私は妹が好きだ。
小さい頃からお姉ちゃんお姉ちゃんと私の後ろを付いてきて、無邪気に笑うあの子が愛おしくて堪らない。
私は西住みほが嫌いだ。
運動だって勉強だって、常に私の方が上だった。あの子は勉強は良くて中の上。単純な運動神経だって悪いわけではないが、私の方が断然
だが、それが戦車道になると話は違ってくる。
あの子には才能があった。
私にはないものを初めから持っていた。
私は西住流が好きだ。
あの流派は私に勝利を運んできてくれる。勝つことは何よりも嬉しいことだから。西住流は私の一部だ。
私は西住流が嫌いだ。
どんな相手だろうと変わらぬ戦術。撃って撃って撃ちまくる。勝つためには犠牲は付きもの。その考え方が気に入らない。
私は黒森峰が好きだ。
九年連続全国制覇。そんな素晴らしい成績のある高校の戦車道で、隊長をやらせて貰っている自分が誇らしく思えるからだ。
私は黒森峰が嫌いだ。
お母様の下で西住流だと言いながらただ言われたことをしているだけに過ぎないくせに、九年連続全国制覇は自分たちが勝ち取ったものだと思い込んでいる。結局は黒森峰も西住流の力を借りているに過ぎないくせに。
だが、みほよりも、西住流よりも、黒森峰よりも……
他の何よりも、私は
ーーー
ーー
ー
「――長、隊長!」
「…………ん、……?」
エリカの声でまほは目を覚ます。どうやら隊長室で明日の作戦を練っている最中にウトウトしてしまっていたらしい。
「隊長お疲れですか?」
「いや、問題ない。どちらにせよ明日で最後だしな」
まほは再び明日の戦場となるフィールドの地図に目を向ける。
ここでこうしたらどうか、いや、この場合はこうした方がいいだろう、とエリカと作戦を練っていく。
一通り作戦も決定したので一息いれることにし、まほは椅子の背もたれにもたれ掛かる。エリカはお茶を淹れますねと部屋の端にある簡易キッチンへ向かった。
「それにしても安心しました。また準決勝のような作戦を言い出したら、どうやって隊長を思い止まらせようかとずっと考えていたんですよ」
「……ふっ、流石にもうあの時のお母様は見たくないな」
「……あの時は本当に怖かったんですからね。家元があそこまで怒るところは初めて見ましたよ」
準決勝の聖グロリアーナ戦でまほが指示した作戦は、圧勝はしたものの黒森峰、しいては西住流とは程遠い作戦であり、その試合を観た西住しほはまほに長時間の説教を施していた。
「……エリカ。お前はあの作戦どう思った?」
「え? 準決勝の作戦ですか? まぁ、西住流の欠片もないと言いますか、家元が怒るのも仕方ないんじゃないかと。あの作戦ではまるで……」
「まるで……みほを見ているようだ、と?」
「ええ。でも、やはり姉妹なんだなとも思いました。隊長もあんな作戦思い付けるなんて知りませんでしたから」
エリカはお茶を淹れながら、みほとまほの影を重ねるように流石姉妹だと言うが、それは違う。
「あれは私が考えた作戦じゃない。みほが小学五年のときに思い付き、中学三年で完成させた作戦だ」
まほの言葉にエリカは顔を驚愕の色に染める。
まほの言葉が本当なら、みほは高校生の、それも名門聖グロリアーナを倒せる作戦を小学五年生で既に思い付いていたということになる。
「まぁ、私があんな作戦を使うはずないというダージリンの先入観もあったからうまくいったんだと思うし、むしろそれこそが狙いだったんだが、それでもみほの発想力は群を抜いている」
エリカもその言葉に素直に頷く。
彼女も知っているのだ、西住みほの恐ろしさは。
一年間近くで見てきた。自分と同い年でここまで自分と差がある者を今まで見たことがなかったから。エリカは、恐らく今まで会ってきた中で戦車道に関してはみほが一番才能があるのではと思っていた。自分が初めて本気で追い付き追い越したいと思った人物である。
今ではその対象は目の前にいる西住まほであり、当然心の底からまほのことを尊敬もしている。しかし、一番最初に目を奪われたのは姉のまほではなく、妹のみほである。
