罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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基本的に原作一年前という特にイベントの起きない何もない期間を狙って書きました。もうそろそろお気付きかもしれませんが好き放題やりたい放題書いてるので。
これからもっとそうなる予定――というのは割愛してこれからもよろしくお願いします


第25話

「さて、どうするか…」

 

襲撃者を始末したところで根本的な問題は解決していない。

今も尚、ヒュプノス達の毒は解けていないのだから。

 

「お客さん。治療院に連絡した方がいいんじゃないかい!?」

「そうだな。頼めるか?帝国に来たのは久しぶりで治療院の場所を知らないんだ」

「わかった!」

 

治療院に連絡するため、店主が有難いことに店をたたんでくれる。

が、正面玄関から出ようとしていたのをレンは止めた。

 

「すまない。裏口とかあるならそっちから出てくれ。さっき毒を仕掛けたやつと交戦になってな…。少し汚れてるんだ」

「そ、そうなのか。わかった。裏口から出るよ」

「恩に着る」

 

ヒュプノス達の状態を優先するため死体を放置してきたレン。

それを店主に見せるわけにはいかなかったが、なんとか避けることに成功した。

それと同時に店主が出ていくことで人払いも兼ねた。

 

「うくっ…ああっ…!」

「はぁ…はぁ…」

「……ッ!」

 

毒の状態が酷い。

あろうことかLv.6だと聞いていたレイラでさえ苦しんでいた。

Lv.6が苦しむ毒。

ヒュプノス達のものも同じならば――。

 

「まずい。ヒュプノスと時雨が死ぬ。くそ…!」

 

暗殺者(アサシン)としてのスキルはあれども神の恩恵(ファルナ)を授けて日も浅いLv.1の時雨、そんな彼女は勿論『耐異常』のアビリティなんて持ち合わせていない。

ヒュプノスなんて論外だ。

神である彼女が一番死亡率が高い。

そして、それは敵の事前に分かっていた目的と合致する行動だ。

 

「やられた!やはり狙いはヒュプノスか…!」

 

悔しさで苛立ちも感じ始める。

だが、そんなことをしている間にも死の宣告は刻一刻と迫っていた。

 

「落ち着け。今なんとかできる可能性がある方法としては二つ」

 

一つは店主が戻ってくるのを待つか、レンが自ら多少症状がマシになるかもしれない解毒薬などを近場で買ってくるか。

後者は時間ロスも酷く最も選びたくない選択肢だ。

最後の一つは――。

 

「俺の、血」

 

ナイフを手に自らの手首を見る。

襲撃者達には誤算があった。

それはレンが毒の影響を受けなかったこと。

三人の食事に入っていてレンの食事には入っていない、そんなことはなかった。

レンのものにも毒は含まれていて、レンはそれに気付けなかっただけ。

レンには生前得た特殊な身体がある。

それは人体改造による毒の抗体の注入。

まだ歳幼い少年の頃、暗殺者(アサシン)として後の育ての親に拾われた時、人体改造をレンの身体に施された。

その際、二百を超える毒の抗体を身体に埋め込まれたのだ。

最もレンは人体改造の適合率が悪く、毒の抗体も半分は機能しないのだが。

そんな過去はレンにとって汚点であって今も思い出したくない。

だが、今選択を迷っていては時雨が死んでしまう。

それは避けたい。

 

「血液型が合わないとしても多少の犠牲を払えば上手く毒の抗体がこいつらを治す」

 

レンの言う通り、現にレンが被害を受けていないということは彼の身体に今回の毒に対する抗体が存在していることを示していた。

しかし、問題がいくつかある。

 

「もし何かの手違いで血液に混じったらどうなる…くそ、リスクが高い」

 

神血(イコル)

それが問題の一つ、もし時雨やレイラの血液に混じってしまえば何が起こるか分からないのだ。

勿論胃袋に届けばいいのだが、身体の中で何が起こるかなんて予想はつかない。

ただそれよりもレンが問題視していることがあった。

 

「ヒュプノス…」

 

苦しみながらも眠りにつこうとしている神友を見遣る。

だが、いつもの眠りとは違う。

あれは苦しみから解放されようと死に近づく眠りだ。

今ここで彼女を寝させるわけにはいかない。

 

「……」

 

