機動戦士ガンダム00 The human race's reformation   作:K-15

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最終話 IF

互いにトランザムを発動させて高機動戦闘へと戦いは発展していく。

この状況下ではトランザムを発動させているとはいえダブルオーライザーが不利なのは変わらない。

左腕はなくなり接近戦しかできない武装で、リボーンズガンダムと渡り合わなくてはならない。

2機のモビルスーツから発光している装甲は移動する度にまるで彗星のように暗闇を照らす。

リボーンズガンダムは擬似GNドライヴにも関わらずダブルオーライザーのそのスピードに付いて行った。

 

「完璧に調整されたこの機体の前に、もはや他のガンダムなど必要なくなった。全ては、このリボーンズガンダムと僕が居れば事足りる」

 

「人類に必要なのは支配ではない。お前のその傲慢を、俺は破壊する!」

 

「やってみるがいい!」

 

右手のビームライフルを目標に向けトリガーを引こうとした時には、既にダブルオーライザーは目の前から姿を消していた。

普通のパイロットなら動揺したり、次の動作に移るまでにわずかにでも時間が掛かってしまうがリボンズは違う。

イノベイドとしての卓越した身体能力と戦闘技術に脳量子波、高い機体性能が純粋種と覚醒した刹那に負けず劣らずの強さを持っている。

一瞬でも気を抜けば視界から消え、隙を突こうとするダブルオーライザーにも余裕の笑みを浮かべてすぐさま対処した。

 

「キミの考えている事は脳量子波が教えてくれる。キミだってそうだろう?次に相手がどう動くのか、何をしてくるのかも手に取るようにわかる。だから―――」

 

機体を反転させ左マニピュレーターが握っているサーベルラックから高出力のビームサーベルを発生させ一閃した。

まばゆい閃光と機体には衝撃が走り、ダブルオーライザーが握るビームサーベルと交わった。

 

「刹那・F・セイエイ。キミに勝ち目はない!」

 

「脳量子波は戦う為の道具ではない!」

 

「今と言う状況ではこう言う使い方も出来ると教えて上げているんだよ。相手の考えを一方的に読み次の手を潰す。戦いに置いてこれほどまでに便利な物はないよ」

 

「キサマはイオリア計画の体現者ではない!イオリアが目指したのは人と人との調和、その先にある人類の統一。この世界から、宇宙から戦いをなくす事だ!」

 

刹那はオーライザーの補助アームを駆動させザンライザーでの攻撃を試みる。

ビームサーベルの鍔迫り合いで動きを止めている左腕目掛けて右舷のザンライザーを振り下ろし、左舷はコクピット目掛けて突きを繰り出す。

だがこの行動も戦闘空域全体にまで広がったGN粒子とサイコフレームの光が、脳量子波を通してリボーンズへと伝わってしまう。

 

「この程度の攻撃で僕を倒せるなんて思わないでくれるかな」

 

右舷のザンライザーが振り下ろされるよりも早くにリボーンズガンダムはビームサーベルの出力を弱めて後退した。

ダブルオーライザーのビームサーベルとザンライザーは空を切り、左舷のザンライザーの切っ先も装甲へは届かない。

リボンズはダブルオーライザーが体制を立て直すわずか1秒にも満たない内に、ビームライフルで左舷の補助アームを撃ちぬいた。

 

「ぐぅっ!!持ってくれダブルオー。まだツインドライヴは動いている」

 

「ふん、満身創痍の機体で僕には勝てないよ。それにトランザムの限界稼働時間も来る頃だ。諦めなよ」

 

勝ち誇ったリボンズは諭すように刹那へ呼びかけた。

刹那はコクピットの中で機体の粒子残量を確認すると貯蔵されていた粒子も30パーセントを下回っており、トランザムの稼働時間も残り20秒程しか残されていない。

だがどれだけ絶望的な状況になろうとも刹那は諦めると言う選択肢は選ばない。

 

「リボンズ・アルマーク、俺は諦めたりしない。それが俺が今までに戦ってきてわかった数少ない事の1つだ。俺は諦めたりしない。この戦いも、これから先の未来も、お前との対話もだ!」

