罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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第16話

暁の市壁で一人の少女の魔力が高まっていく。

察しの良い者なら気付くだろう。

彼女の魔力が相当濃厚であることに。

 

「【願いを、祈りを糧に高まり給え。我が祈りに応え、星屑よ、穿て。標的を破滅せよ】」

 

前より長くなった詠唱式。

完成したそれを軸にしてミレニィアは魔法を行使する。

 

「【セーマ】」

 

魔法の名を呟いたミレニィア。

それと同時に巨大な火球が杖先に浮かぶ紋章から放たれる。

 

「やった…!」

 

一週間の訓練期間を経て魔法を外に放つまでに至った火球は空を走る。

だが、ミレニィアが歓喜した途端それは急降下した。

 

「え!?なんで…!」

 

急降下した火球は地に落ち、野原を焼く。

上空に上がっていくその様に期待していただけあってミレニィアは大きく肩を落とした。

 

「そんなぁ…」

「あともう少しでしたね」

 

しょげるミレニィアをルシアが励ます。

あともう少しというところで失敗したミレニィアの魔法をルシアは冷静に分析する。

 

「最初に比べればとても成長しています。たった一週間でこれ程できればすぐにできるようになりますよ」

「そ、そんな…ルシア様のお陰です!」

「そうでしょうか」

 

何度も魔力爆発(イグニス・ファトゥス)を繰り返し、やっと見つけた今の詠唱式、決してルシアだけの成果ではない。

確かに詠唱を導き出す手伝いを全面的にしたが、ここまで導き出せたのもミレニィアの魔力の扱いの上手さから。

ルシアが傍から見てミレニィアの魔力の動きは驚くほど見やすかった。

だから、

 

「ルシア様は凄いです!私が保証しますから!だから謙遜なんてしなくても…」

 

謙遜などしてない。

ミレニィアの実力も大きいのだ。

 

「別に謙遜などしていませんが…」

 

本心を呟き返しながらミレニィアに横顔を向ける。

目を閉じていても見える夕焼けで顔を染めた。

 

「詠唱の内容は個人の思いが関わります。ここから先はミレニィアさんの本当の想いを詠唱に込めるといいかもしれません」

「想い…?」

 

ふと付け足された内容に首を傾げるミレニィア。

対するルシアはふふっと微笑みを返して最後のアドバイスを告げる。

 

「例えば、妹さんへの思いとか」

「……ッ!?」

 

何故(シルヴィ)のことを。

言い掛けて詰まらせた。

何故かルシアには全て見通されているような気がしたからだ。

誰にも知られたくなかった、特に恩師のルシアやこんな自分にも価値があることを教えてくれたリュー、そして、レンには。

けれど目の前の小さな師は知っている。

そのことがミレニィアの手に汗を握らせた。

 

「ミレニィアさん。私と知り合ったのもたった一週間余りですが、苦しいことがあるなら相談してください」

「で、でもルシア様にこれ以上迷惑は…」

「掛けてください。私はミレニィアさんを大切に思います。貴女には辛い思いをして欲しくありません」

「ルシア様…」

「お節介かもしれません。でも、苦しむ気持ちも救われた時の喜びも私は知ってますから…」

 

ミレニィアの手を取り、俯くルシアが思い出すのはついこの前のこと。

レンに居場所を貰った彼女は何処に行っても受け入れてもらえない苦しさを幾度も味わっていた。

でもレンが居場所をくれた時、彼女の胸に温かいものが確かに入り込んできたのだ。

その両方を知ってるルシアだからこそミレニィアに寄り添いたいと思う。

 

「今夜、【ソーマ・ファミリア】の酒蔵へ来てください。私の、いえ、私達のお節介で貴女を必ず救います」

「ルシア、様…」

 

最後にそっと時間と場所が記されたメモを手に握らされたミレニィアはルシアの告白に何も言えずに佇む。

対してルシアは何かを決心したような微笑みだけを残して市壁を去っていった。

ただ一人残されたミレニィアはさっきまでルシアが何故か目を閉じているのに眺めていた綺麗な夕焼けを見遣る。

 

「違うんです、ルシア様…。私は救われたいんじゃなくて、救いたいんです…」

 

