罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし) 作:伊つき
都市東端にあるホール型巨大施設、『
その施設内の控え室で清潔を貫くエルフの女性と黒髪の男。
エルフの女性の方はすぐ側に
男の方は綺麗な肌も美しい黄緑の髪も目に入らぬかのように淡々黙々と自身の血で濡らした指でエルフの女性の背をなぞっていく。
ここまで言えば誰が見ても彼等が何をしているのか、察することが出来るだろう。
そう、冒険者のステータス更新。そのものだ。
そして、更新終えた男神は羊用紙にエルフの背に刻まれた全てを写し出し彼女に渡した。
用紙を受け取った、控えめな薄い胸を隠すエルフは清楚を忘れぬよう先に服を纏い、肌を隠してから用紙の内容を見て目を見開く。
リュー・リオン
Lv.4
力:E488→B789
耐久:F352→C661
器用:A888→S900
敏捷:A889→S904
魔力:B717→A899
狩人:G→E 耐異常:G→F 魔防:I →G
魔法:《ルミノス・ウィンド》《ノア・ヒール》 スキル《妖精星唱》《精神装填》《疾風迅雷》
四年ぶりのステータス更新。
Lv.4の後半に差し掛かっていたそれはもはや限界を突破しているものもある。
これだけの向上値があればランクアップが可能だということはリューの目にも明らかだった。
だが、ランクアップは施されていない。
隠すべきステータスが記された用紙を燃やし、リューは主神であるレンに振り返る。
その視線に気付き、レンは同時に何を訴えているのか理解した。
「ランクアップはまだだ。どうしても、ってならやってもいいが……まぁお前も理解してるだろ」
「はい。ランクアップ後の身体の調整、ステータスの変動を考えると今からの戦闘にはこちらの方が向いてることくらいは…」
「あぁ。ランクアップ直前より今の方がステータスは良い。それを分かってるのになんでそんな不安そうなんだ?」
「それは…」
言葉に詰まるリュー。
旧き友から貰った二刀の小太刀に触れ、呟く。
「相手はあの【
「そうか。不安になるのも仕方ない。だが、このステイタスならば大丈夫の筈だ。リュー、お前ならやれる。自信を持て」
「…はい」
主神の後押しにウジウジ悩んでいるのは失礼に値すると思い、立ち上がるリュー。
「……」
何故か感じる胸騒ぎと共に。
『
一方は先程控え室でステータス更新を済ませてきたリュー。
いつもの
もう一方のエルフは剣士の称号がピッタリの風格を持つ男。
一振りの清潔な剣を手に純白の鎧に身を包んだ彼は主神に
「……」
「……」
両者、神に代わる一振りの剣としてその距離を縮めていく。
そう、これは神に代わって眷属同士が交える神の対決、
「初めまして。我が名はマリウス・ガウェン。今日はお手合わせ願えて光栄です。ミス・リオン」
「こちらこそ。よろしくお願いします。リュー・リオンです。私も貴方と戦えるのは嬉しい」
互いに挨拶を済ませ、握手した手を離す。
そして、一定の距離を空けて配置に付いた。
その様子を観戦席から眺めていた2人の神。
今回の
「観念しなさい、レン。これは貴方のことを思ってのことです」
「そういうお節介は要らないんだよ」
バルドルの説教にレンは睨みを効かせる。
だが、バルドルは呆れ返ったように溜息を漏らすだけだった。
「いい加減にしなさい。貴方が眷属にした子はギルドによって公式に認められてる要注意人物ですよ?」
「あぁ。知ってる。けど俺が決めたことだ。どれだけ厄介事があろうが変えることは無い」
「はぁ。相変わらず頑固ですね。ですが、ここは私も譲れません。
「当たり前だ。寧ろお前こそどうした?そういう奴は大好物だろ」
「…その言い方はあまり許容できませんが、だからこそ、ですよ」
「……」
俯くバルドルの暗い表情をレンは見逃さなかった。
だが、今は友としてではなく敵対ファミリアの主神として接する。
「なににせよ、リューは負けない。お前のとこの子がどれほど強かろうがな」
「ふっ、それはどうでしょう?」
「……?」
先程とは打って変わって不敵な笑みを浮かべるバルドル。
何かあるな、とレンの目も細くなる。
「何かとっておきでもあるのか?」
「さぁ、どうでしょうか。ただ……一つ言えることは、
「なに…?それどういう――」
『さぁて!時間ももうないし、そろそろ
拡張器を通した音声にレンの言葉は遮られた。
肝心のバルドルの手の内を知れなかったレンは仕方ないとはいえ舌打ちする。
それを他所に神ロキの実況は陽気に進んでいった。