しかし、どうすることもできない。

ヒュプノスに至ってはどうすることも。

何故、神血(イコル)の影響を受けないヒュプノスでこんなにも諦めがついているのか。

第三者が見れば普通逆だろうと思うだろう。

理由はレン本人の胸の奥にしかない…。

 

「レン様!」

「ルシア、リュー」

 

丁度いいタイミングでバルドルや威吹鬼を連れたリュー一行がレンの元に来た。

その中にいるルシアの回復魔法はオラリオ随一を誇れる程の回復量と解毒などの異常の作用もある。

レンは危機の乗り越えを確信できた。

 

「さっき襲撃があった。ヒュプノス達が毒に侵されてる。ルシア、頼めるか」

「もちろんです」

「お前の回復魔法は精神力(マインド)の消費が激しいし、対象も一人ずつだったな。マジック・ポーションはこまめに飲んでおけよ」

「はい。お気遣いありがとうございます」

 

随一の回復魔法の代償として大量の精神力(マインド)を消費する。

それを考慮した上でルシアが時雨達に順に回復魔法を施した。

 

「【生きる者よ、死にゆく者よ。我は其方等の生を救う、その命に咲く花を枯らさない。もし、呪われし我が身を受け入れるなら。其の身体を治そう。父の呪い、塔の呪い、龍の呪いを有した我が願う。花の魔術よ、命を咲かせたまえ】」

「【アヴァロン・リビヴァル】」

 

「ううっ…」

 

まずは時雨が目を覚ます。

効果を確認してすぐルシアはマジック・ポーションを飲み、他の二者にも回復魔法を繰り返した。

ルシアがヒュプノス達の治療を行っている時、レンはリューの状況説明とリュー側で何かなかったかを尋ねた。

 

「私達の方でも襲撃はありました」

「数は?」

「五人…全てまだ歳若い少年だ。殺しはしなかったのですが…」

 

チラリと今は布を被せてある死体をリューが見遣る。

こんなところでレンの非情さを垣間見て顔を顰めた。

 

「ここまでする必要はあったのですか?」

「悪いが殺らなきゃ殺られる。こっちは戦えるのが俺だけだったんだ」

「話によれば最後には戦意を失っていた、と。その筈です」

「……誰もエプシロンが戦意を失っていたなんて言ってないぞ」

「え?」

 

屍となったエプシロンを見てレンの放った言葉にリューが振り向く。

レンの話を聞く限りではエプシロンの戦意は失われ、非情にもレンがトドメを刺した。

少なくともリューはそう思っていた。

だが、レンは否定する。

 

「あいつには最後まで明確な殺意があった。死に怯えながら…何故か、()()()()()()()()()()()()()にな」

「誰か…」

「殺す覚悟と殺される覚悟が分かれてる。そんなやつ、いる訳がない」

「……?」

 

レンの物言いにさらに疑問が増えるリュー。

そんな彼女にレンは「見せた方が早い」とエプシロンの死体に近付く。

死体を見るというあまり気持ちのいい事ではないがレンの検証を知るためにリューも後を追う。

 

「苦手なら見ない方がいいぞ」

「……ッ。大丈夫です」

 

倒れ伏せるエプシロンを遠慮なく首筋からナイフで解体していくレン。

最初はその光景に表情を歪めたリューだが、解体された首から無数の線が現れた時には目を見開いた。

 

「これは…」

「やはり、こいつらホムンクルスか」

「ホムンクルス?」

「錬金術師が作り出す人造人間のことだ」

「なっ……人造人間ですって!?」

 

思わぬ少年達の正体にリューは驚愕する。

 

「デルタ達を作った錬金術師がいる筈だ。仮定だった黒幕の実在だな。ルシア達にも報告しよう」

「……えぇ」

 

再びエプシロンに布を被せ、店へと戻っていくレン。

リューはそんな彼の背を眺めた後、膝をついて合掌した。

そのまま黙祷をエプシロンやデルタに捧げ、ゆっくりと目を開く。

 

「……」

 

目の前で無残にも首を斬られた少年、死ぬ覚悟がなかったのにも関わらず殺されてしまった少年。

その両方を見る。

リューの中に残る正義の心が本当にこれでいいのか、と問い掛けてくる。

 

「これが、彼のやり方…」

 

