罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし) 作:伊つき
早朝。
『眠りの館』の裏口にて。
女神が首を縦に振る。
「…ん、わかった」
「ありがとうございます!ヒュプノス様!」
半眼のヒュプノス神と彼女の前で平伏す女性。
女性はしきりに礼を告げ、歓喜していた。
「どうか、どうか主人を…ううっ…!」
「わかった」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
何度も何度も額を地につけることを恥じずに女性は涙を流しながら来た道を戻っていく。
ヒュプノスはその様子をただぼんやりと眺め、彼女の頬に当たるひんやりとした風でやっと意識を覚醒させた。
「はっ…なんでそとに…?」
いつの間にか、とヒュプノスは驚きを隠せず辺りを見渡す。
僅か数刻前まで自分の意識は夢の中だった筈。
それが知らぬうちに
暫く驚愕に固まった後、ヒュプノスは自身の手にある硬い感触で我に戻る。
「なに、これ…」
見覚えのない紙を手に持っていたヒュプノス。
見開いていた目から半眼に戻ってその内容を見遣る。
『とあるドワーフの夫の捜索』について記されていた羊皮紙。
ヒュプノスはそれが
「とりあえずこどもたちにみせる…」
以前にも似たようなことがあった。
その時はバルドルに相談し、何故か呆れられながらも眷属に見せてはどうかと言われ、ヒュプノスはそれを思い出して実行する。
「……」
裏口から
屈強なドワーフだ。
「ごる――」
「おおっ!女神様!普段はお見せになられないそのお美しい御姿。このゴルド、拝見できたことを生涯の宝にさせて頂きます!何度見ても愛らしく華やかで、神々しく煌やかで最美である貴女様の眷属であることを今日も誇りに思いますぞ!あぁ、もし許されるならば我がこの愚かな手で一度触れてみたいものですが…おおっとやはり嫌悪されますか。申し訳ありませぬ。して、何か御用ですか?」
「やっぱいい」
【ヒュプノス・ファミリア】団長、ゴルド。
彼に声を掛けたヒュプノスだったが、心底気持ちの悪そうな顔して断念した。
彼は最初に眷属した子であるが、正直ヒュプノスの嫌う熱苦しい人格持ちである。
そんなゴルドを後にし、次に探すのはとあるアマゾネスの女性団員。
ヒュプノスが覚えている子の顔の一つだ。
…というのも実はヒュプノスは眷属の顔を大半覚えてなかったりするのだ。
とにかく最も信頼するアマゾネスを探すヒュプノス。
廊下で眷属として繋がっていることを感じるのに身に覚えのない子ばかりとすれ違い、団長室の秘書席でやっと目的の彼女を発見した。
「みつけた」
「ヒュ、ヒュプノス様…?」
大量の書類を前に書記仕事を片付けていたアマゾネスの女性。
珍しく姿を見せた主神に声を掛けられ、少なからず驚いている。
「れいら。おねがいがある」
「頼み事…ですか」
レイラ、と呼ばれた副団長はヒュプノスの物言いと彼女の持つ一枚の羊皮紙に嫌な予感をひしひしと感じる。
やがて、ゆっくりとヒュプノスからその羊皮紙を差し出される。
「このくえすと、よろしく」
「失礼ながらお断りします」
予感的中したレイラは即答した。
断られたヒュプノスは暫く考え込んだ後、口を開く。
「おねがい」
「無理です」
再度頼んでみたが、駄目。
「お・ね・が・い」
「手一杯です」
可愛らしく言い直してみたが結果は一緒。
レイラはまた筆を走せ始めてしまう。
「なんで、ダメ?」
頑なに断れてムッとしたヒュプノスはその理由を尋ねる。
だが、彼女は気が付かないうちに地雷を踏んだ。
普段は温和な筈のレイラに青筋が走る。
そして、何かが切れたレイラはバン!と机を叩き潰して大声で叫んだ。
「あんたが私の仕事を増やすからでしょうがーー!!一体これで何件目よ!?少し前はペット探し五十匹!その前は冒険者が破壊した住宅街の修理!更にその前には謎のミステリー事件の調査!あれが一番きつかった…!なんでいつも勝手に仕事貰ってくるんですか!?それも全部報酬ほぼなし…!」