 

「世迷い事を!なら今すぐにここで朽ち果てろ!」

 

戦い、殺しあうのではなく共存しようとする刹那は、リボンズへもその可能性を持ちかけようとする。

リボンズは刹那の発言に酷く激昂した。

敵として戦っている筈なのに、手を取り合おうと呼びかける刹那の考えに反発する。

動きを見せないダブルオーライザーに左手のビームサーベルを突き立てた。

真っ赤に光る粒子の剣がコクピットのモニター一杯に広がるが、それでも刹那はまだ動かない。

自分の気持を、想いを脳量子波に載せて刹那は叫んだ。

 

「バナージ!!」

 

///

 

バナージとリジェネの戦いは幕を閉じた。

ユニコーンは全身の白い装甲が全て剥がれ落ちフレームがあらわになった状態で、サイコフレームの緑色の輝きも今は消えている。

 

「サイコフレームの共振が……止まった」

 

バナージはメインカメラが映し出す映像を見てサイコフレームの活動が止まっていることに気が付く。

そしてすぐ傍には直前まで戦い合っていたリジェネのナイチンゲールが無残な姿で横たわっていた。

リジェネのナイチンゲールは左腕がなくなり右腕はマニピュレーターがない。

特徴的な背部バインダーも両方をなくしてしまい、プロペラントタンクと擬似GNドライヴも内部から崩壊しリヤスカートには大きな穴が空いていた。

メインカメラも機能せず、残りはサザビーの残骸から持ってきた核融合炉だけがナイチンゲールの動力源だ。

それでも満足に動ける状態ではなく、もはや戦闘続行は不可能である。

静まり返った戦場で幻獣の面影がなくなってしまったユニコーンが腕を伸ばし、マニピュレーターを焼け焦げた赤い装甲へ接触させた。

 

「もうこの機体は動かせません。早く脱出を」

 

「バナージ・リンクス、僕は負けただなんて思っていない」

 

「アナタはまだそんな事を」

 

「サイコフレームの使い道は僕が正しい。それを証明する為には、やはりキミのガンダムが必要なんだ」

 

光をなくしたメインカメラ、頭部の装甲が開き内部のコクピットコアがあらわになる。

赤い球体のコクピットコアが本体から切り離されボールのように宙へと浮いた。

クルクルと回るコクピットコアにユニコーンのマニピュレーターをゆっくりを添え、両手でしっかりと捕まえる。

 

「もう戦う理由なんて何処にもないんですよ。これ以上どうしようって言うんですか?」

 

「そう……ナイチンゲールは負けてしまった。サイコフレームも手に入れられず、リボンズやソレスタルビーイングの邪魔な存在もまだ残っている。キミが……キミさえ来なければ、僕はイノベイドとして生きて行けたんだ。でも知ってしまった。いずれ来訪する知的生命体、サイコフレームの能力、だから僕は戦ったんだ。誰にも頼らずに1人で戦い続けた」

 

「1人でなんて虚しいだけだ。進む道が違っていただけで、目指した場所は俺たちと一緒でしょ。アナタも未来を見つめて動いていたんだ。みんなと同じように。だからこうして話し合える」

 

「違う……違うよ、バナージ・リンクス。僕とキミが居るべき場所はここではない。キミには帰るべき場所がある。そして僕にも、行くべき場所がある」

 

リジェネの言葉に同調し、コクピットコアだけになってもサイコフレームが淡い輝きを放ち始めた。

それにつられてユニコーンガンダムのサイコフレームも緑色に光り、溢れ出る粒子が機体を包み込む。

 

「これで最後だ。もうキミと会う事もない」

 

「サイコフレームがまた共振してる。でもさっきまでとは違う。暖かくて、安らぎを感じる」

 

「僕は諦めた訳ではない。バナージ・リンクス……」

 

「光だけが……広がって行く……」

 

ユニコーンを包み込んだ光は宇宙に広がる川のように何処までも、遥か彼方の銀河系にまで伸びていった。

光の流れにバナージの意識は意識共有領域へと飲み込まれ、未だ戦場で戦っている2人の意識を感じ取る。

闘争本能が支配し聞く耳を持たないリボンズと、それでもと対話を続ける刹那。

だが損傷しているダブルオーライザーではこのまま戦っていく事は不利である。

 