暗殺者(アサシン)体質なレンのやったことはリューには非情に見える。

レンに熱い勧誘を受けて眷属となったリュー。

一ヶ月程で団員が五人にもなったという彼の手腕はリューも素晴らしいものだと思う。

しかし、未だにレンのことは1000年も前に暗殺者(アサシン)であったという事以外知らない。

まだ何も知らない彼のやり方にリューは口出しすることに気が引けた。

 

「アリーぜ…シル…私はどうしたらいいのでしょうか」

 

心の中に残る正義心とそれを許さない罪深き自分。

その葛藤にリューは苦しみながら黒い空を見上げた。

 

 

 

「なるほど。ルシアの予知能力でヒュプノス達のピンチを知った訳か」

「はい。間に合って本当に良かったです」

「あぁ。良くやった、ルシア」

「あっ…」

 

レンに撫でられて頬をほんのり紅く染めるルシア。

レン達とリュー達は合流して今は人気のない路地裏へと来ていた。

リュー達が拘束したホムンクルスの少年達とレンの始末した死体を連れて店から一時退却したのだ。

 

「さて、お前らを作った錬金術師の所に案内してもらおうか」

「「「……」」」

 

拘束されているホムンクルスが沈黙を貫く。

その態度に呆れながらレンはある手段に出た。

 

「お前らもこうなりたいか?」

「「「……!」」」

 

レンが指差すのはデルタとエプシロンの死体が布で包まれたもの。

要するに脅しだ。

密かにリューが顔を顰める。

 

「それとも…有害物質でも注入してやろうか?帝国は闇が深いからな。すぐに手に入れることができた。これをお前らに打ち込めばお前らの身体は腐敗して死ぬ」

「なっ…!?」

「うっ…!」

 

注射からピロピロと漏れる液体を目にしてホムンクルスの少年達が絶句する。

ある者はあまりの残酷さに吐き気を我慢する者もいた。

レンが長年磨いた脅しの術は目に見えて効果的だ。

 

「さぁ、どうする?」

「案内…します」

「「「……!?」」」

 

一人、心が折れた。

リューはここまでの光景を見てレンにドン引きする。

 

「なにもここまで……」

「あれ、はんぶんうそ」

「え?」

 

突如隣にいたヒュプノスが呟き、リューが小さな女神に対して首を傾げる。

ヒュプノスはゆったりと真相を語ってくれた。

 

「れんのもってるちゅうしゃ、わたしの。あれはかいみんようだからゆうがい?なんてはいってない」

「そ、そうですか…」

 

これにはリューも驚いた。

どうやらレンは酷く非情なわけではないらしい。

 

「よし、これで敵の本拠地に乗り込める。準備はいいか?」

 

レンが最終確認し、全員が頷く。

意見の一致によりホムンクルスの少年達に案内させながら嘘を付けば脅し、レンのやり方でその日のうちに錬金術師のいる場所は明らかとなった。

遂に、黒幕にレン達は辿り着く手掛りを得た。

 

 

 

帝国東区域。

最東端にまで行ったところのとある研究所にレン達は乗り込んだ。

陣形としてはレン、時雨を前衛に。

中衛にヒュプノス、レイラ、バルドル、威吹鬼。

後衛はリュー、ルシアとなっている。

ライオネルが欠けたメンバーで研究所内の入り組んだ道筋を辿っていった。

 

「ったく、バカみたいに広いな」

「お師匠様。時雨は帰り道を覚えられそうにないです…」

「俺が覚えてるから安心しろ」

 

前衛で気の抜けた会話をするレンと時雨。

二人によって他のメンバーの緊張感は解けていた。

案内させているホムンクルスを頼りにレン達は進んでいく。

 

「おい、この道であってるんだろうな」

「は、はい。勿論です」

 

最も脅しが効いたホムンクルス――コードネームをイオタという少年。

他のホムンクルスはルシアが予約を取ってくれていた宿に無理言って置いてきている。

よって、イオタ一人に案内させた方が効率と人数軽減のために最適と判断されたのだ。

だから、潜入組の筆頭を彼に任せた。

進み続けてやがて、大きな広間に出た一行。

そこで一度足を止めた。

 

「これは…」

 

ただの広間ではない。

床から天井にまで届く円柱形の水槽がズラリと並び、その中によく目を凝らせば小さな生物が確認できた。

 

「イオタ。これはなんだ」

 

レンがイオタに問い掛ける。

ビクつきながらもイオタは答えようと口を開いた。

 