溜まりに溜まったストレス。
それを全てぶちまけて激昂したレイラは肩で息をする。
「はぁ…はぁ…」
「なんか、ごめん…」
「いえ…確かに経済面も精神面も酷いですけどもういいです…」
ぐったりと項垂れて諦めたような口調で座り直すレイラ。
目の前で崩壊した机を確認して、「あぁ、修理代…」と悩むその姿は酷く惨めだった。
「私は後処理の書類整理とか色々ありますので他の団員に声を掛けて頂ければと…。幸いうちは団員が無駄に多いですし…」
「そうなんだ。わかった」
「なんで知らないんですか…。来た人拒まずでどんな方でも受け入れたのはヒュプノス様なのに…。いえ、いいんです…もう。あはは。はははは…はぁ…」
本気で涙を流し両膝をついてしまったレイラにヒュプノスは困惑しつつも責任を感じたのか、床で倒れ伏せてしまった彼女にそっと布団を掛ける。
「あぁ…全ての元凶だけどその心使いに感謝します…すぅ…すぅ…」
「よくわからないけど、ごめん。だいじょうぶ。ねたらわすれられるから」
赤子のように泣き疲れて床で寝入ってしまったレイラ。
ヒュプノスは睡眠への拘りから彼女の寝床をちゃんと用意してあげ、気持ちよさそうに寝るレイラを見て良し、と罪と反省を忘れて満足してしまったまま団長室を後にする。
「こまった」
レイラに言われて他の眷属に頼ろうとしたヒュプノス。
しかし、あろうことかヒュプノスの知る者はゴルド、レイラを除いてあと一人だけという結果に辿り着いてしまった。
「ね、ねえ」
「はい。なんでしょう」
たまたま通り掛かったエルフの男性団員に最後の一人――女
ファミリアに迎え入れた以上全員と一度は話している筈だが、なれない相手で詰まりながら、だ。
「御門さんなら
「わかった。ありがとう」
「い、いえ…」
教えてくれた男性団員のエルフに礼を言ってその場を去る。
至って冷静に見せたが長い間他者との対話が制限されていた反動と御門がいないという焦りを内心に秘める。
「こまった」
再度同じことを呟く。
ゴルド、レイラ、御門。
話せる団員全てに当たったが、結果は芳しくない。
一人。どうしようかと
「そうだ」
こうなったら眷属ではなく、
そこまで思考が至ったヒュプノス。
浮かべるのは以前も相談したバルドルと兄のタナトス。
前者はこういった相談を嫌う。後者はそもそも会えない。
またしても行き止まりに達してしまったヒュプノスは最後にある者を思い浮かべる。
「よし、行こう」
彼ならば。
そんな思いを胸にヒュプノスは久しぶりに『眠りの館』を出た。
「で、俺の元に来たと」
「そう」
「一ついいか」
「いい」
「お前それ完全に寝惚けた所を利用されて安い報酬で割の悪い頼みを受けさせられてるんだよ。きっと巷じゃ有名だぞ」
「……それだ」
「それだ、じゃねえ」
突然『楓月の館』を訪ねてきたと思えば馬鹿馬鹿しい話を持ってきたヒュプノスにレンは呆れ返る。
「これまでも何回かあったんだろ?いつもはどうしてた」
「ばるどるにそうだんした」
「で?」
「さいしょはこどもにたのめといわれたからこどもにたのんだ」
「その後は?」
「ていきてきによくおきたことだからそのたびにばるどるにそうだんしたらおこられた」
「はぁ。つまりバルドルには愛想尽かされて、お前のとこの子供はお前の貰ってきた厄介事に追い込まれてるんだな?」
「それだ」
「それだ、じゃねえ」
まったく悪びれる様子もないヒュプノス。
単に相談を持ってきたと確信したレンは再び溜息をつく。
「で?その
「れんがやってくれるの?」
「馬鹿言え。よく字を見ろ。冒険者依頼と書いてクエストだ。俺は冒険者か?」
「ちがうの?」
「ファミリアの主神が冒険者なわけないだろ」
「あ、そっか」
ぽんと掌に拳を乗せ、納得するヒュプノス。
もうこれだけで先が思いやられる。
「まあお前には借りがあるし、依頼内容によるがやってやらんこともない」
