罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし) 作:伊つき
用心棒の二人も他に雇った騎士もおらず、ミレニィアと対峙することになったザニス。
その表情は苦虫を噛んだようなものとなっていた。
(クソ!ふざけやがって…!あともう少しだったのに、何故【
内心焦りを隠せないままシルヴィを力尽くで捕らえ、ジリジリと下がっていく。
対してミレニィアは迷いなくザニスへ迫る。
「来るな!これ以上来たらお前の妹の首は飛ぶぞ!」
「ひっ…!?」
ザニスが刃をシルヴィに向けてミレニィアを脅す。
ミレニィアは当然その場で足を止めた。
その瞳はまだ強い意志を持っていることをザニスは知らない。
「ふ、ふん。それでいい。近寄るな…」
「……」
ミレニィアと距離を保ちながらシルヴィと共に逃げようとするザニス。
彼が横を通った時、ミレニィアはその機を逃さなかった。
「いかせない!」
「なっ…!?」
急にミレニィアから放出される光源体。
シルヴィアを射程から外し、的確に狙われたザニスはそれで吹き飛ぶ。
「ごはぁっ…!?」
「ミレニィ姉!」
「シルヴィ!」
ザニスから解放されたシルヴィアは堪らずミレニィアの元へ。
二人は再会と共に抱きつき合う。
「ミレニィ姉、さっきのは…?」
「優しい神様が助けてくれたの」
先程こっそり手渡された魔剣擬きは今ではミレニィアの手の中で粉々に砕けていた。
その事を知らないシルヴィはただ首を傾げるだけで、ミレニィアはそんな愛しい妹の頭をそっと撫でる。
「ごめんね、シルヴィ。ずっと迎えに行けなくて…ごめんね?」
「ううん。悪いのはあたしだよ…。勝手に嫉妬して悪い趣味にハマって、いつも迷惑掛けて…」
「シルヴィ…」
「あたし最低だよ。あたしが居なければミレニィ姉も苦しまずに済んだのに…」
「バカ!!!!」
「…え?」
突然怒鳴られたシルヴィアは驚くあまりミレニィアから離れてその表情を窺う。
すると、ミレニィアの顔には怒りと悲しみの涙が同時に浮かんでいた。
「シルヴィが居なかったらもっと苦しいよ!私にはシルヴィが必要なの!シルヴィは、私の大好きな妹だから…」
「ミレニィ姉…。ううっ…!ミレニィ姉ぇぇぇぇぇ!!ごめんなさい、ごめんなさい!!」
姉の優しい叱りに感極まって大粒の涙を流してミレニィアに縋り抱きつくシルヴィア。
本当はとっても心が弱い子だということを知っているミレニィアは姉として最愛の者を先程より強く抱き締める。
そこでミレニィアはハッとして、とある思いに気付く。
それと同時だろうか、瓦礫の押しのけて這い出てきたザニスは顔中に青筋を立てて姉妹の前に再び現れた。
「ラングレェェェェェェェェェェェェェェェェェエ!!」
「……待ってて、シルヴィ。すぐに終わらせる」
「ミレニィ姉…、頑張って!」
もはや戦闘を避ける方法はない。
ここで自分達を利用してきた
そう結論付けたミレニィアは杖を強く握り、彼と向き合う。
「ラングレー…ミレニィア!お前の酒は、俺の物だぁぁあ!!」
「ソーマ様のお酒に懲りず、私のお酒も求める強欲な貴方に飲ませるお酒はありません」
「なに…?」
いつもと違う。
妹を背に守る彼女は怖気つくことはなかった。
強い口調で淡々と告げ、ザニスは壊れかけた眼鏡の奥からそんなミレニィアを信じられない、と捉える。
「私のお酒は美味しく飲んでくれる沢山の人のため、シルヴィに初めて飲ませるためのお酒。貴方だけの物じゃない…!」
「ミレニィア、お前、俺に楯突く気かぁぁあ!!」
激昂するザニスは怒りのままに得物を振るい、ミレニィアを襲う。
