はい、すみません。何か真面目な話ばかり続いているので少しふざけてしまいました。
本文はちゃんと真面目な話なので、ご安心を。
では、どうぞ
私の名前は西住みほ。
私には憧れている人が一人います。
その人はいつだって格好良くて、頼りになって、私の大好きな人です。
昔、何かの本で読んだことがあります。
『人というのはなれるものとなりたいものがある。そして、なりたいものとは絶対になれないからこそ憧れるものなのだ』と。
この言葉を信じるなら、私は絶対にその人にはなれないらしいです。
私のたった一人の姉である西住まほには……
私が生まれた家である西住家とは戦車道の歴史がある家で、西住流という言葉があるほど有名なのです。
そして、その西住流の後継者はお姉ちゃんだと、小さい頃から決まっていました。
そのことに私は何の疑問も抱かず、ただ淡々とその事実を受け入れていました。
実際、戦車に関しても戦車道に関してもお姉ちゃんの方が優秀であったし、単純に長女だからという理由もあったのでしょう。
だから母は昔から、お姉ちゃんには厳しく西住流を叩き込み、結果を出せば西住流のおかげだと教え込みました。
小さい頃、よくお姉ちゃんに戦車を運転してもらい、色んなところへ連れていってもらいました。
うちからはちょっと離れた紅茶が大好きな女の子の住む豪邸。
滑り台の上でよくわからないことを叫んでいる女の子がいる公園。
顔より大きなバスケットボールを持ってシュートの練習をしていたアメリカ人っぽい日本人の女の子がいるバスケットコート。
初めて会ったときはてっきり年下だと思ったけど実は年上だった女の子がいる広場。
当時仲の良かった彼女達と遊ぶときは、いつも私とお姉ちゃんが戦車で迎えに行っていました。
彼女たちはお姉ちゃんに毎回毎回大変じゃないか? と聞いていましたが、お姉ちゃんは決まって「戦車を運転するのは好きだから」と答えていました。
私もお姉ちゃんの運転する戦車に乗るのが大好きでした。
この時の私は……戦車に乗るのが大好きでした……
小学生の高学年になり、私は本格的に戦車道を始めました。
母曰く、『西住の姓を持つ者が戦車道をしなくて何をするの?』だそうです。
どうやら私が戦車道をすることは、既に決定事項だったみたいです。
でも私にはそんなことは関係なく、戦車道ができることにただただ喜びを感じていました。
西住の娘だから? 戦車に乗るのが好きだから? いいえ違います。
ーー西住まほがやっているから
私が自分から戦車道をする理由としては、この一つだけあれば十分でした。
戦車道の試合で指揮を執っているお姉ちゃんは堂々としていて、指示が的確で、兎に角格好良くて……
自分の憧れであると同時に、自分の目指すべき人だと、西住まほを自分の目標にした。
それからというもの、私は最も近くで、最も身近な存在として、常にお姉ちゃんの横でお姉ちゃんの戦車道を目に焼き付けた。
そして、理解した……
ーー私は、お姉ちゃんのようにはなれない
届かないのだ、絶対に
小学六年生にして、西住まほは既に完成していた。
彼女は西住流だ。彼女が西住流だ。
低学年の頃から母に教え込まれていた西住流が、お姉ちゃんの中では既に完成していたのだ。
西住流とは何か、私も母からそれは教えてもらっていた。しかし、どこか理解できず何故か納得できなかった。理由を聞かれても答えることはできない。ただ、何となくとしか言えない。
でも、お姉ちゃんはそれを全て理解し、納得もし、そして完成させた。
この先、西住流でお姉ちゃんを越せる者などいないだろう。
近くにいるからこそ、それが、その事実が、嫌でもわかりました。
……それでも私は、諦めたくはなかった。
一度決めた目標を、簡単に諦めるような人間にはなりたくなかった。
ーーだから私は、西住流から離れた
この結論に至ったのは自分でも至極真っ当だと思っていました。
西住流では西住まほには敵わない。
でも、西住まほに追い付きたい。西住まほを越えてみたい。
だから西住流とは違うやり方で、お姉ちゃんを越える。
これが当たり前の結論だと、そう思っていました。
でも、そう思っていたのは私だけだったようです。
小学五年生のとき、初めて作戦の指揮を任されました。そこで私はお姉ちゃんとは、西住流とはまるで違う作戦を立てました。
結果は敗北。この日の夜は母からの説教説教説教でした。
まぁ、当たり前だと思います。西住流に背いたあげく試合に負けたのだから、勝利を重んずる西住流からすれば怒って当然だ。
