罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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注意 微グロ


第24話

馬車で揺られること五日。

それだけの時間を有してオラリオから帝国へと向かうことが出来る。

この度帝国に訪れたのは【レン・ファミリア】からはレン、リュー、ルシア、時雨。

【ヒュプノス・ファミリア】からはヒュプノス、レイラ。

【バルドル・ファミリア】からはバルドル、ライオネル。

そして、

 

「お初にお目に掛かる、ワシは威吹鬼と申す。よろしゅうな」

 

出会い頭にリュー達にそう挨拶してきた鬼人。

多種族が住まうオラリオでも誰もが彼女で初めて知るであろうその種族に息を呑んだ。

本人にとっては侮辱の対象だが、彼女に酷似する怪物(モンスター)がいるが、バルドルから事前に注意された一行は何も言及しなかった。

 

「おい、あいつは大丈夫なのか?」

 

道中、常識人なのか。そもそも人なのかをバルドルに尋ねたレン。

だが、バルドルからの返答は詰まるものだった。

 

「正直…彼女が一、二を争う程厄介です」

「なんでそんな奴連れてくるんだよ…」

「さあ。詳しいことは分かりませんが何か企んでると思います」

「一応お前の眷属だろ…。まあいい。人手が多い分には問題ない」

 

敢えてプラスに考えることでレンが威吹鬼を受け入れた。

肝心のバルドルが自身の眷属の心中を察していないのが不安な点であるがどうしようもない。

ちなみに

 

「おや、妾の事でも話しているのか?あっひゃっひゃっ」

「「……」」

 

見破られた時はレンもバルドルも肝を存分に冷やしたと言えるだろう。

それとは別に。

バルドルが連れてきたもう一人の問題児がいる。

道中静かな様子だったライオネルだが、馬車を降りた途端いきなりリューにガンを飛ばした。

 

「おい、【疾風】。俺はまだ諦めてないからな。この前の借りは絶対返す!」

「【猛獣(ビースト)】…貴方も懲りない人だ」

 

相変わらずのライオネルにリューは呆れるばかり。

正直面倒に思うリューを含んで一行は目の前の城壁へと向かう。

 

「既に入国審査は済ませてあります。行きましょう」

 

前もって行動していたルシアによってすんなりと帝国に入ることが可能になり、一行は城壁を潜ってそれを見た。

土地の中央に聳え立つ王城。

それを囲む建造物の数々。

基本的に金属製が目立ち、暗い色立ちの城下都市は正しく支配領域を思わせる。

それに逆らうように国民は賑わい、しかし、様子はオラリオのそれとは別種のものだった。

 

「ここが…」

「帝国、ですか」

「実際に目にしたのは初めてですね」

「凄い…」

「ねむい」

「おいおい、想像以上だな…」

「あっひゃっひゃ。良き良き」

 

リューやバルドル、ルシアなど帝国に訪れたことのない面々。

彼らは初めて目にする帝国に圧倒され、感嘆する。

対して過去に帝国の光景を目にした者もいた。

 

「久しぶりの帝国です、ヤッホー!」

 

懐かしい空気に触れ、歓喜する時雨。

身振りも飛んだり跳ねたりして自身の高揚を注目を集めてしまう程に表現していた。

最後に、レンは――

 

「……」

 

オラリオとは違う北東向きの風。

四季の分かれている極東などとは違い、一年を通して冷えた気温で保たれる帝国の冷気に何処か黄昏を感じる。

皆とは違う、一人だけ過去の風景と重ねて比較した。

 

「確かに。変わったな…」

 

何処がと聞かれると挙げれば山ほどのある。

900年も経てば変わるものだとレンは改めて感じることが出来た。

 

「さて、帝国には着きましたが具体的にはこれから何を?」

「そうだな…」

 

ルシアの問いに考え込むレン。

帝国に慣れがあるという点に加え、神であるという点で時雨よりも指揮を振られるであろうレンは今後の事も含めて思考した。

 

「今わかってる事としてはヒュプノスが狙われていることだ。もし帝国に敵がいるなら俺たちが入国した時点で気付くはず」

「こちらが行動を起こさずともヒュプノスを狙ってやって来ると?」

「可能性の範囲は出ないが、賭ける価値はある」

 

またいつ襲撃が来るかは分からない。

その事に少なからず浮かれていた者もいた一行の気が引き締まる。

 

「ヒュプノスの取り巻きとしてヒュプノス以外が狙われる可能性もある。ここは二手に分かれて行動しよう」

「わたしのいるぐるーぷといないぐるーぷ」

「あぁ」

 