ミレニィアはそんなステータス頼りななんの技術もない戦い方をするザニスの攻撃を技術で躱しながら杖を構えた。
「【天体が轟く。夜天を輝く星々】」
「並行詠唱だと!?」
当たらない得物を振るいながらザニスが驚愕する。
これはミレニィアが魔法剣士としての勘違いした経験からの産物。
「【姉妹の願いを、祈りを糧に高まり給え】」
「くっ…!よせ!止めろ!」
止めない。止めるわけがない。
さらに紡いでいく。
「【我らが祈りに応え、我が祈りは愛する者の救済】」
ザニスの得物を避け、後方へと退る。
距離は稼いだ。
戦闘中、自然とシルヴィから遠ざけたことにザニスは気付いていない。
「【星屑よ、穿て。標的を破滅せよ】」
「この魔力の高まり…まさか!」
詠唱は完成した。
式のとおり天体が轟く。
「【セーマ】」
そして、巨大な隕石が天空から路地裏のたった一人の男に向かって
「ぐあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
爆音。爆炎。爆風。
隕石が衝突した地面は抉れ、周りの建物は崩壊していく。
屋根は剥がれ、壁は砕ける。
その中で最愛の妹を守るべくミレニィアがシルヴィアを包む。
とてつもない破壊が訪れた後、それが止むと完成したクレーターの中央にザニスは失神していた。
「……」
装備も半壊、眼鏡はもはや木っ端微塵。
プスプスと音を立てて意識を失った敵に姉妹はやがて歓喜した。
「やった!倒した!ミレニィ姉が倒したの…!?」
「…うん。そうみたい」
実感の分からないミレニィアはシルヴィアに揺らされるがまま。
ははは、と苦笑いし、倒れた。
「ミレニィ姉!?」
「ごめん…、もうお姉ちゃん疲れちゃった…えへへ」
意識を失ってないため、それの直前だろう。
ミレニィアは慣れない高威力の魔法でその身を削った。
そんな姉を心配しながらもシルヴィアは瞳に涙を浮かべる。
「ありがとう、ミレニィ姉…。大好き!ミレニィ姉!」
「うん。私も、大好き…。シルヴィ」
互いに思いを伝え合ったラングレー姉妹は微笑み合い、ようやく苦しみから開放された。
翌朝。
南西のメインストリート上に位置する邸宅。
それをレン達は見上げていた。
「ルシア、お前いい所に住んでたんだな…」
「こつこつ貯めましたので」
「ほう。いいのか?改装して
「今更だと思いますが、構いません。寧ろ
「あぁ。なるほどな」
ルシアの言い分に納得するレン。
その隣で彼の眷属達がそれぞれ物を言う。
「凄いね!ミレニィ姉」
「う、うん…」
「どうしたの?」
「あ、えーと、ビックリしちゃって」
前のアパートの契約を切って
ミレニィアは住処の格差に驚きを隠せないでいた。
「【レン・ファミリア】か…。今日から私も冒険者になろうかなー」
「えぇ!?シルヴィ、冒険者になるの…?」
「冗談だよー、ミレニィ姉驚き過ぎ!」
「な、なんだ…冗談…」
冗談を言い合ったり姉妹としての仲を包み隠さない二人は既に【レン・ファミリア】へと
レンがソーマと直接話して決まったことだ。
「五人でも部屋が余るくらいですね…」
「拡大工事もしましたから。でも、これから人が増えることを考えると」
「これでいいのかもしれませんね」
「はい」
リューもまた、ルシアと談笑し、新しい
「よし!こんな所にいないで中に入るぞ」
主神の言葉に眷属達は揃って頷いて
それを見ていた人物が一人。
「……」
フードを深く被るその人物はレン達は勿論、誰も気にすることなく去っていった。
「個室の数が十五…一人一部屋だとしても十は余るぞ」
「二つは物置、雑務室などにするとして他は空けておきましょう」
「いつ団員が増えるかは分からない。必要なことです」
「団員ねぇ…」
