6人の戦車道   作:U.G.N

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 どうぞ



西住まほの怒気

 西住まほ 高校二年 春

 

「私は黒森峰の隊長の西住まほ。学年は二年だ」

 

 戦車道希望の新入生を前に、自己紹介をするまほ。

 新入生たちからは「西住ってあの西住流の?」「二年生なのに隊長なんて凄い」などの声が上がっている。

 

「知っているとは思うが、黒森峰は去年の全国大会で九年連続優勝を果たしている。当然今年も狙っていくつもりだ」

 

 全国大会九連覇。それは長い戦車道の歴史の中でも、黒森峰しか達成していない快挙である。

 

「もちろん訓練は厳しいし、弱音を吐きたくなるときもあると思う。だが、私たちとしては訓練に関しては容赦をするつもりはない。何故なら、それが必ず来年、再来年の君たちの役に立つからだ」

 

 まほの言葉に新入生の何人かが喉を鳴らす。

 

「選択期間はまだ終わっていない。どんな厳しい訓練だろうが付いてくる覚悟がある者だけ残ってほしい。その覚悟がない者は……悪いことは言わない、今のうちに選択科目を変えておけ」

 

 百人近く集まっていた新入生は、その言葉を聞くや否や一人、また一人とその場を去っていった。

 

 しかし、まほの言い分ももっともである。史上初の十連覇を目指しているのに、ただなんとなく格好良さそうだからなどといった半端な気持ちで入られても足手まといになるだけである。

 

「おー、大分減ったねー」

 

 まほの横に立っていた三年生の現副隊長がひーふーみーよー……と残った新入生を数えていく。

 

「……よし。残ったお前たちは、本気で″黒森峰″の戦車道をやりたいと思っているということでいいんだな?」

 

 まほがチラリと一人の新入生を見る。わざわざ黒森峰という言葉を強調して言ったのにも理由はあるようだ。

 

「では、そっちの端から順に自己紹介をしてくれ」

 

 まほから見て左端の新入生を指さして、自己紹介を促す。

 

「は、はい! ーーー中学から来ました、赤星小梅です!」

 

 そうして端から自己紹介が進んでいき……

 

「よし、次」

 

「はい。ーーー中学から来ました、逸見エリカです。よろしくお願いします」

 

 最後から二番目の新入生が一つお辞儀をし、自己紹介を終える。

 

「よし。……では最後」

 

「はい。ーーー中学から来ました。

          …………西住みほです」

 

 こうして、新入生たちは自己紹介を終えた。

 

 

 

「早速だが、これからお前たちには戦車を動かしてもらう」

 

 え!? いきなり!? そんな声が飛び交う。

 

「大丈夫大丈夫。動かせる範囲で動かしてくれていいから。動かせる人はジャンジャン動かしちゃっていいし、全く動かせない人はそう正直に言ってくれていいよ。今動かせなくたって全然恥ずかしくないし、私たちが教えるからには一週間後にはそれなりの操作はできるようになるから」

 

 副隊長がまほの指示に付け足す。それを聞いた新入生はホッと一安心。

 

「では、今の自己紹介をした順にあのティーガーに乗り込んでくれ。まずは操縦してくれればいい」

 

 まほが指さす先には、黒森峰の誇る戦車の一つであるティーガーⅠが一輌置かれていた。

 

「では、赤星小梅。始めてくれ」

 

「は、はい!」

 

 赤星と呼ばれた新入生が、早速戦車に乗り込んでいった。

 

 

 

「うんうん。流石まほの脅しを聞いても残るだけのことはあるね。皆一応それなりに動かせてるじゃん」

 

 まほの横で新入生が動かす戦車を見ていた副隊長がウンウンと頷きながら呟く。

 

「……別に脅したつもりはありませんが」

 

「え……あれで?」

 

 どうやら、まほは自分では脅したつもりは全くなかったらしい。

 

「…………ま、それでも即戦力になりそうなのは三人くらいかな。最初に動かした赤星ちゃんと、今さっき動かしてた逸見ちゃん。あとは、今動かしてる……」

 

 副隊長が新入生のプロフィールをペラペラと捲りながらその人物を探していく。

 

