罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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第20話

月下、二人の影が音もなく動く。

誰にも気付かれることなく、気配は遮断され、深い霧の前で止まった。

 

「この先はどうなってるか分からない…」

 

屋根に足を掛け、覆面の下で目を細める黒づくめローブの男。

その隣にはこれまた覆面で顔を隠す女が霧を見据える。

 

「どうしましょう?お師匠様」

「……行くしかないだろ」

 

謎の男女の正体、レンと時雨はややあって決断する。

囚われのリューが霧の中にいる以上、その中に踏み込むのは是非もないと。

 

「どうもおかしな霧だな…。時雨、常に警戒しておけ」

「わっかりましたー」

 

場の緊張感にそぐわない軽い口調で返す時雨。

それを合図にレン達は霧へと接触しようとしたが。

 

「……ッ!なんだ!?」

「お師匠様、廃家が崩れます!」

 

直後、閃光の一線が視界に映ったかと思えば彼等が乗っていた廃家を破壊した。

突然の襲撃に驚きつつもレンも時雨も瓦礫を足場に崩壊から免れる。

 

「チッ!やっぱり来たか」

 

地に着地して襲撃してきた本人を苛立ちげに睨む。

視線の先にはボウガンを腕に装着した小人族(パルゥム)が不敵な笑みを浮かべていた。

 

「悪いけど君達をここに通すわけには行かないな」

「黙れ。意地でも通るぞ」

 

陽気に道を塞ぐ小人族(パルゥム)にレンはドスの効いた声音で返す。

わお、怖い怖いと余裕を見せる相手にレンは焦らず刀の柄を握る。

あの陽気な態度に騙される者も多いだろうが、あれは偽物(フェイク)

その奥に秘めた殺意にレンは勘づいていた。

 

「お師匠様。ここは時雨が引き受けます」

「あいつは冒険者だ。やれるか?」

「モチのロンです」

「なら任せた」

 

短いやり取りで時雨が前に出て、レンは霧の中へと向かう。

それをボウガン持ちの小人族(パルゥム)は愉快そうに見つめるだけで邪魔はしてこなかった。

 

「どうやら僕の相手は君みたいだね」

「お師匠様を止めなかったのは正解です。止めに行けば時雨がその首を跳ねてました」

「あっはは。恐ろしい恐ろしい。いいぜ、やってみろよ」

 

邪悪に口を歪める小人族(パルゥム)に対峙する時雨は抜刀し、構える。

 

「僕はビリー・ゼビウス。君は?」

「アカツキ・時雨です」

「了解。時雨ちゃんかー。じゃ、遠慮なく殺し合おう!」

「えー、時雨殺し合い嫌です」

 

ビリーによって放たれるボウガンの初撃。

時雨はそれを刀で薙ぎ払う。

だが、すぐに追撃として複合弓(コンボジットボウ)を使った射撃に狙われた。

 

複合弓(コンボジットボウ)とは、器用ですね」

 

間髪いれずに迫りきた矢に構わず、時雨は振り切った刀を捨て、新たな刀で防ぐ。

得意の連続射撃を防いだ時雨にビリーは楽しそうに笑った。

 

「あっはは!凄いや!面白い、なら挨拶はもう終わり。本気で狩りに行くよ」

「じゃあ時雨も本気で。殺す」

 

一言でスイッチが入ったように雰囲気を変える時雨。

漲る殺意を糧に地を蹴る。

そんな彼女を見て、ビリーはますます口端を吊り上げた。

 

 

 

濃い霧を割いてひたすらに進む。

居場所を掴めないため、目的地に辿り着くかも分からない中、レンは感覚を研ぎ澄ませてリューを探した。

 

「残念だがそっちにはいない」

「……ッ」

 

足を踏み込んだ方とは逆から突如飛んできた声をレンは見る。

背後にはいつの間にか一人の男が立っていた。

霧の中でも姿を確認できるまでに近くにいる相手にレンは問う。

 

「道案内でもしてもらえるのか?それとも、俺に土産の首をくれるのか」

「前者だな。この霧は魔力出来てる。闇雲に歩いたって迷子になるだけだ」

「そうか。それは助かる」

 