「ほんと…?」
「無茶なのは無理だぞ」
助け舟を差し出されたヒュプノスがそれこそ神を崇めるかのような目でレンを見る。
彼女も女神だがそんなことは忘れた。
とにかくようやくヒュプノスは安心できた。
「よかった…ぐぅ…」
「おい、バカ。待て。安心するのは早い。まだ完全に受けるなんて言ってないだろ。こら、起きろ」
不安が解消された安心で寝始めようとしたヒュプノスをレンが叩き起す。
ちなみに借りというのはレンが以前『豊穣の女主人』でリューを勧誘していた時。リューが応じるまで頑固に店に居座り、大量の金を用意して料理を頼んだ。
その時の大金はヒュプノスのものだった。
まだオラリオに来たばかりだったレンに大盤振る舞いする程の金はなく、仕方なくだ。
そういう理由があってレンもヒュプノスを放置はできない。
まあ元々神友である以上見捨てはしないが。
「『女ドワーフの夫の捜索』?うわっ…地味にめんどくさいの持ってきたな…」
「ごめん」
「いいよ、別に。これくらいならギリギリ受けてやらんこともない」
割と様々なことが書かれたそれを流し読みしていくが、報酬の欄で目を見開いた。
「30ヴァリス!?じゃが丸くんしか買えねえじゃねえか!」
「30まんのまちがえ?」
「明確に悪意あるぞ。舐められてるじゃねえか」
完全に騙されてる。
神友の情けなさに頭を抱えるレン。
これが初めてではないのだというのだから尚更である。
「わたしのけんぞくはいそがしいみたい。れんのけんぞくは?」
「こんなクソクエ頼めるか。仕方ないから俺がやるよ…」
「やった」
「反省しろよ寝惚け女神。あとお前の眷属が忙しいのは大半お前のせいだろうが」
「いたい」
頬を引っ張られるヒュプノス。
柔らかいからか、これが伸びる伸びる。
本人に改善する気がないことが一番の問題なのではないかとレンはヒュプノスの頬を引っ張ながら考えた。
「れん。いたい」
「おお、悪い」
思いの外気持ちよくて引っ張り続けていた頬から手を放す。
「なにしてるのー?」
「だれ?」
「いや、貴女が誰」
レン達の話し声に反応したのかやってきた、リュー達がダンジョンに潜る中留守番している非冒険者でエルフのシルヴィア。
ひょこっと対談室に顔を出してヒュプノスの珍妙なやり取りに巻き込まれる。
「こいつはヒュプノス。俺の神友だ」
「へー。小さくて可愛いね」
「わかる」
「同意するな」
ヒュプノスの代わりにレンがした紹介でシルヴィアが納得し、ヒュプノスを撫でる。
本来失礼極まりない行為だが、ヒュプノスは気持ちよく受け入れている。
「それで何の話してたの?」
「まあ色々な…。こいつが厄介事持ってきたんだよ」
「厄介事?なにそれ面白そう」
「面白いもんか。心底面倒臭い」
気楽なシルヴィアにレンは
最初こそ興味津々に読み込んでいたシルヴィアだが、その表情は次第に沈んでいく。
「なにこれ?内容と報酬が割にあってなさすぎじゃない?」
「だから言っただろ」
「えっへん」
「威張るな。威張れることじゃない」
胸を貼るヒュプノスを半目で見るレン。
そのやり取りだけでミレニィアは何かを察するような顔になってしまった。
きっとヒュプノスがトラブルメーカーなことに気付いたのだろう。
「とにかく詳細を読むに、ある女ドワーフの夫が一週間前から行方不明で捜索をお願いされたと…」
「割と情報少なくない?」
「だな。分かってるのは居なくなった場所と時間だけか…。苦労しそうだ」
「ぐぅ」
「寝るな」
「ふえっ」
当然レンに叩き起され、その眠たげに目を擦りながら一緒になって思考する。
「ゆうかい?」
「誘拐、か…」
レンの中でつい先日のことがフラッシュバックする。
【アフロディーテ・ファミリア】のジャックに拉致されたリューをレンが身をかけて戦ったあれは元はと言えばレンのせいだった。
そんなことを思い出しながら頷く。
「可能性はある。とにかく調べてみよう」
「なになに?もしかして現地調査!?」
「まあ、そうなるな」
