台詞はありませんが一人称なので地の文よりは少しは読みやすいかと。
ではどうぞ
私の名前は西住まほ。
西住の名の元に生まれた長女であり、西住流を継ぐのだと小さな頃から教えられてきた。
母の教えに従い、母の言う通りに動き、母が全て正しいのだと、そう信じてきた。
実際、母の教えの通りにすれば試合で勝てたし、私自身もそれがわかっていたから母に従うことに何の抵抗もなかった。
だが私が小学6年生のとき、みほが戦車道の試合で西住流とは程遠い作戦を立て、そして負けた。
母はみほを叱った。当然だろう。西住流を無視したあげく、試合に負けたのだ。
愚かだと思った。母の言う通りにやれば勝てるのに、何故わざわざそんなことをするのか。
でも、同時に少しだけ、ほんの少しだけ変な気持ちになった。
そのモヤモヤは戦車道をしているときのみほの表情を見たときに起こっているということに気付いた。
「お姉ちゃんは何をしているときが一番楽しい?」
だいぶ昔にみほにこんなことを聞かれたことがあった。
その時、私は自分がなんて答えたか覚えていない。
だが、みほがなんて言ったかは覚えている。
「私はね、皆で楽しく戦車に乗ってる時が一番楽しいんだ」
このとき、みほの言っている意味がよくわからなかった。
″皆で戦車に乗っている時″ではなく、″皆で楽しく戦車に乗っている時″。いったい何が違うのだろう。
だいたい、何をしているときが一番楽しいという質問なのに、″楽しく″ってついたらズルくないだろうか?
そんな感じの言葉を言い返したのは何となく覚えている。
そして、みほのこの言葉を理解する日が来た。
私が中学へ進学し、みほが小学六年生になった年。
みほはチームの隊長として、『全国戦車道大会 小学生の部』に出場した。
結果は二回戦敗退。
負けた試合は私も観に行っていた。ダージリンとケイも一緒にだ。
みほの立てたのはやはり西住流らしさの欠片もない作戦であり、簡単に言えば相手の裏をかくような作戦であった。
作戦自体はなかなか良くできたものであったが、最後の詰めが甘く、敵に看破されてしまった。
そして、負けた後モニターに映るみほを見て私は確信した。前にみほが言っていたのはこれのことなんだと、そう確信した。
あぁ、この子は勝つために戦車道をやっているわけではないんだ……と。
笑っていたのだ。楽しそうに、仲間たちと。みほは西住の娘ということで、大会前から優勝候補として注目されていた。しかし期待に応えることはできず、二回戦敗退という結果に終わった。
なのに、何故そんなにも楽しそうに笑っていられる? 勝ってもいないのに、勝つことに意味があるはずなのに、負けたのに……なんでそんなに楽しそうなんだ?
私には……西住の私には到底理解できなかった……。
みほが私のいる中学へ進学してきた。当然戦車道も続け、二年生で既に隊長を任されていた私はみほにあることを教えることにした。
『勝つことの楽しさ』
戦車道は勝つことに意味がある。勝って初めて戦車道の楽しさがわかる。
だから私はみほを副隊長にし、私の横で、私の右腕として、西住の名に相応しい戦い方で、みほに勝利というものを見せてきた。
私は隊長になってからの二年間、練習試合も含めて、全ての試合と名のつくものに勝ってきた。
私は二年間、一度も負けることはなかった。
みほに勝利というものを見せたくて。西住流なら、勝てるんだと知ってもらいたくて。
みほには私と一緒に西住流を極めて欲しい。ただその一心で勝利をもぎ取ってきた。
勝利の喜びを、西住流の正しさを、みほに強く強く理解してほしかった。
だが、少しだけ気になることもあった……。
みほが、笑わなくなった……
普段友達と話しているときはいつもと変わらない。普通に楽しそうに笑顔で会話をしている。
しかし、一度戦車を動かすと彼女は……みほは表情が一変した。
まるで、心のない機械のように……
私の指示を実行するだけの無機質な機械のように……
ただ、戦車を指示通りに動かすだけの″機械人間″になっていたのだ。
だが私は、指示通りに動き、ミスもなく、確実に敵を倒していくみほを見て、みほも私の想いが通じて西住流を極めようとしているものだと勝手に思い込んでしまった。
だから、みほが中学三年生のとき、ダージリンと観に行ったあの試合で私は自分の目を疑った。
あの二年間、私が勝つ喜びを、西住流の正しさを教えてきたあの二年間は何だったのだ。
″西住″みほは西住流とは程遠いやり方で、勝利を手にしていた。
そして、私の横にいたときは決して見せなかった笑顔を、あの楽しそうな笑顔を仲間たちに見せていた。
みほはそのまま優勝した。自分のやり方を最後まで変えずに。