一度刀に掛けた手を解き、目の前の相手を今は案内人として認識する。

恐らく今回の黒幕が寄越したものだろうと考え、いつでも戦闘できるように気を引き締める。

そして、目的地には案外早く着いた。

 

「最短ルートだ。オレはロビン。まあアンタの邪魔はしない。ここから好きにしな」

「そうさせてもらう」

 

ロビンと別れを告げたレンは寂れた建物へと入る。

その中はまだ霧が外より浅く足取りには迷わなかった。

 

「……」

 

いつどこからでも敵が来ても対応できるように警戒を強める。

刀の柄に触れるその手は外さない。

やがて、暫く進んだ先に見知った人物が拘束されているのをが視界に入った。

 

「……」

「リュー!」

 

やっと見つけたリューに駆け寄ろうとするレン。

が、首筋にまで至った刃に素早く反応した。

 

「くっ…!」

「ありゃ、防がれちゃった?」

 

ガイン!と金属のぶつかる音と共に刀を手にレンが元いた場所から離れる。

刃の持ち主へと視線を向けるとそこにはまたしても小人族(パルゥム)、さっきのビリーと似た顔付きが居た。

レンが弾いたナイフを舐め回して口元を歪めている。

 

「残念だなぁ。もう少しで殺れそうだったのに…」

「どういうつもりだ?ここに来たらリューを解放するんだろ」

「あぁ、それ…いやいや罠でしょ。普通に考えて、さ?」

「あ、そ。まあそんなことだろうと……ん?」

 

狂気を滲ませる小人族(パルゥム)の様子にレンが気付く。

彼の身体は所々透けているように見えた。

まるで霧と同化するように。

 

「まさかこの霧。魔法か魔道具(マジックアイテム)か」

「正解!前者だね」

「なっ!?いつの間に…!」

 

再び金属音。

瞬きの間に零距離まで迫った刃にレンは咄嗟の反応で刃を交えることしかできない。

 

「この霧の中ではジャックは無敵!誰にも姿を捉えることはできない」

「へぇ。そりゃ凄い…!」

 

蹴りを繰り出すが既に小人族(パルゥム)――ジャックと名乗った彼は霧の中。

完全にその身を隠された。

 

『さぁ!君は僕をどこまで楽しめさせられる!?』

 

霧散する笑いを含んだ声。

どこから来るか予測できない相手にレンはただ敏感になるしかない。

度々気配を感じては刃を弾いた。

 

「へぇ。中々やる」

「後ろか…ッ!?」

 

囁かれ、首を狙ったナイフを刀を坂手持ちにして、後ろからの斬撃から自身を守る。

柔軟な対応力にジャックは感心し、また霧の中に消えてしまった。

 

「チッ!このままじゃジリ貧だ…!」

「いや、貴方が負ける」

「ぐぅっ!」

 

右か左か、正面か後方か。

はたまた上か下から放たれる見えない斬撃の雨。

魔霧のせいでジャックの位置を掴めないレンはただそれを瞬発力と直感でギリギリ防ぐだけ。

 

「はははは!このまま死んじゃえ!せりゃっ!!」

「くっ…刀が…!」

 

魔霧から放たれた強烈なクローによって一気に劣化するレンの刀。

刃の部分が刻まれたように並びが悪くなった。

 

「これじゃ斬れないか。捨てるしか――」

「そんな余裕も与えない」

「しまった…!」

 

獲物を変えようとしてその僅かなロスを利用される。

再び放たれた見えない斬撃で遂に刀身は粉々に砕けてしまった。

 

「……ッ」

 

獲物を持たない今の状況にレンは息を飲む。

魔霧に隠された殺気が場の緊張感を張り詰めらせていた。

新たに獲物を抜刀する時間はない。

レンの残りの武装は一本の刀と十二本のナイフ。

他には出来損ないしかない。

 

「ははは…こりゃヤバイ」

 

不味いなと苦笑いするしかないレン。

そこに容赦なくジャックの猛攻が襲った。

 