「あの2人はまだ戦っているのか。何とか止められないのか?」

 

意識共有領域に居るのはバナージだけであり、いくら叫ぼうともこちらからの声は2人には届きはしない。

苦戦を強いられる刹那を助けたいが、この空間ではどうする事も出来ない。

意識共有領域の入り方も出方も、今の世界には誰一人としてはっきりと理解出来ている人など居ない。

バナージもその1人で意識共有領域からどのようにしたら現実世界へ戻れるのかはわからなかった。

 

「方法がある筈だ。ここから出る方法が」

 

刹那を助けたいと考えるも、手をこまねいているのが現状。

『それでも』と心の中で言い続けて何とか脱出する方法はないかと探すが、無限に広がる虹色の空間にはその手がかりすら見つからない。

だが、ここから出ようと考えているバナージに不意に声が響き渡った。

 

『バナージ!!』

 

「刹那さんの声……来るなって言うんですか?」

 

一瞬だけだが確かに聞こえた刹那の声は、脳量子波に乗って意識共有領域のバナージに伝わった。

その声が聞こえた事で脳量子波は意識共有領域の外へでも伝えられると理解し、残されたわずかな可能性にすべてを託した。

 

「残っている方法はこれしかない。サイコフレームが人の想いを増幅させ力に出来るなら、俺の想いに答えてくれ。刹那さん、アムロさん、みんな……」

 

///

 

トランザムは解除されダブルオーライザーのツインドライヴから発生する粒子量が低減してしまう。

目の前に立つリボーンズガンダムは左手に握るビームサーベルをダブルオーライザーの胸部、青い装甲へ突き立てる。

動こうとしない刹那に容赦なく迫る赤い粒子、退路はもう在らず防ぐ事も出来ない。

だがリボンズの肥大した感情は、刹那が託した希望の前に敗れた。

突然に背部のメインスラスターが破壊され、エネルギーの爆発により機体の制御を一時的に失いビームサーベルの切っ先は空を切る。

 

「後ろからだと!?だが気配は感じなかったぞ」

 

「それが常に1人で戦っていたお前の限界だ!俺たちは1人ではない。互いに想い合い、未来へ繋ぐことが出来るんだ!」

 

破損したリボーンズガンダムのメインスラスターからは、緑色の粒子が微かにだが発生していた。

そこにはグリップを切断されたユニコーンガンダムが装備していたハイパービームジャベリンが突き刺さっている。

アムロが急造した武器だが、これにもわずかではあるがサイコフレームが組み込まれている。

 

「バナージ・リンクスか!?何処までも邪魔をしてくれる!」

 

「これで最後だ!」

 

「まだ終わらんよ!」

 

アンバックで崩れた姿勢を制御し右手のビームライフルをダブルオーライザーへと向けるとすかさずトリガーを引いた。

銃口から放たれたビームは頭部へと直撃しコクピットへと送られる情報が遮断されてしまうが、すでに刹那はビームサーベルを振っており頭部の破壊と同時にリボーンズガンダムの右肘から先を切断した。

右肘には擬似GNドライヴが備わっており、エネルギー供給が著しくなりビームサーベルの出力が下がってしまう。

 

「この僕が負ける!?馬鹿な!」

 

「勝負は付いたぞ」

 

擬似GNツインドライヴとして設計されたリボーンズガンダムには擬似GNドライヴ1基では満足には動かない。

それでもリボンズは出力の下がったビームサーベルでダブルオーライザーに斬りかかる。

振り上げられる腕に刹那はモニターが見えないにも関わらず、残されたザンライザーを補助アームで動かす。

ビームサーベルと実体剣が交わるが、もう片腕しかないリボーンズガンダムはそこまでが限界だった。

ザンライザーが受け止めた瞬間にダブルオーライザーのビームサーベルが一閃し、もう片方の腕も肘から先が切断され宙へ浮く。

動力源のなくなった機体はメインカメラが光を失い、人形のように無気力になり動きを止めた。

 