一面が紅くなってしまった空にミレニィアのその呟きは虚しく飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綺麗な月下で照らされていた迷宮都市オラリオ。

東と南東のメインストリートに挟まれた都市東南部、第三区画に存在する酒蔵は【ソーマ・ファミリア】のもの。

そして、この日の夜、酒蔵の扉は蹴破られた。

 

「ソーマァァァァァァァァア!!」

 

勢いよく吹き飛ぶ扉。

付近にいたソーマの眷属が皆驚いたが、レンの睨みで誰もが怖気つく。

 

「なんの騒ぎだ?」

 

騒動聞き入れてきたのかザニスが玄関までやってくる。

すると、レンは眷属を連れてズカズカと酒蔵に侵入してきた。

 

「お、おい!また貴方か!勝手に入るなとあれほど――」

「貴様も来い」

「は?」

 

遠慮なく酒蔵に侵入してきたレンに冷たく囁かれたザニスは背筋を凍らせ、表情を固めたがそれも一瞬。

次には覆面の冒険者に引き摺られていた。

 

「何をする!?離せ!」

「黙りなさい」

 

レベル差により抵抗しても意味の無いザニス。

ただジタバタと暴れるだけだが、それも虚しい抵抗に終わり無理矢理連れて行かれる。

 

「おい!ソーマ、なんとかしろ!こいつらなんなんだ!」

「……」

 

ソーマの個室部屋に辿り着いた一行。

ザニスが主神に縋り付くがソーマは未だに反応がない。

いつも通りの彼の反応にザニスはチッと舌打ちし、再びレン達を睨み向き直る。

 

「お前ら他ファミリアの建物への侵入は犯罪だからな!訴えてやる!」

「ほう。面白い。訴えてみろよ。まあお前は俺達の倍以上は償わなければいけないがな」

「は、はぁ?何の話だ?」

 

突然何を言い出すかと思えば罪を償えと言う。

ザニスは一瞬顔を顰めた後、何があったのか笑い出した。

 

「はははは!償う?私が?何のために?私が何をしたっていうんだ?言ってみろよ!」

「ご本人もお望みだ。ルシア、やれ」

「分かりました」

 

レンの指示にルシアは頷き、書類をばら撒く。

意味のわからないその行為にザニスは困惑し、たまたま手元に落ちてきた書類を手にしてその内容に驚愕する。

 

「なんだ?……おい、待て。これは…これは…!」

 

わなわなと震えるザニス。

そこにはザニスのやってきた密輸の詳細がびっちりと記されていた。

 

「まさか…まさか…!」

 

ばら撒かれた書類は百枚を超える。

一枚を見て衝撃を受けたザニスは慌てて落ちている書類も見てさらに衝撃を受ける。

 

「なっ…!?」

 

続けてみたのはとあるエルフの少女の情報と彼女の借金のやり取りを記したもの。それを見ると既に借金は返済済でそれどころか過払いしていることまである。

次に手に取ったのはそのエルフ――ミレニィアが造った酒の売上、その次はそれで稼いだ金がザニスの私利私欲に向かっていたこと、その次は近年でミレニィアから無理矢理奪った金品の数々について。

取れば取るほどザニスのやってきた悪事が記されている。

特にミレニィア・ラングレーに関わることが。

 

「なんだ…なんなんだ!何故こうもラングレーのことばかり…待てよ、分かったぞ!お前らもあいつの酒が欲しいんだな!」

「酒は要らん。お前と一緒にするな」

 

何を見当違いのことを。

とでも言うようようにルシアやリューに睨まれるザニス。

その冷たい視線と威圧にザニスは気圧されたが、なんとか耐える。

 

「じゃあ、じゃあなんなんだ!ラングレーのことだけじゃない…他にも何故…!」

「あぁ。それは叩けば叩くほど貴方の悪事が出てくるので面白くて調べられるとこまで調べてしまいました」

「ふざけるなああああああ!!」

 

涼しい顔でまるで造作もないと言われたザニスは激昂し、ルシアに殴り掛かろうとする。

だが、疾風のごとくスピードでそれは防がれ組み伏せられた。

 

