どうぞ
『こちらアヒルチーム、十字路に敵車輌発見。セモベンテ二輌、カルロ・ヴェローチェ三輌』
『こちらウサギチーム。こちらも敵発見です。カルロ・ヴェローチェ四輌、セモベンテ二輌が陣取っています』
アヒルチームとウサギチームからの報告を受けるあんこうチーム。
「数が合いませんね、合わせて十一輌もいる」
「P40もいません。二回戦のレギュレーションでは十輌までと……」
「インチキしているのでは」
華と優花里がみほに言う。
「整列したときはちゃんと十輌でしたし、観客席ではこの試合のライブ映像が流れています。反則のアナウンスがないということは、少なくとも戦車を十輌以上使っているということはないと思います」
しかし、みほは思うところがあった。
(出会った頃は、よく小さいズルをしてたっけ千代美さん。その度にお姉ちゃんに看破されて泣いてたけど。でも、何年か経ってそういうことはしなくなったと思ってたんだけど…………何だか出会ったばかりの頃の千代美さんと戦ってるみたい)
「ウサギさん、アヒルさん。退路を確保しつつ停まってる敵に砲撃してみてください。もしかしたらそれ、ハリボテかもしれません」
『え? あ、えっとわかりました。やってみます』
『了解です』
そして、数秒後。
『あっ! 板だ! 看板だ!! ニセモノだ!!!』
無線の向こうからそんな声が聞こえてくる。
「やりますね、欺瞞作戦なんて」
つまり、十字路に大洗を足止めし、その機動力で包囲するという作戦らしい。
~アンツィオ~
「アッハッハ! 今ごろアイツら、十字路でビビって立ち往生してるぜ!」
作戦がバレたことも知らずに、ペパロニは高々と声をあげて笑っていた。
『ペパロニ姐さん!』
「あ? 何だ、どうした?」
『後ろから八九式が追ってきています!』
「なに? 何でバレてんだ? まぁいい。アンツィオのスピードにはついて来られまい」
余程自分たちの速度に自信があるのか、余裕を見せるペパロニにだった。
ところかわって、アンチョビの乗るフラッグ車P40と、それの護衛を務めるカルパッチョの乗るセモベンテと更にカルロ・ヴェローチェ一輌の計三輌は別の場所で待機しつつ、ペパロニの報告を待っていた。
「おい、マカロニ作戦はどうなっている」
『スンマセン。今それどころじゃないんで、後にしてもらえます?』
「……? 何で?」
『今八九式と交戦中です。それにしても、何でバレたんだろ?』
「何ぃ? ちゃんと十字路にデコイ置いたんだろうな?」
『ちゃんと置きましたよ、全部!』
「はぁ!? 全部置いたら十一輌になって数が合わないだろ!」
『あ、なるほど~。姐さん頭良いっスね』
「お前がアホなんだ!!」
基本、熱くて良い子ではあるのだが、何を隠そうアンツィオの二人いる副隊長の内、一人はバカの子なのだ。
「行くぞ! 敵はすぐそこまで来ている」
「はい」
アンチョビはもう一人の賢い方の副隊長、カルパッチョに声を掛け、戦車を前進させる。
「あれほど二枚は予備だって言ったのに、どうして忘れるかな!!」
バカな部下を持つと苦労するとはまさに彼女のための言葉だろう。
そして、それはすぐに訪れた。
前進して二十秒も経たない内に、敵三輌とすれ違ったのだ。
「ストップストップ!! 敵フラッグ車とⅢ突とⅣ号だ!」
急停止、急転回し、横の斜面を降りようとするアンチョビ率いるP40。
「Ⅲ突は私に任せてください!」
突然カルパッチョがそんなことを言い出す。
そういえば、カルパッチョにも大洗に幼馴染みがいると言っていた気がする。もしかしたら、あのⅢ突にその子が乗っているのかもしれない。
同じく幼馴染みがいる者としてカルパッチョの気持ちは痛いほどわかるので、アンチョビは任せることにした。
「頼んだぞ!」
そして、P40とカルロ・ヴェローチェ一輌は斜面を下っていく。
横を見ると、向こうのフラッグ車である38(t)とⅣ号もこちらと同じように斜面を下っていた。
「おい、お前たちは敵フラッグ車を狙え! Ⅳ号は私が受け持つ!」
『ええ!? でも姐さん。そしたら姐さんの護衛がいなくなっちゃいますよ?』
