罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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第19話

オラリオの夜。

昼間を騒がす冒険者の影は鳴りを潜め、夜の街――主に南のメインストリート沿いにある繁華街や賭博場(カジノ)大劇場(シアター)が活気付く。

ただでさえ輝かしい夜に月の光はさらにそれを増そうと空を支配する。

月下、繁華街にてルシアは時雨を連れて活気に溢れかえっている道を進んでいた。

繁華街の賑やかさに驚きながらも時雨は両腕をうーんと上げ、ルシアに笑顔を向ける。

 

「オラリオは夜も眠らない都市と聞きましたがまさかここまでとは思いませんでした!」

 

目を輝かせて興奮を露わにする時雨。

そんな彼女にルシアは微笑しつつ同意する。

 

「冒険職を営む冒険者も夜になれば街に繰り出します。その驚きは当然のものでしょう。私も初めての時は心を踊らせました」

 

今も体格は小さいが、彼女が幼き頃オラリオに訪れた時の高揚感は今でも忘れていない。

迷宮都市は竜の子であろうと受け入れた。

そこに住まう民は違ったが、今となっては居場所ができたので過去のこと――とそこまで思考が至ってルシアは思わず足を止めてしまった。

 

「おや、どうかしましたか?」

 

時雨に声を掛けられてハッと意識を取り戻す。

 

「い、いえ…何も…」

 

レンが与えてくれた居場所はもうない。

自分で壊してしまったから。

その事実がルシアにのしかかる。

 

「わー、凄く綺麗です!」

「……」

 

冒険者通りなどとは違う輝かしさを持った繁華街に歓喜する時雨、その隣でルシアはただ呆然と歩いていた。

行く宛などない。

一時的に寝床を得ることはできるが、長居を出来るほど懐も温かくなかった。

だからといってなし崩し的に険悪な雰囲気に巻き込んでしまった主神の知己である少女にお金を借りるわけにもいかない。

今だって巻き込んだお詫びとして繁華街より先にある大劇場(シアター)に向かっているようなものだ。

てくてくと時雨の後に付くように道を案内していると、時雨が振り向いた。

 

「……なにか?」

 

時雨がはなすより前に素っ気なく尋ねてしまったルシア。

言ってからしまったと思ったが、時雨は何も気にせず話し掛けてきた。

 

「魔道士さんはお師匠様のこと気になりますか…?」

「……ッ」

 

随分と他人行儀――実際関節的な他人である彼女の質問内容にルシアは思わず反応してしまう。

その様子を見て答えと取ったのか時雨はなるほどなるほど、と頷く。

 

「お師匠様はああ見えて繊細なんです。時雨も二年くらいしかお師匠様と共にしたことはないんですけど、それだけは分かります」

「それが、何か?」

「それが…きっとお師匠様が過去を拒む理由なんですよ」

「あっ…」

 

言われて初めてルシアも勘付く。

もしレンが時雨の言う通りの方だとしたらきっと暗殺者時代は良くなかったものだったのだろう。

ルシアにだって容易に想像できる。

鮮血、亡命、痛み。

殺しについてくる苦痛はいくらでもある。

だというのにルシアはレンの暗殺者時代を深く聞こうと彼の気持ちを考慮しなかった。

レンのことを知りたい、ずっと前から思っていたその気持ちが幾らでも先走りしてしまったのだ。

 

「……追い出されるのは当然でしたね」

「時雨も昔、お師匠様のこと知りたくて聞こうとしたら怒られました。その時初めてお師匠様も苦しんでるって気付いたんです」

「私は気付けませんでした…。時雨さんは凄いですね」

「そんなこと、ありませんよ」

 

寂しそうな表情を一瞬だけ覗かせた時雨、彼女は騒がしい繁華街の中で月を見上げながら黄昏れる。

 

「時雨はあの時お師匠様に怒られて凄く、凄く怖かったんです。それで必死に謝った時…お師匠様は教えてくれました」

 

敢えて何を?とは聞かない。

ルシアはその後に続く言葉を待った。

 

「人は誰しも失敗する。人である限り、必ず。大事なのは失敗した後のこと」

「それは…」

「はい。お師匠様もありきたりだと言ってました。でも、それと同時にやはり大切なことなんだともお師匠様は時雨に教えてくれたんです」

 

ありきたりなセリフ。

でもありきたりな故にそれがどれほど大切な事なのかが分かる。

 

「あ、でも全部お師匠様のお友達の受け売りらしいんですよ!」

「お友達…ですか」

 

自然と、その単語に反応してしまう。

友達。レンの。

それはバルドルか、ヒュプノスか。

それとも――それ以上の交友関係をルシアは知らない。

だから、つい好奇心で時雨に尋ねようとしてしまった。

尋ねようとしたが、また今日してしまった失敗を繰り返すことにハッと気付き、心の中で反省する。

 