「それあたしも付いて行っていい?」
「あぁ。別にいいけど…」
「やった!」
調査の何処に興奮しているのか知らないが、歓喜するシルヴィアにレンは困惑する。
「じゃ、あたし準備してくるね!」
「は?準備?必要ない――」
「女の子には色々必要なの!そこら辺デリケートがないよー?」
「お、おう」
何故か叱られたレンはとにかく応じ、シルヴィアは二階の自室へと行ってしまう。
シルヴィアを待つ間、レンは調査行動の詳細を考え始めた。
「まずは抗争の跡がないか…だな。他は…」
「れん」
眠たげにするヒュプノスから声を掛けられ、目線をそちらに送る。
「なんだ?」
「わたしもじゅんびしてくる」
「はぁ…?お前もか。具体的には何をするんだ?」
「たいりょくおんぞん」
「結局寝る気か。一度寝るとお前は起きないんだから却下だ」
「いじわる」
「うっせ」
相変わらずやり取りを交わす二神。
そこへシルヴィアが戻ってくる。
「準備オーケー!さぁ、行こう!」
そう叫んで出てきたのは白いノースリーブシャツに青いスカートに身を包んだシルヴィア。
完全に遊びに行く格好にレンはこめかみを抑えた。
「あのなぁ…。色々と動き回るのにスカートでくるやつがいるか。もっと動きやすい服で来い」
「えー。いいじゃーん」
「せめてスカートは脱げ」
「ぶー…はいはーい。分かりましたよーっと。……ほっ!」
「ちょっと待て!なんでここで脱ごうとする!」
渋々と注意に従ってくれたものの突然レンの目の前で脱ぎ始めようとするシルヴィアにレンは急いで制止する。
対してシルヴィアは不思議そうに首を傾げる。
「え?脱げって言ったのレンじゃん」
「ここで、とは言ってない」
「あ、そっかー。ごめんごめーん。あはは!」
「……」
「じゃあ着替えてきまーす」
先が思いやられる。
そんな表情で重く溜息をつくレン。
それを気にもしないシルヴィアは陽気に退室する。
暫くしてまたシルヴィアが戻ってきた。
今度はスカートからショートパンツへと変わっている。
「どう?」
「……まぁいいか」
恐らくこれ以上指摘しても同じことの繰り返しになる。
それを察したレンは仕方なく妥協する。
「そっかぁ。レンはこっちが趣味かー」
「誰もそんなことは言ってないだろ…」
「れんのしゅみ…」
「おい、真に受けるな」
シルヴィアの冗談も受け止めるヒュプノスに純粋過ぎるだろとレンは密かに思う。
乙女の準備も終えたのでこれでやっとレンはヒュプノスとシルヴィアを連れて『楓月の館』を後にすることが出来た。
オラリオの西区画。
ファミリアに加入していない無所属の労働者やそれら住民の住宅街。
冒険者の少ない比較的静かな区域にレン達は訪れた。
「あんがい、うちのちかく」
「だな」
同じく西区域に存在する【ヒュプノス・ファミリア】の
「もし誘拐だとしたら【ヒュプノス・ファミリア】が近くにあるのにやったことになる。そんな危険を被ってまで誘拐するとは思えないな」
「じゃあゆうかいはなし?」
「まだ確定じゃないが可能性が薄くなったのは確かだ」
場所の座標から冷静に整理していくレン。
辺りを見渡してさらに続ける。
「荒れた跡はない。処理したのかもしれないが、争いには発展してないか…」
「ちもない」
「あぁ」
ヒュプノスの付け足した情報に頷き返す。
普通に考えれば暴れ回ったということはないだろう。
今分かることを解明したレン。
他に何か分かることがないか、思考する。
「うーん…他に手掛かりはなさそうだな。次は情報収集に行くか」
「情報収集ってもしかして聞き込み!?」
「そうだが…凄い食い気味だな」
ずっと黙っていたシルヴィアがいきなりトーンを上げてきたものだからレンも驚く。
その反応を知ってか知らずかシルヴィアは心情を話し始める。
「いやー、ずっと暇だったからさ。場の考察っていうのも面白いんだけどやっぱ人に話聞く方が楽しいよね!」
「まさかお前……留守番が暇だから付いてきたのか?」
「うん。そうだけど?」