「え、えっと…ホムンクルスの幼体かと…」

「なるほど。実験中って訳か」

「ホムンクルスの幼体…」

 

納得するレンと呟きを漏らすリューなど各々の反応を示す。

幼体を確認して先を急ごうとした一行。

だが、リューとルシア、レイラが前方から何かを察知してレン達を制止する。

 

「どうした?」

「何か来ます」

 

突然の制止をリューに尋ねたレン。

その返答に気を引き締める。

やがて、()()は現れた。

 

『────────』

 

白い体躯。

胴体は熊型モンスターのバグベアーを連想させる剛猛さ、頭部にはニードルラビットのような角、ウォーシャドウとは色合いが白という点で違うがこれもまた連想させる細長い腕。

全長3(ミドル)の怪物がレン達の前に立ち塞がった。

 

「なっ……」

 

誰もが言葉を失う。

振り上げられた長い腕に我を取り戻す者は少なかった。

 

「レン…!」

「ぐあっ――!?」

 

身体の横面に強烈な衝撃を受けるレン。

反応する暇もない速度の打撃にレンはホムンクルスベビーの入った水槽を何度もその身で貫き砕いて吹き飛んだ。

 

「うっ……ぐっ……!」

「レン様!今治療を――」

「戦え!俺に構うな!」

「……ッ。分かりました」

 

かろうじて命令を出したレンに助けに向かおうとしたルシアとリューが互いに頷き合う。

戦闘態勢に入った時に次は上から振り下ろされる打撃。

リュー達はそれを避ける。

巨体ホムンクルスの腕はゴムのようにしなりをあげて地面を抉った。

 

『ムウウウウウウウウウウウウウウ――』

 

奇妙な音を発するホムンクルスの怪物、キメラ・ホムンクルスは完全に臨戦態勢でリュー達と対峙した。

 

「あの腕の攻撃範囲が広い。分散しましょう」

「了解です」

「私は魔法で援護しますね」

 

Lv.5、6の近接型冒険者であるリュー、レイラが左右に駆け、敵の目を分散させようと試す。

ルシアは一人下がり、時雨と一緒になってバルドルとヒュプノス、イオタを守る形で後方支援に回った。

 

『ムウウウウウウウウウウウウウウ』

 

「くっ……!」

 

再び放たれる打撃。

地面を抉るそれをリューは躱す。

その間に反対方面でレイラは自身の脚をキメラ・ホムンクルスに向けて振り放った。

 

「はあ!」

 

『ムウウウウウウウウ!』

 

「なっ…嘘っ!?」

 

蹴りを繰り出したがキメラ・ホムンクルスはコウモリ型のモンスター、バットパットのような翼を突如生やしてガードした。

予想外の防御に困惑したレイラだが、戦闘中でのそれは命取りとなり、咄嗟に腕をクロスさせ防御態勢を取ったもののキメラ・ホムンクルスの打撃で吹き飛ぶ。

 

「っあ……!?」

 

水槽を破ってレンと同じく道を辿ったが、Lv.6の高いステータスでなんとか倒れ伏せることなく地を蹴り跳ねてレイラは態勢を立て直した。

その間にリューが二対の小太刀をキメラ・ホムンクルスの背後から迫り、振るう。

 

『ムウウウウウウウウ』

 

「これも通じない。ならば!」

 

行動範囲の広い腕の右で防がれ、リューはそのまま降下する。

キメラ・ホムンクルスが反応できないよう、トップスピードで脚を狙った。

 

『ムウウウウウウウウウウウ――!』

 

「なっ……避けた!?」

 

これまた予想外にもキメラ・ホムンクルスは跳躍して躱す。

それだけならいいもののさっきまでキメラ・ホムンクルスが居た場所で空を斬るリューは上空の影に嫌な予感をひしひしと感じた。

見上げた時、それは絶句へと変わる。

 

『ムウウウウウウウウ!』

 

「危ない!」

「……ッ」

 

脚を突き出し、蹴りの態勢で急降下してきたキメラ・ホムンクルス。

避けきれないリューは飛び込んできたレイラによってなんとか助けられた。

 

「すみません」

「ここは共同戦線ですから。それにしても強い…」

「はい。適正レベルはLv.4かLv.5といったところでしょうか…」

「でも今は私達が頼りだから連携をしていきましょ。ごめん、合わせられる?」

「問題ありません」

「よし…!」

 