ただ、私はこの日の試合でとあることを思い出していたのだ。
試合に負けた後、チームメイトの一人にこんなことを言われた。
『みほの作戦よかったよ。確かに負けちゃったけど、まほさんの時よりも楽しかった。やっぱ戦車道は楽しくないとね!』
……何故、忘れていたのだろう。
別に私は楽しそうだからあの作戦を立てたわけではなかった。本気で考え、本気で勝ちに行って、そして負けた。
なのに、仲間が私の作戦を楽しいと言ってくれた。
西住まほを越える。西住流とは違うやり方でお姉ちゃんを越える。
そのことばかり考えていた。
そして、最も大事なことを忘れていた。
ーー戦車に乗るのが大好きで、戦車に乗るのがとても楽しい
あの頃の気持ちを、私は思い出していた。
中学に上がった。
お姉ちゃんが二年生にも関わらず隊長に任命されていた。
そんなお姉ちゃんから、私に副隊長をするように言われた。
お姉ちゃんの横で、お姉ちゃんの右腕として、お姉ちゃんのやり方で、戦車道に取り組んだ。
指示通りに動き、正面から、堂々と、敵を撃破していった。
お姉ちゃんの指示通りに動けば試合に勝てた。私が入学してからお姉ちゃんが卒業するまで、一度も試合で負けることはなかった。
間近で勝利というもの味わえた。間近で西住流を味わえた。
何だ、コレ?
楽しくない。楽しくない。楽しくない。
全っ然楽しくない!!
何だコレ何だコレ何だコレ?
ああ、そっか。お姉ちゃんと私では、根本的に違うんだ。
お姉ちゃんは勝つために戦車道をやっている。
私は楽しむために戦車道をやっている。
最初から、目的が違ってたんだ。
きっとお姉ちゃんは、勝って初めて戦車道の楽しさがわかるなんて思っているんだろう。
違う、違うよお姉ちゃん。
確かに勝つことは大事かもしれない。負けるよりは勝った方が嬉しいし、楽しいのかもしれない。
でも、それだけじゃないんだよ。
それ以上に大切なことがあるんだよ。
そして、それはお姉ちゃんだって知ってるはずなんだよ。
『戦車を運転するのは好きだから』
思い出してよ、お姉ちゃん……
笑ってよ、お姉ちゃん……ッ!
ーーー
ーー
ー
「だから私は黒森峰に来たんだ。お姉ちゃんの戦車道を、変えるために」
「…………」
エリカに対し正直に話すみほ。
その言葉には、確かな信念があった。
「……それで、常勝黒森峰の戦闘スタイルを変えさせると? そんなことが本当にできると思っているの?」
「違うよ。黒森峰のスタイル、西住流を止めさせるつもりなんてない。西住流が間違ってるなんて思っちゃいないし、実際勝ててるのは西住流のおかげっていうのが大半だしね」
「じゃあ、アンタは何がしたいのよ?」
「…………私はただ、楽しく戦車道をやりたいだけなんだよ。お姉ちゃんと、皆と」
「…………」
「逸見さん、今の黒森峰は楽しい? 心の底から楽しいと感じながら戦車を動かしてる? 初めて戦車を動かしたときのあの感動を、衝撃を、まだ覚えてる?」
エリカの目を見つめながら、必死に訴えるみほ。
「…………戦車を動かすだけの機械になってない?」
「…………ッ!」
エリカは突然歩き出したかと思うと、向き合うみほの横を通り過ぎ、もと来た道を戻っていく。
「逸見さん?」
エリカの突然の行動にみほは戸惑う。
「アンタの野望に手を貸す気はないわ」
「野望って……大袈裟な」
「でも……」
「……?」
エリカは振り替えることなく、背中越しでみほに言葉を伝える。
「お膳立てはしてあげる」
コンコン、と扉をノックする音が鳴る。
「はい」
部屋の中にいたまほは外の人物へ返事をする。
「失礼します」
すると、中へ入ってきたのは先程までここにいた現副隊長だった。
「どうした? さっきの話に何か言いたいことでも?」
確かに副隊長になったばかりの一年生に厳しく言い過ぎたかもしれないと、まほもほんの少しだけ反省はしていた。
しかし、返ってきた言葉は全く予想もしていなかった言葉だった。
「いえ……実は隊長に、折り入ってお願いがあるんです……」
過去編はあと二話くらいかな。もしかしたら一話かもしれないし、三話かもしれません。
その後に、決勝戦直前のお話を書いて、そしてやっと決勝戦。
まぁつまり、決勝戦まではもう少しかかります。
気長にお待ちください。
では、次回もお楽しみに
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