前者のグループはレン、時雨、ヒュプノス、レイラ。

後者のグループはリュー、ルシア、バルドル、ライオネル、威吹鬼。

レンが決めた班分けに一人異議を唱える者がいた。

 

「お前らで勝手にやってろ。俺は参加しねえ」

「ライオネル・モルド・レッド…」

 

別行動を宣言するライオネルをリューが睨む。

ヒュプノスを守り、敵を誘い込むための編成を抜け、和を乱す彼にリューのいつまで経っても消せない正義感が反応していた。

 

「ライオネル君。単独行動は危険です」

「あ?元はといえばテメェが嫌なんだよドチビ」

「あら。ライオネル君に何かしたでしょうか」

「とぼけんな!チッ!」

 

数々の妨害やファミリアの脱退などの恨みからルシアをしきりに嫌うライオネル。

苛ついた狼人(ウェアウルフ)は吐き捨てた言葉を最後に勝手に何処か行ってしまった。

 

「自由なやつだな…。なんでついてきたんだ」

「すみません。手が空いていたらしく連れてきたのですが人選ミスでした…」

 

溜息をつくレンと申し訳なさそうにするバルドル。

レンは仕方ない、と切り出した。

 

「威吹鬼だっけか」

「なんじゃ?ワシに何か用か」

 

声を掛けられ振り返る鬼人、威吹鬼という女の鬼。

ライオネルが役割を全うしないならバルドルの眷属である彼女に頼むしかない。

 

「バルドルのこと頼んだぞ」

「あひゃひゃひゃひゃひゃ。勿論じゃ」

 

まるで愉快とでもいうように高笑いで答えられる。

レンは不安だがここは妥協した。

 

「ではさっそく別行動を取りましょう」

 

ルシアの一声に全員が頷いて行動に出る。

まずは三日間、最大でもそれだけの期間帝国を互いにぶらつくことにし、その期間で襲撃がないなら寧ろオラリオが本拠地か少なくとも帝国周辺でもないところに犯人がいることになる。

一応三日経つと二日程帝国内を捜索するつもりだが、可能性は薄いと言っていいだろう。

帝国の城下都市東区画。

国門が東に位置するため、入国してすぐのところとなる区域でリュー達は散策していた。

 

「ここが帝国…。オラリオに比べると少し空気が悪い気がします」

「帝国では工業が盛なので大気汚染が少々酷い面があるのは事実ですね。リューさん、大丈夫ですか?私の魔法で少しくらいは防げると思いますが…」

「いえ、大丈夫です。オラリオにも空気の悪い場所はありますし、それにルシアの手を煩わせる程ではない」

「あら。私の事は考慮しなくていいのですが…ふふっ、リューさんは優しいですね」

「そうでしょうか…」

 

談笑を交わし合いながらコンクリートの道を歩んでいくリューとルシア。

帝国に来て動き出した彼女達だったが、レンから言い渡されたそれは言わば襲撃があるまで観光をしていろというものだ。

必要な行動の一部のためルシアだけでなくリューも気兼ねなく観光は楽しんでいた。

勿論気は抜いておらず、警戒は常にしているが。

 

「あ、ルシア。すみません。あのお店に寄ってもよろしいでしょうか?」

「えぇ、私は構いませんよ。バルドル様達はどうですか」

「私も構いません。行先は暫く貴女達に任せますよ」

「ワシも構わん」

「……では行きましょう」

 

最後の威吹鬼にどうしても目がいってしまうが全員の賛同を得たリューはルシア達を連れて入店する。

リューが入った店は主に鍋などの鉄器を売っている場所。

帝国で作られた工業品を見てリューは『豊穣の女主人』の女将、ミアのことを思い浮かべて品物を見定める。

 

「お土産ですか?」

「えぇ。ミア母さんに、と思って」

「なるほど。私もミレニィアさんやシルヴィアさんに何か買って帰りましょうか」

「彼女達が鍋や釜を必要と思うとは思えませんが…」

「誰もここで買うとは言ってませんよ?」

「あっ…」

 

墓穴を掘ったとリューが羞恥で顔を赤らめる。

チラリと隣を見るとくすくすと微笑むルシアがいた。

 

「い、今のは忘れてください…」

「さぁ、どうしましょう?ふふふっ」

「そんなっ…ルシア、お願いです…」

「ふふっ、考えておきますね」

「ううっ…貴女も存外意地悪なひとだ…」

 

羞恥と悪戯心。

友同士の間柄だからこそ繰り広げられるその光景は第三者が見るとほっこりするものだった。

そんな様子を、リューに視線を向ける鬼人が一人。

 