「構わん。私がやられる前にお前が敵フラッグ車を撃てばいいだけの話だ」
『なるほど! 流石姐さんっス! 任せてください!』
そして、カルロ・ヴェローチェは敵フラッグ車に向かっていった。
しばらく撃ち合いをしながら、いつの間にか真ん中に大きな木が立っている原っぱに移動していたP40とⅣ号。
その戦車からはそれぞれ、車長であり、隊長でもあり、幼馴染みでもある二人が顔を出していた。
「私たちⅣ号が38(t)を護衛できないように、フラッグ車自ら足止めですか? 千代美さん」
「足止め? 違うな。私たちはお前たちを撃破した後にゆっくりと味方の援護に行くつもりだよ。それと、アンチョビだ」
Ⅳ号の長さは余裕に超えている程の直径の大樹を真ん中に挟んで話すみほとアンチョビ。
「知ってたか? みほ。うちの副隊長も、大洗の戦車道に幼馴染みがいるそうだぞ」
「……? あ、そういえばカエサルさんがそんなことを言ってたような……」
「恐らくはあのⅢ突の乗員だろ?」
「はい」
「ハッ、同時に二ヵ所で幼馴染み対決が起こるなんてな。やっぱり、戦車道は何が起こるかわからない。だから面白い」
「ふふっ、そうですね」
互いに笑い合う二人。そしてその瞳は、次第に真剣なものへと変化していく。
「さて、ラストバトルだ。お前が私を倒すのが先か。私の仲間がお前の仲間を倒すのが先か。因みに私の予想ではそのどちらでもなく、私がお前を倒して、お前のところのフラッグ車も私が倒す、だ」
「おかしいですね。私の予想では、ここで決着がつくはずですよ? 大洗の勝利で」
「…………」
「…………」
互いの視線がぶつかる。
そして、同時に互いの戦車が動き出す。
戦車は大樹を中心にぐるぐると時計回りに回る。
(最悪、私さえやられなければいつかはアイツらが敵フラッグ車を倒してくれるだろう。しかし、ただ逃げ回るだけなんてのは私らしくない! 私がみほを倒す!)
しかし、互いになかなか砲撃が当たらない。それもそのはず。走行しながら砲撃を当てるというのはやはりかなりの精度が必要である上、アンチョビの乗るP40は色々と準備があったため一回戦では使用していないのだ。勿論P40で訓練はしたし、普通に走って撃つ分には何の問題もない。
だが、走っている相手を自分も走りながら撃ち抜くという高度なことをする場合、やはり慣れ親しんだカルロ・ヴェローチェやセモベンテの方が扱いやすいのだ。
「ちっ! 何とか当てろ! P40の力を思い知らせてやるんだ!」
~あんこうチーム~
時計回りに回りながら、お互い発砲をやめない二輌。
P40の砲撃は、大樹やら地面やら色んなところへ着弾している。
対してⅣ号の砲撃は全て大樹に当たっていた。
「……! よし、そろそろ大樹が倒れると思います。何とか大樹をあんこうの後ろへ倒して敵の動きをとめます。その間に全速力で敵の後ろまで移動、撃破します」
Ⅳ号は敵フラッグ車を倒すために確実な方法をとっていた。砲撃はP40を狙っているように見せかけて、全て大樹に当てていたのだ。この大樹を折って倒すために。
「みぽりん! 大樹が向こう側に倒れるよ!」
それが何発目かは数えていない。しかし十五発は越えていただろう。そして、大樹が今、調度敵フラッグ車がいる方へ倒れていく。
完全に倒れるまでにタイムラグがあるため、今真下にいるP40は難なく通りすぎる。
「麻子さん! 倒れる前にあの大樹を潜り抜けて!」
「飛ばすぞ」
みほの指示にⅣ号の速度が一気に増し、倒れていく大樹へと向かっていく。
~アンチョビside~
ズドーン!!!! という大きな音が後ろから聞こえる。
「おいおい、でっけー木が倒れたぞ! って止まれ止まれ!! ぶつかるぞ!!」
アンチョビの指示で、急停止する。
P40の目の前には、今倒れた大樹が横たわっていた。
「あっぶねー! 木? つまり一周したのか。…………あれ? 私たちの前にⅣ号がいないってことは……ッ!! おい! 砲塔を後ろに回転させろ! 早く!!」