「あった、西住みほちゃん。……この子まほの親戚か何か? 同じ苗字だし、顔もどこかしら似てるような……」

 

「私の妹です」

 

「え、マジで? ほうほう、それは期待大だね。代々伝わる黒森峰の伝統に従って、早いとこ私じゃない新しい副隊長を決めないといけないし。まほも妹が副隊長ならやりやすいでしょ?」

 

 黒森峰は代々『副隊長は隊長よりも下の学年の者が務める』という伝統がある。今までは三年生が隊長で二年生が副隊長という形がずっと続いてきたのだが、今年は二年生のまほが隊長になるという異例の年なので、仮として三年生が副隊長をしているのである。

 

 しかし、黒森峰は伝統を重んじるので、新入生である一年生から副隊長を選ばなくてはならないのだ。

 

 だが当然、入ったばかりの新入生がいきなり副隊長を務められる訳がないので、ある程度慣れてから、具体的には二ヶ月程たった頃に一年生から副隊長を選ぼうと三年生と二年生の間で取り決められているのだ。

 

「まだわかりませんよ。新入生は沢山いますし、今先輩も言ってたじゃないですか。現時点で即戦力は三人いる。私もそれには同意します。故に新副隊長もみほ以外のどちらかになるかもしれませんし、二ヶ月後にはその三人を追い抜く者が現れるかもしれない」

 

「でも妹ちゃんの出身中学ってあんたと同じところでしょ? なら、中学でも一緒に戦車道やってたんじゃないの?」

 

「……まあ、二年間私の元で副隊長をやっていましたが……」

 

「ならいいじゃん。一年から副隊長やってたってことは、あんたがいなくなった去年は隊長になったんでしょ?」

 

「それは関係ないですよ」

 

「何で?」

 

「ここは、黒森峰だからです」

 

「……?」

 

 そう。ここは黒森峰女学園戦車道。

 まほとみほの母親である西住しほもここの卒業生なのである。そのせいか黒森峰自体西住流の影響を受けており、黒森峰の基本の戦い方は、西住流のそれと酷似しているのだ。

 

 ある程度自由にできていた中学とは違う。

 

 もうここは黒森峰なのだ。

 

 故に、中学三年のみほの戦いを知っているまほは、みほがあの戦い方を続ける限り、みほを副隊長にするつもりはなかった。

 

(お前は西住の娘だ、みほ。あんな戦い方は捨てて、私と一緒に西住流を極めるべきなんだ……)

 

 まほはみほの動かしている戦車を見ると、無意識に軽く拳を握っていた。

 

 

 

 ーーー

 

 ーー

 

 ー

 

 

「エリカ! そこで深追いをするな! そこだけは昔からお前の悪い癖だぞ!」

 

『はい! すみません!』

 

 大洗との決勝を一週間後に控えた黒森峰は、ある程度の試合を想定した模擬戦を行っていた。

 

「……ふぅ、一度休憩にするか。全車輌に告ぐ、一度訓練場に集合だ」

 

 無線でいろんなところに散らばっている仲間に連絡を入れるまほ。

 

 すると、後ろから人の気配がした。

 

 振り向くとそこには、抽選会以来に見る幼馴染みの顔があった。

 

「……昔ダージリンにも言ったんだが、ここは黒森峰の学園艦だぞ? ケイ」

 

 そう、そこには幼馴染みの一人でサンダース高の隊長でもあるケイが立っていた。

 

「愚問よマホ。うちは戦車保有数全国No.1のお金持ちサンダース。ヘリなんかはもちろん、戦車を運ぶ大型輸送機スーパーギャラクシーだってあるわ」

 

 黒森峰も決して貧乏ではない。大洗やアンツィオと比べたら、天と地ほどの差がある。しかし、そんな黒森峰でもお金に関してはサンダースには勝てないようだ。

 

「何の用だ」

 

「聖グロとの準決勝観たわよ。なかなか面白い戦い方をしてたじゃない」

 

「…………」

 

「例えるなら……まるでミホのような戦い方だったといったところかしら」

 

「…………」

 

 まほは無言を貫く。

 

「聖グロも、まさかあの黒森峰があんな戦い方をするなんて思ってなかったんでしょ」

 