……認めない。西住の名を持つ者があんな戦いをするなんて。
……認めない。戦車道において勝ちよりも大事なものがあるなんて。
……認めない。認めない。認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない。
認めてしまえば……私の今までを否定することになってしまう。
信じてきたものを信じられなくなってしまう。
私が私を否定することになってしまう。
だから私は、″西住″みほを……………認めない
ーーー
ーー
ー
「……いい加減にしろ」
「…………」
エリカが副隊長に任命されてから一週間が経った。
そんなある日、みほはエリカと共に隊長室へ呼び出されていた。
「……みほ、何度言えばわかるんだ。これがお前を副隊長に選ばなかった理由だ。アンチ黒森峰を気取りたいなら他所でやれ」
まほは冷たく、そして何よりも厳しくみほを叱っていた。
まほは新副隊長を決めるまでの間は、個々の能力を見るために一年生に口出しはしなかった。だから、みほも模擬戦で好き勝手できていたのだ。
しかし、副隊長も決まったことであとは全国大会に向けて訓練を進めていかなくてはいけない。
そうなると、みほが邪魔になってくる。
基本的には指示通りに動いているのだが、たまに突拍子もない動きをすることがある。
当然、みほにとっては必要な動きではあるのだが、何よりも隊列を大事にする黒森峰では、みほの動きは甚だ目立ってしまう。
これまでに何度か注意はしているのだが、それでも聞かないので流石のまほも呼び出さずにはいられなかった。
「逸見、副隊長に選ばれたということはお前は一年生のリーダーでもあるということだ。チームの輪を乱す者が一年生にいるのなら、私が言う前にお前が即刻注意するべきだ」
「……はい」
副隊長としてもっと自覚と責任感を持て、とエリカにも喝を入れるまほ。
「みほ、ここは″西住流″を重んじる黒森峰だ。好き勝手できていた中学とは違う。ここに入学した以上、そして戦車道を選択した以上はここのやり方に従え。中学生気分でいるのももう終わりだ」
「…………」
「返事はどうした?」
「……はい」
みほは俯きながら小さく返事をする。
まほはそんなみほを見て一つ溜め息をつくと、扉を指差す。
「もう行っていい。いきなり呼び出してすまなかったな」
そう言われたみほとエリカは、失礼しますと一礼すると部屋の外へと出た。
「………………はぁ~~~~~ッ! 隊長怖かった……ちょっと、あんたのせいで私まで叱られたじゃない」
エリカはキッとみほを睨む。
「それはお姉ちゃんの言う通り、逸見さんが私にちゃんと注意しないからでしょ?」
「はあぁぁぁ!!!??? あんたそれ本気で言ってるわけ!?」
「冗談。……本当にごめんね、私のせいで……」
俯くみほを見てエリカは大きな溜め息をつく。
「はぁ~、だいたい何であんたは毎回毎回隊列を乱すのよ」
「今日は敵の待ち伏せが見えたから、こっそり回り込んで倒そうと思って」
「だ・か・ら! そういうのは先に報告してからにしなさいって何度も何度も言ったわよね!」
「つい」
「つい、じゃないわよまったく! ていうか、そんなに黒森峰のやり方が嫌なら、何で黒森峰に入学したのよ。貴女なら他の学園艦でも余裕に通用するでしょ」
エリカは言い方は少々厳しいが、みほの実力はちゃんと認めているのだ。
「隊長の言う通り、黒森峰に来たからには黒森峰のやり方に従いなさいよ」
その言葉にみほは歩を止め、少し先に進んだエリカの背中を見つめる。
「……? どうしたの?」
「……逸見さんの言う通りだよ。戦車道ならどこでもできた。戦車道をするだけならわざわざ黒森峰を選ぶ必要なんてなかった。サンダースや聖グロ、アンツィオにプラウダ。この四つからは個人的なスカウトもあった」
エリカはみほの口から有名な高校ばかり出てきて、正直驚きを隠せなかった。
「それでもここに来た理由。私には目的があってここに来たんだ。だから……逸見さんには悪いけど、自分のやり方を変えるつもりはないよ」
みほの瞳には確かな決意ととある想いが宿っていた。
前半はまほの想いが詰まっていましたね。みほのやり方を認めてしまえば、自分が信じてきた西住流を否定することになってしまう。だからみほを認めるわけにはいかない。そんなまほの想いでした。
そして次回、今度はみほの想いです。
今回のような形式になると思いますので、そのつもりでお願いします。
では、次回もお楽しみに
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