6人の戦車道   作:U.G.N

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 長いです。

 どうぞ。



私たちには無視できない奴らがいる

「お願い?」

 

「はい」

 

 エリカは隊長室でまほを前にしていた。

 

「その前に、少し質問があります。隊長の率直な意見をお願いします」

 

 まほは視線で次を促す。

 

「今の一年生で一番実力があるのは誰ですか?」

 

「みほだ」

 

 何一つ取り繕うことなく即答するまほ。

 

「では、西住みほを副隊長にしなかった理由は?」

 

「先程も言った通り、あいつには黒森峰の戦車道が合っていないからだ」

 

「私が副隊長に選ばれた理由は?」

 

「みほを抜いた一年生の中では一番実力があり、黒森峰の戦車道に、西住流にもむいているからだ」

 

 ただ淡々と事実のみを語っていくまほ。

 

「わかりました。ただ、私は西住みほを副隊長として推薦したいと思っています」

 

「…………」

 

「隊長が私を推してくれたことはとても光栄ですし、とても嬉しいです。ですが、隊長が即答できるほど私と西住みほの間には実力の差があります」

 

 とても悔しい。だが、認めざるを得ない。それほどみほとエリカの間には高い壁が立ちはだかっている。それをエリカは痛いほど理解している。

 

「勝つためには優秀な者が上に立つべきです」

 

「だからお前になった。黒森峰にとってお前は優秀な人材だ」

 

「……私は一%でも勝つ可能性が上がるのなら西住みほを推します。私は勝つために黒森峰を選んだんですから」

 

「私としては、みほを副隊長にした方が勝つ確率が下がると思うんだけどな」

 

「それはあの子が言うことを聞かないからですか?」

 

「そうだ」

 

 これまでの模擬戦を見てきて、西住みほはあまりにも黒森峰には合わない戦い方をしてきた。奇抜で、斬新で、仲間ですら理解できないことを平然とやってしまう。何のための行動なのかわからないときが多々ある。

 

「でも、それでも終わってみれば彼女の行動は全て意味あるものでした」

 

「…………」

 

「彼女のやり方は黒森峰には合わない。確かにそうかもしれません。ですが、言い方は悪いかもしれませんが、勝つためにはあるものは有効利用するべきです」

 

 西住みほがサンダース高に行っていたら、聖グロリアーナに行っていたら、プラウダに行っていたら、必ず黒森峰にとって脅威になっていた。

 

「せっかく、あれほどの人物が黒森峰にいるんです。だから、あの子をもっと上の地位で使うべきなんです。あの子ほどの戦場把握能力が高い子はいません。あの子ほどその場に応じた最善の指示を素早く出せる子はいません。全体指示を出せる立場に立って初めてあの子の本当の力が発揮されると思います」

 

「……それで? 結局どうしたいんだ?」

 

「ただ、このままあの子を副隊長にしてしまっては隊に示しがつかないので、私と西住みほで副隊長を賭けた勝負をさせてください」

 

「……ほう」

 

「私が勝てば、実力も私の方が上となるので誰も文句言わずに私が副隊長で認めてくれるでしょう。私自身も納得して副隊長になれます。ですが、もし西住みほが勝てば、その時は実力の差でちゃんと副隊長を決めてください」

 

 逸見エリカが望んだこと。それは副隊長を賭けた、西住みほとの一騎討ち。

 

「実力が拮抗しているのなら隊長の副隊長を選んだ理由で納得はできます。しかし、その穴を埋めてもお釣りがくるほどの実力があの子にはあると、私は思っています」

 

 エリカは一歩前に出てハッキリと告げた。

 

「その勝負をさせてください。当然私も負けるつもりはありませんが、あの子の実力をやり方をもう一度見てあげてください。お願いします」

 

 頭を下げるエリカ。

 西住みほのやり方を認めたわけではない。黒森峰にいながら、黒森峰のやり方に従わないあの子がどちらかと言えば嫌いだ。

 

 でも、あの子は嫌いだが、あの子の戦い方は堂々としていなくてあまり好きにはなれないが、それでも、あの子の、西住みほの戦車道は好感が持てる。あの子と一緒にやっていると、戦車が好きで好きで堪らないという感情が肌に直接伝わってくる。

 そんな子が戦車道を楽しくやれないのは絶対に間違っている。

 

 

 ……違う。そんなものは建前だ。

 

 

 何よりも、そんなくだらない理由で仕方なく副隊長にさせられた(・・・・・・・・・・・・・)自分が嫌で嫌で堪らない。そんな自分が許せない。辛くて、痛くて、泣きたくなるほど悔しい。

 

 だから、ここでハッキリさせる。逸見エリカと西住みほ、どちらが黒森峰の副隊長に相応しいか。いや、違う。ただ単純にどちらが上か、どちらが強いか、どちらがより勝ちに貢献できるか。それを、ハッキリさせる。

