼ばれる名将なだけはある。
「それに、お腹も減ったし、眠いしね」
「それが本命ですか」
「違うわよ」
暖をとりながら小さく丸くなるカチューシャ。
しかしその瞳は眠たげなものではなく、むしろギラギラと鋭く闘う者の眼をしていた。
(さぁ、どうする? みほ)
~大洗~
「無謀だったかもしれないけどさ、あと一年泣いて学校生活を送るより希望を持ちたかったんだよ」
会長たちの説明を聞き終える。
どうやら学園艦の維持費のため、ここ数年成果のない学校から廃校にしていくということらしい。
昔大洗女子は戦車道が盛んではあったのだが、使える戦車は全て売られており、今彼女たちが使っているのは売れ残った戦車のようだ。
まぁ、そんな戦車でベスト4まで来ているのも十分すごいとは思うのだが。
しかし、あくまでも優勝が条件。ベスト4では駄目なのだ。
会長の話を聞いて、既に諦めモードになっている面々。
だが、彼女は諦めていなかった。
「まだ試合は終わってません。まだ負けた訳じゃありませんから。頑張るしかないです。だって、来年もこの学校で戦車道やりたいから。皆と……」
諦めなければ勝てるというわけではない。諦めなかったからといって勝てるかどうかなんてわからない。
ただ……諦めたら負け。
それは紛れもない事実なのだ。
「降伏はしません。最後まで闘い抜きます。ただ、皆が怪我しないよう冷静に判断しながら」
「西住ちゃん……」
「さぁ、修理を続けてください。時間はありませんが落ち着いて」
『はい!』
みほの指示で皆が動き始める。
~観客席~
「帰るわ。こんな試合観るのは時間の無駄よ」
大洗とプラウダの戦況見て、決着は初めからついていたとでも言わんばかりに立ち上がる西住しほ。
「待ってください」
「……? まほ?」
「……まだ試合は終わってません」
「…………」
しほはまほの何かを確信しているような瞳を見ると、再び席に座る。
(……まほにこんな眼をさせるなんて……みほ、貴女は、貴女の戦車道はいったい……)
大洗が立て籠ってから2時間45分が経過。
偵察を終え、敵の位置も確認できたのだが……
「吹雪いてるね」
ただでさえ慣れない極寒の地で、身体が温まるスープも既に飲み終えた。ここ三十分はまさに自分と寒さとの闘いになっていた。
これまたカチューシャの言う通りだった。
数時間前までは廃校の話を聞いてよりやる気を出していたメンバーたちだったが、そのやる気も次第に薄れてきている。戦わなくてはいけない、でなければ廃校、そんなことはわかっている。だが、身体が寒さで動かない。チームの士気は下がる一方だった。
「おい、もっと士気を高めないと。このままじゃ戦えんだろ。何とかしろ、隊長だろ」
川嶋の言う通りである。
こんな士気のままでは到底太刀打ちできないだろう。
士気が高まるような何か……何か……何か……
そして、西住みほの導き出した答えは……
「……踊りましょう」
「へ?」
「ほら、皆立って。皆で歌って踊ろう!」
「に、西住殿? 踊るって、いったい何を……」
「私たちが踊るっていったら、1つしかないよ!」
~観客席、聖グロリアーナ~
「……? 大洗の人たちが建物の入り口に集まってきましたね」
「あら、いったい何をするつもりなのかしら」
『燃やして焦がしてゆ~らゆら~♪』
「ぶふっ!!」
「だ、ダージリン様!?」
「ゆ、ゆらゆらしてる…………くくくっ……誘って、焦らしてピカピカ……ふ、くくっ……」
「だ、大丈夫ですかダージリン様?」
「はっ! ………………ご、ごほんっ!/// は、ハラショーですわね」
「…………」
「…………///」
~大洗~
「あ、あのーー!!!」
『はっ!!』
横からの大声での呼び掛けに全員の動きが止まる。
「もうすぐタイムリミットです。降伏は……」
「しません。最後まで戦います」
そして、最後の戦いが始まる……