「お師匠様のお友達が気になりますか?」

「いえ…。それより大劇場(シアター)に到着しましたよ」

「おぉ…!これが大劇場(シアター)!」

 

繁華街を抜けて辿り着いた大きな娯楽施設に時雨は思わず視線を昇らせる。

興奮して大劇場(シアター)へと走っていってしまう時雨の後を追うと、彼女は時刻版の前で身を屈めていた。

 

「あら。どうやら次の公演まで少しですが時間があるようですね」

「はい!ですので先に飲み物でも買っていきましょう!」

「良いですね」

 

時雨の提案で大劇場(シアター)にある観賞用に購入する食べ物などの露店に並ぶ。

並んでいる間、時雨は待ちきれないのか質問してきた。

 

「そういえば魔道士さんはどうしてお師匠様の昔話を聞きたかったんですか?」

「それは…」

 

話すべきか迷う。

答えの一つとして彼の眷属になる前からレンというその存在に謎が多く、解明しようとは思っていたが、今はそれ以上に違う思いがあった。

胸に秘めているそれを今日あったばかりの少女に話すのは気が引ける。

だが、ルシアは決心して話すことにした。

 

「私はレン様に本当の自分を受け入れてもらい、一番欲しいものをもらいました。過去から救われたのはレン様が居たから。レン様のお陰です」

 

つい二週間前のあの出来事は毎日夢に見る。

一度失ったが最後、いつまでもなかったものをレンは与えてくれた。

 

「だから、恩返しがしたいと思って…レン様の過去の詮索に力を入れてしまいました。私もレン様の過去を知ればレン様を何かの苦しみから解放できるんじゃないかと、そう考えて…」

 

竜の子。第2級冒険者。Lv.4。

千里眼。魔道士。

そんな肩書きや能力を持っていてもルシアはまだ子供だ。

そんな彼女の年相応の安直な発想は自身の身を滅ぼした。

その現実がルシアに重くのしかかる。

今になってそれを体感していると、時雨は普段と変わらぬ様子で唇に指をあてた。

 

「なんだか親子みたいですねー」

「え?」

 

前後噛み合ってるような合ってないような時雨の返しにルシアは純粋に首を傾げる。

こてっ、と可愛らしく首を折ったルシアに時雨ははにかんで見せる。

 

「『お師匠様()』の真似をする『魔道士さん()』。ほら、そうでしょ?」

「まあ…確かに…」

 

言われてみれば。

ルシアはレンに救ってもらった時、過去をうち明かした。

そして、彼女はそれの真似事…全く同じことをしてレンに恩返ししようとしている。

されたことを真似て返す。

それは確かに親子の教育間のやり取りであることかもしれない。

当然、考えてもみなかったことだった。

 

「レン様は私情で動き、お節介を押し付けてミレニィアさんを救いました。それと同じように私もお節介を焼いててでもレン様を救いたい…そうも思っていました」

「またお師匠様の真似ですね!」

「はい…」

 

告げれば告げる程、面白い程に発覚する真似事。

これには当人も驚きを隠せない。

 

「私はレン様の真似をしていただけ。それしかできない…。結局のところ私にあの方は救えないのですね…」

 

正しいと思っていた方法は自分のされたことをしただけ。

そんなことでは彼を救えない。恩返しなどできない。と嘆くルシア。

だが、

 

「時雨はそれが間違いだとは思いませんよ?」

「え?」

 

時雨は否定した。

思わずルシアはさっきと同じ反応を返してしまう。

 

「きっと魔道士さんみたいに辛い過去があって寄り添ってあげることができたら…解決策の方は分からないですけど、救いになるかもしれません」

「そんな…ではどうすれば…」

 

困惑を露わにするルシア。

もうどうしたらいいのか、何が正しいのか彼女には分からない。

その答えは時雨がくれた。

 

「でも!同じ方法じゃなくても、違う方法でいいと思うんです!だって、魔道士さんは恩返ししたいだけなんですよね」

「え、えぇ…」

 

気圧されながら頷く。

レンのことを知りたい。

彼を救いたい。

他に気持ちがあれどもやはり恩返しがしたかった。

それは間違いないと頷きに意味を込めた。

 

「なら他に何か考えませんか!?というか時雨、いい事考えたんですよ!」

「あ、あはは…。で、ではお言葉に甘えて…」

「あっ!でももう順番来ちゃったのでまた後で!」

「ええぇ…」

 

なんだか時雨に振り回される。

話を聞こうとしたら後回しにされ、ルシアは微妙そうな顔になる。

と、そこである声が彼女の耳に届いた。

 

「――ア!」

「レン様!?」

「え、お師匠様…?」

 

隣から聞こえる平然とした声に我に返ったルシアは声の主に即座に反応してしまったことに顔を紅潮させる。

だが、それよりも声の主を人混みの中から必死に探した。

 

「ルシア」

「レン様…!」

「うおっ!?」

 