リューの同意を得たのを合図に二人は駆ける。

細長腕による地面を抉る打撃を避け、懐に侵入すると二人してキメラ・ホムンクルスの脚を狙い、小太刀を振るう。

キメラ・ホムンクルスが跳躍した所を特大の火球が命中した。

 

「ルシア…!」

「私も手助けします。今です!」

「ありがとう!」

「恩に着ます」

 

『ムウウウウウウウウ!?』

 

落下するキメラ・ホムンクルス。

地点を予測して先回りしたリューは小太刀を構え、レイラは足を振りかざす。

後は落ちてきたところに決定打を与えるだけ。

その筈だった。

突如、腕と脚を抱き、球体になってしまうまでは。

Lv.5のリューとLv.6のレイラの反応は早かった。

 

「回避…!」

「これは、まるでハードアーマードの…!?」

 

すぐに回避行動に移ったリューとレイラ。

先程まで彼女達が居た地点に球体となったキメラ・ホムンクルスは落下し、衝撃でクレーターを作って見せた。

これにはリュー達、ルシアの他にも時雨やふらつきながらも立ち上がったレンさえも驚愕で目を見開く。

何も潰したような感覚を感じなかったキメラ・ホムンクルスはクレーターの周辺を転がった後、球体を解除。

再びレン達の行く先に立ち塞がった。

 

「どうすれば……」

「リューさん。先程私の魔法は命中し、ダメージも受けたように見えました。もしかしたら」

「……!遠距離からの攻撃」

「はい」

「それしかないわね」

「レイラさんも魔法を?」

「持ってる。三人同時で魔法を放ちましょ」

「了解です」

「分かりました」

 

『ムウウウウウウウウ――』

 

未だ傷一つ付いていないキメラ・ホムンクルス。

リューとレイラが再び駆け、ルシアと共に身のうちに存在する魔力を高める。

それぞれ詠唱を紡いだ。

 

「【今は遠き森の空】」

「【水の精よ。我に力を】」

「【龍の呪い、果実の呪い。呪詛(カース)となりて顕現せよ】」

 

『ムウウウウウウウウウウウウウウ??』

 

四方に散らばるリュー、レイラ。

正面から標的を定めるルシア。

明確に魔力の高まりを感じながらどれにも反応し、標準を定められないキメラ・ホムンクルスは右往左往する。

――貰った。

この時点でリューは錯乱に成功したことを悟る。

彼女に向かってキメラ・ホムンクルスが大口を開き、喉奥まで見せびらかすまでは。

 

「――は?」

 

『ボウッ!ボウッ!ボウッ!!』

 

「火球!?馬鹿な…!」

 

キメラ・ホムンクルスから放たれた火球。

まだ隠し持っていたのか。

リューは苦虫を噛むような表情を表しながら空中で逃げ場ない場面で最適な行動を取る。

胴を捻り、二対の小太刀で火球を捌き落とした。

火球自体は大きさも迷宮(ダンジョン)13階層に出現するヘルハウンドのものと大差ない程なのでLv.5のリューは簡単に対応できる。

リュー以外にも火球はレイラやルシアにも放たれ、どちらも高いステータスで完全に避けきっていた。

 

『ボウッ!ボウッ!ボウッ!ボウッ!ボウッ!』

 

六つ。七つ。八つ。

次々と放たれる火球を躱し、三人は再び集まる。

火球が止んだ時、既に辺りは酷い有様でホムンクルスベビーは幾つも燃え尽きた。

 

「困りました。まさか火球を放ってくるとは…。これはまだ何か隠しているかも知れません」

「これじゃあ近付いても致命傷は与えられないし、魔法は妨害されるしで八方塞がりね。あんなのどうやって倒すのよ…」

「奇策なら、あるかもしれませんよ?」

「奇策…?」

「どういうこと?」

 

ルシアが後ろを指差す。

後方には遠く放たれた所に時雨に守られたヒュプノス、バルドル。

そして――ルシア達の元へやってきたレンが居た。

 

「おいおい、まさか俺にアレを倒せとか言うなよ。俺は対人専門で怪物なんて相手にできないぞ」

「あら。そうですか?ほんとは経験が終わりなんじゃありませんか?」

「……まあ、ないこともないが。正直な所俺はあいつには勝てないと思うぞ」

 