「うぐっ…!」

「彼女への暴行は認めない」

「クソが…お前、レベルいくつだよ…」

「Lv.5ですが、何か」

「なっ…」

 

絶句した。

レベル差が三つもある決して届かない相手。

日々悪事に手を染め、酒を守っているだけのザニスには生きている間ではたどり着けない位だ。

 

「よぉ。悪事を暴かれた気持ちはどうだ」

「……ッ」

 

ザニスに問うレン。

その辺にあった用紙をヒラヒラと見せて挑発する。

 

「これ。ギルドに届けたらどうなるだろうなぁ?」

「ぐっ…!」

 

勿論罰せられる。

それで済めばいいもの、ザニスは地位を失うかもしれないし最悪ファミリア自体が解散するかもしれない。

すぐにその結論に至ったザニスは顔を顰める。

 

「脅しのつもりか…?」

「そうだ。脅しだ。交換条件はミレニィアの解放と情報の暴露。お前がミレニィアを手放せばお前の些細な悪事は目を瞑ってやる」

「なんだと…?」

 

強引にくるかと思えば交換条件を出してきたレンにザニスは顔を顰める。

一体この()は何を考えているのだ。

当然ながらまったく読めない。

とにかくザニスにとってマシな方へは展開が転がったのは間違いなかった。

そうとなれば無駄に足掻いて状況を悪くするより頷いた方が良い。

 

「……良いだろう。ただし、ファミリアの脱退は俺が決めることではなく主神であるソーマの意思だ」

「よく言う。お前に丸投げの癖に…まぁいい。」

 

承諾して目を瞑るレン。

対してザニスはしてやったりと悪趣味な笑みを浮かべていた。

あのソーマが動く訳がない。

だから、これでザニスが有利になる展開に進む筈だ。

一度退いたが抵抗しないとは言ってない。

それどころか最後まで悪い足掻きするつもりである。

 

「おい、ソーマ。全部聞いてただろ?お前と話したい」

「…酒を飲んで同じことが言えたら聞いてやろう」

「前と同じか。いいぜ、飲んでやるよ。だが、今日はおかわりなしだ」

 

ソーマが腐った目で出してきた要望にレンは快く承諾する。

そして、ソーマの手配で動いた団員が持ってきた酒がレンの前に用意された。

 

「また会ったな」

「「……ッ」」

 

運ばれてきた誘惑的な香りにリューとルシアが息を呑む中、レンは神酒(ソーマ)の原液を呷った。

 

「……」

 

ゴクゴクと喉を鳴らして飲み進めていくレン。

場に緊張が走り、ザニスは勝ったと笑い、リュー達はここに訪れる前にレンの言ってたことを信じて待つ。

そして、レンは遂に神酒(ソーマ)の原液を飲み干した。

同時に慣れた手付きで酒壺を差し出してきたソーマの眷属をレンは手で制止する。

 

「おかわりは要らないって言っただろ。俺が欲しいのはミレニィアだ!」

「……ッ!?」

「馬鹿な!」

「なに…?」

 

本当に神酒(ソーマ)の中毒性を昨日の今日で乗り越えたレン。

リューは目を見開き、ザニスは想定外だと怒り、ソーマは初めて表情を動かした。

 

「約束だ。条件、飲んでもらうぞ」

 

そして、このトドメと言わんばかりの一言でとある姉妹の姉が解放された。

そう、姉は。

 

 

 

予想外のことが起きた。

あのソーマが酒造り以外で行動する所を最後に見たのは何時頃だろう。

それ程までに有り得なかった筈なのに、突然現れたレンとかいう神はたった一日で神酒(ソーマ)を克服しやがった。

有り得ない。有り得ない。何処で計算が狂った。

ソーマがレンと何やら手続きをしている間にザニスはそんなことを頭の中で目まぐるしく考えながら、鈍く上塗りされたような赤髪を持つ少女のその赤髪を強引に引き、連れていた。

 

「痛い!痛いってば!」

「うるさい!黙れ!」

 

無理矢理路地裏に連れてきた赤髪の少女が苦痛の声をあげるが、ザニスはさらに力を強める。

 