代表するように言ってきたルシアとリューに対してレンはポリポリと頬をかく。
決して団員募集を呼びかけてない訳ではないが、正直集まる気配はないのだ。
「もう二週間は経ってるが、そう簡単にはいかないな」
「すみません…私の評判が…」
「いえ、リューさんのせいではないかもしれません。私もあまり好まれている方ではないので…」
「はぁ」
メンバーに関して呟けばすぐこれだ。
レンは呆れ混じりの溜息を吐いて、二人の頭に手を乗せる。
「あのな。別にお前らのせいじゃない。本当だ」
「レン様…」
そっと撫でて言ってやるとリューもルシアも反省する。
自虐したところで問題は解決しない、そう言い聞かされた気がしたからだ。
「それに」と続けるレン。
「
「なるほど…うちのファミリアに入団したい人も出てくるかもしれない、ということですか」
「あぁ」
リューの言葉にレンも頷く。
二週間、その期間の様子見を経て入団希望者が来る可能性もゼロではない。
今はそれを待つことと、ファミリアとしての活動に精を出すのみだろう。
と、団員についての話をしていたレンの元にちょこちょこっと新米のエルフが駆け寄ってくる。
「ねえねえ!お風呂はある?」
「ちょ、ちょっとシルヴィ!?」
突如主神に対して気軽に話し出す妹に姉のミレニィアが慌てる。
あまりにも礼儀のなってない接し方に急いで無理矢理頭を抑えて下げさせた。
「ごめんなさい!シルヴィは今まで一度しか神様と喋ったことがなくて…!」
「ふえっ…?ミレニィ姉?なになに?」
「なにじゃないよ!馬鹿シルヴィ!」
「あー…」
ごめんなさいごめんなさい、と何度も謝りながら無礼を妹に謝罪させようとするミレニィア。
その様子をルシアは少し面白そうに、リューは当然のことだとミレニィアの行動を肯定している。
だが、当の本人であるレンは…。
「別に敬意なんて払わなくてもいいぞ?リューには言ったが神の全部が敬えるような奴ってわけじゃないしな」
「えぇ!?」
「なっ…」
「はー、やっとミレニィ姉から開放されたー」
「ふふふっ」
一人、何事もなかったかのように伸びをするシルヴィアとは別に驚愕を隠せないミレニィアとリュー、特にリューはレンに詰め寄る。
「いけません。主神の威厳を守らなくては。眷属が敬意を払うのは当然です」
「いや…誰もが俺に敬語を使ってきたらなんか居心地が悪い。一人や二人くらいシルヴィアみたいなやつがいてもいい」
「はぁ…。分かりました…貴方がそういうのであれば、私からは何も」
あくまで主神の意向とあらばリューは逆らうなんて野暮なことはしない。
一方、ミレニィアが唖然とする中、シルヴィアは自身の性格を容易く受け入れてくれるレンに好感を持った。
「ソーマって人と違って優しいんだねー。気にいちゃった!えーと、名前はレンだっけ?」
「あぁ。あと俺のは優しさじゃなくて多少自由放任主義なだけだ」
「へー。あ、普通にレンって呼んでいい?」
「いいぞ」
「オッケー、レン!」
「「……は?」」
軽いノリで流れるように主神と友達のように接する権利を得たシルヴィアに生真面目に分類される二人のエルフが何があったのかと唖然とする。
そんなこと露ほども知らないシルヴィアは軽はずみな態度でどんどんレンとの会話を進めていく。
「で?で?お風呂はあるの!?」
「あるぞ。大浴場がな」
「大浴場!すごーい!」
単語一つに目をキラキラと輝かせてはしゃぐ。
ちなみにリューとミレニィアはまだ放心状態だった。
「あたし、大きなお風呂は生まれて初めてだから楽しみだなー」
「ふふっ、良かったですね」
「うん!あ、確かルシアちゃんだよね。よろしくー」
「えぇ。よろしくお願いしま――」