レンが折れた左腕を抑え、同じく腰に苦痛を覚えながらキメラ・ホムンクルスを見遣る。

こっちの出方を待っているキメラ・ホムンクルスは余裕の様子で今も尚進行方向を遮っている。

とてもじゃないがレンはアレに勝てるとは思わなかった。

 

「そうですか。では、レン様にご助力をお願いします」

「話聞いてたか?なに、お前案外鬼畜だな。死ねってか」

「ふふっ、そう早とちりしないでください。ご助力ですよ。レン様はただ相手の気を引き、錯乱すればいいのです」

「……なるほど。何か策がありそうだな」

 

ルシアに何か思惑がある。

それを察したレンは取り敢えず納得した。

 

「お前に乗ろう。ただし、せめて俺の腕と腰を治してくれ。痛くて堪らん」

「お任せを」

 

ルシアの治癒魔法でレンの損傷は一瞬にして治る。

動けようになったレンは赤刀身を抜刀、戦闘態勢を整える。

 

「よし、いけるぞ」

「え、えっとほんとに戦うの?」

「……彼は、恐らく大丈夫です」

 

前代未聞の神が前線に出て戦うという自体にレイラは当然困惑した。

レンの戦いを間近で見たことのあるリューは何処か思うことがありながも、太鼓判を押す。

第2、第1級冒険者にレンを加えたパーティーはキメラ・ホムンクルスと対峙する。

 

「レン様はお好きに動いてください。私達はそれに合わせます」

「いいのか?」

「はい。敵の目眩しが目的ですのでこの中で一番それに適するのはレン様と判断しました。お願いします」

「分かった。お前らを動きやすくすればいいんだな?」

「そうです」

「すみません…我々が不甲斐ないせいで神であるのに結局また貴方に頼ることになってしまった…」

「気にするな。だが、あくまで俺は暗殺者(脇役)だ。主役は冒険者(お前ら)。トドメを刺せるのはお前らだ、絶対に決めろよ」

「お任せください」

「自らの責務は必ず全うします。お任せを」

「え、えっととりあえず私達はさっきと同じでいいのよね?ならやるわ」

「はい。よろしくお願いします」

 

他ファミリアの助力であるレイラに頷くリュー。

大まかでも方針を立てたリュー達は臨戦態勢に移り、リューとレイラが地を蹴った。

同時にレンが大きく右を迂回して、キメラ・ホムンクルスを目指す。

 

「覚悟っ!」

「はああああああ!」

 

『ムウウウウウウウウ』

 

再度接近してきたリューとレイラに迎撃として打撃が放たれる。

その時の彼女達とキメラ・ホムンクルスとの距離、約4(ミドル)

驚くべき最長射程範囲にリュー、レイラ共に困惑しながらも瞬発力で躱す。

躱した先に火球が放たれ、それを捌いた。

 

「くっ…!先程よりも攻撃の手数が多い」

「デカイ一撃喰らわせるからちょっとだけ錯乱させられる!?」

「了解。任せなさい」

 

火球の中から潜り出てリューは疾風の如く跳ぶ。

 

『ムウウウウウウウウ!?』

 

突然速くなったリューにキメラ・ホムンクルスは両腕を振るうが、リューはそれを全て避けてキメラ・ホムンクルスの身体に斬撃を刻んでいく。

致命傷にはならないが、両腕の関節に脇まで幾度か斬り、一度両腕を無効化することができた。

 

「今です!」

「オーケー!」

 

両腕が封じられ、火球を難なく躱し、レイラがキメラ・ホムンクルスの顔面にまで迫る。

流石はアマゾネス。

ステータスに感嘆させられる程の身体能力を上乗せした動きはとてもキレがある。

当然、そこから放たれた蹴りも凄まじいものだった。

 

「はああ!」

 

『ムウウウウウウウウ』

 

強烈な蹴りをキメラ・ホムンクルスはバットパットが持つそれと酷似した翼を盾とした。

だが、レイラはその翼を破壊。

空中で反転して盾を無くした右肩に蹴りを振り下ろす。

 

「肩でも外しなさい!」

 

今度こそ決まった。

当たるか当たらないかのところでレイラが確信したその時、キメラ・ホムンクルスは球体になってしまった。

 