「何故、止めをささない?僕を倒すのは今を置いて他にはないぞ」

 

「もう戦う必要なんてないんだ。それがイオリアの目指した未来。俺が戦ってきた意味」

 

マニピュレーターからビームサーベルを手放したダブルオーライザーは、動かなくなったリボーンズガンダムへ手を差し伸べた。

右肩の装甲に触れるとツインドライヴに残された最後の粒子を開放した。

それに共鳴するようにハイパービームジャベリンのサイコフレームからも光が漏れだす。

限界に近かったはずのGNドライヴだがサイコフレームの作用で今まで以上に粒子が発生し、光は2機のモビルスーツを包み込む。

自分を殺そうとしない刹那に、リボンズはコクピットの中で悔しさを滲ませる。

 

「こんなもの……こんなもの、僕は絶対に認めないぞ!劣等種に虐げられるなど、こんな屈辱を!」

 

叫ぶリボンズだが声は溢れ出す光にかき消され、そして2機はユニコーンガンダムと同じように光の中へ消えてしまう。

 

///

 

虹の光が広がる意識共有空間でバナージと刹那は向かい合い、神妙な面持ちで互いに見つめる。

相手の心の中を反映するこの空間で、2人は言葉を交わさずともこれが最後の会話になるのを理解した。

それそれが歩んできた道が走馬灯のように駆け巡り、2人は互いを理解し想い合える存在になれた。

純粋種として進化した刹那とニュータイプとして覚醒したバナージ、進む道は違っていたがたどり着いた場所は同じ所。

その場所こそがイオリアが真に望んだ世界なのかもしれない。

 

「これで最後だな。思えばお前と話をするのも久し振りだな」

 

「そうですね、ずっと離れていましたから。でもいつか人間は、距離や時間さえも関係なくなる時が来るかもしれない」

 

「今すぐには無理だ。俺たちの次の世代、未来に託す。人にはそれが出来る。イオリアと同じように」

 

「はい、人は変われる。みんながニュータイプになれる。そうですよね」

 

「あぁ、俺達と同じように。バナージ、一緒に居た時間は本当に短かった。だがお前と言う人間が居た事は忘れない」

 

「俺も忘れたりなんてしません。アナタの事も、みんなの事も……」

 

「そうだな……この世界は心配する必要はない。お前はもう帰るんだ」

 

交わす言葉は少なくても今の2人にはそれだけで充分だった。

残りの時間が限られれいるのもわかっており、バナージの姿は虹色の背景に溶け込んでいく。

バナージの隣にはマリーダが立っいて今までと変わらない表情を見せている。

別れを惜しまず、刹那は次へと進むべく歩を前へと進む。

 

「時間だ……行こう」

 

刹那が発した言葉を最後に2人はガンダムと共にここから消えてしまう。

西暦2312年、独立治安維持部隊アロウズは解体され地球圏は新たな時代を迎えた。

地球連邦政府も内部改革が行われ人類同士の調和の為、和平への道を目指す。

ソレスタルビーイングも時代の闇に姿を消した。

 

///

 

 

 

 

 

 

 

2年後

 

 

 

 

 

 

 

///

 

「地球圏は、我々独立治安維持部隊アロウズが支配した!愚民共は地面を這いつくばるアリのように、虐げられていれば良いのだ!」

 

アレハンドロ・コーナー操るアルヴァトーレ、金色のモビルアーマーが額からビームを発射すると目の前に居た軍勢が真っ二つに分断された。

アロウズの戦力は強く、レジスタンスであるカタロンでは到底太刀打ち出来はしなかった。

宇宙要塞アクシズに結集するアロウズとカタロンの全戦力、このまま戦っていたのではカタロンの敗北は確実である。

 

「フハッハッハッハッ!!キサマラなど物の数ではない!宇宙の塵に消え失せろ!」

 

アルヴァアロンがふただびビームを放つと、大勢のカタロンのモビルスーツが破壊され爆発に飲み込まれていく。

だが、爆発の炎の奥から光り輝く4つの光が現れる。

 