「ルシア、ちゃん…!?!?」
自らの師をちゃん付けで呼ぶ妹に絶句した姉は混乱のあまり目眩を起こしてリューが支える。
そんなコントのような二人の行動にルシアはただ笑いを堪えた。
レンはそんな様子を見て、ルシアに耳打ちする。
「大分、新しい風になってるんじゃないか?」
「そうですね。あの気軽さがいいのかもしれません。ファミリアも明るくなりそうです」
「そうだな。ただ問題はうちの団員がエルフばっかってことだな…」
「おや、団員募集の続きですか。確かに他種族は集まりにくいかもしれませんね」
あまりエルフの性質が無さげなラングレー姉妹を除いても正当なエルフとしてリューが残る。
それに、内から見ればそうだが外から見ればやはり入りづらい空間なことには変わりがない。
「困ったかもな…」
腕を組みうんうんと唸るレン。
そんな彼にルシアは薄目を開けて尋ねた。
「レン様は出来るだけ多くの眷属が欲しいのですか?」
単純な問い。
会話の流れから違和感のないものだった。
しかし、これはそう見せたルシアの探り。
レンはそれに気付いたのか気付かなかったのか…。
「…そうだな。出来るならな」
「そうですか」
それだけ答え、ルシアも短く返した。
心の奥でルシアは確信を得る。
リューとルシアはミレニィアをただ解放したかった。
だが、レンはミレニィアが欲しいと言った。
それが何を意味するのかルシアと後のリューの心に閉まっておくことになる。
「おや」
「どうした?」
「いえ。噴水で…」
「噴水?」
「いえ、やっぱりなんでもありません」
「は?」
突然何か口ずさんだかと思えば何でもないと言う。
変なヤツだな、と彼女との会話はそれで終えた。
「ねえ、ミレニィ姉。先にお風呂入ろ!」
「それは引越しを終えたらだ。まずは荷物を全部中に入れてしまうぞ」
「はーい」
興奮の収まらないシルヴィアや他のメンバーにもレンが指示を言い渡す。
こうして着々と夕方までレン・ファミリアは引越しに動いた。
新しい
リュー、ルシア、ミレニィアの三人の冒険者パーティはLv.4以上が二人もいるお陰か一日で20階層くらいまで往復で帰ってこれる。
そして、さらに二週間が経ち、ファミリア創立から一ヶ月となった時、
「はぁ」
「どうしました?リューさん」
「ルシア…」
廊下にいた為か部屋から出ていたルシアと遭遇し、尋ねられてしまう。
彼女の質問に応えようか一瞬迷ったが、少し気分が落ちているからか友には案外楽に打ち明けられた。
「いえ、大したことではないのですが…実は茶葉が尽きてしまって」
「なんと。レン様の仕入れたものですね。確かにあれは絶品でした」
オラリオで基本売られる極東産ではない茶葉や交易所で売られる茶葉、後者は輸送などの間に品質が落ちてしまう。
だが、レンが手に入れたものはどのようにして入手したのかは確かではないが品質でいえばこの上ないくらい満足できるものだった。
寧ろあれを味わってしまえば交易所のものでは満足できないくらいには。
「レン様曰く、交易とは別に特殊なルートで手に入れた茶葉だと聞きました」
「何処で購入したのでしょう…」
「もしくは自然から取ってきた可能性もありますね。近場ならいいのですが」
「一度彼に聞いてみるのもいいかもしれません。貴女の言う通り、近場なら私達でも手に入れることが出来る」
やいのやいの、一度味わってしまった美味を忘れられないのかえらく会話に熱を注ぐ二人。
話し合う程に入手したいが、やはりレンに聞く以外は選択肢はないとみた。
「とにかく聞いてみなければ分からない」
「そうですね。今、リビングルームにレン様が居るはずです」