『────────』

 

「ちょっと…!!」

 

更なる防御。

硬いそれは簡単には破れない。

すると、レイラの額にスーッと青筋が走った。

 

「いい加減にしろやこの木偶の坊が!そろそろ喰らいなさいよ!!」

 

『ウギュウウウウウウウウウウウウアアアアア――!?』

 

怒気のこもった力技。

地面に向かって叩き蹴られた球体はあまりの衝撃に球体を解除してしまう。

キメラ・ホムンクルスが悲鳴のような奇声を上げながらレイラによって防御を解いた。

 

『ムウウウウウウウウアアアアアアアア――!』

 

「うぐっ……なにこれ舌!?」

 

必死の抵抗または仕返しとばかりにまだ隠し持っていた長い舌でレイラを打ち飛ばすキメラ・ホムンクルス。

それはまるで蛙型モンスターのフロッグ・シューターが持つ長舌のようだった。

 

「ぐはっ…!?」

 

壁に思い切り滅り込むレイラ。

血反吐を吐き、苦痛に表情を歪めながらも標的はその目から離してはいない。

すぐに抜け出したのも流石はLv.6といったところだ。

 

『ムウウウウウウウウ――キュウウウウウウウウッ!!!!』

 

またしても悲鳴のような奇声。

今度はリューが引っ込められる前に長舌を斬り落とした。

リューの敏捷ならではの成果。

 

「ナイス…!」

「動けますか」

「勿論よ」

 

『ムウウウウウウウウ!』

 

鮮血を噴き出す口を抑え、キメラ・ホムンクルスが屈む。

リューとレイラは初め、それが苦しむ様子だと思ったがすぐに違うことを悟る。

察した通り、キメラ・ホムンクルスはそのままの態勢で角を突き出して駆け出した。

 

「突進か!」

「一体どんだけ隠し玉持ってるのよ」

 

『ムキュウウウウウウウ!』

 

アルミラージのような突進をしたキメラ・ホムンクルスだが、結果は壁に突き刺さる始末。

身動きの取れないことをいいことにリューはキメラ・ホムンクルスの身体を高速で斬り刻み、レイラは跳躍した。

 

「角も貰い!」

 

『キュアアアアアアアア』

 

振り下ろされた蹴りに砕ける角。

次々と追撃を与えられるキメラ・ホムンクルスは遂によろめいた。

 

「チャンスだ。ここで畳み掛ける!」

「はああああああああ!」

 

一気に跳ぶリューとレイラ。

レンの介入が無くとも勝機が見えた瞬間だった。

しかし、キメラ・ホムンクルスは大口を盛大に開ける。

舌が切られた口内は血でグチョグチョになっていて、リューとレイラはこれから起こる未来を察し、絶句したが既に回避は不可能だった。

 

『グガアアアアア!アグッ…グッガッグッ!』

 

「うぐっ!ああああああああああああああああああ!!」

「っああああああああああああああああああ!!」

 

まるで虎型モンスター、ライガーファングに噛まれた時のような強靭な歯。

決して離れぬ噛み付きにリューとレイラは激痛で叫んだ。

勝機を思いつつも油断はしなかった第1級冒険者でさえこの惨事。

二人が苦しむ中、レンはキメラ・ホムンクルスに気配を感知されることなく零距離まで近付いて、リューの斬撃で出来た切り口に容赦なく火属性の魔剣を差し込んだ。

 

「口を開けやがれクソッタレ!」

 

『ムキュウウウウウウウアアアアアアアア!?』

 

「……っあ」

「ぐうっ…!」

 

キメラ・ホムンクルスの身体内から迸る激炎。

解放されたリューとレイラは地に落ち、レンは自らキメラ・ホムンクルスの前に出た。

 

『ムウウウウウウウウ!!ボウッ!』

 

放たれる火球。

天井に差し込んだワイヤーを駆使してレンはそれを避け、次弾を溜め込んでいたキメラ・ホムンクルスの口にさらに魔剣を放り込む。

 

『ムキュアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

口内が大爆発を起こし、大量の鮮血を噴き出すキメラ・ホムンクルス。

これで火球に噛み付きを無効化したことになる。

 

「ムウウウウウウウウ!!」

 