「くそ!なんでこんなことに…!この際【ソーマ・ファミリア】でなくともこいつを使ってあいつに酒を造らせてやる。そうすれば俺はまた豪遊できる…ククク、我ながら完璧だ!」

 

あれだけ追い込まれて尚、ミレニィアの酒で得る金に目が眩むザニス。

神酒(ソーマ)の失敗作に負けず劣らずの実力を持つミレニィアの酒をそう簡単には手放せないという中途半端な思いが悪事を掴まれているのにも関わるず諦めきれないザニスを生み出した。

 

「ふん!」

「きゃっ!?」

 

突如、路地裏の十字路で投げ捨てられる赤髪の少女。

尖った耳から彼女もエルフだということが窺える。

 

「酷いよ…。髪が傷んじゃう」

「黙れ。どうせ、染めた髪だろ。お前の髪は元は金色なんだからな」

「……」

 

ザニスの言葉に黙り込む少女。

図星だからだ。

元は金髪だった彼女の赤髪は彼女がある繋がりを隠したいがためのものである。

それを知っているのはザニスとごく一部の者だけだった。

 

「ふっ、そんなに姉に心配を掛けたくないのか?」

「……私にお姉なんていない」

「おいおい、忘れちゃ可哀想だろ?ミレニィアが悲しむぞ」

「なっ!?なんでその名前――」

 

少女がザニスが知る筈のない名前を吐いたことを問い詰めようとした時、それを遮るように二人の男が現れる。

 

「やっと来たか」

「待たせてすまない」

 

ザニスに謝罪する二人の内の一人。

どちらもその姿をフードで隠していて素性は見えない。

 

「この人たちは…?」

「ふっ、聞いて驚け。こいつらはあの名高い殺し屋、黒拳と黒猫だ。ふふふ、これで追手もなんとかなる!」

「殺し屋…追手?ちょ、ちょっと何の話?」

「ふん。そうか、お前には黒拳達のことなど分からないか。まあいい。おい、お前ら。ちゃんと仕事しろよ?俺がミレニィアで稼いだ金を結構使ったんだからな」

「勿論だ」

 

少女と話を噛み合わせず殺し屋に用心を掛けるザニス。

だが、少女はそんな彼のセリフの中に聞き逃せないことを見つけて思わず声を張り上げる。

 

「ミレニィ姉で稼いだ金……ってまさか、貴方達が私の借金を肩代わりをした理由って…!」

「おっと、しまった口が滑った。まあこの際言ってしまうか」

 

今まで少女に隠していたことに気付いた彼女にザニスはニヤリと笑い、秘密を告げる。

 

「そうだ。お前の借金を肩代わりしたのはミレニィア・ラングレーがほしかったからだ。もっと言えば彼女の作る酒とそれで儲けられる金が、な」

「そんな…なんで、なんでミレニィ姉が私のお姉だって気付いたの…?」

「逆だ。ミレニィアを手に入れるための手段を探していたらお前を見つけたんだ、シルヴィア・ラングレー」

「私の本名まで…!?」

 

偽名を使って姉妹の繋がりを隠していた赤髪のエルフ少女――シルヴィアは驚愕で目を見開く。

それを見てザニスはさらに笑みを歪ませた。

 

「偽名を使おうと髪を偽ろうと無駄だということだ。ははははは!」

「ミレニィ姉…」

 

家族に迷惑を掛けるだけの人生だったシルヴィア。

ただの嫉妬で両親を死にまで追いやってしまった彼女は最後に残った姉にだけは迷惑を掛けたくなかった。

だというのに結局全てバレて今に至っている。

 

「さぁ行くぞ。お前はまだ必要なんだ」

「必要なのはミレニィ姉でしょ…」

「ん?」

 

まただ。

また、姉のミレニィアだけが望まれる。

自分はそのための手段にまでしかなれなかった。

でも、今はそんなことよりも憤りを感じていることがある。

 

「ほう、そうか。才能があるのは姉だけだからな。嫉妬してるのか?」

「……」

 

返答しないシルヴィアにザニスは図星かと笑う。

だが、違う。

嫉妬などとうの昔に捨てた。

オラリオに来て賭博場(カジノ)にハマったのはただの趣味、嫉妬で始めたことの延長線だ。

今、この(ザニス)を睨んでいるのは姉への愛情からだ。

 