『まずはルール確認や!バルドルのとこの子と――なんや?えーと…レ、レン?知らなん名前やなぁ。まぁええか、新規で出来た【レン・ファミリア】の子との1対1の一騎打ちや!どっちかが戦闘不能または降参した方が負け。ほな、
開始の合図と共にリューが動き出す。
自慢の敏捷でマリウスとの距離を一瞬で詰め、既に懐に入っていた。
「覚悟ッ!」
木刀を振るうリュー。
刀身はマリウスへと肉迫する。
だが、ほんの一秒にも満たないその時間でマリウスの身体がブレた。
「なっ…!?」
消えたマリウスによって空を斬るリュー。
気配を感知し、すぐ様背後に振り向くが同時に刃が降ってきた。
それを咄嗟に反応して木刀で防ぐと、ガイン!と音を立てて火花が散った。
「さすがの敏捷ですね。ですが、力はこちらの方が上です」
「くっ…!」
木刀がギチギチと悲鳴を上げる。
このまま対抗しても武器が破損し、リュー自身が斬られることくらいリューにも予測できた。
ならばこの競り合いは諦めるべきだ。
そう判断したリューは木刀を手放し、力の限りを込められていた鉄剣が力余って振り切り、木刀を粉砕するのを横目に避ける。
「ん?あれは…」
彼女の主神が見覚えがあると呟くが当然聞こえない。
得物を失ったリューは二振りの小太刀を腰から抜き出し、そのままマリウスに迫る。
驚くべき敏捷で手前に突如現れたリューによる高速の斬撃をマリウスは剣で捌き防いでいく。
「はあああああ!!」
「くっ!なんて、速い…!」
勢いのままに連撃を止めないリュー。
圧され続けたマリウスは闘技場の端にまで追いやられた。
だが、突如マリウスの剣速が上がる。
否、
「どうしました?先程までの勢いは…!」
「ぐっ…!?」
リューの動きが鈍くなったことで劣勢を覆し、攻めていくマリウス。
マリウスの真っ直ぐで力強い剣筋にリューは苦虫を噛んだように顔を顰めた。
「ハッ!!」
「ぐああっ…!?」
遂に二振りの小太刀も斬り飛ばされ、マリウスの勢いに圧されて吹き飛び倒れるリュー。
そして、何故か震える自身の心に戸惑う。
「な、何故…私は…彼に剣を振るえない…?」
震える利き手を眺めて首を傾げる。
何故か、マリウスの剣を真っ直ぐ受け止めきれない。
マリウスに剣を振るえない。
まるで身体が拒絶するように。
「魔法…?いや、
言うことを聞かない身体に目を向け、リューはその正体が何なのか探る。
だが、マリウスは彼女の呟きを全て否定した。
「レディ・リオン。私は何もしていませんよ。魔法もまたしてや
「ならば、何故…ッ」
何もしていないと首を横に振るマリウスにリューはそんな筈はないと震える手を掴む。
答えはマリウスが教えてくれた。
「何故…貴女が私と戦えないのか。それは貴女自身が罪を認めているからでしょう」
「罪を…認めている…」
思い当たる節があるのか、リューは俯く。
その瞬間をマリウスは見逃さなかった。
一方、その頃観戦席でレンはバルドルから"それ"の正体を聞かされていた。
「《
「そう。それがマリウスに発現したスキル。主に前科がある罪人や悪行を実行しようとした者などに効果のあるものです」
「それって……」
レンが息を呑むと同時に理解する。
バルドルの言う事をわかりやすく言えばマリウスのスキルは罪人または元罪人に対して不可視の精神攻撃ができるということだ。
無論、
「どうやったらそんなお綺麗スキル発現するんだよ…」
内容から察するにそれは罪人への裁き。
そんなスキルを発現させるには相当な聖人君子でなくては無理であろうと推測する。
ならば、その枠に当てはまるマリウスは何者なのか。レンはその正体を探ろうとバルドルと対話を試みるが、征される。
「今は
「…自信満々ってか」
嫌味たらしい神友を睨みながらもレンはフィールドに視点を戻し、従う。
フィールドではリューが一方的なマリウスの剣撃をなんとか回避し続けていた。
だが、それも長くはもちそうになく、リューの動きは明らかに鈍い。
「くっ…!」
得物を失ったリューはマリウスの剣を避けることしかできない。
もちろん魔法を使うタイミングを1度は伺ったもののマリウスが余裕など与える筈もなかった。
「もう終わりにしましょう」
「!?」
いつの間にか壁際へと追いやられたリュー。
彼女の
一瞬で察した次の瞬間、マリウスの詠唱が始まる。
「【神秘たる大自然の風の精霊よ。我が剣になれ】」
短文詠唱、
そして、それらは魔力に変換され。
「【ウイングエア】」
「くっ…!」
逃げ場がないリュー。