 

「……とのことだが? どうする? みほ」

 

 未だに頭を下げているエリカを他所に突然まほがそんなことを言い出す。

 

 すると、ドアの外からガタンという音が聞こえる。

 

「え、は!? ちょっと、アンタそこにいるの!?」

 

 エリカが慌ててドアに向かって叫ぶと、恐る恐るといった感じにドアが開く。

 

「えーと、まぁ、うん。多分最初から、かな?」

 

「~~~~~~~~~~~~~ッ!!!」

 

 みほの言葉に両手で顔を覆い、その場にしゃがみこんでしまうエリカ。掌からはみ出している耳まで真っ赤である。

 

「お姉ちゃん。逸見さんの提案、私からもお願いします。逸見さんにあそこまで言われたら黙っているわけにもいかないし、それに……」

 

 みほはまほの目の前まで移動し、まほの瞳を見上げるように見つめる。

 

「お姉ちゃんは知らないよね? 今まで私が何を見てきて、何を目標にしてきて、何のために戦車道をしているのかを」

 

「…………」

 

「やります。やらせてくだい」

 

「私からもお願いします」

 

 みほとエリカが頭を下げる。

 

 そんな二人を見て、まほは一つ小さな溜め息をつく。

 

「……いいだろう。ただし、当然条件はある。逸見は三年生チーム、みほは一年生チームで戦ってもらう。戦車の数は十対十だ。人数が足りない場合、二年生を入れて構わんが、一、三年生は私以外全員使うこと」

 

「「はい」」

 

「……逸見、お前の言葉だ。みほには欠点を埋めて余りあるほどの実力を見せてもらわないと困る。よって、みほの勝利条件は敵の殲滅」

 

「なっ!」

 

「…………」

 

「逸見の勝利条件は敵フラッグ車の撃破とする」

 

 あまりにも大きすぎるハンデ。当然エリカは猛反対をする。こんなもの、自爆覚悟で敵のフラッグ車のみを狙えばいいのだから。

 

「そんなの、釣り合いません! だいたいそんな条件で私が勝ったとしても、素直に喜べませんし、堂々と副隊長にもなれません!」

 

「なら、全車無傷でみほに勝てばいい。誰もお前が敵を殲滅してはいけないなどとは言っていないし、自爆覚悟で敵のフラッグ車のみを狙えとも言っていない。ただ、お前側が殲滅されたら試合が終わるし、みほ側のフラッグ車がやられたら試合が終わる。ルールをそういう風にするだけだ」

 

「それで構いません」

 

「なっ、アンタね!」

 

「そもそも、これはもう既に逸見さんが副隊長で一度決まったことなんだよ。それなのに我が儘でこんな試合をしてもらえるだけでも感謝しないと。それに、これくらい何とかできなきゃ、逸見さんに嘘をつかせたことになっちゃうしね」

 

 みほはそう言い、エリカに笑いかける。

 

「私、手加減とか、油断とか、同情とか、絶対にしないから。負けても文句も言い訳も言わないでよ」

 

「大丈夫。逸見さんがここまでしてくれたんだから、負けないよ」

 

 

 

 ーーー

 

 ーー

 

 ー

 

 

 

『ーーーーそこまで。残り戦車数、十輌対0輌によりみほチームの勝利とする』

 

 まほによるアナウンスが入る。

 

 完封勝利。

 

 みほはフラッグ車どころか、一輌も失わずにエリカ率いる三年生チームを殲滅した。

 

 待ちぶせに挟み撃ち、目眩ましに囮。

 

 隊列を重んじる黒森峰が一番嫌がることは当然ながら、隊列を崩されることだ。さらに欠点と言えるのは、黒森峰は、いや、西住流は完璧過ぎる。完璧過ぎるが故にイレギュラーになれていない。

 そして、黒森峰にとって最も重大なこと、それは……

 

「みほは西住流を知りすぎている」

 

 そう、まほの言う通りみほは小さな頃からまほ程ではないにしろ、西住流を叩き込まれているのだ。その上小中、そして高と、西住流の塊である姉が常に前に、隣に、とにかく近くにいた。

 

 まほはみほとエリカ、そして、三年生の元副隊長を集めていた。

 

「まぁ、そうだね。西住流を知り尽くした上での作戦でしょあれは。流石に先を読まれ過ぎてるし、西住流に詳しいからこそ、欠点もよくわかってる」

 

 元副隊長がまほの続きを受け継ぐ。

 

「でも、それはみほちゃんだからできた作戦であって、他の人にはできないことでしょ? そして、そのみほちゃんは黒森峰にいるんだから、あんな作戦を使われることはまずない」

 

「そうとは限りません。黒森峰は去年で九連覇、つまり、試合数が一番多く、映像にも一番残っているので対策は簡単に取れます」

 