「ぐうっ…!?」

「ふふふはははは。ゆっくり痛めつけてあげるよ」

「悪趣味だな。ちくしょう…!」

 

避ける以外選択肢のないレンは回避行動に徹底するが、ジャックの見えない斬撃は無意味だと嘲笑う。

時間が刻一刻と進む中、戦況はただレンの身体が斬り刻まれていくばかりだった。

 

「ぐっ!うぐっ!?ぐあっ…!」

「それっ。そーれっ」

「ぐあああ…!?」

 

縦横無尽に斬り裂かれ、遂にレンは身体中を鮮血で染め、リューの前に倒れる。

ばさりっという物音にリューはゆっくりと瞳を開き、目を覚ます。

 

「なっ…!?」

 

目の前の光景。

レンが血塗れで倒れ伏せる様を見て覚醒して早々に驚愕するリュー。

駆け寄ろうとするが、何故か動けない。

 

「……ッ!?これは…!」

 

改めて自分の姿を見る。

リューの身体は謎の鎖で縛られ、繋がれて微塵も動けなかった。

 

「あぁ、起きたんだ」

「貴方は…」

 

辺りの濃い魔霧から姿を現したジャックにリューが記憶の底に眠る最後に見た顔を思い出す。

――そうか、私はこの小人族(パルゥム)に背後から襲われて。

気配も感じることができず、背後から突如襲撃してきたジャック。

その後意識を失ったリューはそれが最後に見た顔となった。

 

「私を、どうするつもりだ…!」

「別に?もう役目は終えたようなものだよ」

「なに…?」

 

ジャックの言葉に眉を顰めるリュー。

同時に前で倒れ伏せるレンの姿を視界に捉え、まさかっと勘づいてしまった。

 

「彼が狙いか!」

「正解。御褒美に神レンが苦しみながら死ぬ所を見せてあげるよ」

「なっ…!?神を、彼を殺すつもりか…!」

「うん。そう言ったけど?」

 

なんの悪びれもなく真顔でジャックは頷く。

リューが絶句し、怒りを振るい上がらせるが、やはり身動きはできない。

 

「その鎖凄いでしょ。知り合いの作った魔道具(マジックアイテム)なんだけどさ。どれだけステイタスがあろうと動けはしないんだ」

「そんな…馬鹿な…」

「ははは!いいね、その表情」

 

煽られてリューはジャックを全力を注いで睨む。

対するジャックは「おお、怖っ」と愉快に笑うだけ。

知り合いとやらに神秘のスキルがないのが残念、一つしか魔道具(マジックアイテム)は作れなかったなどと独り言を愉快そうに喋りながら二本の鋭利なナイフをレンへと向けた。

 

「やめろ…!」

「はははは。無理無理。こいつは殺さなきゃ気が済まないんだよ…!」

 

激昂するリューを無視して振り下ろされる刃。

だが、それは地を刺した。

 

「なに…!?」

「後ろだ」

「ぐっ…!」

 

突如消えた男の動きに翻弄されるジャック。

後方から迫り来たナイフを相棒(ナイフ)で受け止める。

 

「魔霧を利用される考えは持たなかったか?【切り裂きジャック】」

「くそっ…!」

 

異名を呼ばれ、苛立ちを覚える。

お返しと言わんばかりに得意の斬撃でレンの獲物を破壊する。

 

「はっ!さっきの刀もそうだけど僕の一級品ナイフにそんな粗悪品じゃ歯が立たない…!」

「粗悪品、か」

 

砕けたナイフに視線を流して呟く。

確かにそうかもしれない、レンもジャックの考えに同意して新たな獲物(ナイフ)を取り出した。

そのまま魔霧に隠れる。

 

「無駄だ!」

 

ジャックが激昂したと同時、レンの回りの魔霧が晴れる。

 

「馬鹿め、魔霧は僕の魔法。操れるに決まってるじゃないか!」

「それもそうだな」

 

血塊を吐きながら後方へと退るレン。

退れば退る程レンの通る道は魔霧が晴れ、元居たリューの周辺が濃くなっていく。

 