せめてもの防御は取るが魔法を一身に浴びる。
「ぐあああああああッ!」
マリウスの魔法をマトモに受けたリューの身体を風の刃が切り裂き、血しぶきが舞う。
リューは蹌踉めきながらもなんとか耐えきって膝を付いた。
「はぁ…はぁ…」
「魔法を受けてまだ挫けぬその精神、感服しますがもはや私の勝ちは確定事項です。降参しなさい」
「……ッ!」
剣を首筋に当てられ、緊迫するリュー。
ここまで圧倒的な結果となれば認めるしかなかった。
立ち上がろうにも切り裂かれた身は痛みが走り動かない。
ここからの反撃は、ない。
そう確信させられたリューは瞳を閉じる。
「やはり私には冒険者をやる資格はなかったということですね…」
出会って間もない男神に突如口説かれ、一時でもファミリアに所属した。
冒険者の地位を剥奪された愚か者として、それでも忘れられないあの頃の高揚感。
もう手に戻らないと思っていたもの達が例え数日のことでも一瞬だとしても戻ってきた。
だが、それもここまで。
やはり自分にはその資格がないのだとそう言われている気がするのも無理はない。
対峙する彼のせいか、それとも本心か、リューは全てを諦め両手を挙げようとする。
「降参しま――」
『ほんとにそれでいいの?』
「!?」
だが、辺りを見渡しても当然
だというのに声は続く。
『リューは難しいこと考えちゃダメ。やりたいって思ったことやっちゃえばいいのよ!』
「アリーゼ…」
親友の、元【アストレア・ファミリア】団長であるアリーゼの声がリューの脳内に響き渡った。
余計なことは考えるな。自分が本当にやりたいことをやれ、と。
その言葉を聞き、リューは両手を下ろす。
「ミス・リオン…?」
てっきり降参を認めると思っていたマリウスだが様子が変わったリューに気付く。
戦意を取り戻した力強いエルフの瞳に。
「……私は」
拳に力を取り戻し、足で地を蹴る。
「私は冒険者でありたい…!だから、ここで負ける訳にはいかない!」
「なっ!?」
突如挑んできたリューにマリウスは驚きを隠せない。
あまりにも無謀だ、何を考えている。
そんな思考だけが浮かんだ。
だが、運悪く彼にとって最悪の出来事が訪れた。
「はああああ!」
「しまった!太陽が…!」
まだ
その発動条件である太陽が丁度雲で隠れてしまった。
理由は分からないが弱体化したマリウスにリューは思い切り蹴りを入れる。
「ぐっ…!」
「【今は遠き森の空】」
「詠唱!?馬鹿な、その身体で魔法を放つつもりですか!」
マリウスが怯んだ隙に開始されたリューの詠唱。
彼女はそのままフィールド中央へと駆ける。
「……っ!行かせません!」
マリウスもそれを追いかけるが、既にトップスピードに乗り始めたリューとの差を縮めることはできなかった。
それでも諦めずに走るマリウス。
その追いつかない間にもリューは詠唱を紡いでいく。
「【
リューがただただ目指すのはフィールド反対側の壁。
端までマリウスに追い詰められたからこそ、ここでの最大距離を利用することができた。
「【汝を見捨てし者に光の慈悲を。
詠唱唱えながら今度は記憶にある新たな
『いいか。困ったら走れ。きっと奴はお前の速度に追いつけない』
距離を離せば態勢は立て直される。
教え伝えられたように実行し、成功した。
結果はそれ以上に逆転の隙を生んでいる。
マリウスは追いつけない。
「【空を渡り荒野を駆け、何物よりも
武神の如く戦いを知る自らの主神レン。
謎は深まるが、今はそちらに意識を割いている余裕はない。
最後の詠唱文を、壁に到達した共に紡いだ。
「【星屑の光を宿し敵を討て】」
壁を蹴り、振り返る。
先には自ら射程へと走り込んでくる妖精の騎士がいた。
そんな彼は詠唱終了を感知し、防御の態勢を取るがもう遅い。
「【ルミノス・ウィンド】」
魔力を集中させ、リューの切り札である魔法を放つ。
星屑のように吹き荒れる緑風を纏った大光玉は容赦なくマリウスへと叩き込まれた。
「うぐうっっ!?ガハッあああああああ!!」
大光玉をその身に受けたマリウス。
鍛え上げられた肉体も高威力の魔法の前では無様に舞う。
地に落ちた妖精の騎士はそれきり動かなくなった。
「はぁ…はぁ…私は…」
目の前に倒れるのは名高い冒険者の【
それを倒したのは
その真実にリューの表情に自然と笑みが乗った。
「勝ったのですね…」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
直後、響く大歓声が
実況の神ロキも勝者を祝福した。
『負けたのは【
「あっ」
