罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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第21話

魔霧を風の魔剣で再び吹き飛ばす。

一部晴れた霧からジャックが姿を現した。

 

「無駄だよ」

 

ジャックの言う通り、レンが晴らした魔霧はすぐ様元に戻ってしまう。

だが、レンの狙いは魔霧を晴らすことではない。

 

「……!」

「おっと」

 

首へと振るわれた刀を左手のナイフで防ぐ。

流れるように右のナイフでレンに斬り掛かる。

 

「一つ、いいか」

「なに?」

 

右からの攻撃をナイフで防いだレン。

彼の問いかけにジャックは余裕を見せるため応じた。

 

「お前は冒険者か?それとも俺と同じ暗殺者(アサシン)か?」

「なにその下らない質問。僕の戦い方を見て分からない?殺し屋さ!」

「戦い方…?ははは」

「何がおかしい!」

 

おちょくるようにヘラヘラと笑うレンにジャックが激昂する。

それでもレンはいちいちジャックの苛立ちを刺激してくる。

 

「いやはや悪い悪い。お前の戦い方じゃそうは見えなくてな」

「何を言って――」

「暗殺者なら殺す気で来いよ。あぁ?おい」

「…………ッッ!!?」

 

威圧に冷や汗を垂らすジャック。

震えながらも反抗した。

 

「こ、殺す気でいるさ」

「違うな。どうもセーブが掛かってる。冒険者が混じってんだよ」

「そ、そんな…ことは…」

 

言葉とは裏腹にジャックの図星が止まらない。

否定しようと脳内でレンを殺そうとするもできない。

 

「お前みたいな半端者に今の俺が負ける筈もない」

「ちくしょう…!」

 

一度距離を取る。

魔霧へと入ってしまえば、魔力で敵の感覚を鈍らせ、隙を作ることができる筈。

だが、移動しようとした進路全てにナイフの投擲が阻害した。

 

「霧の中じゃ、お前もよく見えないからな。攻撃には警戒してるのか?」

「なっ――」

 

いつの間にか。

零距離にまで迫り来たレンにジャックは息を呑む。

死角から接近された殺気に怯えを隠せない。

直後、心臓の隣から鈍い音が響き、強烈な刺激にジャックは胸のあたりを抉られた。

 

「ぐあっ、ああああああああああ!?」

「人間の心理は簡単だ。お前は死ぬのを恐れてる」

「うぐっ…!いや、やめ――」

 

ジャックの涙ぐんだ制止も虚しくレンは彼を貫いたまま駆ける。

そして、ボロい壁を突き破って建物の外に出た。

魔霧の効果が既に消えている外でレンは懐から新たな魔剣擬きを取り出す。

火の魔剣だ。

 

「死ね、ジャック・ゼビウス」

「――や。嫌だ…」

 

刹那、ジャックの首は焼き斬られた。

 

「ごふっ!?ぐうううっあああああああ!!??」

 

激痛が走り、悶える。

ジャックは確実に迫り来る死を実感していく。

 

「嫌だ!ぐっ…し、死にたく、ない…。助けて…」

「はぁ」

 

さっきまで苦戦していた相手の情けない命乞いに思わず溜息を漏らすレン。

嫌な暗殺者時代を思い出す光景に彼はまた半端者に戻ってジャックに近寄る。

 

「お前のことは知ってる。ジャック・ゼビウス。【切り裂きのジャック】…Lv.3の【アフロディーテ・ファミリア】だろ」

「うぐっ…うっ、何故、それを…」

「何故って。俺とお前は一回会ってるだろ。ほら、お前らの本拠(ホーム)に行った時に」

 

まだリューを眷属にして間もない頃、アフロディーテに呼び出されたレンは彼女の本拠(ホーム)で幾度も殺意を向けられた。

それがジャックだった。

そんな相手をレンが警戒しないわけがない。

だから、既に調べは付いていたのだ。

 

「俺達を待ち伏せしていたのがお前の下の方の兄貴、ビリー・ゼビウス。で、俺をお前のとこまで案内したのが……」

 

涙目で倒れ伏せるジャックに語り掛けながらレンは視線をズラす。

そこには案内人として現れたロビンが近寄ってきた。

 

「あらら。これは酷いやられ様なこった。おーい、大丈夫か?ジャック」

「……ッ!ろ、ろび、うぐっ…ロビン兄さん…!」

「はいよ」

 

ポーションを掛けてもらって首を回復したジャックは思い切りロビンを睨む。

 