「ん?アレは爆発の光ではない。まさか!?」

 

「アロウズは、俺達が断罪する!」

 

「マイケル・チャン、ソレスタルビーイング!?だがしかし、もはや私の敵ではない!」

 

「人々が望むのは未来ある明日だ!キサマの存在を、俺は消滅させる!」

 

「来るがいい、セブンソード!」

 

セブンソードと呼ばれた青いモビルスーツは敵であるアルヴァトーレへ、両手に実体剣を握らせて突っ込んだ。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

マイケルは飛んでくるビーム攻撃をかい潜り、機体を守る赤いフィールドを一閃するとアルヴァトーレへ肉薄した。

もう一度ビームを撃たれる前に巨大な機体の先端に2本の実体剣を突き刺すと、アルヴァアロンは内部から大爆発を起こす。

爆発に機体が巻き込まれないように後ろへと後退し、拡大し続ける炎を覗く。

 

「やったか?」

 

「甘いなぁ!この程度でやられる私と思ってか!喰らえ!」

 

そこにはアルヴァトーレと同じ色をしたモビルスーツが炎を後ろに仁王立ちしており、大きな翼を広げていた。

両手にはビームライフルが握られており、頭部のメインカメラが不気味に光る。

背中から生える翼からエネルギーをチャージし、両手に握るビームライフルをセブンソードへ向け大出力のビームを発射する。

ビームは戦艦の主砲並に太く、赤黒いビームは真っ直ぐ確実にセブンソードへと向かっていく。

 

「キサマを新世界の手向けにしてやる!」

 

「やられる!?」

 

目前に迫る赤黒い光、左腕のシールドで守ろうとするもビームは機体ごと飲み込んでしまうだろう。

防ぐ手立てはなく、マイケルは操縦桿を固く握り目をつむった。

死を覚悟した彼だがその時は訪れず、ビーム発射から数秒が経過した。

 

(まだ生きている?何があった)

 

フルフェイスのヘルメットには汗が水滴として漂っており、つむっていた目をゆっくりと開いた。

彼の目の前に居たのは金色の機体、けれどもアレハンドの搭乗するモビルスーツとは形状が違っている。

背中には2枚のシールドを背負っており、アルヴァアロンと似通っていた。

突然現れた謎のモビルスーツにコクピットからアレハンドは声を上げた。

 

「キサマは誰だ!私と同じ機体の色をしているだと!」

 

『フェネクス、ドライヴモード!』

 

セブンソードを守った金色のモビルスーツは全身の装甲をスライドさせて行きその姿を変えていく。

スライドした装甲からあらわになるフレームからは青い光が放ち、背中のシールドも翼のように広がる。

頭部の角も左右に広がり、変身した姿はガンダムと酷似していた。

 

「新たなガンダムだと!?」

 

『フェネクスは伊達ではない!』

 

///

 

『十分間の休憩に入ります。続きは14時30分より放映されますので、それまでにご着席下さい』

 

スクリーンから映像が消えると真っ暗だった館内に明かりが付き、女性の声でアナウンスが流れる。

紙コップに入ったコーラを片手に映画を見ていたスメラギは、他の観客でざわつく映画館の中で固まっている筋肉をほぐそうと両手を伸ばした。

 

「うーーん!2時間も座りっぱなしはさすがに長いわ」

 

「でも、いくらなんでも美化しすぎではありませんか?」

 

「映画なんてこんなものよ。フェルト、アナタだって映ってたじゃない」

 

「私、メガネなんて掛けてません」

 

スメラギの左隣りに座るフェルトは、実際とは違う映画の中の自分の姿に頬を膨らます。

以前に比べて感情が豊かになった彼女にスメラギは微笑み、戦いが終わってから2年の月日が流れたのを実感する。

 

「そうね。そういえば……刹那とバナージ君はどうなったのかしら?」

 

ソレスタルビーイング号での決戦後、2人の安否だけは確認出来なかった。

どれだけ捜索しても機体は見つからず行方不明のまま現在まで時間は経過してしまう。

最後に見たのは宇宙に広がるオーロラのような美しく輝かしい虹の光だけ。

 