彼が視界に入った途端、飛びつくルシア。

飛び付かれたレンは驚きで目を丸くしていた。

 

「レン様、ごめんなさい。本当に…」

「いや、謝るのは俺の方だ。もう二度とお前の居場所は奪わない。絶対だ」

「レン様…」

 

幼い頭をレンが撫でる。

それだけでルシアは心の底から温かみを感じ、目に雫を浮かべる。

 

「私もレン様の嫌がる話は無理に聞きません。ですが、時が来たら教えて頂けませんか?」

 

そっと顔を上げて両眼(りょうまなこ)を開いてルシアはレンを見つめる。

普段は瞼に守られている美しい瞳は一心に一人だけを捉えていた。

言葉とその瞳に込められた思いをレンは静かに汲み取る。

やはり暗い表情の片鱗を隠せないが、それでも頷いてくれた。

 

「あぁ、いつか…話すよ」

 

ルシアの髪に触れながら寂しそうに、けれど優しく微笑むレン。

だが、次の瞬間にはその目の色は変わり、雰囲気を変えた。

 

「ここからは真面目な話だが、いいか?」

「……はい」

 

身体を起こし、向かい合う二人。

後ろにミレニィア、シルヴィア姉妹も付いてきていて、リューがいないこととレンの表情から何かあるのだとルシアは早急に理解した。

 

「リューが何者かに攫われた」

「なっ…!?」

 

その一言でさっそく驚愕するルシア。

脅迫文も見せられ汗を何筋か垂らす。

それから目を閉じてもう一つの眼、千里眼に意識を集中させる。

 

「……リューさんを見つけました」

「話が早くて助かる。ルシアはミレニィア達と本拠(ホーム)にいろ」

「レン様お一人で向かうおつもりですか…?」

「あぁ。時雨を待機させるつもりだが、実質敵陣に潜り込むのは俺だけだ」

「……」

 

あくまで相手を刺激しないためにレンが一人で向かう。

時雨を連れていくと言うが、相手側の情報がない不安は拭えない。

どうしてもルシアは心配してしまった。

 

「心配か?」

「はい…」

 

ルシアの表情から察したのか、レンの問いに頷く。

 

「大丈夫だ。きっとリューを連れて帰る。あいつにも謝らなきゃいけないことがあるしな」

「約束できますか?」

「約束する」

 

即答するレン。

時雨を隣に連れてルシアから貰った情報を確認した。

 

「レン様。犯人の情報は深い霧で把握できません」

 

やはりせめて少しでも情報を渡そうとルシアが千里眼で調べたが、リューが攫われたと思わしき場所の周辺は濃い霧が発生していて何も分からない。

だが、ルシアが唯一得た情報、霧の前で待つ一人の男とわざと探せるように霧の中で確認できたリューだけでレンは充分だ、とルシアを褒める。

支度を済ませたレンと時雨は最後に刀を入刀し、大劇場(シアター)を出ようとするところで時雨が騒ぐ。

 

「うわあああん!時雨、大劇場(シアター)見たかったですーーー!」

「ああ、もううるさい。終わったら連れていってやるから我慢しろ」

「ホントですか!?やったー!お師匠様サイコーです」

「はぁ」

 

自称弟子に悩まされる師匠の図に苦笑いするルシアやミレニィア、シルヴィア。

時雨が駄々をこね終わった後、遂に向かおうとしていたところで次はレンが止まった。

 

「あっ…」

「……?」

 

何か思い出したようにルシアのところに戻ってくるレン。

ルシアはただ首を傾げる。

が、次の瞬間。

 

「帰ったらリューが喜びそうな晩飯でも作って待っていてくれ」

「は、はい」

「それじゃあ行ってくる」

「……ッ!?」

 

突然。

ルシアの額に柔らかい感触が襲う。

額への口付けにルシアは硬直し、状況を理解した途端顔をみるみる紅潮させていった。

 

「あ、あのレン様…」

「行くぞ。時雨」

「はいはいさー!」

 

トマトのように真っ赤に染まった顔のルシアが何事かと尋ねようとするが、それより先にレンは時雨を連れて大劇場(シアター)を後にしてしまう。

残されたルシアは恥ずかしさのあまりその場で屈むことしか出来なかった。

 

「~~~~~~~ッ!」

「え?……ええ!?」

「あちゃー。大胆」

 

ルシアの他にもミレニィア、シルヴィアもそれぞれの反応を示す。

そんな中、ルシアはひとりでに呟いた。

 

「もう、ずるいです…」

 

数分後、彼女を師事しているエルフから問い詰められたのは言うまでもないことであった。

 

 

 

 

 

一方。大劇場(シアター)を出たレンは

 

「あ、しまった…つい癖でルシアにしたか…」

 

とある女神に強要されていた習慣が出てしまったと、心の中で悪いことをしたなと思いながらオラリオを駆けた。

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