廊下でバッタリ会ってたまたま話し合った結果、結局レンの元に向かうことになり、一度一階へと降りる。
すると、階段を降りたところで同じファミリアの仲間であるエルフの姉妹が何やら隠れながらとある方向を凝視しているのを発見してしまい、リューとルシアで顔を見合わせる。
「何かあったのでしょうか?」
「さあ、どうでしょう」
こそこそと彼女達が何をやってるのか疑問に思いつつ二人は首を傾げて彼女達の元へ寄る。
突如、団長と副団長は姉妹に後ろから尋ねた。
「一体、何をしているのですか」
「うひゃっ!?」
「うわっ!?」
肩を跳ね上がらせ、似たような反応を見せる姉妹。
驚きをその身で表現した彼女ら、ミレニィアとシルヴィアは恐る恐る振り返ってリュー達だと判明した後、息を吐くと共に安堵する。
「なんだ…リューさんとルシア様でしたか…。ビックリしました…」
「もー、急に声掛けないでよ団長さん、ルシアちゃん」
「ま、またちゃん付け…」
懲りずに良くやるな、と心臓に悪そうな表情を浮かべるミレニィアの隣でへらへらと笑うシルヴィア。
彼女達に対してリューはバツの悪そうな顔になる。
「すみません。驚かせるつもりはなかったのですが…」
「い、いえ、別に謝らなくても大丈夫です」
「それで何を見ていたんですか?」
「あー、えっとレンが誰かと話してるんだけどそれかなぁ」
「レン様が?」
シルヴィアの返答にルシアも気になって壁からひょこっと顔を出す。
そんなことをしなくても彼女には見えるのだが、それはこの場の雰囲気だ。
シルヴィア以外誰も気付いていないが、割とノリノリである。
当のシルヴィアはそれを見て悪趣味に笑う。
「ルシアちゃんも好きだね~」
「ふふっ。眼があっても無駄な動作一つに愛着が湧くものなのですよ」
「へぇ。そうなんだ」
団員となったからには千里眼のことや竜の子であることを教えられているシルヴィアはルシアの言葉に感心する。
ちなみにルシアの話を聞いた時、彼女は姉よりすんなり受け入れ、その器を自然と見せ付けた。
本人は全くその気はなかったが。
「おや、あれは。確かにレン様とお話されている方がいるようですね」
玄関を覗いたルシアが眼で見た情報を口にする。
気になったリューも既に見た筈の姉妹もひょこっと顔を出して確認した。
そして、彼女達の目にはレンが何やら玄関口で女と話しているのが映る。
「確かに。彼と話しているようだ」
「知り合いでしょうか」
黒髪で、身振り手振りでその天真爛漫さが声を聞かなくとも伝わってくる明るい表情が特徴的な女の子。
腰には布で包まれてはいるが、冒険者の彼女達にはあの長い棒が剣か刀であることを直感で察せられる。
「────」
「────」
楽しそうに話す女の子と対するレンは呆れや面倒くさげが表に出ている。
が、その中に何処か気の抜けた様子や遠慮のない様子が窺え、第三者から見れば二人がある程度親しいであろう関係だとすぐに分かった。
その代表としてルシアはあら…と呟き、ミレニィアは何やら微妙な顔をする。
「ここからじゃ聞き取れません」
「もっと近くに行きましょう!」
「気持ちは察しますが、これ以上近付くと気が付かれますよ」
「やー、大丈夫じゃなーい?」
最後にどさくさに紛れて同意を示すシルヴィアだが、ルシアには彼女も好奇心でウズウズとしているのを感じ取っている。
ミレニィアもすぐにでも行動に移したそうだ。
「あ、ちょっと待ってください。押すのはいけない」
「一気に動くと転けてしまいますよ。あー、もうダメです。予知が出ました」
「ちょ、シルヴィは動かないで…!」
「えー?てかルシアちゃん何気に重要なこと言ってなーい?」
ごちゃごちゃと一斉に動き出す。