「それにしても姉の方も相当頭が悪い。彼女自身からも金を奪い放題だからな」

「なっ…!?」

 

その一言でザニスがミレニィア自身にも何をやってきたのかシルヴィアは容易に想像できた。

それと同時に彼女の憤りも爆発する。

 

「この…ッ!!」

「おっと」

 

路地裏に落ちていたナイフを拾って必死に振るったシルヴィア。

だが、Lv.2であるザニスは余裕で全て躱した上にナイフと持つ手を弾く。

 

「っ…!」

「馬鹿め。恩恵(ファルナ)を貰ってない、ステータスを持ってないお前が私に攻撃を与えることができるわけがないだろう」

「うぅ…」

「まったく。余計な手間を掛けさせてくれる。時間がない、行こう」

「待て」

 

リュー達の追手を恐れて急ごうとするザニスを用心棒の一人が制止した。

 

「どうした、ファウスト」

「誰かが来た」

「ん?」

 

ファウスト、と呼ばれた男の指差す前方に目を向けるザニス。

すると、そこには小太刀と長い杖を手にこちらに近付くミレニィアの姿があった。

 

「これはこれは姉も登場か」

「ミレニィ姉…!」

 

突如現れた姉に思わずシルヴィアは叫ぶ。

そんな彼女に対し、ミレニィアは何も言わずに行く手を阻む。

 

「何のつもりだ?ミレニィア」

「ザニス様。話が違います…。シルヴィには手を出さないって言いました…よね?」

 

若干唇を震わせながらミレニィアが問う。

様子は違えど姉妹ともに似た憤りを露わにしていた。

 

「それがどうかしたか?」

 

だが、ザニスはそ知らぬ顔で問い返す。

ミレニィアは堪らず言い返した。

 

「な、ならシルヴィを連れてどこに行くんですか!?」

「そうだなぁ。適当に連中を撒いたら本拠(ホーム)に戻る。ミレニィア、ついでだ。お前も来い」

「……私を脅すんですか」

「脅す?何を言ってるんだ。私達は仲間だろう?」

 

何を言ってるんだ。

そのままそっくり返したい気持ちで一杯になる。

確かに同じファミリアで同じ恩恵(ファルナ)を受けているが、今までやられてきた行為やシルヴィのことを考えて仲間だとはどうしても思えない。

 

「さぁ、来るんだ。ミレニィア。一緒に本拠(ホーム)へ帰ろう」

 

ゆっくりと手を指し伸ばしてくるザニス。

迫り来る彼とその手にミレニィアは暫く困惑した後、弾いた。

 

「なっ…」

 

パン!と勢いの良い音と共に弾かれた手を見てザニスは驚愕する。

実際ミレニィアが彼に手を出したのは初めてだった。

 

「ルシア様から聞きました…。私はもう借金を払い終えてるんですよね?」

「ぐっ…!既にバレていたのか!」

「だから、シルヴィを脅しに使ってまた私にお酒を作らせようとしているのも分かります。ですがさせません…!シルヴィを返して!!」

 

初めての抵抗からの初めて敵対。

ミレニィアは明確に武器を構える。

 

「ふん!良いだろう、お前も倒して妹は貰っていく。やれ!」

 

ザニスが指示を出すとファウストと黒猫――ロロという男も動き出す。

それぞれの得物を手にミレニィアに襲い掛かった。

 

「ふっ!」

「……ッ!」

 

ロロの奇妙なナイフでの斬撃をなんとか受け止めるミレニィア。

だが、次の瞬間ファウストに蹴り飛ばされていた。

 

「うぐっ…!?」

 

飛ばされたミレニィアは勢いのまま転がる。

擦り傷だらけになったその身体を痛々しそうに苦痛をあげながらもがいた。

 

「まだ…!シルヴィを返して…」

「しつこいヤツだ。適度に痛めつけろ」

「ミレニィ姉!」

 

ふらふらと立ち上がるミレニィア。

自分のために傷つく彼女にシルヴィアは嘆くが、ミレニィアはそんなシルヴィアにそっと微笑んだ。

 