「いやいや、映像を見たくらいで対策が簡単にできるなら九連覇もできないよ。それに今年は西住まほが中心な訳だしね」

 

「だからですよ」

 

「……?」

 

 元副隊長、そしてエリカも首を傾げる。

 

 しかし、西住まほはその表情を変えない。まるで、これからみほの言うことがわかっているかのように。

 

「今年二年生になってチームの中心になるのはお姉ちゃんの他にも、あと四人います。私と同じく西住流を、西住まほをよく知った四人が。それも強豪高に」

 

 そう、十連覇を目指すには忘れてはいけない、決して無視できない敵がいる。去年まではまほも含め一年生だったため、前の方には出られなかった。しかし、今年は違う。二年生となった今年は絶対に無視できない奴らがいる。

 

「……みほ、アイツらもお前のような作戦をしてくると?」

 

「西住流を倒すにはとにかく相手に西住流ならではの攻撃をさせないこと。これが一番だから。お姉ちゃんを知ってるあの四人なら、似たようなことはしてくると思うよ」

 

 まほは腕を組み、目を瞑り、熟考する。

 

 みほの実力は現一年生の中ではズバ抜けている。それは既に実証済みだ。エリカには悪いが二人の間にも高すぎる壁がある。

 

 しかし、みほのやり方も無視できない。どう考えても彼女のやり方は黒森峰には合わない。みほの言う通り西住流は隊列を崩されることを何より嫌う。それを身内で引き起こしてしまうかもしれない。

 

 いわば西住みほとは、諸刃(もろは)(つるぎ)なのである。絶大な攻撃力を持つが、一つ間違えれば自分達が大ダメージを負う。それが西住流を重んじる黒森峰なら尚更だ。

 

 それでも、みほのやり方よりも無視できない奴らがいる。それも確かだ。

 

「……お前なら、アイツらを止められるのか?」

 

「それはわからない。でも、今の黒森峰のままじゃ勝てないと思う」

 

「…………」

 

「…………」

 

 黒森峰、サンダース、聖グロリアーナ、アンツィオ、プラウダ、西住まほ、西住みほ、西住流

 

 まほの脳内で全ての駒が(はかり)にかけられる。

 

「…………っ、わかった。みほ、お前が副隊長になれ」

 

「…………はいっ」

 

 まほはエリカに向き直ると、

 

「逸見、すまない。私の独断で色々と面倒をかけてしまって」

 

 そう言って頭を下げた。

 

「いえ、この判断は正しいと思います。西住みほはそれだけの器ですから。頭を上げてください」

 

 まほは頭を上げ、そして今度は元副隊長の方を向く。

 

「先輩、先輩は元々みほを推していたのにそれを押し切って逸見を副隊長にした私が、またこんな勝手をしてしまいました。申し訳ありません」

 

「オーケーオーケー。私は黒森峰が強くなるならそれでいいよ。ただしみほちゃん、仮だったとはいえ私の後釜になるんだからちゃんとやってもらわなきゃ困るよ?」

 

「は、はい! 頑張ります!」

 

 ならOKとサムズアップする元副隊長。この人もかなり良い人である。

 

「先輩、それと逸見も、皆を集めてもらえませんか? こういうことは早めに報告した方がいい」

 

「そうだね、行こうかエリカちゃん」

 

「はい。では失礼します」

 

 そう言って元副隊長とエリカは他の隊員を呼びに言った。

 

「……みほ」

 

「……?」

 

「先に言っておく。私はお前の戦い方を認めてはいない。だから私の作戦にはちゃんと従ってもらう。それを変えるつもりはない」

 

「……うん」

 

「ただ、お前の実力は認めている。だから、もし試合中に気になることがあれば遠慮なく言え。ただし、報告なしの独断専行は絶対に駄目だ。隊列は絶対に崩すな」

 

「はい」

 

「西住流をよく知り、隊列をあそこまで崩すのが得意なお前なら、いざ隊列が崩されそうなとき敏感に気付けるはずだ。今度は崩すんじゃなく、お前の力で隊列を守ってくれ」

 

「わかりました」

 

「それじゃあ、二年間、よろしく頼む」

 

 みほに右手を差し出すまほ。

 

 そして、その右手を握り返すみほ。

 

「よろしくお願いします」

 

 二人の絆は以前よりも固く結ばれた。姉妹として、隊長と副隊長として。

 

 歴代最強の黒森峰が完成した。西住まほと西住みほ、この二人が協力しあえば誰にも負けない。

 

 

 このときのまほとみほはそう思っていた。

 

 




 あれ? これじゃあ、黒森峰とプラウダの決勝の後にまほがみほに言った台詞おかしくね? そう思う人がいると思います。

 一応考えてあります。次回をお楽しみに。

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