案の定、高いステータスを持ったリューとルシアはバランスを保ちきったが、他は転けた。
ドサッ!と大きな音に流石のレン達も彼女達に振り向く。
……実際は最初から知っていたが、レンは心底呆れた表情をしている。
「何やってんだお前ら…」
「おやおや?」
額に手を付き嘆息するレンと隣で火種となった者は興味深けにする。
「もしやお師匠様の眷属の皆様ですか?なら挨拶してきます!」
「あ、おい待っ――」
「どうも!」
虚しくも届かない制止の声。
彼女は倒れ伏せている
「はじめまして!時雨、只今到着しました!」
ただ元気よく挨拶をした。
短編⑦
title︰予知
【ソーマ・ファミリア】の酒蔵でザニスは苦渋の表情をしていた。
先日ラングレー姉妹の騒動のせいだ。
「くそ…なぜ私がこんな目に合わなくてはいけない…」
シルヴィアはともかくミレニィアの抜けた穴はでかかった。
利用していたとはいえ第三級冒険者であるミレニィア。
そして、なによりソーマに劣らない酒作りの才能がある。
彼女で得た収入は大きかった。
故に居なくなった時の損失も大きい。
「……だが、失ったものはミレニィアだけか」
ふとザニスは考え込んだ。
突如現れたレンという神とそのファミリアにラングレー姉妹を奪われたわけだが、損失は最大限抑えられたといえるだろう。
それはやはりあちら側の出した条件がラングレー姉妹の解放だけだったのが原因であるのは明らかだ。
だが、おかしい。
不思議なことではある。理由は分からないがザニスの悪事はほぼ全てバレていた。
だというのにそれらには目を瞑り、その代わりにラングレー姉妹を求めてきたのだ。
ザニスの悪事を公表すればおのずと姉妹も解放されるというのに。
「一体奴らはなんなんだ?」
ザニスが次に感じた感情は恐怖。
得体の知れない【レン・ファミリア】の内情にザニスは静かに怯えるのだった。
レン達の仮説本拠である木造建築物にて、レンは再度確認を取った。
「本当に大丈夫なんだよな?」
「はい。確かに私は見ました」
問われるのは全てを、未来までもを見通す千里眼のスキルを持つ
彼女が見たと言うのはとある未来だった。
「【ソーマ・ファミリア】は近い将来…といっても一年以上後であるのは明らかですが大きな打撃を受けることになります。いえ、【ソーマ・ファミリア】というよりザニス・ルストラがと言った方が正しいですね」
「白い兎、だったか?」
「えぇ。白い兎と小さな神、
「ま、何かしら起こるってことか。今回はミレニィア達さえ救出できれば良かったからな。いつか解決するならザニスは放置でいいだろう」
「同意します。放置していても今までの悪事を働くだけでしょう。推測では多少の損害で済みます。それに」
一拍あけてルシアは続ける。
紡ぐ内容は未来の話だ。
「『白い兎』達にとってザニスの件は必ず通るべき道です」
「放置でいい、ではなく放置がいいってことか」
「はい。すみません…」
「謝ることじゃない。気は乗らないが他人の為、『白い兎』の為になるんだろ?」
「はい」
「ならいいさ」
それを最後にレンはルシアの頭に軽く触れて自室に去っていく。
残されたルシアは窓の外に視線を向けて遠い未来を見据えた。
「白い……幸運の『兎』。貴方はよく私の予知に出てきますが、果たして何を見せてくれるというのですか?」
今はまだいるはずのない少年に問いかける。
当然返答は返ってこず、ルシアは寂しく微笑を漏らした。
「美の神に憧憬、様々な試練。きっと『英雄』になれる器を持つのでしょう。バルドル様の元では目にするのを諦めてきましたが、レン様の元でなら見れるかもしれませんね」
独り言を呟いてルシアは騒がしている新人の姉妹の元へと向かった。