「……かもな」

 

 まほが肯定する。まほ自身もあの試合は自分の、西住流の戦い方ではないとわかってやっていた。

 

 作戦を決めたとき、エリカには反対されて質問攻めにもあったし、試合後には母親のしほから叱られるという散々な目にあったのだから。

 

 だが、それでもまほには確かめたいことがあったのだ。

 

「決勝の前に確かめたかったからな」

 

「ワッツ? なんのこと?」

 

 そんな会話をしていると、訓練場に戦車が次々と入ってくる。散らばっていた者たちが戻ってきたのだ。

 

「あ! お前はサンダースの隊長!」

 

 帰ってきた戦車の一台からエリカが真っ先に出てきて、ケイがまほと話しているのを見や否や直ぐに飛んできた。

 

「ワオッ! 抽選会の日の喫茶店以来ね! 確か、副隊長の逸岡 エリカだったわね!」

 

「逸見エリカよ!!」

 

 やはり素早い切り返し。前にカチューシャに間違われたときから全く衰えていないようだ。

 

「何でサンダースがこんなところにいるのよ!」

 

「何でって、決勝の激励に決まってるじゃない」

 

 ケイが呆れたようにエリカに答える。

 

「激励だと? フンッ、あんな素人集団に負けるような高校の激励などいるもんか。ね、隊長! 隊長も何か言ってやってください!」

 

 これでもかというほどに嫌悪感剥き出しのエリカはまほに同意を求める。

 

「エリカ」

 

「はい!」

 

「相手は年上だ、敬語を使え。年齢はちゃんと尊重しろ」

 

「…………はい」

 

 まほに叱られシュンとなるエリカ。

 

「アハハ、面白いわYOU。どう? サンダースに転校しない?」

 

「ふざけるな! 私は黒森峰の副隊長だぞ!」

 

「エリカ」

 

「…………です」

 

 シュン……

 

「とりあえずエリカ、お前は全員戻ってきたか確認して、休憩にするよう指示してくれ」

 

「……はい」

 

 トボトボとチームメイトの方へ肩を落としながら歩いていくエリカ。

 

「お前ももういいな? 私も行くぞ?」

 

「待った! さっきの続きを聞いてないわよ。確かめたかったって何を?」

 

「……お前に言う必要はない」

 

「……あっそ。じゃあ違う質問。試合の日、ダージリンとは話してないの?」

 

「少し話したな」

 

「どんなこと?」

 

「別に……あいつの作戦がぬるかったという話だ」

 

「はぁ、相変わらずあんたは……」

 

 ケイは手をこめかみに置いて、深くため息をつく。

 

「もういいだろ」

 

「ダージリンとは仲直りするつもりないわけ?」

 

「お前には関係ない」

 

「関係なくないでしょ、幼馴染みなんだから」

 

「お前は人の問題に突っ込みすぎなんだ、昔から」

 

「そんな言い方ないじゃない。こっちは心配して……」

 

「ケイ」

 

 突然、まほの声色が変わる。それは、かつてまほが一度だけダージリンに向かって発した声と似た、低く、背筋が凍るような声だった。

 

 その声を聞いた瞬間、ケイは動けなくなってしまった。ハッキリと向けられる幼馴染みの怒気。こんな殺気ともとれる空気を発するなんて思ってもいなかったのだろう。何せその時のまほの表情は、十年近く付き合ってきて、初めて見る表情だったのだから。

 

「いい加減にしろ。今の私は決勝を控えた身なんだ。この決勝は私にとって大事な一戦だ。………………………………邪魔をするな」

 

 ケイにとって生まれて初めて人間を怖いと思う瞬間だった。

 

 




 最後に久しぶりのケイさん登場。
 何かまほは怒ってばっかですねw(大丈夫、最後は皆笑えるはずだ。だから大丈夫。……多分)
 私としては弄られるエリカが気に入ってます。
 前の喫茶店でもカチューシャに名前間違えられてたし、ケイは絶対わざとだよねw
 さて、今後もまほの想いと、エリカの弄られをお楽しみに。

 次回も試合には入れません。
 ゆっくりお待ちください。

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