「魔霧は完全には晴れない!どんなに逃げても無駄さ」

「別に…そんなことは考えていない」

 

周囲を魔霧に囲まれる。

レンは刀を抜刀して構えた。

 

「晴れないんだろ?なら晴らせばいい」

 

懐から短剣を取り出すレン。

風の魔剣であるそれを振るった。

魔剣で生じられる旋風が魔霧を吹き飛ばす。

 

「魔剣?ふーん」

「……」

「ふっははは!どうやら分かってるみたいだね。威力が足りないよ」

「……みたいだな」

 

レンの魔剣は確かに霧を割いた。

が、完全に晴らすまでには至らなかったのだ。

次第に魔霧はまた濃くなっていく。

再び姿の見えなくなったジャックからレンは強烈な蹴りを喰らった。

 

「がはっ……!」

 

ステータスの力で通常より飛躍するレン。

幾度かバウンドを繰り返し、リューの前にまたも転がった。

 

「レン…!」

「ははは…いってぇ…」

 

見るに痛々しい血に濡れたレンの身体。

自分のせいでこうなった。

本拠(ホーム)を出ていかなければ。

ジャックに隙を突かれなければこんなことにはならなかった。

それを理解しているリューだからこそその瞳には悲しみと後悔が浮かんでくる。

 

「申し訳、ありません…。私のせいで…」

「いや、俺のせいだ」

「え?」

 

自らの短気を反省し、謝罪したリューだが、レンから返された言葉に首を傾げる。

 

「俺は…ルシアから一番奪っちゃいけないものを奪った…。お前の言うことは正しい。だから、悪いのは…俺だ!」

「レン、様…」

 

リューの言葉が効いている。

レンはリューの説教できちんと反省したのだ。

自分の悪さを認められる、当たり前のことをレンはした。

 

「なのに、俺はお前を止めなかった。あの時謝って一緒にルシアを探しに行けば、こんなことにはならなかった…!」

「それは…」

「リューもルシアも俺には必要だ。ここで失うわけにはいかない…!」

 

ふらふらと立ち上がるレン。

その痛々しさにリューは思わず目を伏せてしまった。

 

「もう、やめてください。貴方では彼に勝てない…」

「はっ。それはどうかな」

「……?」

 

ボロボロになりながらも何故か不敵に笑うレンにリューはただ疑問に感じる。

まだ何か勝機があるのか、この状況ではそうは見えなかった。

 

「リュー。帰ったらお前の好きなものが待ってる。飯も、人もだ」

「……ッ」

 

ルシアは帰ってきた。

その真意を込めた台詞にリューは驚く。

同時に、ああ、やはり彼は私達の主神なのかと安心するような諦めがついた。

 

「よく見ていろ、俺の暗殺(戦い)を」

「……はい」

 

戦闘へと戻っていくレンの背中を、リューは見つめていた。

魔霧に向かう彼の言葉に笑顔でコクリと頷く。

震え上がるような殺意の圧力、何かに変貌してしまったレン。

そこに何処か安心感を覚え、リューはただ見守ることにした。

 

「懲りずにまた来るのかい?」

 

魔霧の中から半身だけを見せるジャックはこれまた愉快に笑う。

 

「半端者の俺には分かる。お前も半端者だな…ジャック・ゼビウス」

「なっ…!」

 

何故真名(フルネーム)を、とでも言いたげな顔でジャックの表情が凍る。

同時に、先程のレンとは違うとてつもない殺気をレンから感じた。

 

「俺は今この時だけ暗殺者に戻る。半端者を止めた俺と半端者のお前、死ぬのはどっちだろうな」

 

足取りが不安なのか、それとも故意的なのか、揺れるレンは恐怖を感じさせる。

 

「さぁ、殺る(いく)ぞ」

 

一言を火蓋に暗殺者は命を狩りに行った。

 

 

 

一方、闇夜を駆けながら四方八方から鋭く迫る矢を斬り落とす少女は霧の奥へと目を配らす。

 

「お師匠様…?」

 

幾度か感じたことのある殺気に時雨はただ悲しげに閃光の矢を斬った。

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