「ようやく戦いが終わったのに、死んでしまっては意味がないわ」

 

コーラの入った紙コップを軽く握り潰し、悔しさを滲ませるスメラギ。

でも対照的にフェルトは行方不明のままの2人を心配して居なかった。

 

「大丈夫です。2人はきっと、今も何処かで暮らしています」

 

「何それ?女のカン?」

 

「わかりません。でも、何となくですけどわかる気がします」

 

「アニューみたいな事を言うのね」

 

///

 

「ユニコーンガンダム、着艦しました。パイロットも無事のようです」

 

「これでようやく、戦いは終わったのですね」

 

ミヒロ少尉の報告を受けて副長のレイアム・ボーリンネアは口から息を吐いた。

ラプラスの箱を巡るネオ・ジオン残党の袖付きとの戦闘も終焉を迎え、一時ではあるが心休まる時間がやって来た。

連邦軍が100年にも渡り隠してきたラプラスの箱の真実、宇宙世紀憲章はミネバ・ザビにより世界中の人々の白昼にさらされた。

このことにより世界がどのように変化していくかは、後の世で明らかになる。

 

「戦いは終わった。だが、我々はこれから先の未来を考えなければならない義務がある。1人の人間として、大人として、変えていかなければ」

 

艦長のオットーミタスの言葉にブリッジに居る乗組員は無言で頷いた。

シートの肘掛けに備え付けられている拡声器を手に取り、オットーは艦内全域に戦闘が終了したことを告げる。

 

「コチラは艦長のオットー、客員は作業をしながら聞いて欲しい。コロニーレーザーからの―――」

 

ユニコーンガンダムは月の近くに停留していたネェルアーガマへと収容された。

武器も全身の白い装甲も失うも、パイロットのバナージは怪我1つなく生還した。

ネェル・アーガマの整備士が機体をデッキに固定されコクピット全体が軽く振動すると、バナージはヘルメットを脱ぎ捨ててハッチを開放させた。

ようやく帰って来れた場所に安堵すると共にずっと待ち望んでいた人物を探す。

ハッチに足を掛け右へ左へと顔を向け、彼女の姿を見つけた。

 

「オードリー!」

 

ハッチを蹴り無重力空間を流れるように進み、両手を伸ばした先で待っている彼女へ抱擁する。

記憶の中でしか見れなかった彼女との対面、直に触れた肌からは体温が伝わってくる。

 

「バナージ、よく約束を守ってくれました」

 

「オードリー、キミは幻覚でも、意識だけの存在でもない。こうして触れ合うことが出来る」

 

「バナージ……」

 

抱き合う2人の体はゆっくりと宙に浮いたまま、彼女の瞳からは涙がこぼれ落ちた。

 

///

 

地球の大気圏に1つの物体が流れてきた。

それは減速することなく真っ直ぐに地球へと降下していき、空気中の分子が激しくぶつかり合い高熱となって物体を焼いていくが、銀色の素材は熱を受け付けずに形状を保った。

地球へと降下したそれは手足があり、頭部には2つも目と角があり、緑色の粒子を放出して青い海を眺める。

見つめる先にあるのは大陸、自分が生まれ育った故郷。

 

「時間が掛かってしまった。行こう」

 

目指す先はアザディスタン、かつてガンダムと呼ばれたモビルスーツはアザディスタンへ飛ぶ。

自分が帰るべき場所、待っていてくれる人が居る故郷へ。

ガンダムが飛ぶ空には虹が広がる。




この作品を初めて投稿してから2年以上が経過しましたが、ようやく完結することが出来ました。
駆け足気味な終わらせ方であるのは否めませんが。
いろいろと考えた事を詰め込んだせいで、すべてを回収することが出来ませんでした。
だから『何で?』と思う所が残っているはずです。
細部に粗はありますが、それでも形としては完成させられて嬉しく思います。
これの続き、劇場版を書く予定は残念ながらありません。
自分の技量ではこの流れで劇場版のストーリーを構成できません。
長い間たくさんの人に読んでいただき、とても嬉しくかったです。
ご意見、ご感想お待ちしております。

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