「やはり神レンを僕の所まで辿り着かせたのは貴方の仕業だったのか…!」

「まあそれがうちの女神様のご命令なんでね」

「なっ!?マザーの命令!?」

「は?マザー?」

 

ジャックとロビンのやり取りから大体状況を把握したレンだが、最後は聞き捨てがならない。

 

「マザーってまさかアフロディーテのことか?」

「そうそう。こいつとかビリーとか他に諸々、うちの女神様を母親代わりにしてるらしいよ」

「うえっ。マジかよ、あの変態のどこに母性感じてんだ」

「おい!無視するな!あとマザーの悪口はやめろ!」

 

ピーギャー騒ぐジャック。

一気に小物感が増した彼をレンは無視する。

 

「お前は…ロビン・ゼビウス、義理の兄か」

「そ。オレは小人族(パルゥム)じゃなくて人族(ヒューマン)だからね。ちなみに団長はオレ、よろしく」

「……アフロディーテを含めお前らの中で一番マトモそうだな」

「ははは、よく言われる」

 

互いに握手と軽い会話を交わす。

まあ心の中ではまったく仲良くしようなどとは思ってないのだが。

そこへ、時雨がリューを連れてやって来る。

 

「お師匠様!妖精さんを回収しました!」

「妖精、さん…」

 

時雨に肩を貸しながら微妙な表情をするリュー。

共に時雨と戦っていたビリーもトボトボと後をついていた。

 

「あうっ…」

 

ロビンの元まで来て力なく項垂れるビリー。

 

「ビビリのジャックと違ってビリーは戦闘好きだからなぁ。こうやってオレが止めなきゃいけないわけ」

「そうか」

 

心底どうでもいいなと思いながら聞き流す。

一応時雨を連れてきて正解だったということは分かった。

 

「くそ…くそ!まだ、終わってない…!」

 

一段落したような空気が気に食わなかったのかジャックは再び立ち上がる。

そして、その口で詠唱を紡ぎ始めた。

 

「【魔霧が都市を包む】」

 

短文詠唱。

次に来る魔法の名を叫ぶ。

 

「【スモッグ】」

 

瞬間、魔霧が再び発生し、ジャックはその中に飛び込んだ。

が、暫くして魔霧は霧散していき、その中から涙ぐむジャックが現れる。

 

「くそ!誰だ!僕の精神力回復薬(マジック・ポーション)盗んだの!」

「ああ、それ俺」

「ふさげんな返せ!」

 

いつの間にか奪っていたジャックのマジックポーションをぶら下げるレン。

怒るジャックはナイフを手に奪い返そうとするが、獲物はロビンの矢で落とされ、ダメージの残る動きはレンに読まれて避けられた。

 

「ぐっ…なんで、僕のマジックポーションを…」

「俺が最初に魔剣を使った時、暫くお前は現れなかったからな。そこで魔霧は精神力(マインド)の消費が激しいことに気付いた」

「それで盗んだのか。あんた頭良いな」

「褒めるなよロビン兄さん!」

 

地面で顔を擦ったジャックが義兄を指摘するが、本人は何処吹く風。

これでようやく戦闘が落ち着いた。

 

「はぁ。疲れた…」

 

終わると同時にどっと疲れがレンを襲う。

正直、もう帰りたいが会わなければいけない神物(じんぶつ)のため、時雨に指示を出す。

 

「時雨、リューと一緒に先に本拠(ホーム)へ帰ってろ」

「貴方は帰らないのですか?」

「あぁ、そういう訳にはいかないからな。やっぱ約束破った相手には謝るべきだろ」

「はあ…?」

 

事情はよく理解できないリューだが、断る理由は特にない。

時雨に力を借りながら本拠(ホーム)へと先に帰った。

残されたレンはジャックとビリーが撤収した後、ロビンに連れてもらってある場所へ向かう。

 

「それにしてもジャックのビビリ症を見破ったり、凄いなあんた。ほんとに神か?」

「そんなことよりリューを拉致した理由は…そういうことなんだろ」

「……まあね」

 

夜道を歩みながら今回の真相に辿り着く。

 

「ま、今回はあんたも悪いと思ってるんじゃないの?少なくともオレはあんたが悪いと思うね」

「そう、だな。確かにそうだ」

「うちの女神様にあんたの話は聞いてるし、あの方が良い性格をお持ちでないことも知ってる身な訳だけどさ」

 

それまで背を向けて話していたロビンがレンと向かい合う。

そこには明確な怒気が込められて。

 