そう。P40が一周し、倒れた大樹とP40の間にⅣ号がいないということは、大樹に潰されていない限りはⅣ号は今自分たちの後ろから来るということになる。
アンチョビは慌てて戦車から頭を出し、後ろを振り返る。
その目に映ったのは、十五メートルほどまでに近づいたⅣ号と、その上から真剣な表情で顔を出しているみほの姿だった。
『アンツィオ高、フラッグ車走行不能! よって、大洗女子の勝利!』
広い原っぱに、アナウンスが響き渡った。
「いやー、負けちゃったよみほ」
試合が終わり、アンチョビはいち早くみほのところへ寄っていった。
「千代美さん、お疲れ様でした。良い試合でしたね」
みほも笑顔で応える。
「お前、わざとあのでっけー木に砲撃してただろ? 何かおかしいなぁって思ってたんだけど、それに気づいたのは木が倒れた後だった」
「気づいたんですか。流石ですね千代美さん」
「でも、うちのバカがミスしなかったらうちが勝ってただろうけどな!」
「……あの、それってあのハリボテのことですか?」
「そうそれ! うちの副隊長が数間違えやがってよー。全く何回も2つは予備だって言ったのにさ」
「あれって千代美さんが考えた作戦なんですか?」
「ん? そうだけど?」
「えっと、今日ダージリンさんとケイさんが観に来てるって知ってました?」
「へぇ、知らなかった。そうだったのか」
「…………そ、そうですか、知らなかったですか。えっと、あの、それじゃあ失礼します! お疲れ様でしたー!!」
「え? ちょっ、おい! みほ! ………何だよあいつ、いきなり走って行っちまいやがって」
ガリガリと頭を掻きながら振り返ると、そこには観戦に来ていたダージリンとケイが立っていた。
「ん? おお! お前ら、ちょうど今みほとお前たちの話をしてたんだよ。いやー、それにしてもあと一歩だったんだけどなぁ。でも、なかなか良い試合だっただろ?」
「ええ、とても面白い試合でしたわ」
「そんなことよりサー、あの木の板の作戦って千代美が考えたの?」
「ん? みほもそれ聞いてたな。そうだ。私が考えた」
「…………」
「…………」
すると、突然無言になる二人。
「お、おい? どうした?」
「……こんな言葉をご存知で? 真剣勝負にズルをするな。正々堂々真正面から勝負することに意味がある」
「んー、どっかで聞いたことあるような、ないような」
「ちなみに、このときズルした子たちはおやつ抜きになってるんだよねー」
「おやつ? …………………………あ! い、いや、これは違うぞ。今回のは別にズルじゃない! あくまでも頭を使った天才的戦術だ!」
どうやら昔の記憶が蘇ったらしいアンチョビは慌てて否定する。
「別にルール違反じゃないだろ! 言ってもグレーくらいだ!」
「限りなく黒に近い、ですけどね」
「少なくとも、正々堂々真正面からではなかったよねー」
ダラダラと汗をかきはじめるアンチョビ。
「ねえケイ。わたくしたちはあの時、おやつ抜きだったわよね? 今回はどうします?」
「んー、あの時の私たちにとってのおやつと同価値のものがいいから…………そうだ! 千代美は今日から一週間パスタ禁止で!」
「い、いや、いやいやいやいやいや! それはあまりにも酷じゃないか! 釣り合いが取れてないぞ! それにこれからアンツィオは打ち上げなんだ! そこでパスタ抜きとか、お前ら私に死ねと!?」
「異論反論抗議質問口答えは」
「一切認めないよ」
い、嫌だぁぁぁぁぁーーー!!! というアンチョビの断末魔が会場に響いたのだった。
「千代美さん。やっぱりあのトランプ事件、忘れてたんだね」
遠くから聞こえる断末魔に苦笑いをしながら、一人呟くみほであった。
試合のラストは大分原作と変わりましたね。
もう変わりすぎて大きな木とか倒しちゃいました。
ダージリンとケイは昔のトランプでアンチョビにおやつ抜きにされたことを未だに根に持っていたんですねw
次回はカチューシャのお話です。
試合には入らないと思います。
お楽しみに
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