「過去のことは吹っ切れとるようしゃのぉ。あれが今の【疾風】というわけじゃな。あひゃひゃひゃ」

 

今回、強引にバルドルに付いてきた威吹鬼。

その本当の目的を目にし、彼女は密かに高揚していた。

 

「……」

 

そんな威吹鬼の主神であるバルドルは彼女の視線の先を把握しているのにも関わらず見て見ぬ振りをするのだった。

 

 

 

一方、帝国南西区域。

ヒュプノスを連れたレンら一行が人気のない道を優先的に歩いていた。

 

「襲われる気配はなし、か…」

「特にこれといって視線なども感じませんね、お師匠様」

 

人目の付かない場所ならヒュプノスを狙って姿を現すと思っていたが、どうもそれらしき雰囲気はない。

 

「逆に考えよう。俺達が露骨に人気のない場所に行くから警戒されたのかもしれないな」

「なるほど。それだと辻褄が合います」

「……」

「な、なにか」

 

レンと時雨の話を聞いていたからか、納得した声を上げたレイラ。

しかし、その瞬間レンの表情が少し曇ったことを見てしまった彼女は何かミスでも犯してしまったかと恐る恐る聞く。

 

「いや、なんでもない。悪いな」

「は、はぁ…」

 

返答は短い。

内心レンも申し訳ないことをしてしまったと思っているが、レイラには当然伝わる筈もなく二人の間に微妙な空気が走った。

 

「あ、えっと…そうだ!お昼にしませんか?時雨もうお腹ペコペコだったんですよー。あはは…はは」

 

場の雰囲気を察した時雨は気まずさを誤魔化すために口走ってしまう。

それにレンもレイラも目線を逸らしてしまい、反応はくれない。

が、時雨にも微妙な空気が漂いそうになった時ヒュプノスがゆっくりと口を開く。

 

「たしかに、おなかへった」

「で、ですよね!ヒュプノス様もそう思います!?」

「うん。できればれんのおごりでたべたい」

「なんでだよ」

 

突然奢りをお願いされ、ジト目で断るレン。

そのやり取りで少なくとも気まずさは還元された。

時雨は、ヒュプノスが空気を読んで気を使ってくれたことに気付いて感謝する。

 

「す、すみません。時雨こういうのダメダメで…」

「だいじょうぶ」

 

時雨の謝罪を手で制す。

ヒュプノスの懐の深さをその時、時雨はとても感じることができた。

実際はあのヒュプノスが珍しく稀に見る気配りをしたのだが。

 

「れん。あのおみせからいいにおいがする」

「指定するのかよ…。まあいいけど」

 

ヒュプノスの指差す先を時雨やレイラも見る。

確かに、彼女達の元までしっかりと濃い油の匂いが行き届いていた。

それはヒュプノスが誘い込まれるのも無理はない誘惑的な匂い。

 

「お師匠様、時雨もあのお店気になります…」

「恐縮ながら私も…」

「分かった分かった。行くぞ」

 

もはや他に選択肢はないとでもいうような女性陣にレンは仕方なくここで昼食を挟むことにする。

一行は『ラーメン屋』と大きく共通語(コイネー)で看板立てされた店の中に踏み込んだ。

 

「いらっしゃい」

「四人だ」

「はいよ」

 

店内はそう広くない、十人入ればいい方なカウンター席だけの面積。

従業員は店主と思わしき人族(ヒューマン)が一人で、暖房を忙しなく動いていた。

 

「いいにおいにつられてきたけどここなんのおみせ?」

 

ヒュプノスが眠たげにメニューを眺めながらレンに尋ねる。

この中で一番帝国に詳しいであろうレンに聞かれたその質問は答えが返ってくる。

「ラーメン。出身はどこか忘れたが基本的に帝国にある麺料理だ」

「めんりょうり、たのしみ」

「大将さん!時雨は醤油で…!」

「俺は豚骨」

「しお」

「じゃあヒュプノス様と同じものを…。私も」

「はいよ!醤油、豚骨、塩×2!」

 

注文を受けた店主が専用の麺を熱湯にぶち込んでいく。

柔らかくなった麺を水切りして大きめのお椀に入った三週類の汁にそれぞれ入れる。

最後にトッピングを乗せて各々の前にそれが並び出された。

 

「お待ち。ラーメン四つ」

「サンキュ」

「ありがとうございます!」

「いいにおい。おいしそう」

「これは…確かに…」

 