「オレもあの人に一度は惚れた身。今も一番お側につかせてもらってるわけよ。あとは分かるよな?」

「あぁ」

 

静かに頷くレン。

ならいい、とロビンが口にしたが最後に二人の会話は終えた。

それから数時間に満たない間に【アフロディーテ・ファミリア】本拠(ホーム)、『饗宴の壊』にレンは足を踏み込んだ。

 

 

アフロディーテと向かい合うレン。

傷を抑え、血塗れで汚らしい格好のレンとは対称的に高貴で可憐で天使なのではないかと錯覚させられる程に美しく神々しい容姿を持つアフロディーテ。

長年の付き合いを経て対峙する二人の間に存在する空気は親密なものでは決してなく、張り詰めたものだった。

 

「レン。君は約束を破った。それは分かっているかい?」

「……あぁ」

 

アフロディーテの問いかけに重く、重くレンは頷く。

何百年振りかに見たレンの反省した姿にアフロディーテは胸を跳ね上がらせ、内側で興奮しまくった。

 

「あは、はは…うへぇ。ああ、唆…」

 

撤回。内側に秘めることはできず、完全にダダ漏れであった。

隠すこともできない相手の性癖に引き気味ながらも反省中のレンは顔を僅かに引き攣らせるが、我慢する。

ややあってやっと正気を取り戻したアフロディーテが話を進めてくれるまで待った。

 

「今回はレンが頑張ったみたいだね」

「……あぁ」

 

ボロボロの身体を見てレンがリューを助けたことを指摘される。

これについて怒られるかと思ったレンだが、アフロディーテにその様子はない。

どうやら抵抗するのはセーフラインらしい。

 

「一応、慈悲で許してあげよう。レンの戦い振りを久々に見れたし、楽しませてもらったからね」

 

神にとっての一番の欲求は娯楽。

個人差はあれどもこれが多数を占めている。

だからだろうか、レンの奮闘にアフロディーテはご満悦のようだった。

これが今回許された最もの要因。

ここで初めてレンの方から口を開く。

 

「許してくれて感謝する。……悪かった」

「ふふふっ。懐かしい目をしているね。まるで死人のような諦めのついたその目つき、出会った頃そっくりだ」

「……悪い、ちょっと残ってたか」

 

謝罪を無視して嫌な思い出を思い出し始めるアフロディーテ。

出会った頃。

暗殺者の成れの果てだったレンはアフロディーテの眷属となった。

その時の目つきが戻っている。

ジャックと戦った際、暗殺者(アサシン)に戻った後遺症が残っていたことにレンは気付かされた。

 

「そういえば、僕からも謝ることが一つあるんだ。レン」

「……?」

 

あの他者に対してまったく悪びれのないアフロディーテが謝罪。

アフロディーテと関わってきて何百年経とうと数回しか見せなかったそれにレンは自然と警戒した。

アフロディーテの目線は部屋の隅で怯えるジャックへといく。

 

「ジャックにリュー・リオンを拉致するように言ったのは間違いなく僕だ」

「……」

 

レンは何も言わない。

謝罪内容がこれではないと察しているからだ。

レンが約束を破ったことで出たその行動を反省するわけがない。

だから、その先に耳を澄ました。

 

「標的はリュー・リオンだと告げた筈なのに…あろうことかあの子は君を狙った。僕はレンを失いたくない」

 

最後にそんなことは自分では絶対にしない、と暗に言うアフロディーテ。

 

「あれはあの子の独断だ。だから、許してくれないかい?」

 

最終的には楽しんだ癖に厚かましく許しを乞う。

もう慣れてしまった不条理にレンはただ頷くしかない。

 

「良かった…。これで僕も安心できる」

「……もう、いいか」

 

用は済んだだろうと暗に告げるレン。

反省しつつもやはり早くここを出たいと思ってしまう。

 

「帰ったらみんなで飯を食うって約束したんだ」

 

後付けで理由を口にし、傷口を抑え足を引き摺りながら『饗宴の壊』の出口を目指す。

その背を見つめるアフロディーテは……彼が出口に差し掛かったところで意地悪いことを言ってやった。

 

家族(ファミリア)ごっこのつもりかな。そんなもの…いつまで続けるんだい?」

「……」

 

その言葉を聞いて、レンは足を止める。

決して振り返りはしないが響くものがあった。

だが、この時アフロディーテとレンで心に秘めている事は違った。

アフロディーテは嫉妬。レンの眷属への、レンとひとときを共有をすることに羨ましく思っている。

――レンの本当の家族(ファミリア)は自分だけ。

今でも美神(アフロディーテ)はそう思っていた。

しかし、レンは――。

 