「待ってて、シルヴィ。私…頑張るから」

「無理だ!ファウストとロロはLv.3。Lv.2のお前じゃ勝てない!」

「だったら…!」

 

レベル差を聞いて近接戦闘を諦めて小太刀を投げる。

馬鹿め、勝負を投げたかとザニスは笑うが違う。

ミレニィアは切り札の魔法を使うつもりだ。

杖を構えて詠唱を囁く。

 

「【願いを、祈りを糧に高まり給え】」

「無駄だ。お前は魔法を使えない。魔力爆発(イグニス・ファトゥス)を起こして自爆しろ!」

 

ステータスの偽造の発端であるザニスはその事実を知るがために高笑いする。

だが、ザニスが思っていた詠唱と既に違っていることに本人は気付いていない。

 

「【我が祈りに応え、星屑よ、穿て。標的を破滅せよ】」

「ん?私が知る詠唱より長い…?」

 

ラスト二行を読み終えた時になってやっとザニスが気付き、ハッとする。

しかし、もう遅いと迫り来るファウストとロロにミレニィアは標準を定めた。

 

「【セーマ】」

 

呟きと共に杖先の紋章から放たれた巨大な火球。

それが真っ直ぐ敵である二人に向かっていく。

 

「……ッ!?」

「馬鹿な!何故魔法を…!」

 

ザニスが有り得ないと叫ぶ中、火球は一直線に飛ぶ。

失敗するな、するなと祈るミレニィア。

ファウストとロロが回避しようとするも反応が遅かった。

このままいけば彼らは火球に呑まれる。

が、火球は降下して彼らの足元で爆発を起こした。

 

「「「「「…………ッ!!」」」」」

 

高威力の火球が炸裂し、爆風が吹き荒れる。

その場に居た五人がなんとか呼吸を確保した後、爆風は止んだ。

 

「そんな…」

 

魔法の失敗に思わず膝から崩れ落ちる。

これでミレニィアには打つ手がなくなった。

 

「び、ビビらせやがって…。どうやら茶番は終わりのようだな。おい、連れていくぞ」

「痛っ!」

 

ザニスの指示でファウストとロロが頷いてミレニィアに迫る。

シルヴィは再び強引に引っ張られた。

 

「シルヴィ!」

「手間を掛けさせてくれる…」

 

苦痛で喘ぐ妹を見て無力さを味わう。

実際、ファウストに反撃できるとは思えなかった。

が、その間に黒い影が降り立つ。

 

「どうした、ミレニィア。お前の想いとやらはそんなものか」

「レン、様…?」

 

音もなく現れた男神は刀を手にファウストの前に立ち塞がる。

 

「想いを詠唱に込めろ。それがルシアの教えじゃないのか」

「……ッ!」

 

レンの言葉で特訓の日々とルシアの台詞を思い出す。

彼女がどんな想いで言ったのかは分からない。

だが、確かに言ったのだ。

思いを込めろ。それが完全詠唱に繋がると。

師の教えを思い出し、ミレニィアは再び立ち上がる。

 

「私、やれます」

「そうか。なら用心棒はこっちに任せろ。お前はシルヴィを取り返すんだ、いいな?」

「はい!」

 

レンの指示に全力で頷くミレニィア。

もう迷いなど微塵も残っていなかった。

 

一方、その頃リューは一人でとある二人組の冒険者を相手していた。

 

「どうして【疾風】がいるんだ」

 

双盾を手に疑問を呟くガイ。

その隣で相棒の狼人(ウェアウルフ)、ライオネルは心の底から歓喜していた。

 

「丁度いいじゃねえか!依頼ついでに賞金首まで来るなんて最高のシナリオだぜ!」

 

黒漆(くろうるし)を構えて吠える彼に対し、リューは静かに武器を構える。

 

「貴方達も懲りない人だ」

 

Lv.5の威圧を相手の二人がどれほど感じ取ったかはリューには計り知れぬことである。

そして、疾風の如く速さを持ったエルフと猛獣の如く駆ける狼人(ウェアウルフ)が衝突した時、同時にそれぞれの思いを抱いて戦闘の火蓋が切られたのであった。

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