醤油、豚骨、塩の汁が染み渡っていそうな細い麺。

すくい上げるとそれは油で光沢のように輝く。

若干女性陣なら引くほどの油を使われているが、特に気にしないヒュプノスと時雨に加え、大雑把なアマゾネスであるレイラにとってはそれはただ食欲をそそられるもの。

それぞれの味の濃厚な風味が鼻をつつき、運ばれてきたその時から沸き上がる湯気にレン以外の誰もが待ちきれない様子になる。

思わず唾を呑むほどに圧倒されていたレイラを筆頭に普段はあまり使わない箸で恐る恐る麺を啜っていった。

 

「……!!」

「んー!最高!」

「あっ、あつ、あつ」

 

レイラは目を見開き、時雨は歓喜。

ヒュプノスは舌を火傷しそうになったからか、まるで危険視していたが初めて見るラーメンという料理に少なくとも二者は取り込まれていった。

そこから器が空になるまでそう時間は掛からない。

 

「ご馳走様でした。美味しかった…」

「はいはーい、大将さん!替え玉ください!あと焼飯!」

「おい、ここはヴァリスじゃないぞ?」

 

余程気に入ったのか追加の注文をする時雨。

レンは呆れたように横目で見てさり気なく苦戦しているヒュプノスを手助けする。

そんなわけで一同は焼飯が運ばれてくるまでの間充実した食事時間を満喫していた。

だが、時雨の前に運ばれてきた焼飯を目にしたレンが表情を険しくする。

 

「待て、時雨」

 

焼飯にレンゲを伸ばそうとしていた時雨を制止するレン。

時雨は様子のおかしいレンに首を傾げる。

 

「どうしたんですか?お師匠様」

「そいつから臭うんだよ…」

「臭う?」

 

レンの言う匂いとやらを確かめようとする時雨だが、いくら鼻を近付けても何も感じない。

だが、レンは何かを悟ったのか店主を睨みつけた。

 

「おい、この焼飯。毒を仕込んだだろ」

「ど、毒!?」

 

既に確信しているレンは店主が犯人だと睨む。

対する店主は慌てて首横に振った。

 

「毒なんてとんでもない!身に覚えがありません!」

「なに?なら…まさか!」

 

バッと横を見遣るレン。

その時には既に時雨だけでなく、ヒュプノスとレイラもカウンターに倒れ伏せていた。

 

「くる、しい…」

「……ッ!これは…不覚…」

「お師匠様…なんだか時雨…」

「やられた…!」

 

もうヒュプノス達は毒牙に掛けられている。

苦しむ彼女達の横でレンはすぐに行動に出た。

――店主が犯人でないとすれば。

ただ困惑している店主はレンから見ても犯人ではない。

それが分かれば真実は一つ。

店の扉を開け放つ。

 

「お前が犯人か!」

「……」

 

店の前に佇む深いローブ。

ローブの奥からチラチラと見える顔で男だということがかろうじて窺える。

ローブの男は紅い槍を手に持っていた。

 

「槍使い…」

 

オラリオで襲撃してきた槍使いを思い出す。

状況的に考えれば同一人物だと結び付けられる。

 

「……!」

 

対峙する槍使いに戦意を向けたレンだが、唐突に上空からも気配を察知する。

上からの斬撃をレンは抜刀して防いだ。

 

「襲撃者が二人…」

「……」

「……」

 

ローブの槍使いとローブのナイフ使い。

ふとレンは頬に何か伝うものを感じた。

 

「これは…毒液?」

 

拭った液体は醜いほどに紫に染まるもの。

匂いからレンはさっきの毒と同じものだと分かった。

 

「なるほど。毒はお前か」

「その通り」

 

よく見るとナイフに毒液を垂らす者がローブを脱ぐ。

中からは少年が現れた。

 

「なっ…ガキ!?」

 

まさか対峙していた敵が子供だとは思わなかったレン。

だが、子供だからといって警戒はとかない。

先ほどの上空からの攻撃、あれを直前まで感じなかった程の気配遮断能力を敵は有している。

気を抜いたら死ぬのはレンだ。

 

「てことはあっちも…」

 

槍使いに視線を走らせる。

応じるかのように槍使いもローブを脱いだ。

やはり少年が姿を現す。

 

「やっぱガキだよな…」

「お前達を」

「殺す」

「……ッ!」

 

槍使いとナイフ使いが動き出す。

レンもそれに合わせて腰を落として戦闘態勢に入った。

鋭い槍撃にレンは淡い紅で輝く刀身を振るった。

 

 

一閃。

槍を躱す。

すると屈んだその身に短い毒刃が迫った。

 