様々な部位を破壊され、手数も少なくなったキメラ・ホムンクルスは最後の手段と言わんばかりに身体中から毒胞子を放出。

まるで迷宮(ダンジョン)24階層のダーク・ファンガスを連想させる毒胞子にリュー、レイラも驚愕し、急いで距離を置いたがレンは迷わず懐に入る。

 

「一か八かだったが、耐性があるみたいだな。お前の運負けだ。合成獣(キメラ)

 

『ムウウウウウウウウ!』

 

毒の効かないレンに激昂するキメラ・ホムンクルス。

全てを出し切ったキメラ・ホムンクルスの本当の最終手段、頭から腰まで身体が割れ、食人植物型モンスター・ヴィオラスのそれと酷似した姿に変化してしまう。

さすがのレンもこれには表情を歪めた。

 

「げっ、これは不味いな」

 

『キュワアアアアアアアアアアアアアアアア!』

 

うねうねと職種を動かし、凶悪な口をグパァ…とグロテスクに広げるキメラ・ヴィオラス・ホムンクルス。

気持ちの悪いそれにこのままでは口内に落ちるしかないレンは叫ぶ。

 

「リュー!」

「すみません。お待たせしました」

 

眷属への命令を主神として下し、素早いリューは瞬時に反応した。

空中でレンを拾ったリューはヴィオラス・ホムンクルスから放たれた位置に着地し、一度ルシアの元まで戻る。

追い掛けようとするヴィオラス・ホムンクルスは――。

 

『キュワアアアアアアアアアアア!?』

 

キメラ・ホムンクルスとは別種の火球で進行を止められていた。

レンを抱えたまま後ろ陣営まで戻るリュー。

 

「……っ。これは骨が折れる」

「俺は実際折れたな。割と序盤で」

「ご無事でなによりです、レン様。リューさんは治療を」

「はぁ…はぁ…。ごめん、私もお願いできる?」

「了解しました」

 

遅れて到着したレイラと共に片腕を損傷したリューがルシアからハイ・ポーションを貰って傷を癒す。

その間に態勢を立て直したヴィオラス・ホムンクルスを見遣り、最後の仕上げへと話を移行した。

 

「第二形態が存在したとは思わなかったが、流石にネタ切れだろ。そろそろ終わらせるぞ」

「はい。まさかここまで時間を喰うとは思いませんでしたが……それもここまでだ。具体的には何を?」

「植物系怪物(モンスター)である限り、火に耐性がない筈。私の魔法で一気に焼け払います」

「じゃあ私と」

「私で貴女を守ればいいのね?」

「はい。よろしくお願いします」

「いや、リューだけで守れ。俺と……レイラで敵の意識を逸らす。魔法の準備が整ったらリューはルシアを合成獣(キメラ)まで連れていく、これでどうだ」

「良いですね」

「それで行きましょう」

「……」

 

最後の打ち合わせを終えたレン達。

レンはその瞬間駆け出し、遅れてレイラも出発する。

リューは一度ルシアと頷き合い、彼女を守るように前に立つ。

ルシアは詠唱を紡いだ。

 

「【龍の呪い、果実の呪い。呪詛(カース)となりて顕現せよ】」

 

『キュワアアアアアアアアアアアアアアアア!』

 

魔力を察知したヴィオラス・ホムンクルスによる触手の攻撃。

大半がレンが手持ち最後の魔剣で、レイラが小太刀で切り落とす。

それでもすり抜けてきたそれをリューが捌き、ルシアは戸惑うことなく詠唱を続けた。

 

「【記憶を焦がす龍の獄炎を。犯した罪の毒実を。最悪を重ね、吐き出せ。――浄土と化せ】」

 

ルシア得意の高速詠唱。

一瞬にして出来上がったそれを糧に魔力を高める。

リューに抱えられ、触手や溶液などを避けながら接近。

上空へと移動すると――。

 

「【ヘル・サラマンドレア・ブレス】」

 

凄まじい獄炎を召喚した。

 

『キュワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』

 

獄炎に焼かれるヴィオラス・ホムンクルス。

迷宮都市に存在する魔道士の中でもトップクラスの火力がヴィオラス・ホムンクルスを襲った。

やがて、数秒にも満たないうちにヴィオラス・ホムンクルスは灰となってその姿は消滅。

ルシアの魔法で遂に倒した。

 




短気なティオネ
ストレス抱え込んでるレイラ
大体ヒュプノスのせい
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