彼女が近くにいるのなら、自分はどこまでだって上へ登れる気がしていた。口ではバカにしながらも、彼女が本気を出せば、彼女の言っていた黒森峰に来た目的も絶対に達成してしまうのだろうという思いがどこかにあった。
だからこそ、エリカはみほを許せない。
そんなエリカの思いも露知らず、みほは姉の前から逃げ出し、黒森峰から逃げ出し、自分の目的からも逃げ出し、あまつさえ戦車道からも逃げ出した。
そして去年まで戦車道がなかったような学校へ行き、今ではのうのうと素人集団とお遊びのような戦車道をしているくせに、のらりくらりと決勝まで勝ち上がってきている。
その根性が、その生き様が、その運の良さが、
そして何よりもその才能が……
エリカは憎くて憎くて堪らなかった。
だから絶対に勝つ。かつてみほが捨てた黒森峰がみほが現在何よりも大事にしている大洗を打ち倒す。
絶対に負けられない。絶対に負けたくない。
絶対に勝ってみせると、エリカは強く誓った。
ーーー
ーー
ー
プルルルル、プルルルル――
決勝前夜、みほは自室で明日の作戦の最終チェックをしていた。そこで一本の電話が入る。
「もしもし」
『ハーイ、ミホ。調子はどう?』
電話の向こうからは明るげな声が聞こえてくる。昔から幼馴染みの皆を引っ張ってくれていた明るい声だ。
「ケイさん、こんばんは。まぁできることはやってます」
『そう。ワタシも明日は観に行くから、しっかりね』
「はい。…………それで、どうでしたか?」
みほはケイがこんなことを言うために電話をしてきたのではないとわかっていた。
もちろん頑張れを言うのも目的の一つではあるのだが、本題は別にある。
『あー、やっぱり険悪だったみたい。まほはまほで挑発しまくって、ダージリンはダージリンでそれに乗っかっちゃったみたいだね』
そう、あの準決勝。みほはあの試合の映像を観てどう見てもおかしいと思っていたのだ。
あのいつでも冷静なダージリンがあんな見え見えの罠に引っ掛かるとは思えなかった。だが、以前ケイやアンチョビからまほとダージリンが一年近く喧嘩していると聞いていたので、そのせいであんな単純ミスをしたのではと考えていたのだが、まさにその通りだったようだ。
『しかも、試合後にまほがダージリンに余計なことを言ったみたいで、準決勝の後からダージリンの機嫌がすこぶる悪いってカチューシャが言ってた』
ケイの報告につい溜め息が出てしまうみほ。まったくうちの姉は一体何をしているのだと。
『やっぱりミホが何とかするしかないみたいよ。ワタシもまほに会いに行ったけど全然相手にされなかったし、むしろちょっとキレられたわ』
「あぁ、うちの姉がすみません……」
電話の相手に頭を垂れるみほ。まぁ、現在進行形で行われているあれほどの大喧嘩をこんな冗談チックな話題にできるのは幼馴染みの特権だろう。
「まぁ何とかしてみます。でも私の話に耳を傾けてもらうにはまずは勝たないといけませんね。因みに、私の夢はまた六人で楽しく一つの戦車に乗ることですから」
『フフッ、そのベリーナイスな夢、楽しみに待ってるからね』
そうして明日は頑張ってという言葉を残し、ケイは電話を切った。
「……よしっ、お姉ちゃんとダージリンさんを仲直りさせるためにも、まずは明日勝たなきゃね。……それに勝たなきゃ、大洗がなくなっちゃうんだよね……」
誰にだって負けられない理由がある。
自分の考えが正しいと証明するために
個人的に許せない相手を倒すために
自分の夢のために
自分の学校を守るために
理由は様々。十人いれば、理由は十個以上集まる。
しかし、そんな異なる理由を持つ彼女たちも目指すものはたったひとつだけ。
″優勝″
ただ、それだけである。
次回から決勝戦編へ突入します。
なんかプラウダ戦からここまでいろんな人の視点で話が進んできましたね。
ですがようやく決勝が始まります。
お楽しみに
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