「あぁ、きっとこれは……真似事なんだろう」

 

一つ、呟きだけを残して『饗宴の壊』を後にした。

 

 

 

 

【レン・ファミリア】の新たな本拠(ホーム)、名を『楓月(ふうげつ)の館』に帰宅するレン。

楓――風で種子を飛ばす樹木と夜を連想する月。

前者は二つ名にもなっている妖精(エルフ)から取られたと分かる名称だ。

ちなみに館の命名に意義を唱えるものは居なかった。

玄関を通るレンはそこで一度足を止める。

 

「リュー、ルシア…」

 

この場所で一人目と二人目の眷属と喧嘩をしてしまった。

今日の事件も全部そこから始まった。

居場所を奪ってしまった少女とは、レンが過ちに気付いて迎えに行き、絆を深めて取り戻した。

友を追い出され激昂した女性は一度拉致されてしまったが、レンが身を投じて助けた。

一見、情を写し、命を懸け、そう見えたかもしれない。

だが、今のレンには全て偽物に見えた。

 

「……クレア、(じん)。もう俺には家族なんてできないのかもしれない」

 

遥か昔、まだ島国で一生だと思って生きていた時代。

そんな遠い記憶にいる二人の名に家族の喪失を告げる。

彼女等はもう生きていない。

だからこそ彼等が最後の家族なのだとレンは静かに感じ取った。

 

「おや。帰っていたのですか」

「何故そんなところに突っ立っているのですか?レン様」

「レ、レン様…!本当に無事だったんですね!!」

「もうみんな食べ始めてるよ?レンも早くー」

「お師匠様!時雨の持ってきた茶葉大人気です!」

 

玄関で佇んでいたレンを手招く眷属達と愛弟子。

その大半が妖精(エルフ)で全てが女性だからか華やかで、出掛ける前が嘘だったかのように賑やかな彼女達にレンは微笑みを作る。

 

「あぁ、ただいま」

 

居間(リビング)へと足を向けると彼女達全員が笑顔で迎えてくれる。

レンの傷だらけの身体がライトで明るみになった時にはリューとルシアが同時に回復魔法で治療してくれた。

 

「全く、無茶をする(ひと)だ」

「レン様の命に大事がなくて良かったです…」

「心配掛けたな」

「あっ…」

 

治療をしてくれるだけでなく心配してくれた小さな妖精の頭をレンがそっと撫でる。

顔を赤めるルシアとレンの様子を見てムムッと悔しそうなミレニィアも駆け寄ってくる。

 

「レン様!私もレン様が心配で心配で溜まりませんでした…。ご無事で本当に良かったです」

「お、おう。ありがとう…」

「えへへ…」

「むぅ」

 

遠回しに撫でろと言われてる気がしてミレニィアも撫でる。

レンが片腕しか使えない為か撫でられなくなったルシアが頬を膨らませてミレニィアを恨めしく見る。

 

(例えルシア様でもここは譲れません…!)

(ミレニィアさん…見かけによらず抜け目がないですね)

 

師弟による容赦のない白熱な争いに本人は気付かず。

 

「お師匠様!時雨も撫でてください!」

「なっ…!?」

「あら」

 

修羅場にズカズカと入ってきた時雨に明らかにレンが顔を渋らす。

 

「お前は俺と居ただろ…」

「あぁ、そういえばそうでした!」

 

ぽん、と手を打つ時雨。

邪魔をされて恨めしくしていたミレニィアもこれには苦笑いした。

 

「そうだ、時雨。お前うちのファミリア入らないか?」

「え?」

 

レンの突然の誘いに時雨だけでなく周りにいたリュー達も彼を見遣る。

が、リュー達の方はすぐに目を合わせあって時雨を迎えられる空気を作る。

当の本人の時雨はというと――。

 

「本当に…本当にいいんですか!?お師匠様!」

「あぁ」

「やった!やりました!入ります、是非…!」

 

歓喜して承諾した。

これにより今宵はレンやリュー、ルシアの仲直りだけでなく時雨の入団祝いとなり結局騒ぎに騒ぐ夜となる。

子供達が騒ぐ中、レンは心の中で自問自答していた。

 

(家族愛なんてとっくの昔に終わったんだ…。俺にとってファミリアは奴を倒すための手段。そうだ、忘れるな…)

 