神ロキは祝福した。
地雷を踏んで。
『
この時点でリューの存在を把握する者が居ないわけがないのだが、最大限正体を隠していた身として控え室でレンは少し悩まされていた。
「ロキの奴め…えらい置き土産していきやがったな」
「申し訳ありません」
「よせ。なんでお前が謝る」
「いえ…その、なんとなく…」
元はと言えば争いの火種は自身だったと自分を責めるリュー。
だが、実際はレンが彼女を眷属として望んだことが原因なのでレンからすればリューの負い目は検討違いである。
それを遠まわしに伝えたつもりのレンだが未だにリューは表情を暗くしていた。
彼女の様子にやれやれと嘆息を付き、レンは主神として賞賛することでリューの気持ちを変えようと試みる。
「何はともあれ、だ。勝利おめでとうだ。リュー」
「それは…貴方様の采配あってこそのものでした。礼を言うのはこちらで――」
「固いなぁ。まったく。こういうのは素直に受け取ればいいんだよ」
呆れながらにリューの頭をそっと撫でるレン。
触れられた途端、リューは本能的にその手を振り払う事は無かった。
「あ…」
代わりのように小さな声が漏れ、自分で分からないうちに頬をほんのり紅潮させていた。
同様に分からないほど気持ちがいい。
(初めてだというのに…。3度目だ)
エルフは清潔を好む。
その性質からみだりに触られることは好まない。
そして、初めて触れられて振り払わなかったのは
最もレンは人ではなく神であるが、素直に彼の手を受け止めているリューは自身で驚いた。
「おっと。そういえばエルフはこういうのあまり好かないよな。悪い」
「い、いえ…」
遠慮がちに離れていく手。
リューは寂しく思いながらも主神にはそれを見せぬよう繕った。
顔を上げた時には彼は真剣な表情になっている。
「さて、これからの問題だが勿論リューのことだ。冒険者として名を馳せていた【疾風】が実は生きてたってのが予想より広まった」
「はい。きっと私を狙う者などは多いでしょう…。すみません…」
「だからいちいち謝るなよ。復讐に囚われるのは仕方ない。誰も止める奴なんていなかっただろ」
「それは…」
リューからはなんとも言えない。
肯定することなど出来るはずもない。
彼女にとってそれは"過ち"なのだから。
全てを調べなどで理解しているレンはとにかく議題を進める。
「とにかくお前には敵が多いってことだ。いつそのまた首を狙われるか分からない」
「……」
積み重ねて現れる新たな試練。
リューの心は折れ、やはり冒険者になるのは諦めろと神が言ってるのでないかと諦めそうになる。
だが、目の前の神はそれを否定するのだ。
ならばリューもここで挫けるわけにはいかない。
「私は…私のやりたいようにやる。私は冒険者として生きていきたい。その為ならば例えどんな敵が私の首を狙おうと私は負けません」
「ほう…」
強い意思を瞳に覚悟するリュー。
これは思ってもみなかったことなのかレンは意外そうに彼女を見つめた。
「お前がそういうなら俺から出来ることは何もない。まぁ一応
「アテ…ですか?」
「あぁ。なんたってこれは
「……?」
ニヤリと笑う主神に首を傾げるリュー。
何やら策はあるようだが明らかにしてくれなさそうだ。
気を取り直して日常会話へと移った。
「そういえば明日はどうするのです?私はまたダンジョンへと潜ろうと思うのですが…」
「俺か?俺は…そうだな。やっぱ主神らしく団員募集でも行ってくる」
「団員募集ですか」
「あぁ。必要だろ?団員」
「……はい。そうですね」
レンの言葉にリューは頷く。
しかし、少し心配だった。
【疾風のリオン】は一度悪名を馳せている。
今唯一の団員であるリューは必然的に団長となるだろう。
そうなるとやはり団員は集まりにくいのでは…とリューは悪い予感を考えてしまう。
「……」
「どうかしたか?」
訪ねてくる主神。
彼はもう冒険者としては生きられないと諦めていたリューを冒険者にしてくれた神様。
また迷惑を掛けると思うと気が引けた。
「すみません。私のせいで…何から何まで迷惑ばかり掛けてしまって」
「気にするな。お前を欲しいと言ったのは俺だ。ならやるべき事はやる」
「……!あ、ありがとうございます」
責任感の強い一言を貰ったリュー。
そのセリフの内容から勧誘された時の愛の告白のような熱烈なセリフを思い出し、少し赤面する。
当の本人はまったく気にしてないが。
「さて、帰るか。俺達の
「えぇ。帰りましょう。
笑顔で立ち上がるレンにリューも優しく微笑んで付いて行く。
そして、