「はぁ…」
もう本日何度目だろうか。
頭痛がするレン。
もはや半分諦め気味になって一応注意する。
「遊びじゃないんだぞ」
「分かってるよー。でも
「結局楽しんでるんじゃねえか…」
「あはは、まあね。普段ミレニィ姉がしてることをあたしがするっていうのはやっぱり新鮮だしね!」
「ミレニィアが聞いたら卒倒するぞ」
せめてもの皮肉と思ってレンが半目で返すとシルヴィアは「それは不味いかなー」などと陽気に返す。
そんなやり取りを交えながらレンがふとヒュプノスに目を向けると…。
ヒュプノスの額に何か赤い点が三つ浮かんでいた。
「……おい」
レンから急激に血の気が引く。
ヒュプノスの額で焦点を定めようとしても少しブレてしまうそれをレンは恐れる程見覚えがあった。
実際レンの声も身も震えている。
当の本人のヒュプノスはレンに声を掛けられて首を傾げている。
「どうしたの?」
「なになに。あれ、ヒュプノスちゃんおでこに何か――」
「伏せろヒュプノス!!」
突如大声を張り上げてヒュプノスに飛びつくレン。
反応の遅いヒュプノスはレンの言葉に従うことは当然できず、レンによって抱きかかえられて
パン!と凄まじい音で何かが先程までヒュプノスがいた場所に弾かれて、その音と衝撃にシルヴィアは目を見開き明らかに驚愕する。
飛んできた何かはそのまま廃家の壁を貫き破った。
「え?え?」
「れん。いまのなに…」
「……誰かに狙われてる」
状況についていけないシルヴィア。
とにかく驚き眠気さえも飛んでしまったヒュプノス。
ただ一人レンだけは何が起こったかを理解していた。
「狙われてるのはヒュプノス、お前だ」
「わたし…?」
「まずい!二発目が来るぞ…!」
レンが次の狙撃を察知する。
宙を飛ぶ赤い線を目に、地を蹴るレン。
左脇にヒュプノス、右脇にシルヴィアを抱えて駆け出した。
「ちょ、狙われてるってまさか…」
「そのまさかだ!狙撃されてる…!そして、多分ヒュプノスを狙ってな」
シルヴィアの考えの先を答え、レンはただ飛んできた何かの逆方面を走る。
その横をその何かは通り、着弾していた。
「クソ!角を曲がる…!」
一本道では的にされる。
そう考えたレンの行動は早かった。
すぐに入り組んだ道を進んでいく。
「はぁ…はぁ…っ。ここまで来れば届かないか…?」
元
体力が充分に減ったレンは荒い呼吸をしながら敵の狙撃から免れことに安堵する。
だが、ヒュプノスとシルヴィアを下ろそうとした所で頭上から気配を察知した。
「……っ!」
「わっ!?」
「びっくり」
下ろされると思っていたヒュプノスとシルヴィアが突然の回避行動と襲撃者に驚く。
襲撃者は槍でレン達が元居た場所を砕いた。
「さっき狙ってきたのはお前か…!」
「……」
問い掛けの意味も込めてローブの槍使いに叫ぶレン。
しかし、答えではなく、ただの槍撃が返ってきた。
「……!」
「チッ、問答無用ってわけか…!」
ローブの槍使いの攻撃をレンはヒュプノスとシルヴィアを抱えながら躱す。
しかしながら二人を抱えているため反撃はできない。
「仕方ない、振り切る…!」
「何するつもりなの!?」
「ちょっとこれ持ってろ」
懐から振るい落とした小太刀。
それをシルヴィアが何とかキャッチする。
なにこれ、と尋ねられる前にレンは腰からさらに球体を槍使いの足元に放った。
「……!?」
「よし」
球体が地面に接触した途端、煙が上がる。
要するにレンが放ったのは煙玉だ。
それを目眩しにレンは槍使いと距離を取る。
「このまま逃げるんじゃないの?」
「この程度じゃ撒けない。シルヴィア、俺が渡した小太刀を振るえ」
「え、これ…?」
「早く…!」
「うえっ!?は、はい!」
何が何だか分からずレンの促しに急いで小太刀を振るうシルヴィア。
瞬間、煙幕を一振りで振り払った槍使いに小太刀から轟炎が放たれる。
「わわっ!?」
「絶対にその剣を手放すな!炎を出し切るまで持ち堪えるんだ」
「わ、分かった…!」