「くっ…!」

 

毒塗りナイフの斬撃をかろうじて防ぐ。

ナイフが赤刀身と当たったことで一瞬ジュワッと焼かれた。

前のめりのナイフ使いの小腹を蹴り飛ばす。

 

「なっ…!?」

「来い!」

 

蹴り飛ばされたことや刃のぶつかり合いで一瞬生じたことに驚きながら転がるナイフ使い。

レンは即座に切り替えて突きを繰り出す槍使いに対応した。

 

「貰った!」

「ぐはっ…!?」

 

刀身を逆さにして槍を横に受け流したレンは槍使いの懐にまで流れるように入り、身を低くして槍使いの腹を斬り裂く。

腹から血を吹き出す槍使いは苦痛で顔を顰め、レンはそこに背後から蹴りを入れた。

 

「ぐぅ…!」

「こいつ、強い…!」

 

転がる槍使いと口を噛み締める暗殺者(アサシン)風格のナイフ使い。

悔しがる彼らにレンは余裕を見せた。

 

「お前ら冒険者じゃないみたいだな」

「くっ…何故分かった!」

「長年下界に居れば分かることもあるんだよ。まあ天界なんて行ったことないけどな」

「こいつ、ほんとに神なのか。有り得ない。こんな強い神など…」

 

予想外の展開だったのか顔を渋らせる襲撃者の少年達。

レンの観察眼に焦りも滲ませたように見える。

レンはこれまで経験してきた多くの戦いからステータスの有無は分かるようになった。

ステータスに頼る戦い方。技術だけの戦い方。もしくはその両方。

それは神の恩恵(ファルナ)がない時代から神が下界に降りてきた現代まで数多くの戦士や暗殺者(アサシン)を知っているレンだからこそできる芸当だ。

 

「お前らに神の恩恵(ファルナ)があればいい線いっていたかもしれないが……どうやら非所属(ノラ)らしいな。ならば俺でも勝てる」

「舐めるな…!」

「止せ!デルタ」

「デルタ…?」

 

ヤケになって突っ込んでくるナイフ使い、デルタ。

レンはその名に眉を顰めながら壁を蹴ってデルタの突きを飛び越える。

 

「なっ…!?」

「悪いな。首は貰った」

「────」

 

着地するまでの間にレンがデルタの首を落とす。

慣れたその手付きは槍使いから見て何が起こったか分からない程鮮やかに決まった。

 

「…………………………」

「うっ…あっ…」

 

足元まで転がってきたデルタの首にやっと脳が追いついたのか口を開閉させる槍使い。

レンはさらに彼にも迫る。

 

「殺しに来たなら殺される覚悟もしておくことだな」

「あっ…」

 

一閃、刀が人の身を斬る。

鮮血を飛ばす槍使いの少年はその場に倒れた。

 

「死ぬ前に名前だけ聞かせてくれ」

「名前…オレ達にない…。コードネームはエプシ、ロン…」

「その名を覚えておこう」

 

殺した少年の名を胸に刻み、瞼を閉ざしてやるレン。

安らかに眠ったエプシロンに短い間だが黙祷を捧げた。

 

「デルタ…エプシロンか」

 

何か思い当たるのかレンは呟きを残して立ち上がる。

 

「とりあえず解毒薬だな。まずは」

 

未だヒュプノス達は毒で苦しんだまま。

恐らくデルタが持っているであろう解毒薬を既に首と意識のない彼の身体から物色する。

だが、それに該当するようなものはなかった。

 

「解毒薬がないだと?おかしいな…」

 

普通の毒使いならば解毒薬は常に身に持っているもの。

間違えて自身や仲間などに毒を与えてしまった場合のために必需品となっている筈だった。

しかし、デルタの所有物は毒物だけ。

 

「まさか…。いや、もしそうだとしたら…」

 

レンは最悪の出来事を考えてしまう。

もしデルタの死を考慮されていなかったら。

もし彼が諸刃の刃のように殺す一方だけを担当していたら。

――同行者(エプシロン)が持っている?

否、探したが見当たらない。

デルタは死を考慮していなかった。

もしくは死んでもいいと思っていた。

もしそうだとしたら納得が行く。

だが、彼らは明確に死に怯えていた。

そこで考え方を変える。

もし彼らを()()()()()者がいるなら。

黒幕のようなそいつの考えはレンの胸に気持ちの悪いものを発生させた。

 

「胸糞悪い…」

 

一言、怒気を込めたいつものそれを吐き捨てレンは店内に戻る。




帝国料理分からない…
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