それは自身に言い聞かせるように。

時雨を勧誘したのもLv.3のビリーと恩恵なしで互角に張り合えたから。

これも言い聞かせるように。

レンは誰にも気付かれないところで苦悩した。




短編⑨
title︰愛の真実

「ふざけるな!!」

自室の壁を思い切り殴りつける。
今も思い出すあの忌々しい神の顔。
穴の空いた壁にそれを浮かべ、またも苛つきがこみ上げてきた。

「僕がっ!Lv.3の、第二級冒険者の僕がっ!元暗殺者の神如きに劣る筈がないんだ!!」

また殴る。
拳に走る痛みも今は怒りを刺激する。
【アフロディーテ・ファミリア】の小人族(パルゥム)、ジャック・ゼビウスは此度の敗北に納得がいかなかった。
神レンについては主神であるアフロディーテ(マザー)によく聞かされていた。
その度にアフロディーテがあんなにも夢中に話すのが許せなかったし、会ったこともないレンという男を妬んでいた。
そして、実際会って、戦った。
結果は敗北。
たかが元暗殺者の人族(ヒューマン)から神に成り上がっただけの神の恩恵(ファルナ)も持たない相手に第二級冒険者である自分が負けた。
有り得ない。
――有り得ない。有り得ない。有り得ない!
何度でも否定したい。
だが、事実は重くのしかかった。

「なんで…なんで…あんな奴に…。ビリーだってなんで神の恩恵(ファルナ)も持たない劣化種(ヒューマン)の女に負けたんだ?」

実の兄弟であるビリー・ゼビウス。
彼も自身に同行し、レンの付き添いである時雨と戦った。
たかが人族(ヒューマン)の暗殺者風の雑魚の筈なのに。
ビリーは勝てなかった。
――なんなんだ、あいつら。
意味のわからない。理屈の通じない。常識が通じない。
そんな相手にジャックはまた畏怖する。
否、こんなことではダメだとジャックは恐怖を振り払った。
一度落ち着こうとベットへ向かう。

『君への愛じゃレンへの愛に勝てないよ』

「……っ!」

ベットに潜ろうとした時。
一瞬、脳裏に美神(アフロディーテ)の言葉が過ぎった。
それはジャックがなぜ敗北したのかを主神の前で無様にも騒いだ時である。
――君への愛じゃ、レンへの愛に――
この言葉の意味はジャックにも分からない。
そのままの意味で捉えるならジャックはレンよりアフロディーテに愛されてない……そう取れる。
その考えにジャックはイラッとした。

「あ、あんなよく分からないやつの方が僕より愛されてるっていうのか!」

今度は机を殴る。
Lv.3のステイタスによって机は木っ端微塵になった。
こんな力があってもステイタスのないレンには勝てなかった。
その虚しさがジャックをさらに苛立たせる。

「くそ…!くそ…!」

寝る気にもならなくて部屋を出た。
この怒りを何処にぶつけてやろうか、そう思ってダンジョンにでも行こうかと思った時、ふと『饗宴の壊』の物置を横切る。
怒りでまともな判断能力のないジャックはなんとなくその中へ入った。

「なんだ…ここ。うえっ、ごほっ!めっちゃ埃っぽい!最悪!」

入るや否やすぐに文句を言う。
空気の悪い空間にムカムカしたが、そういえば物置には入ったことがなかったので興味本位で探索する。
棚に置いてある本を適当にとって読むが特に面白みはない。
大体見て回ったジャックは飽きて出ようとした。
しかし、部屋の一番奥にある厳重に保管された箱を発見する。

「なんだ…これ」

埃を被っている他のものとは違う。
これだけはよく手に取られた跡がある。
暗号設定まである錠前や、破壊が困難な箱はかなり厳重で常人なら開けるのは難しい。
こんなにも大事にされているものに干渉するのは普段のジャックならば不味いと危機を感じるが、どうも今日は興味が湧いたらブレーキがかからなかった。
ステイタスで無理矢理錠前を破壊して、中身を見る。
箱の中には一冊の古い本があった。

「日記…?」

随分と古くて字が消えかけているが、内容は日記のようだった。
誰のものかは最初の方ではよく分からない。
内容も興味を引くものではなかったが、気晴らしにはなるだろうとジャックは頁をめくる手を止めない。
が、それがいけなかった。
ジャックはそれを()()()()()()()()

「これは…」

とある頁で手を止める。
見覚えのある名前が出てきた。

「冒険者…ナガト・練…?」

ジャックは呟きを漏らし、真実へと踏み込む。
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