レンの指示にとにかくシルヴィアは頷き、従う。
「……!?」
ローブの槍使いはというと轟炎に驚き、対処に追い込まれている。
「行くぞ!」
「う、うん」
「びっくり」
やがて、炎を出し切った瞬間レンが槍使いに背を向け走り出す。
そのまま『眠りの館』まで逃げ込んでやっと撒けた。
「はーっ。怖かったぁ」
「良くやった、シルヴィア」
魔剣で敵を撹乱したシルヴィアを撫でてやる。
撫でられたシルヴィアはほのかに頬を紅潮させた。
「う、うん…」
「どうした?何か元気ないな」
「な、なんでもない…!」
「そうか。おい、ヒュプノスお前は…」
レンが優しく触れた頭をシルヴィアもそっと触れる。
「褒められちゃった…」
最後に褒められたのはいつだろう。
いつも褒められるのは自分じゃなかった。
両親を除けばこれが初めてかもしれない程だ。
そんな自分を褒め、撫でてくれたレンをシルヴィアは見遣る。
「あはは、ミレニィ姉の気持ち…ちょっと分かっちゃったかも」
自嘲気味に苦笑いする。
ただ褒められただけで好意を向けれるなんて自身でもチョロイと思った。
ふと姉のミレニィアのことを思い出してチョロイ所は似ているのだなと再度苦笑いする程に。
「おい、寝るな」
「うー」
「起きろ」
「つかれた」
「お前…殆ど俺に担がれてただけだろ…」
レンとヒュプノスの間でまたいつものようなやり取りが行われる。
なんとかヒュプノスを起こしたレンがそのまま玄関で状況を整理し始める。
「気になることは二つ。一つは狙撃に使われたと思われる武器だ。俺に心当たりがある…が本来存在してるのもおかしいはずの武器だ」
「存在してるのがおかしい…?」
「あぁ。まあそれについては後で話す」
まずは狙撃の武器。
レンは大体予想がついていた。
高速で飛んでくる何か。その何かは既に回収してある。
「二つ目は槍使いだ。そいつに至っては気になることが二つ。一つは奴の動きが妙だった事。もう一つは確実にヒュプノスを狙っていたことだ」
「そげき…?たいしょうはわたしだった」
「あぁ」
ヒュプノスも肯定し、敵の狙いがヒュプノスではないかと考察が出る。
実際最初の的はヒュプノスだった。
「でもなんでヒュプノスちゃんが狙われるの?」
「それは分からないが…恐らく
ヒュプノスを外に出すためにドワーフも雇われたのだろう。
「これで幾つか繋がったな。まだ真相には辿り着けそうにないが、気長にしている時間はない」
「ヒュプノスちゃんの命が危ないもんね」
「そうだ。とりあえずリュー達と合流しよう。ヒュプノス、お前は護衛を付けろ。あと外には絶対に出るな」
「ごえい?やとうの?」
「今は自分の眷属で顔を覚えてる奴と俺達以外信用するな。レイラだったか?そいつにでも頼めばいい」
「わかった」
的確な指示を出していくレン。
彼の指示にヒュプノスは迷わず頷く。
全面的に信頼している証拠だ。
神友ならでは、だろう。
「俺達は一旦帰る。ヒュプノス、護衛は絶対に付けろよ?」
「うん」
去り際にレンに念を押され、ヒュプノスも応じる。
「あら。ヒュプノス様…お帰りになられていたのですか?」
「れいら」
レン達がこれから出ようという所でレイラが通り掛かる。
ヒュプノスに名を呼ばれたレイラは何か命令があると考え、待機した。
「何か御用でしょうか、ヒュプノス様」
「うん」
「……」
レイラの質問に頷くヒュプノス。
その様子を不安そうにレンが、楽しそうにシルヴィアが覗いている。
「でもやっぱり1回寝てからでいい」
「「寝るな!!」」
今度はシルヴィアも一緒になって叫んだ。
『新要素』は狙撃に使われた武器です。
多分予想はついていると思いますが、アレです。
完全異世界で文化の発展が遅いダンまちの世界で現代武器は受け入れてもらえるか不安でしたが検索してみるとダンまち×現代武器を見つけたので受け入れて貰えると期待しております
ストーリー上ちゃんと武器が出てきた理由などもありますので是非これからもお付き合いください